『DUEL TRIANGLE』






第十七章 いざ、アルブ





「おっはよぉぉん〜。昨夜はぐっすり眠れたぁん?」

クレアからの要請を受けた翌日、寮の前の小さな庭となっている場所に集まった恭也たちへとダリアの間延びした第一声が飛ぶ。
それに力が抜けて行くような感じを受けながらも、全員が頷き返す。
ダリアはそんな恭也たちを珍しく真剣な表情で一度見渡した後、再び相好を崩す。

「ではぁ〜、校門の前に馬車が用意してありますから、それに乗ってねぇん」

ダリアはそう言うと、恭也たちを引き連れるようにして校門を目指して歩く。
そんなダリアの背中を眺めながら、恭也は困ったように美由希へとそっと話し掛ける。

「なあ、あれは触れた方が良いのか? それとも、気付かない振りの方が良いのか?」

「わ、分かんないよ。ダリア先生の事だから、本気でやってるのかもしれないし」

そんな内緒話が聞こえているのか、ダリアは背を向けたまま歩き出さず、その場に止まったままでいる。
それを見て、未亜が遠慮がちに恭也へと話し掛ける。

「ひょっとして、触れて欲しいんじゃ…」

言いつつ、未亜の視線も恭也たちと同じ個所へと向く。
背を向けたダリアが肩の高さまで持ち上げた右手、そこに握られた三角旗を。
そこにはご丁寧にダリアが書いたのか、救世主候補ご一行様と書かれていた。
それでも戸惑っている恭也たちに焦れたのか、ダリアが顔だけを振り返らせ、肩越しに笑顔を振り撒く。

「お弁当とか〜、ハンカチは持ったかしら? おやつは三つまでですよぉん。
 バナナはおやつに入りませんからね〜」

アヴァターにもバナナがあるのか、そんな事まで言い出すダリアを呆れて眺めながら、ベリオはそっと溜め息を吐く。

「恭也くん、お願いだから触れてあげて。じゃないと、いつまで経っても出発できないわ」

「……分かった。ガイドさん、目的地まではどのぐらい掛かりますか?」

嫌そうな顔をしながらも、恭也がそう前へと言葉を投げると、途端にダリアは嬉しそうに振り返る。

「はいはぁ〜い、お客さん、ここからだと大体ですね〜……。って、誰がガイドよぉぉぉ〜」

そう言いながらも、顔は満面の笑みが浮んでおり、台詞と表情が一致していない。
呆れたように恭也たちが見ていると、ダリアは身をくねらせる。

「いやぁぁぁん、皆、そんな目で見ないでよぉぉ〜。
 ちょっとしたお約束じゃないぃぃ〜。緊張しているであろう皆を和ませようと、頑張ったのよ〜」

「それなら、もう少し違う方向に努力してください」

「うぅ〜ん、恭也くんのいけず〜。夜の時はあんなに優しいのにぃぃ〜」

その言葉に辺りの空気が凍りつき、突き刺さるような視線が恭也とダリアへと飛ぶ。
それに冷や汗を掻きつつ、恭也はすぐにダリアへと怒ったように声を掛ける。

「ちょっ! ダリア先生、何を言うんですか!」

「あ、あははは〜。ちょっとして冗談だったんだけれど、これは冗談じゃすまないわねぇ〜。
 皆、さっきのは冗談なんだから、そんなに殺気を向けないでよぉぉ〜」

ダリアをじっと見詰めていた美由希たちは、その言葉に嘘がないと判断すると、ようやくいつも通りに戻る。

「もう、ダリア先生ったら驚かせないで下さいよ〜。
 もう少しで、学園内で人気の無い場所をピックアップして、ダリア先生の帰宅時間や帰宅ルートを調べる所だったじゃないですか」

笑顔でさらりと恐ろしい事を言い放つ美由希に引き攣った笑みを見せて謝罪すると、ダリアは気を取り直すように告げる。

「それじゃあ、出発進行〜♪」

そう掛け声を掛け、今度こそ本当に出発しようとしたダリアに、その出鼻を挫くようにリコが声を掛ける。

「リリィさんがまだ来てません」

「そう言えば、さっきから姿が見えないな」

「恭ちゃん、幾ら何でもそれは…」

「…冗談だ」

長年の付き合いからか、この程度の嘘は美由希には通じないと分かっている恭也は、
美由希から目を逸らしながらそう呟くが、その態度がそれを嘘だと認めているようなものだった。
そんな恭也に呆れたような溜め息を吐きつつも、美由希は小さな笑みを零す。

