『DUEL TRIANGLE』






第三章 能力測定試験





「それじゃあ、皆揃ったかしらぁん? これから、救世主クラス能力測定試験を行いまぁす〜。
 武器は〜、それぞれの召還器を使ってねえぇん」

授業の開始を告げる鐘が鳴り終わると、闘技場へと姿を現したダリアが恭也たちに向かってそう告げる。
それを聞きながら、恭也は傍にいたベリオへと小声で話し掛ける。

「あー、ベリオ。ダリア先生は、いつもあんな調子なのか?」

「……ええ。でも、裏表のない好感が持てる先生でもあるわよ」

「だったら、どうして目を逸らすんだ?」

二人がそんな話をしている間も、ダリアは続けている。

「幸い〜、明日は休みだから、少々の怪我ぐらい大丈夫よ〜。
 バッバーンとやっちゃいましょ〜♪」

「……」

「……いや、何となく分かった」

「はぁぁ、分かってくれて嬉しいわ。今まで、大変だったのよ」

「今まで?」

「そうよ。今度からは、恭也くんもいる事だしね」

「…あー、すまんが、俺は学校の先生という職業が苦手でな。
 正直、そんなに力には…」

「冗談よ、冗談」

「そうか、なら良いんだが。まあ、どうしても大変なようだったら、多少は協力しよう」

「その言葉を頼りにしてるわ」

「試合は〜、実戦を想定してやるからぁ〜、あなた達も本気で戦うこと。いいわね〜」

その言葉に、全員が頷くとともに返事を返す。
それを満足そうに見遣ると、ダリアはポケットからダイスを取り出し、転がす。

「それじゃ〜、一組目は……。んっふふふふ〜」

ダリアはにんまりと笑みを浮かべると、美由希へと目を向ける。

「高町美由希ちゃ〜ん」

「は、はい」

「それと、リコ〜、出番よ〜」

「…い」

「試合は無制限一本勝負よ〜」

ダリアに呼ばれ、美由希とリコが前へと進み出る。
ダリアは他の者へと、緊張感のない声で話し掛ける。

「それじゃ〜あ〜、他の人たちはみんなベンチへと下がってねぇん」

その言葉に従い、闘う二人以外は後ろへと下がる。
それを見届けると、ダリアはまたしても緊張感のない口調を辺りに響かせる。

「それじゃ〜、試合、始め〜」

ダリアの声と同時に、美由希は召還器を呼び出し、リコへと向かって走り出す。
それに対し、リコは手を前方へと伸ばすと、短く何やら呟く。

「…サンダー」

最後の言葉と共に、上空より一筋の雷が美由希へと落ちる。
美由希はそれを後ろへと跳んで躱す。

「魔法……」

茫然と呟く美由希に向かって、リコはさらに追い討ちを掛ける。
それに気付いた美由希は、慌ててその場を飛び退き、リコ目指して駆け寄る。
すぐ後ろに雷が落ちたのも気にせず、美由希はただリコ目掛けて走る。
逆にリコは、ある程度の距離を保つように移動しながら、雷や炎を美由希目掛けて放つ。
魔法という、今までにない攻撃に責められ、戸惑いつつも、美由希はそれらを躱しながら、徐々にではあるが、
リコとの距離を詰めていく。
珍しく、リコの顔に一瞬だが、驚きのような表情が浮ぶが、すぐに元に戻ると、またも何事か呟く。
それが終ると、翳した手の前に、奇妙な物体が現われていた。
その物体は、まるで意志を持っているように、美由希へと襲い掛かる。
戸惑いつつも、襲い掛かって来たそれを敵と判断し、美由希はセリティを振るう。
美由希がその物体へと注意を逸らした瞬間を狙い、またしても雷が降り注ぐ。
今度は、一つではなく、三本が纏めて美由希へと迫る。
そんな中、美由希は謎の物体を斬り捨てると、その身を前方へと投げ出し、地面を転がる。
雷を全て躱した美由希は、それでも、落雷の衝撃を受け、地面を何度か転がる。
ようやく立ち上がると、再び美由希へと攻撃魔法を撃ってくるリコへと走り寄る。
美由希に遠距離からの攻撃がない以上、美由希は相手を倒すには接近するしかない。
それが分かっているからこそ、美由希は止まる事無く、常に動き回る。
体力的には、美由希の方が上らしく、リコの方は微かに息が上がり始めていた。
体力的なものだけでなく、魔法を使用する事による精神の疲労も重なっているのだろう。
それを見て取った美由希は、残りの距離を一気に詰めるべく、更に速度を上げてリコへと向かう。
リコから放たれる魔法を躱し、遂に美由希は自分の間合いへとリコを捉える。
美由希はしっかりと踏み込むと、力を込めてその一撃を繰り出す。
完全に捉えたと思ったその一撃は、しかし、誰もいない空を斬る。

