『DUEL TRIANGLE』






第二十四章 動き出す闇





王宮の奥にある一つの部屋。
今ここに、バンフリート王国の王女クレアと、フローリア学園の学園長であるミュリエルの姿があった、
クレアはミュリエルから受け取った報告書に目を通し終えると、
それを机へと投げ出してミュリエルへと視線を飛ばす。

「どうやら、救世主候補たちはよくやってくれているようだな」

「はい。何度か危ない面もありましたが、とりあえずは。
 報告では新たに加わった新戦力とも良い連携を見せているとの事です」

「そのようじゃな。にしても、最初は個々の戦力の高さ故にバラバラに闘っておったのが、
 ここに来て、チームとして機能し始めたようじゃな」

「御意。この間、殿下より下された勅命以来、上手く連携が取れるようになりました」

ミュリエルの言葉にクレアは満足そうに頷くが、ミュリエルは顔を僅かに伏せると続ける。

「ただ、未だに候補者たちの中から真の救世主としての真価を出す者は現れてはおりません」

「そうか。まあ、そう焦ることもあるまい。時が来れば、自ずと世界の方が選ぶ。
 そうであろう」

「はっ」

クレアの言葉にミュリエルは深々と頭を下げる。
そんなミュリエルに視線を置いたまま、クレアは少しだけ目つきを鋭くして、誰に聞かせるでもなく、
自身に言い聞かせるように口を開く。

「我らに出来るのは、その時まで生き残る方法を学ばせることと、戦局を見誤らぬこと。
 そして、全軍が一致団結して救世主の下で破滅と戦うことだ。
 それが我々が生き残るための術なれば…」

「御意」

そこには、恭也たちの前で見せる無邪気な顔はなく、この世界を統べる王者の風格を漂わせた王が居た。
その厳格な雰囲気に、ミュリエルは再度深々と頭を下げる。
そんなミュリエルに小さく笑みを零すと、クレアはさっきまでの風格も何処へ行ったのか、
少し柔和な顔付きになって、やや口調も軽く言う。

「まあ、そんなに心配はしておらぬがな。彼らならば、必ずや真の救世主の力を身につけてくれるじゃろう」

「…彼ら、ですか」

「ん? どうかしたか?」

「いえ、何も(救世主は今まで女性だったのに、彼女らではなく…)」

思わず出た小さな呟きは、クレアの耳には届いておらず、ミュリエルはそのまま頭を振る。
それから徐に顔を上げると、やや鋭い眼差しになり声を落す。

「殿下、先日のゼロの遺跡の件ですが」

「うむ。救世主候補たちによって、怪物どもが排除されたらしいな。
 じゃが、お主の言いたい事は違うようじゃな。
 ……魔道兵器の事か」

「はい。恐らく、その狙いは魔道兵器の所在の調査」

「ふん。だとしたら、間抜けな奴らじゃ。
 そんなものをいつまでも廃都の地下に置いておくわけがなかろうが」

「殿下、お言葉ですが敵の狙いはもう一つあるかと思われます」

「もう一つ?」

ミュリエルの言葉にクレアは珍しくきょとんとした顔を見せると、促すようにミュリエルへと尋ねる。
それを受け、ミュリエルは自分の考えを口にする。

「救世主です。正確には、救世主候補たち」

「……つまり、恭也たちが真の力に目覚める前に、ということか」

「はい。ただ、これはあくまでも推測でしかありません。
 もしかすれば、他にも何かあるのかもしれませんし」

「ほう。他にはどのような理由が?」

「それは分かりません。
 ただ、敵の目的を軽々に捉えて判断するのは、大局を誤らせる事になりますので…」

「ふむ。もっともな意見だ。先ほど、私自らが戦局を見誤らぬことと言っておったのにな。
 確かに、あらゆる可能性を考えねばならんな」

そう言って暫し考え込むが、すぐにミュリエルへと話し掛ける。

「今の所、考えても分からんな。
 動いて欲しい訳ではないが、大きな動きがこうもないと、逆に敵の目的が分からん。
 とりあえず、今は可能性のあるものに対しての対処しかあるまい。
 もし、仮に狙いが救世主候補たちにあるのなら、それは逆に良い事かもしれぬ。
 それだけ、恭也たちの力を敵も恐れ始めたとも言えるからな」