「まだ寝ているかもしれないから、ちょっと見てきますね」

「あ、だったら私が行って来るわ、美由希さん。リリィは隣室だから」

「じゃあ、お願いしますベリオさん」

「…あ、あの」

美由希に代わり、ベリオが寮へと向う中、未亜が弱々しい声を出して控え目にベリオを呼び止める。
全員の視線が未亜に向かい、未亜はそれに萎縮したように俯き、言葉に詰まる。
そんな未亜に優しく微笑みかけると、ベリオは後で話を聞くからと寮へと向う。
暫らくして走って戻ってきたベリオは、血相を変えて恭也たちの元へと着くなり口を開く。

「リリィがいません!」

「いない?」

「ええ。部屋には誰もいなかったわ。ベッドも整えられていたし、冷たかった…」

「あらぁ? 集合時間、伝え間違えたかしら?」

「いや、それはないかと。そういった細かい伝達事項は、ダウニー先生がされていますから」

「あらぁ〜、恭也く〜ん。それはどういう意味かしらぁぁん。
 つまり〜、私だとありえるって事〜」

恭也へと絡むダリアだったが、続くカエデの言葉にその動きを止められる。

「今はそれよりも、皆で探すしかないのでは?」

「そうね、手分けして学園内を探してみましょう」

「…はい」

「ああ、そうだな。昨日のリリィの様子やあいつの性格からして、逃げたって事はあり得ないからな。
 最悪、こちらの動きを悟った破滅側が関与してるかもしれん」

「恭ちゃん、それ本当」

「かもしれん、だ。あくまでも可能性の一つだ。現に召喚の塔も壊されただろう。
 兎も角、リリィを早く見つけ出そう。
 出発時間ギリギリまで探して居なかったら、とりあえずはここに戻ってくるって事で良いな」

「あ、あの、恭也さん…」

「どうかしたか、未亜?」

「あ、あのね…」

「すまないが、今は一刻を争う時なんだ。今じゃないといけない話か?」

「そ、その…」

中々言い出さない未亜に対し、恭也は言葉を遮るように告げる。

「悪い。リリィが見つかってから聞くから。それじゃあ、皆も探してくれ」

恭也の声を合図に、全員がこの場を去って行く。
その姿を茫然と見送っていた未亜だったが、やがてゆっくりと歩き始める。
未亜も去った中庭で、ただ一人、何も口を挟めなかったダリアが、一人さめざめと涙を流していじけていた。



学園内をあちこち探し回った恭也は、もう少しで集合時間になるという焦りを覚えつつ、正門まで足を伸ばす。
と、その正門から少しだけ離れたの脇で倒れている一人の少女を見る。
腹を出し、芝生の上とはいえ地面に直に寝転がって寝ている少女は、解く見ると右腕が取れ、左足もあらぬ所に転がっていた。
一瞬、死体かと思った恭也だったが、それが自分の知る人物だと知ると、少し呆れながらも近づく。
尤も、死体と思った事はあながち間違いでもなかったのだが。

「おい、こんな所で身体を散らばらせて寝ていると、風邪を引くぞ。
 いや、ゾンビは風邪を引かないか?」

自問自答をしつつ、あられもなくさらけ出された腹に微かに顔を赤くしつつ、恭也は座り込むと服の裾を整えてやる。
恭也の言葉に目を覚ましたのか、薄っすらと目を開けたゾンビ少女は呂律の回らない口調で言葉を発する。

「むにゅぅ〜、うぅ〜、目の前にお星様がいっぱいですの〜」

「いや、意味が分からんぞ。第一、今は朝で星なんか見えないし…」

恭也の言葉が聞こえていないのか、少女は一人言葉を紡いで行く。

「ああ〜、ここはもしかして天国なのですの? え〜ん、私死んじゃったのですの〜」

「ゾンビっていうのは、死体じゃないのか?」

ようやく恭也の言葉が聞こえたのか、少女は急にそれまで定まっていなかった焦点を恭也へと合わせる。

「ダーリン! ダーリンも死んじゃったんなら、私も死んでもいいですの〜」

「いや、頼むから勝手に殺さないでくれ」

「ん〜〜、まだ、ぼうっとしてるんですの〜」

「ほら、いつまでもこんな所に寝転がっていると、風邪……は引くのか?
 いや、とりあえずは、ほら」

恭也はそう言って目を覚ました少女の手を慎重に掴んで起き上がらせる。

「ありがとうですの〜。やっぱり、ダーリンは優しいですの〜」

「この程度の事で大げさな」

「そんな事はないですの〜」

「まあ、どっちでも良いけれどな。それよりも、こんな所で何で寝ていたんだ?」

「あ、そうでしたの! ダーリン、聞いてくださいですの〜。
 昨夜遅く、ひーちゃんと遊んでいたら、自称救世主候補主席のリリィさんがいきなり現われて、
 私を突き飛ばして行ったんですの〜」