「えっ!? 消えた?」

「違う! 後ろだ!」

恭也の声が届いたのか、美由希はその場から飛び退こうとするが、それよりも早く、リコの攻撃が繰り出される。

「っ!」

リコの一撃を喰らい、美由希はそのまま倒れる。

「そこまで〜」

間延びしたダリアの声で、試合の終了が告げられる。

「つっっ。きょ、恭ちゃん、負けちゃった…」

「ああ。だが、よくやった。それよりも、怪我は?」

「…うん、大丈夫みたい。軽いすり傷だけ」

「そうか、なら良い」

ほっと胸を撫で下ろし、安心した表情を浮かべると、それを隠すようにそっぽを向く。
そんな恭也の様子に、美由希はただ笑みを浮かべる。

「それじゃ〜、次は〜」

そんなやり取りの間に、ダリアはもう一度、ダイスを取り出してふり始める。

「…高町恭也くんと〜」

「はい」

ダリアの言葉に返事する恭也と、次の対戦相手となる予定の二人が、
ベリオはただ静かに、リリィはどこか好戦的な笑みを浮かべて、続く言葉を待つ。
そして、ダリアの口から出てきた名前は…。

「ベリオ・トロープちゃん〜」

何処までも、気の抜けるような声でそう宣言する。
少し緊張した面持ちで前へと進み出るベリオに、恭也は軽く頭を下げる。

「お手柔らかに頼む」

「あ、はい、こちらこそ」

恭也にそう返したベリオへと、リリィが声を掛ける。

「ベリオ、代わろうか?
 リコと闘って、あの程度の美由希を見て、よくやったとか言うような軟弱な奴には、きっちんと教えておかないと。
 やっぱり、何事も最初が肝心でしょう。ここで、私があいつを再起不能に追い込んでおけば…」

「…そういう事は、せめて聞こえないように言ってくれ」

「だったら、聞かなければ良いじゃない」

大声で話し掛けておいて、その言い草はないのだが、リリィは全く悪びれずにそう言う。
そんなリリィに、恭也はただ黙る。

(何か怒らせるような事をしただろうか)

そんな事を真剣に考える恭也の前で、ベリオは小さく首を振る。

「いえ、いつかは当たる事になりますし…。それに、呼ばれたのは私ですから」

「そう。まあ、そこまで言うのなら良いけれど」

リリィは実に残念そうな顔をしたまま、ベンチへと下がる。
全員が下がったのを見て、ダリアは恭也とベリオに前へと進み出るように言う。
それに従い、前へと進み出た二人に対し、試合開始の合図を送るのだった。

「それでは行きますよ。あなたの実力、見させて頂きます!」

「ああ、いつでも」

ベリオは杖と呼び出し、恭也は刀を一刀だけ呼び出す。
ベリオは目の前に杖を持ち上げ、恭也目掛けて振り下ろす。

「ホーリースプラッシュ!」

昨夜、セルを襲った光が恭也へと目掛けて飛んでいく。
恭也はそれを躱す。そこへ、ベリオが杖を突きつけて、叫ぶ。

「レイライン!」

杖の先端から、光の帯が恭也目掛けて伸びていく。
恭也はそれを、ルインで断ち切る。

「嘘!? 斬ったの…」

驚いたように呟くベリオに対し、恭也も少しだけ驚いた顔を見せる。

(驚いたな。本当に、ルインの言う通りに斬れたぞ)

ルインが言うには、斬る事は出来るが、それは恭也の力量次第という事だった。
それで、とりあえず試してみたら、斬れたというわけだった。

(まあ、何にせよ、これで避ける以外の行動が取れる)