「その通りかと」

「ならば、恭也たちには悪いが、その力と評判は王国の為に最大限に使わせてもらおう」

「御意」

こうして、この国のトップと学園のトップに立つたった二人だけの会議は静かに幕を降ろす。
その先に世界の未来を見据えながら。





 § §





とある州の最果て。
王都からも離れたここに、今、異形のモノが終結していた。
荒れ果てた大地にひしめき合うのは、どれも人とはかけ離れた容姿ではなく、
中には人と同じような姿形を持つ者たちも居る。
その様子を小高い崖の上から見下ろすのは六つの影。
その影の一つ、長い銀髪を風になびかせ、目を深い緑色の布で覆い隠した女性の下に、
人の形をし、その目元を白き面で覆った男が近づく。
その者は女性の数歩手前で立ち止まると、臣下が主にするように膝を着く。

「この州の掃討作戦は順調に進んでおります」

「そう。なら、各地に潜んでいる者たちに我らの宣戦布告の様子を流すように伝えなさい」

「はっ」

男は短く返答を返すと、すぐさまこの場を立ち去っていく。
その背中をぼんやりと見送っていた女の耳に、低い獣じみたうねり声が届く。
ふと視線をそちらへと向けると、そこには肩口辺りまで伸びた髪を振り乱しながら、
半狂乱気味になって暴れる女が一人。
そして、その女の前で押さえつけるように身体を抱きながら必死で止める蒼く長い髪の女が一人。

「落ち着いて、セレナ! まだ、まだ戦う時じゃないのよ」

「GRURUU…。タ…タタカイ。コワス、…コロス、コワス。コロ、コロ、コ……コロス!」

今にも駆け出しそうになるセレナを必死で食い止める女性に、さっきの女が肩を竦める。

「本当に、毎度ご苦労様ね、メイ。いい加減、そいつの手綱ぐらいしっかり握ってよね!」

「すいません、ロベリアさん」

メイはロベリアに謝罪の言葉を入れると、幼い子に言い聞かせるように、ゆっくりと語り掛ける。

「セレナ、落ち着いて。まだ、駄目だよ。
 もう少し、我慢してね。いい子だから」

「RUUUU。うぅぅ……」

髪を優しく解きながら語るメイの言葉に、セレナは徐々に大人しくなっていく。
ようやく静かになったのを見て、メイはセレナを連れて行く。

「私たちは先に戻っています」

「仕方ないわね。宣戦布告は私たちだけでしておくわ」

メイへと軽く手を振って送り出すと、すぐに顔を引き締める。

「ぐははははっ。いよいよだなぁ。
 俺たちがアヴァターを支配すれば、女も金もこの世界の全てが俺たちのものかよ」

「くだらん」

ロベリアの後ろから、二メートルは越すかと思われる大男が笑いながら誰ともなく言うと、
それに答えるように、白い仮面を被った金髪の男がくだらなさそうに一言の元に切って捨てる。
それに柳眉を逆立て、大男が反論するように視線を仮面の男へと向ける。

「んだぁっ。てめぇは泥棒のくせに金に興味はねえってか?
 えぇ、シェザルさんよ〜」

「…興味などない。私が欲しいのは、ただ死。
 全てを覆い尽くすほどの死だ。覚えておいて貰おうか、ムドウ」

「けっ」

シェザルの言葉にムドウは吐き捨てるように眼を飛ばす。
お互いに静かに戦闘態勢に入りつつある中、その二人の間に一人の少女が姿を現す。
それは以前、恭也たちの前に姿を見せたイムニティだった。