「いや、まあ、どこからそんな情報を、とか、何気に酷い言い方をするな、とか、色々と言いたい事はあるんだが、
 とりあえず、それは災難だったな。……って、リリィ!」

「はい〜、災難だったんですの〜。でもでも、そのお陰でこうしてダーリンと会えたから、結果は良かったですの〜」

「それよりも、リリィが来たんだな」

「はいですの〜」

「どっちに行ったか分かるか?」

「あっちですの〜」

そう言って少女は門の方を指差す。

「…門の外か?」

「分からないですの〜」

尋ねた恭也へと返ってきた返答に、恭也は思わず肩透かしを喰らいつつも、根気よく尋ねる。

「分からないってのは、どういう事なんだ? リリィを見たんだよな?」

「はいですの〜。でも、突き飛ばされて、そのままひっくり返ってさっきまで寝てたんですもの〜」

「成る程な。あっちの方向へと向って行ったのは分かるが、それ以降の動向までは分からないか」

諦めて皆の所へと戻ろうとした恭也だったが、少女の言葉にふとある事を思いついて尋ねてみる。

「さっき、ひーちゃんと一緒に遊んでいたと言ったな」

「はいですの〜」

「じゃあ、そのひーちゃんはリリィの行き先を何か知らないか?」

「う〜ん、それは聞いてみないと分かりませんの〜。
 でも、ひーちゃんは消えちゃったですの〜」

「消えた? ひーちゃんってのは何者なんだ? まさか、忍者か?」

「ひーちゃんは、まぁ〜るくって、ぽわぽわしてて、あったかいですの〜。
 それで、青くって、燃えてて、宙にふわふわ〜って浮いてるんですの〜」

「……人魂?」

「そうですの〜」

嬉しそうに正解〜、と叫ぶ少女に思わず力が抜けそうになるが、それでも手掛かりは得る事が出来たと何とか気を取り直す。

(どうやら、リリィは夜中のうちに出て行ったみたいだな。
 全く、何を考えているんだ)

「助かった、ありがとう」

恭也は胸中でぼやきつつ、少女に礼を述べると、皆にこの事を伝えようと少女に背を向ける。
その恭也の腕を少女が掴んで止める。

「悪いが急いでるんだ」

「ごほうびが欲しいですの〜」

「ごほうび? とりあえず、言ってみてくれ」

さっさと戻りたい気持ちを押さえ、教えてもらった以上は無下にも出来ずに尋ねる恭也に、少女は笑顔で告げる。

「結婚がいいですの〜」

「いや、それはちょっと待て」

「む〜、何でですの〜」

「何でと言われても、まだ出会って間もないだろう。
 それに、そういうのはまだ早い」

「むむむ〜。だったら、私のことを名前で呼び捨てにしてほしいですの〜。
 現状からのステップアップですの〜」

「まあ、その程度なら良いが」

「わーい、わーいですの〜。じゃあ、今すぐ呼ぶですの〜。さあさあさあ〜」

「ああ、分かった…」

「わくわくですの〜」

「…………」

「どきどきですの〜」

期待して待つ少女とは裏腹に、恭也は困ったような顔を見せると、言い辛そうに告げる。

「すまないが、名前は何て言うんだ? よく考えれば、名前を教えてもらった記憶がないんだが」

どうやら、さっきの無言はこれまでの少女とのやり取りを思い出していたらしい。
その結果、名前を教えてもらっていないと気付いたのだった。
それで名前を尋ねたのだが、尋ねられた少女の方もぽかんとした顔をする。

「え〜っと…、ん〜〜っとぉ……。私って生きてた時の記憶がないんですの〜」

「おいおい…」

「だから、名前も覚えてませんですの〜。てへっ」

「じゃあ、どうしろと。とりあえず、急いでいるから、名前を思い出したら言ってくれ」

「あ〜、待つですの〜。約束ですの〜」

「いや、だから、名前を思い出したらって言っているだろう」

困る恭也へと、少女は何かを期待するような目で見詰める。
その視線に耐えかね、恭也は思わず口を滑らす。

「名前が無いなら、名無し、ナナシでどうだ」

「…………」

「す、すまん、冗談だ。ちょっと質が悪過ぎたな」

無言になった少女に反射的に謝る恭也だったが、少女はそんな恭也の謝罪も耳に入ってないのか、満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる。

