『DUEL TRIANGLE』






第二十章 日常への復帰?





恭也たちが破滅との戦闘を終えて数日が経つ。
その間にも幾つかの不思議な出来事が起こり、様々な学科の者たちが派遣されていた。
そのうち、何人かの生徒は戦闘で命を落し、またある生徒たちは調査に向かった先から帰ってきていない。
その所為か、学園の雰囲気が全体的に暗くなっていた。
また、ここ数日で何人もの生徒が学園を去っていた。
それにつられるように、学園内に得体の知れない何かが動き始めているような、
そんな空気がゆっくりとだが流れ始めていた。
そんな中、一番危ない所へと送られる可能性のあるクラスの生徒たちはというと…。



「皆、ちょっと良い」

まだ授業が始まるには早い時間だというのに、教室には救世主クラスの全員が揃っていた。
正確には、たった今入るなりそう切り出したリリィが来た事によって、全員が揃った。
リリィは全員が注視したのを見て、ゆっくりと口を開く。

「今朝早くに王都へ行ったんだけれど、町の噂によれば、
 この前の村のような怪異が王国全土に起こっているらしいわ」

「そう言えば、他のクラスの生徒たちがあちこちの調査に赴いていたな」

「やはり、破滅が絡んでいるんでござろうか」

「さあな。その辺りはどうなんだ?」

恭也の問いかけにリリィは重々しく一つ頷いて見せる。

「多分ね。今、王国の軍隊が解決に全力を注いでいるみたいだけれど…」

「この先はまだ分からないって事か。
 そして、それは俺たちがまた戦いに行く可能性もあるって事だな」

「その通りよ。いいえ、軍でも対抗できないようなら、相手は破滅って事になるでしょうから、間違いなくね」

二人の会話に他の者は少し黙り込んでしまう。
その顔はどこか不安げで、この間の件を思い出しているのかもしれなかった。
ベリオはそっと溜め息を吐くと、ゆっくりと口にする。

「どんどん大事になっていくわね」

「果たして、前回のように大きな怪我もなく済むでござるだろうか」

「確かに前回は身体には大きな怪我はなかったけれどな…」

恭也は小さく呟くと、そっと拳を握り締める。
それに気付いたリリィが少し頬を赤くしつつ、少し大きめに声を上がる。

「確かに、前回は誰も怪我はなかったけれど、ピンチだったのは確かだものね」

不意に上げた大声に怪訝そうな顔を見せるものの、何となくリリィの言いたい事が分かったのか、
恭也は小さく微笑み、リリィは照れたようにそっぽを向く。
そんな二人を静かにじっと見詰める一つの視線があったが、二人はそれには気付かなかった。

「まあ、だからと言ってここで考えていても仕方ないんだがな。
 結局、出来ることをするしかないんだし、その為に色々とやってきているんだから」

「あっ。…確かに恭也くんの言う通りですね。
 変に気にし過ぎて、肝心な時に疲れていたら仕方ないですし」

「マスター…」

「そういう事だ。だったら、ここでうだうだと考えるのは止めておこう。
 その時に考えれば良いだろう」

「でござるな」

「恭也さんらしいですね」

「らしいというよりも、単に難しいことを考えられないだけなんじゃないの?」

最後のリリィが馬鹿にするように鼻を一つ鳴らしてそう言うと、流石に恭也は僅かに顔を顰める。

「失礼な」

「あら、違うって言うの?」

「……そろそろ授業が始まるな」

「こら、無視するんじゃない!」

「まあまあ、リリィも落ち着いて」

「二人とも、相変わらずでござるな
 前に破滅と戦った時は、結構、息が合っているように見えたでござるが」

「冗談じゃないわ。あれは不甲斐ない恭也を私が助けてあげていたのよ」

「まあ、確かに助かったのは確かだが…」

「でしょう。だったら、アンタは私に貸し一つって事よ」

「貸しなのか?」

「当たり前よ!」

言い切るリリィに恭也は疲れたように溜め息を吐き出す。
そんな二人のやり取りを笑いながら見ていた未亜が口を開き、

「二人とも、仲が良いですね」

「「どこがっ」」

「…息がぴったりです」

「本当に。ひょっとして、二人って意外と似ているのかもね」

それに同音に返した二人をリコが更に冷静に返し、それに続けるようにベリオが楽しそうに言う。
それを聞いたリリィは嫌そうな顔を見せると眦を上げ、恭也へと指を突き付ける。