恭也はそれが分かると、ベリオへと駆け出す。
それを見て、ベリオは慌てて杖を構えると、後ろへと下がりながら、杖の先端に魔力を集める。

「シルフィス!」

ベリオの言葉に応え、光の輪がベリオの前へと現われ、恭也目掛けて飛んでいく。
それを恭也が斬ると同時に、頭上から光り輝く球が襲い掛かる。

「ちっ」

本能的に何かを感じ取ったのか、恭也は地を蹴り、その場から大きく跳び退く。
その飛び退いた場所へと落ちた光の球は、地面へと触れた瞬間に爆発する。
煙が視界を閉ざす中、ベリオはその中へと向かって、魔法を連続して放つ。
それによって、新たな煙が上がる中、更にベリオは撃ち続ける。
どれぐらい放ったか、肩で息をしながら、ようやく攻撃を止めて、目の前の煙を凝視する。
と、その煙の向こうから、小さな影が見える。
そこを目掛け、ベリオは更に魔法を放つ。
しかし、魔法が当たらず、その影は徐々に大きくなって来る。
ベリオは一旦、攻撃の手を止めると、影がもっと近づくまで待つ。
やがて、その影が煙を突き破るようにしてその姿を現す。
同時に、溜めていた魔力を解放するように、飛び出した影目掛けて一際大きな魔法を放つ。
それはしっかりと目標を捉え、命中するが、地面へと落ちたのは、恭也が手にしていた刀だけだった。

「しまっ…」

恭也の意図にベリオが気付く頃には、今度こそ本当に恭也が煙の中から姿を見せる。
慌てはしたものの、恭也の召還器が自分の足元に落ちている事を冷静に受け止め、ベリオは丸腰となった恭也へと狙いを定める。
それを意に介せず、ベリオへと走り寄る。

「確かに、接近戦では、素手でも恭也くんの方が強いかもしれませんけれど、これをどう防ぎますか?
 ホーリースプラッシュ!」

ベリオが放った光を、恭也は片手を上げて待ち構えると、

「来い、ルイン!」

その呼びかけに応えて、恭也の手に刀が現われる。

「まさか!」

ベリオは、召還器の中には、必要な時にいつでも召喚できるものがあるのを思い出し、ベリオは思わず足元、
さっきまで恭也の召還器があった所を見る。
しかし、ベリオの考えとは裏腹に、その足元には、確かに恭也の召還器が転がっていた。

「な、何で?」

思わず呟くベリオだったが、その間に、恭也はベリオへと接近すると、ルインをベリオの喉元で止める。

「あっ……」

両者共に、そのまま動きを止め、闘技場に静寂が降りる。

「はい、そこまでよぉ〜」

やがて、ダリアの声がその静寂を破ると、恭也は召還器を消す。
そんな恭也を眺めつつ、ベリオは茫然と呟く。

「召還器が二つ……?」

「いや、俺の召還器は二本一組なだけだ」

「二本一組? そんな召還器があるなんて…」

「うん? そういったのは、今までなかったのか?」

「ええ、少なくとも私は聞いた事もありませんけれど…」

「そうか。まあ、この手はもう使えないだろうから、次は違う手を考えないといけないな」

「そうですね。次は、こんな手には掛かりません」

「ああ。しかし、魔法というのは、少し厄介だな。
 今まで、魔法を使う者となんて闘った事もなかったしな。
 今度からは、魔法に対する方法もしっかりと考えないといけないな」

何かを考えるように 呟く恭也の元に、美由希がやって来る。

「恭ちゃん、お疲れさま」

「ああ」

「それじゃ〜、今日の試験はここまで〜。解散よ〜」

ダリアはそう言うと、闘技場から出て行く。
それを眺めつつ、恭也は美由希へと話し掛ける。

「さて、俺たちも戻るか」

「あ、うん」

「その前に、念のために医務室だな」

「だ、大丈夫だって」

「軽い怪我かもしれないが、ちゃんと手当てはしろ」

「う、うん」

「ほら、行くぞ」

「って、自分で出来るってば」

美由希を連れて医務室へと向かおうとした恭也に、ベリオが声を掛ける。

「あ、あの、恭也くん」

「ん?」

「その、私に指導を…」

「指導? ……ああ、そう言えば、そういうルールがあったんだったな」

「ええ。恭也くんは勝者ですから、どんな事でも私に要求できるんです」

顔を赤くさせ、何かに耐えるように、ベリオはそんな事を言う。

「何でも、な」

考え込む恭也に、美由希が声を上げる。

「きょ、恭ちゃん、まさか、エ、エッチな事とか考えてないでしょうね。
 幾ら、何でもと言っても」

「あ、そ、そうなんですか。そ、それは、確かに何でも、ですから、そういった事でも逆らえませんけれど…。
 そんな、恭也くんがそんな事を望むなんて…。う、うぅ、し、信じてましたのに…」