「流石はダーリンですの〜♪ 私の旦那様で、その上、名付け親にまでなってくれるなんて〜」

「名付け親って、まさか……」

「ナナシ……。ちょっと堅いかもしれないので、ナナっていう呼び方も良いですの。
 でもでも、ダーリンが付けてくれた名前ですの〜♪ 私……ナナシは感激ですぅ」

「ほ、本気ですか?」

思わずそう尋ねてしまう恭也だったが、少女、ナナシは期待する眼差しで恭也を見詰めてくる。

「さ、ダーリン、約束ですの」

「いや、だから、それは…」

「呼び捨ての約束ですの♪ それでまずは、すてっぷわんですの〜」

「本当に良いのか?」

「さあさあさあ、ですの〜。わくわくわくぅぅ〜ですの〜。早く呼んで欲しいですの〜」

本当に嬉しそうにしながら呼んでくれるのを期待して待っているナナシを見て、恭也も本人が納得している事だしと割り切る。

「それじゃあ、ナナシ」

「……きゃい〜ん♪ とっても、とっても感激ですの〜♪」

そう言ってあちこちを飛び跳ねるナナシを暫らく茫然と眺めていた恭也だったが、
すぐにナナシに一声掛けると、皆の元へと向うのだった。





 § §





「…ひどい」

村に入ってすぐ辺りを見渡したリリィの第一声がそれだった。
リリィが思わず呟いたように、村の入り口付近の家屋は潰れ、今もその内の何ヶ所かからは煙が立ち昇っている。
ざっと見渡す限り、人もおらず、倒れた木や焼け焦げた痕の残る草花、あちこちの地面に大なり小なり穴が開いている。
村の中心と思しき場所にへと慎重に足を進めながら、リリィは辺りの惨状を目の当たりにし、沈黙に耐え切れないように呟く。

「これじゃあ、一体何人、生き残っているか…」

まともに残っている建物がちらほらと見え始めた村の中をゆっくりと歩いていたリリィは、
ふと横側から視線を感じてそちらへと視線を飛ばす。

「何者!」

「ひ、ひぃぃぃっ、お、おた、お助けを!」

リリィの剣幕の驚き、建物の陰から腰を抜かしたように一人の老人が姿を見せる。
初めて出会った人に、リリィはほっと胸を撫で下ろす。

(どうやら、全滅はしていないみたいね)

「この村の人ですね」

丁寧さを心掛けながら声を掛けたリリィに対し、向こうは幾分か緊張したまま問い掛けてくる。

「ひ、人……? モンスターじゃないのか?」

「ええ。ご安心ください、王室からの依頼で、あなた方の救助に参りました」

「お、おお、おおお…。や、やっと助けが来てくれたのか。
 私はこの村の村長で、ラウルと申します」

リリィの言葉を聞き、ようやく警戒心を解き、ほっと胸を撫で下ろすラウルに、リリィは丁寧な口調のまま続ける。

「私は、フローリア学園所属の、リリィ・シアフィールドと申します」

「……学園? なんてこった、軍ではなく、訓練生なのか」

明らかに落胆した様子を見せるラウルに、リリィは眉を一つ動かすと、少しきつい口調で話す。

「それはどういう意味ですか!? 学生では不服とでも?」

「い、いや、そ、それは…」

しどろもどろになるラウルへと、リリィは容赦なく言葉をぶつけて行く。

「人質が居るという情報でしたので、わざわざ私どもが派遣されたのですけれど、不要であれば帰りましょうか?」

「人質が居るからあなたが? それは一体、どういう…」

「アルブでは、フローリアの救世主クラスと言っても通用しませんか?」

「きゅ、救世主候補様!?」

リリィの皮肉げな言葉に、しかし、ラウルは心底驚くと、頭を下げる。
そんな態度に幾分気を良くしつつ、リリィは胸を張る。

「リリィ・シアフィールド。この名前を覚えておく事ね」

そう不敵に笑みを見せる。





 § §





「はぁっ?」

先に村へと向ったリリィの後を急いで追う恭也たちは、逸る気持ちを何とか押さえながら馬車にその身を揺らしていた。
そんな折、未亜が夜中にリリィが出て行く所を見たと恭也たちに言い、それを聞いた恭也の言葉が先のあれであった。

「どうしてすぐに言わなかったんだ?」

別段、責める事無く普通に尋ねる恭也だったが、その内心ではかなり焦りを覚えていた。
そんな恭也の胸中を読み取ってか、未亜は消え入りそうな声で謝罪する。

「ごめんなさい…」

「いや、何か言おうとしていた未亜の話をちゃんと聞かなかった俺も悪かった。
 だから、そんなに気にするな。それよりも問題は、どうしてリリィが一人で先に行ったのか、なんだが…」