「見なさいよ! アンタの所為で私までアンタと同類と思われているじゃない」

「俺の所為なのか、それは?」

「じゃあ、他に誰がいるのよ」

「何か納得いかないんだが…」

「大人しく頷いておきなさいよ」

「…何か理不尽な気がするのは俺だけか?
 なあ、美由希?」

「えっ、あ、何、恭ちゃん?」

不意に声を掛けられた美由希は、急に我に返ったように驚いた表情を見せる。
そんな美由希を怪訝そうに眺めると、恭也は美由希の額に手を置く。

「調子でも悪いのか? 熱はないようだが…」

「だ、大丈夫だよ。ただ、ちょっとぼーっとしてただけだって」

「本当に大丈夫なの、美由希?」

「もし調子が悪いようなら、保健室に行った方が…」

リリィやベリオも心配そうに美由希を見るが、美由希は片手を振りつつ笑い飛ばす。

「あはは、本当に大丈夫ですって。未亜ちゃんもそんな心配そうな顔しないで」

どうやら本当に大丈夫そうなので、皆もそれ以上は言わない。
と、美由希がからかうようにリリィへと声を掛ける。

「にしても、リリィさんと恭ちゃん、何か仲良くなったんじゃない?」

「そうか? 大して変わっていないと思うが」

「そうよ! まあ、多少はチームワークの為にも仲良くしてあげようとは思うけれどね」

「そうか。じゃあ、宜しく頼む」

「ふんっ! 感謝しなさいよね」

「とことん理不尽な感じがするんだが、それは俺だけか?」

「もう、いちいちうるさいわよ!」

今までと何ら変わることのない、いや、魔法が飛ばないだけ少しだけ変わったと言えるかもしれないが、
兎も角、救世主クラスはいつもと殆ど変わることなく過ごしているようだった。





 § §





昼食を食べ終え、次の教室に救世主クラスが揃う。
恭也が席に着くと、そこへリリィがやって来て話し掛ける。

「恭也、聞いた?」

「何をだ?」

何のことか分からなかった恭也はそう尋ね返す。
それを受け、リリィが話を続けるために口を開ける。

「実はね、食堂に幽霊が出たって話なのよ」

「幽霊?」

「ええ。ダリア先生が昨夜、食堂に食べ物を取りに行った時に見たらしいの」

「幽霊をか?」

「ええ。誰もいないはずの食堂の中から、白い影がじっとこちらを見ていたって…」

「う、うぅぅぅ。聞きたくない、聞きたくない…」

リリィの言葉に両手で耳を塞ぎながら美由希がぶつぶつと繰り返す。
そんな美由希をちらりとだけ見ると、恭也はリリィへと顔を向ける。

「ガラスに映った自分の影とかいう事は」

「それはないと思うわよ。ダリア先生の言葉を信じるなら、その影には肉がなかったって」

「肉がないって、どういうことだ?」

「つまり、骨だけなのよ。真っ白な骨だけの姿をした影が、何十体も真っ暗な食堂の椅子に座っていたんだって。
 しかも、胃がないのに食べ物を食べようとして、ぽとん、ぽとんと食べ物を落して…」