「止めるなよ、イムニティ」

突然現れたイムニティにそう口を出すと、ムドウは静かにその肩に担いだ大剣を構え始める。
それに対し、イムニティはあくまでも静かな口調で告げる。

「別に、生きるも死ぬも貴方たちの勝手よ。好きにすれば良いわ。
 でも、そろそろ時間なのよ。副幹から始めろという連絡が来たわ」

イムニティの言葉に、ムドウは舌打ちをしつつ大剣を再び肩へと担ぐ。
一方のシェザルは全く変わらず、ただ何も語らない。
それが益々勘に触るのだが、副幹からの連絡である以上、ムドウは大人しくする。
やがて、準備が整ったのか、部下たちが慌しく動き始める。
と、不意に各地の上空に四人の姿がおぼろげに浮かび上がる。
はっきりとした顔までは分からないものの、突如として上空に浮かび上がった映像に人々が驚く中、
ロベリアは静かな口調で口を開ける。

「アヴァターに生きる者たちに告ぐ。神の御神体である大地を汚す者たちよ。
 我らは破滅。そして、我らはそれを統べる破滅の将。
 汝らの享楽の時は過ぎた。今度はその代償を払う番だ。
 よって、我々はここに人類の滅亡を宣言する」

ロベリアの言葉が進むにつれ、騒ぎが徐々に大きくなっていく。
そして、この映像は王宮にも当然の如く届いており、
知らせを受けたクレアとミュリエルは近くのテラスから空を見上げる。
そんな地上の騒ぎなど気にも止めず、ロベリアは淡々と語る。

「無駄な抵抗は止めておきなさい。貴方たちに許された事は、ただ滅ぶことのみなのだから。
 けれど、神はまだ最後の救いを残されてもいます。
 その道とは、汝が心を縛り付ける一切の破壊。即ち、破滅に加わることです。
 破滅の後も己が命を保ちたいと思うのならば、その手で近しい者たちを殺し、破滅に加わりなさい。
 その時、神の慈悲が与えられるでしょう」

「殿下っ!」

「くっ! すぐに賢人会議を開く!
 学園も総動員態勢で事に対する準備を!」

「ははっ」

ロベリアの宣戦布告を聞きながら、クレアはすぐに動き始める。
同時に、クレアより勅命を受けたミュリエルもまた、すぐさま学園へと戻るべく廊下を駆ける。

同じ頃、学園でこれを見ていた恭也たちは鋭い眼差しで空を睨み付ける。

「あれが、破滅」

「破滅の将とは、何でござるか? それに、あの影…」

「マスター…」

「ああ、あれは間違いなくイムニティ」

小さく呟く恭也に、リコが小さく頷く。
全員が空の映像に夢中になっており、この会話に気付いた者は居なかったが。
宣戦布告が終わると、空に映っていた映像が消える。
美由希は険しい顔のまま、拳を握り締める。

「宣戦布告。それも、こんなに堂々とするだなんて」

「今まで影で動いていた奴らが、ああして布告してきたと言う事は、向こうは俺たちに勝てると踏んだんだろうな」

「っ! ふざけないでよね! 誰が負けるもんですか!
 私たちは負けない! 負けられないのよ!」

リリィの言葉に、全員が同意するように強く頷くと空を見上げ、決意を新たにするのだった。





つづく




<あとがき>

さて、いよいよ破滅の将の登場〜。
美姫 「って、6人?」
ふっふっふ。色々とあるのだよ。
他にも色々とね。
さて、それじゃあ、早速次回を書かなければ。
美姫 「め、珍しく浩がやる気だわ」
ふっふっふ……。
美姫 「でも、傍から見てると何か怪しい奴にしか見えないのよね〜」
って、人のやる気を削ぐようなことを…。
美姫 「あははは〜。まあ、気にしない、気にしない」
ったく。ブツブツ。
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」
ではでは。




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