『DUEL TRIANGLE』






第二十八章 地下へ、防衛線へ





クレアより任務を受けた翌朝、寮の前に自然と全員が集まる。

「恭ちゃん、未亜ちゃん、リコさん、気を付けてね」

「分かっている。それよりも、お前たちも気をつけろよ。
 前線へと行くんだから」

「分かってるわよ。こっちは私たちに任せて、アンタたちはちゃんと自分の任務を果たしなさいよ」

「リリィの言う通りです。破滅軍が攻めて来ても、絶対に通しませんから」

「師匠、頑張ってくだされ」

「ダーリン、ナナシが居なくて寂しくても我慢するですよ〜」

簡単に言葉を交わすと、それぞれ別の方向へと歩き出す。
恭也たちは地下墓地へ、美由希たちは正門へと。





 § §





前にブラックパピヨンを探して潜った地下墓地を再び降りながら、恭也は懐かしそうに目を窄める。

(そう言えば、ここを開けた所為でナナシが出てきたんだったな)

恭也が少し昔を振り返っている後ろで、未亜は地下墓地の如何にもな雰囲気に脅える。

「な、何か出てきそうですね」

「……そういえば、未亜はこういうの駄目だったな」

「は、はい」

今更ながらに思い出し、恭也はこの人選が間違いだったかもと思う。

「多分、怨念とか言っていたから、幽霊の類が出てくるんじゃないかと思うんだが」

「うぅ、が、頑張ります」

思わず怯みそうになるものの、未亜は何とか踏み止まり、自分に言い聞かせるように強く頷く。

「えっと、その場所に着くまでで良いんで、手を」

言っておずおずとのばしてきた未亜の手を恭也は黙って取ってやる。
明らかにほっと胸を撫で下ろす未亜と反対の手を、リコがそっと握ってくる。

「リコも苦手なのか?」

「いえ、私は別に。すいません」

言って手を離そうとするリコだったが、恭也はその手を握り締める。
思わず見上げるリコに、恭也は僅かな笑みを浮かべる。

「まあ、偶にはこういうのも良いだろう」

やや照れつつもそう言いながら、恭也は慎重に階段を降りて行く。
その脳裏に、昨夜の事を思い浮かべながら。





 § §





新たな任務を与えられた恭也の元に、夜も深けた頃に訪問者があった。
半分眠りに落ちかけていた恭也は、扉の前に気配を感じて身体を起こす。
程なくして、控えめなノックがされる。

「どうぞ」

すぐに返答が返ってきたことに多少驚いた風ではあったが、その人物は扉を開けて入ってくる。

「ごめんなさいね、恭也くん。もう眠っていたかしら」

「いえ、まだでしたから構いませんよ」

恭也の言葉をそのまま信じたのか、ミュリエルは小さく頷くと、一つの袋を恭也へと渡す。

「これは?」

「前に頼まれていたものです。
 全く同じものは用意できませんでしたが、似たようなものは用意させました」

ミュリエルの言葉を聞きながら、恭也は袋の中を取り出す。
そこからは、細い金属製の糸に、恭也たちがよく使う飛針に似たものが出てくる。

「助かります」

「いえ。何とか明日の任務に間に合って良かったです。
 同じものを美由希さんにも渡しておきました」

「ありがとうございます」

「恭也くん、今回の任務はかなり危険です。
 今までにも、鎧を破壊しようとした者たちはいましたが、誰もそれを成し遂げることが出来ていません。
 それどころか、逆に鎧に乗っ取られて、破滅を呼び込んでしまう事もあった程です。
 ですが、あの鎧だけは絶対に破壊しないといけないのです。
 どうか、お願いします」

「分かっています。話を聞く限り、確かに鎧の破壊はしないといけませんから。
 危険な事も承知です。ただ、出来ればそんな危険な事なら、俺一人の方が」

「他の者を巻き込みたくないというのは分かりますが、一人は流石に危険すぎます。
 それに、他の皆も一人では絶対に行かせないでしょう」

「そうですね。それに、一人では出来る事にも限界がありますし」

恭也の言葉に僅かな笑みを零しつつ、ミュリエルは感心したように言う。

「あなたのそういう所が、きっとリリィにも影響を与えたんでしょうね」

「リリィにですか?」

「ええ。今のあの子は、昔よりも主席や救世主には拘っていないように見えるの。
 まあ、なるのを諦めてはいないけれどね。
 ただ、昔みたいに変に肩肘を張ったりする事も大分少なくなってきたわ。
 丸くなったというのは変かもしれないけれど」