怖がる美由希が楽しかったのか、リリィは説明口調から不意に声を低くすると、
ゆっくりと怪談をするかのように語る。

その内容に美由希だけでなく、ベリオや未亜まで顔を青ざめさせる。
そんな三人とは違い、恭也は腕を組みながらリリィの言葉を反芻する。

「……何か、シュールな光景だなそれ」

「もう、折角雰囲気出したのに、台無しにしないでよね」

「いや、そうは言うが、今自分が言った事を想像してみろ」

「…………確かに」

「だろう。それに、骨だけの姿と言っている時点で、それをはっきりと目撃しているんだろう。
 だったら、影とは言わないんじゃ」

「それは私に言われても知らないわよ」

「確かにな」

二人がそんな事を話している横で、カエデもまた腕を組み考えていた。

「うーむ、面妖な。餓鬼の類でござろうか?」

真剣に悩むカエデに、恭也がポツリと言う。

「いや、単にアンデッドモンスターだろう。
 何度か戦った事があるだろう。ほら、あの骨だけの奴なんじゃないのか」

「…確かに言われてみればそうよね。何で気付かなかったのかしら」

「流石でござるよ、師匠!」

「いや、こんな事で流石とか言われてもな。それに、まだ可能性の一つな訳だしな」

「では、マスターはどうされるのですか?
 確認のために調査されますか?」

「いや、別に害が出てないのなら…」

「そう言ってくれる人、ううん、勇者が現れるのを待ってたのよぉん」

そう言って会話に割り込むように恭也へと抱きつくダリアに、恭也は特に驚いた素振りも見せず、
ただ背中に当たる柔らかな感触に顔を赤くする。
それを見て楽しそうにダリアは更に胸を恭也の背中へと押し付ける。

「いや〜ん。やっぱり、恭也くんの反応が一番面白いのよね〜♪」

「ダ、ダリア先生、恭ちゃんから離れてください!」

「ああ〜ん、そんなご無体な」

「何がご無体ですか。仮にも教職者であるんですから、少しは自重してください」

「もう、ベリオちゃんは相変わらずお固いわね〜」

「…単にダリア先生がちゃらんぽらんなだけです」

「ガ、ガーン。リ、リコちゃんにそんな事を言われるだなんて…」

「どうでも良いですけど、早くどいてもらえませんか」

「仕方ないわね〜」

恭也の言葉にダリアは本当に残念そうに恭也から離れる。
ダリアが離れた事でようやくほっと息を吐く恭也だったが、さっき言っていたダリアの言葉が気になって尋ねる。

「それで、何の用ですか? 待っていたとか言ってましたけれど」

「ああ、そうだったわ。恭也くんの反応が面白くて、ついつい忘れるところだった」

「頼むから忘れないでください。で、何の用ですか?」

「そ・れ・は・ね〜♪ はぁ〜い、救世主さま七名、ごっっあんな〜〜〜〜いぃぃ♪」

「ご」

「あ」

「ん」

「な」

「い?」

ダリアのあまりもはしゃぎっぷりに、恭也、リリィ、カエデ、リコは思わず一言ずつ順に言葉を口にする。
それを楽しそうに眺めながら、ダリアは少しだけ顔の表情を引き締める。