「恭ちゃん、酷いよ!」

「お前ら、勝手に決めるな。いつ、俺がそんな事をすると言った」

疲れたように言う恭也に、美由希はただ苦笑いを浮かべ、ベリオは勘違いした事を誤魔化すように、
同時に、少し赤くなった頬を隠すように、顔を背ける。

「にしても、何でもと言われてもな…。
 そうだ。だったら、明日の朝、少し良いか」

「朝ですか?」

「ああ。俺と美由希は魔法が全く分からないから、それの対処方法を少し特訓したくてな」

「そういう事ですか。分かりました」

「ああ、すまいないが頼む」

「別に、そんなに畏まらなくても良いんですよ。恭也くんは勝者なんですから」

「しかし…」

「まあ、そこが恭也くんらしいのかもしれませんけれどね」

「そうか?」

「ええ。それより、美由希さんの手当てですよね」

「ああ、そうだった」

「じゃあ、行きましょうか」

ベリオはそう言うと、医務室へと向かう。
その後を、恭也と美由希も付いて行くのだった。





 § §





翌日の朝。
恭也と美由希、そしてベリオの三人は、森にいた。

「それで、私は何をすれば?」

訊ねてくるベリオに、恭也は答える。

「とりあえず、俺と美由希に向かって、魔法を撃ってくれないか。
 俺たちは、それを躱すなり、斬るなりするから。で、ゴールはベリオの元と。
 それじゃあ、美由希、お前からだ」

「うん」

「それでは、行きますよ」

「お願いします」

美由希が言うと同時に、ベリオが魔法を放つ。
それを避けながら、美由希はベリオの元へと向かう。
それをさせまいと、ベリオは様々な魔法を美由希目掛けて放つ。
静かな朝の森に、騒がしい音が響く中、ゆっくりと時間は流れていった。



「ごちそうさま」

「「ごちそうさまでした」」

恭也たちは手を合わせ、そう言う。

「しかし、ベリオが朝食を作って来てくれていて、助かった」

「いえ、別に大したことではありませんから」

「そんな事はないがな。兎に角、助かった」

「いえ。それよりも、お役に立てましたか?」

「ああ、それは充分」

「うん。ベリオさんのお陰で」

恭也と美由希の言葉に、ベリオはにっこりと笑みを見せる。

「ですが、私は攻撃魔法はあまり得意ではないので…。
 リリィの魔法は、私以上ですし」

「なるほどな。リリィと闘う事になったら、充分に注意が必要という事か」

「リコさんのテレポートもね」

「ええ、そうです。ただ、テレポートには、多少の時間が掛かりますから」

そんな事を話していると、遠くからチャイムの音が聞こえてくる。

「あ、予鈴が」

「と、ゆっくりしている場合じゃないな」

「うん」

予鈴を聞き、三人は急いで教室へと向かうのだった。





 § §





午前の授業を終え、美由希たちは、一足先に食堂へと行った為、昼休みとなった廊下を、恭也は一人で歩いていた。
そこへ、

「おーーーほっほっほほほほ」

甲高い高笑いが聞こえてくる。
恭也は廊下を見渡し、その声の主を探す。

「人は外見からでは窺い知る事の出来ない第二の自分を中に持っているというわ。
 貴方の内面は、どんな顔なのかしら?」

声のする方向から、その主を見つけ、恭也はそちらへと振り返り、言葉をなくして立ち尽くす。

「な、なんだ…」

恭也の目の前には、半裸状態で、顔に大きな蝶をあしらったマスクを付けた一人の女性がいた。
女性は恭也の前でポーズをつけると、口上し始める。

「闇に舞う虹色の蝶、ブラックパピヨン参上!」

「ブラックパピヨン? 何処かで聞いたような……」

その名前に、恭也は暫し考え、すぐに思い当たる。

「最近、学園を騒がしている盗賊か」

「うふふふ。それにしても、疲れたような顔をしてるわね〜。
 勉強のし過ぎかしら?」

「放っておけ。この顔は生まれつきだ」

「勉強のし過ぎは、体に毒よ。アタシが坊やの灰色学園生活に、色を付けてあげるわ。
 そおぉぉれぇぇぇ! ブラックパピヨン桃色花吹雪ぃぃ〜♪
 お〜〜〜ほっほっほっほ〜」

ブラックパピヨンはそう言うと、高笑いを上げつつ、恭也の周りを周った後、この場から立ち去る。
それを茫然と眺めていた恭也は、舞い散る花びらの正体を知り、顔を赤くする。

「ま、待て! これをどうにかして行け!」

しかし、既にブラックパピヨンの姿はなく、恭也は廊下を埋め尽くす花びら、
もとい、色とりどりな女性の下着に囲まれて、その場に立ち尽くしていた。
ふと、肩に引っ掛かっていた下着、パンティを手に取り、顔を赤くしながら、それから手を離そうとした時、背後から声が聞こえた。