言ってどこか嬉しそうに笑うミュリエルに、血は繋がっていなくても親子の絆を感じる。
何も言わずにいると、ミュリエルはそっと恭也の頭を抱き寄せる。
ベッドに座っていた恭也は、立っていたミュリエルの胸に抱かれる形となってやや慌てるが、
その頭を優しく撫でられて大人しくする。

「恭也くん…。恭也、どうか無事に戻ってきて」

言って頭を離すと、真っ直ぐに恭也を見詰める。
そこに照れくさいものを感じるよりも、暖かな優しいものを感じて、恭也はただ静かに頷く。
暫く見詰めてくるミュリエルを見詰め返しながら、居心地の悪さを感じる事もなく、
恭也はただただ自分が落ち着いていくのを感じていた。





 § §





「さーて、私たちも任務へと赴きましょうか」

途中で立ち止まって恭也たちを見送った後、リリィが放った言葉に頷き返すと美由希たちは再び歩き出す。
一番最後尾にいたナナシだけは、もう一度足を止めると、恭也たちの去った方向へと顔を向ける。
その表情は、いつもの能天気さを思わせるようなものではなく、眼差しも鋭くやけに真剣さを帯びていた。

「恭也、…ナ子にロザ……をお願い」

小さな呟きは誰の耳にも届かず、ナナシは焦点の合っていない瞳で遥か前方を見据える。
その後ろから、ナナシが来ていないことに気付いた美由希の声が掛かる。

「ナナちゃん、どうかしたの〜」

「っ。?? 何でもないですの〜。それよりも、ナナシを置いていかないでください〜」

美由希の言葉に急にいつもの顔に戻ると、さっきまで自分が取っていた行動を覚えていないのか、
ナナシは慌てて美由希たちの元へと走り出す。





 § §





かつてベリオとブラックパピヨンを探した場所に降りた恭也たちは、辺りを見渡す。
前と代わる事無く、長い年月が過ぎた事を思わせるように、風化して至る所に皹が入った壁。
文字さえも擦れて読めなくなった墓石。
時折、目に入る白は、元は人だったことを思わせる骨。
リコが手に持ったランプで辺りを照らす。
橙の淡い光に恭也たちの影が壁に長く伸び、それを見て悲鳴を上げそうになるのを未亜は堪える。

「マスター、あの奥です」

リコが指差す先、ミュリエルより教えられた遺跡への入り口へと近づく。

「何もないように見えるが…」

「結界です」

恭也の言葉に答えると、リコは手を離して前方の壁へと掌を向ける。
小さく呟くリコの言葉に反応するように、目の前の光景が歪み、リコが全て唱え終えると、
目の前にはアーチ型をした入り口が開き、その向こうには更に広い空間が広がっていた。
封印のお陰か、千年以上も前の通路だというのに、風化した様子は見られず、
恭也たちが立っている場所と、向こうとではかなり壁などの状況が違っていた。

「成る程な。こんな仕掛けがあったのか」

リコがメンバーに入っていた理由が分かって納得しつつ、恭也は目の前に現れた新たな空間を見詰める。

「ここの何処かに、遺跡への入り口があるんだな」

言ってアーチを潜りつつ、恭也は無意識に先程までの状態、つまりリコの手を取る。
小さく呟くリコだったが、何も言わずに握られた手を握り返す。
未亜が脅えて強く握り返してきた手の感触から、無意識に出た行為だった。

「しかし、こんなに広い所から、どうやって探せば」

「召還器からの力によって、魔力感知が鋭くなります」

「そう言えば、講義で聞いたよね、それ」

「…そんな気がしなくもないな。とりあえず、召還器を呼べば良いんだな。
 ルイン!」

リコと未亜の手を離すと、恭也は召還器を呼ぶ。
離された手に、リコは少し残念そうに、未亜は恐々とした様子を見せつつ、それぞれの召還器を呼ぶ。
尤も、リコの場合は召還器は無いのだが、未亜の居る手前、召還器と思われている本を取り出す。