「あなたたちの次のミッションを伝えにきたのよ」

「…それって、もしかして」

「あら、察しが良いわね、未亜ちゃん」

顔色をさっきよりも青くさせて言った未亜の言葉に頷くダリアを見て、美由希も恐々と口にする。

「ま、まさか……。ゆ、ゆう…」

「ふふふ♪ 今夜からお化け退治をしてもらいますぅ〜♪」

「い、いやぁぁ!」

「お、落ち着け、美由希!」

「だ、だって、幽霊だよ、幽霊! 攻撃が通じる訳ないじゃない」

「何を言ってるのよ、美由希ちゃん。ちゃんと通じるわよ♪
 第一、あなたたちの持っている武器は召還器じゃない。ね♪」

「い、嫌だよ〜。そ、そういう事は那美さんの方が…」

よっぽど嫌なのか、ここには居ない友人の名前を出す美由希に恭也はそっと溜め息を吐く。
そこへダリアが頼み込むように手を合わせる。

「ね、ねっ。この通り、お願いよぉぉ〜。
 このままじゃダリア、怖くて夜中にご飯も食べれないわ〜」

「夜中に食べなければ良いのでは…」

「そもそも、冷蔵庫には鍵がついていて、その鍵は料理長が持っているんじゃなかったでしょうか?」

ベリオの疑問に対し、ダリアは胸元から一つの鍵を出してみせる。
嫌な予感を感じつつ、恭也がそれに付いて尋ねると、ダリアはにっこりと微笑み、鍵を軽く振ってみせる。

「勿論、冷蔵庫の鍵よ♪ うふふふ、自作しちゃった♪」

「いや、しちゃったとかじゃなくて…」

「先生、思いっきり規則破ってるんですけれど、自覚あります?」

リリィが呆れたように言った言葉に、しかしダリアはあっけらかんと答える。

「だって、晩酌は最高のストレス解消法なんだもん。
 ほら、ストレスを溜めたらお肌に悪いでしょう」

「その前に、肝臓に障害が出て肌が荒れる心配をした方が良いのではござらんか?」

「その前に、ストレスなんか溜まってるのかな?」

「確かに、ストレスとは無縁そうよね」

「…ストレスじゃなくて、年の所為」

「……カエデちゃん、美由希ちゃん、リリィちゃん減点1。
 そ・し・てぇ〜。リィィ〜コ〜〜ちゃ〜〜ん。それはどういう事かな〜〜」

「…別に」

「うふふふふふ〜」

「…………」

「ね、ねえ、ひょっとしてリコってば、怒ってるとか?」

「そ、そうかもしれませんね。リコが怒ったところを見た事がないので、何とも言えませんけれど」

「リコ殿は静かに深く怒るようでござるな」

「で、でも、どうしてリコさんは怒ってるの?」

「ひょっとして、ダリア先生が恭ちゃんに抱きついてからかった事、とか?」

口々に囁く美由希たちだったが、それは推測の域を出ることもなく、また聞く気にもなれる訳もなく、
ただ目の前の光景を息を潜めるようにして見守る。
無言で微笑むダリア――ただし、目は決して笑っていないが――と、無言のリコの睨み合いが続き、
このままでは埒があかないと感じた恭也は大きく息を吐き出すと、二人の間に入る。

「で、要は今夜、その幽霊退治をすれば良いんですね」

「そういう事なのよ〜。恭也くんなら、そう言ってくれると思ってたわぁ♪」

「はぁ〜。皆もそれで良いか?」

勝手に纏めてしまった恭也は、一応確認のために他の者たちにも尋ねる。
美由希は少し嫌そうな顔をしていたが、反対の声までは上げず、他にも反対するものも居なかった。

「それじゃあ、お願いね〜」

それを確認すると、ダリアは最後に念押しをして教室を去って行く。
どうやら、リコの言った事は綺麗に忘れ去ったのか、流してくれたらしかった。
その背中をリコを除いたものたちがほっとした顔で見ていたのは、単なる見間違いではないだろう。
兎にも角にも、こうして恭也たちの次の任務は学園内に出没するという幽霊退治となったのだった。





つづく




<あとがき>

こうして、恭也たち救世主一行は幽霊退治へと旅立っていったのじゃ……。
美姫 「へ〜。で、おじいちゃん、続きは〜」
続きか? そうじゃの〜、それは美姫がいい子にしていたらな。
美姫 「私はいつでもいい子よ」
ほうか、ほうか。ふぉっほっほっほ〜。
美姫 「って、良いからさっさと書け!」
ぐぅぅぅっ!
…い、いい子は決して、殴った後に剣で脅したりしないと思う。
美姫 「ふんっ! 私はいつだって良い子なのよ!」
がっ……。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」




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