「ちょっ、ちょっとアンタ! そこで何をやってるのよ!」

「ち、ちがっ!」

その声に、恭也はすぐさま弁解しようとするが、咄嗟に言葉が出てこず、どもってしまう。
背後から声を掛けた人物、リリィは廊下に散らばる女性の下着を見て、次いで恭也を睨みつける。

「恭也、……アンタ、まさか……」

「ち、違うぞ! 俺では、断じてない!」

慌てて否定するが、リリィは疑わしそうに目を細める。
と、その目が、急に見開かれ、恭也の手に止まる。

「あっ! それは、昨日、なくなったはずの私の……」

「ご、誤解だ!」

「あ、アンタが盗んだのね」

「だ、だから、誤解だと…」

「問答……無用!!」

「わっ! あ、あぶっ」

リリィから放たれた雷撃を、恭也は紙一重で躱す。

「避けるな!」

「避けなければ、今のは洒落になってないだろう!」

「洒落じゃなくて、本気に決まってるでしょう!」

「だ、だから、人の話を…」

「聞く耳、ないわよ!」

またしても放たれた雷撃を、これまた紙一重で避ける。
と、この騒ぎを聞きつけて、美由希たちがやって来る。

「恭ちゃん、一体、何の騒ぎ……」

「あらあら、折角の可愛い下着も黒焦げじゃない」

「……恭也さん、下着を燃やすのは、恭也さんの趣味?」

「違う! これは、リリィの魔法で…。俺はただ…」

「私の下着を盗んだのよ!」

「そう、ただ盗んだだけって、それも違う!」

「そ、そんな、恭ちゃんが……」

「美由希、お前まで信じないのか!」

美由希の言葉に、恭也は更に叫ぶ。
その叫びを聞いていないのか、ダリアが注意するように言う。

「駄目よ、恭也くん、そんなものを盗んだら。
 まあ、どうしても欲しいって言うんなら、私のを…」

「何を言ってるんですか!」

「恭也さんは、変わった嗜好をお持ちになっているんですね」

「というか、誰か俺の話を聞け!」

そんな叫び声を無視して、リリィは底冷えのする声で恭也へと告げる

「高町……恭也ぁぁ!! 言いたいことはそれだけ?
 それじゃあ、地獄にいけぇぇぇぇ!」

「誰が、行くか! と言うか、言いたい事と言いながら、人の話を聞いてないだろうが!」

特大の雷撃を躱しながら叫んだ恭也の言葉は、しかしながら、その雷撃の音に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。
やがて、攻撃の手を止めたリリィは、肩で大きく呼吸を繰り返しながら、恭也に指を突きつける。

「この件は、お義母様に言って、処分を考えてもらうからね!
 例え、救世主候補といっても、放校もありえるから、覚悟しておく事ね」

そう告げると、足音も荒く、リリィはこの場を去って行く。

「恭ちゃん、どうするの?」

「まあ、放校は兎も角、このまま濡れ衣を着せられるのは、正直な」

「うん。恭ちゃんは、こんな事しないもんね」

「その割には、最初の反応は…」

「あ、あははは〜。あ、あれは冗談だよ、冗談」

「冗談、ねえ。まあ、良い。
 とりあえず、この騒ぎの犯人はブラックパピヨンなんだ。
 だから、彼女を捕まえれば、全ての真相が明らかになるだろうからな」

それを聞いていたダリアが、口を挟む。

「でも、ブラックパピヨンは今まで、誰一人として捕まえる事はできていないのよ。
 まあ、捕まえていたら、こんな騒ぎは起こらなかったんだけどねぇ」

「しかし、そうも言ってられませんし」

「まあ、確かにね」

「ええ。とりあえず、できる事をしないと…」

「頑張ってね、恭ちゃん。私も出来ることがあれば、手伝うから」

「ああ。その時は頼む。待ってろ、ブラックパピヨン」

恭也は自分の無実を証明すべく、ブラックパピヨンに対して、闘志を燃やすのだった。





つづく




<あとがき>

さて、試験は終わり〜。
美姫 「そして、盗賊ブラックパピヨンの登場ね」
うんうん。果たして、恭也は無事に無実を証明できるのか。
美姫 「このまま、濡れ衣状態の恭也も面白そうよね」
おいおい。
美姫 「冗談よ、冗談」
さて、次回は恭也VSブラックパピヨン。
果たして、どうなるのか!?
美姫 「次回、第四章 闇夜に舞うブラックパピヨンで」
仮題を付けてくれ〜。





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