恭也はそう呟くと腕を組みながら、背中を凭れ掛けさせる。

「何を考えてるんだ」

小さく呟いた恭也の言葉に、答える者は誰もおらず、沈黙が一同の間に降りる。





 § §





「こちらでございます」

ラウルに案内され、リリィは村の中を進んで行く。
ラウルの後を付いていきながら、村の様子を見ていたリリィは前を歩くラウルへと尋ねる。

「村長、先ほどから他の人の姿がありませんが」

「今はモンスターの襲撃を恐れ、皆、私の家の地下室に隠れております」

「では、無事なんですね」

「ええ。ですが、幾人かは既に…」

そう言って俯くラウルに気を使い、リリィは話を逸らすついでに重要な事を尋ねる。

「それで、人質となっている人たちと、そのモンスターは今は何処に?」

「はい。モンスターたちが襲ってきたのは、丁度、昼休みになる直前でした。
 奴らは村の外周にある柵を破って侵入してきたかと思うと、村役場を襲いまして…」

「役場を? 食料庫や食堂じゃなくて?」

「ええ。そして、そこに居た職員や村人たちを殺して、生き残った数人の女性たちを人質として、そのまま役場に…」

「では、捕らわれているのは全員女性なんですか?」

「はい。しかし、それも時間が経った今では、何人生き残っているのか…」

「それでも、これ以上は殺させはしません!
 このライテウスに掛けても」

そう言ってリリィは左手に着けているライテウスをそっと右手で撫でる。
リリィのライテウスを村長が珍しそうに見る。

「それが、召還器というやつですか」

「ご存知でしたか」

「ええ、噂程度ですが。しかし、何と言うか、それは武器のようには見えませんけれど」

「そうですね。私は魔法使いで、魔術を得意としますから。
 このライテウスは、魔力を蓄えたり、増幅して放出する能力が備わっています」

そう言うリリィを頼もしげに眺めると、ラウルも少し顔色を良くする。

「そうですか。そう言われれば、強力な力を秘めているような気がしますな。
 段々、大丈夫だという気になってきました。と、あの建物がそうです」

ラウルは一軒の民家の所で足を止めると、その陰から少しだけ顔を出し、村の中でも一際大きな建物を指差す。

「ありがとうございます。ここからは、私一人で参りますので、村長は安全な場所に」

「では、お頼み申します」

リリィの言葉にラウルは頭を深々と下げると、足早に去って行く。
その背中を見送ると、リリィはゆっくりと息を吸い込み、そっと目を閉じる

「……さて。大丈夫、一人でもやれる。誰の力も借りない…。
 あいつの力なんか、絶対に借りない!」

気合を入れるように頬を軽く両手で叩くと、リリィは役場へと近づく。
そっと扉の横に立って中の様子に聞き耳を立てるが、特に物音はしない。
どうやら、向こうもこちらには気付いていないようだった。
リリィはそっと扉に手を掛け、少しだけ開いてみる。
途端、その鼻にツンとくる鉄錆のような匂いが漂ってくる。
その匂いに顔を顰めつつ、暫らく待っても中に動きがない事を見ると、リリィはそっと中へと入る。

「うっ。中はもっと酷いわね。まさか、これほどの血の臭いだなんて」

そう口にする事で萎えそうになる身体に活を入れる。
そのリリィの目が、信じられないようなものを見て見開かれる。

「こ、これは、そんな……」

リリィはそう呟くと、目の前の光景を信じられないようなものを見るかのように見詰める。





つづく




<あとがき>

さて、いよいよ破滅との戦いが始まるぞ、始まるぞ〜。
美姫 「何で二回も言うの?」
今回はその序章、序章〜。
美姫 「だから、何で二回…」
次回は恭也たちも村へとやって来て、やって来て。
美姫 「って、いい加減に人の話を聞け!」
ぐげろぴょみゅおぉぉぉぉ!!
美姫 「聞け!」
ぐげろぴょみゅおぉぉぉぉ!!
……な、何で二回も?
美姫 「もう一回いっとく?」
え、遠慮します……。
美姫 「ったく、このバカが。それはそうと…って、気絶してるんじゃないわよ!」
ぎょにょみょっ!
美姫 「してるんじゃないわよ!」
ぎょにょみょっ!
……んな、アホな。
美姫 「って、あ〜、これは当分起きないわね。
    仕方が無いわね。それじゃあ、また次回でね〜」





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