「召還器というのは便利だよね。ある程度の夜目も利くし。
 リコさんの持っているランプが無くても、ある程度は見えるよ」

「俺ははっきりとまではいかないが、かなり見えるが…」

「マスターは、元々夜目が利いていたから…」

「なるほど。
 つまり、召還器は一定以上に身体能力を上げるのではなく、元々の能力を向上させるという事か」

「はい」

「恭也さん、多分、それって授業とかじゃなくて最初の説明で聞いたと思うんですけれど」

「そう言えばそうだったな。随分と昔のような気がして忘れていた」

恭也の言葉に苦笑を浮かべつつ、未亜は見える限りの墓場に目を凝らす。
ややその顔に恐怖をみせつつも、おかしな個所が無いか見ていく。
それからふと気付き、魔力を感知するのだから、目に頼る必要はないと気付く。
魔力の流れのおかしな場所を感じるように、目を細め、ゆっくりと歩を進める。
恭也は未亜から離れすぎないように気を付けつつ、未亜とは違う方向を探す。
リコはその場で立ち止まり目を閉じると、集中するように魔力の流れを体全体で感じ取る。
それぞれの方法で入り口を探していると、恭也が最初に微かな力を感じた。
恭也は歩を進め、一つの朽ち果てた墓石の一つに立つ。
周りに存在する墓石の中では、比較的に状態の良い石棺から力を感じ、恭也はしゃがみ込む。

「ここか?」

悪いとは思いながらも、恭也はルインの切っ先を石棺の割れ目に入れる。
と、ルインの切っ先が何かに当たり、恭也はそれを引っ張り出す。
それは紅い宝石の付いた銀細工のペンダントだった。
と、それを手に取った恭也の脳裏に、不意に昨夜の夢が思い出される。



そこは何処ともしれない場所で、上も下もなく、
例えるなら、一番近いのはリコとの契約の際に入った次元の狭間に似ていた。
そして、恭也の目の前には敵として現れた女性、ロベリアの姿があった。
思わず身構える恭也だったが、違和感を感じずにはいられなかった。
その違和感が何なのか考えているうちに、恭也は思い当たる。
今、目の前に立つロベリアには、目を覆い隠していた布がないのだ。
それだけでなく、全体から醸し出す雰囲気も違っており、その瞳は優しげなものだった。
思わず構えを解く恭也に対し、ロベリアは悲しげな表情を見せると、ゆっくりとその口を開く。

「やっと伝えられる…。
 赤の主よ、ナナ子にロザリオを…。
 おねが…」

「ロザリオ? 一体、どういう事なんだ」

尋ね返す恭也の前で、ロベリアの姿が薄らいで行く。
なおも尋ねる恭也へと、必死で言葉を紡ぐ。

「ロザ…。……がい」

完全に姿が消える直前、恭也の脳裏に一つの映像が浮かび上がる。
銀細工で作られた紅い宝石の付いたペンダントの映像が。



夢での出来事だったので、今の今まで忘れていたが、手にしたペンダントを見て、
恭也は夢の内容を思い出す。

「夢で見たのと同じ? いや、見せられたという事か。
 まあ、持っておくか」

よく分からなかったが、あの夢で見たロベリアからは敵意や悪意といったものを感じられなかったので、
恭也は見つけたそのロザリオを自分の首に付ける。
ここは入り口ではないと分かり、他の場所を探そうと立ち上がり掛けた恭也だったが、その動きが止まる。
もう一度屈み込むと、長い年月で溜まった埃を手で拭い取り、そこに書かれた碑文を見る。

『…の主、ここに眠る』

碑文は他にも書いてあるようだったが、その部分しか読み取れず、恭也はその墓石全体を手で綺麗にする。
すると、刻まれた碑文の上に、この墓の主の絵らしきものが出てくる。
かなり擦れて色も褪せているが、それはロベリアに見えなくもなかった。

「ここは、白の主の墓だという事か。確か、ここは千年前の遺跡だと学園長は言っていたな…。
 つまり、ロベリアは千年前の白の主という事か。
 しかし、ならどうして今現在、俺たちの目の前に…」

考え込みそうになった恭也だったが、今はそれどころではないと思い直して立ち上がる。
後でリコに尋ねる事を忘れないように、しっかりと頭の済みに記憶して。
と、そこへ未亜の声が届く。

「恭也さん、リコさん、こっち!」

未亜の言葉に反応して、恭也とリコは未亜の傍へと駆け寄る。
未亜は壁の一つを指差しており、恭也とリコもそこから確かに魔力の流れを感じる。

「間違いないですね」

「そうか。なら、行くか」

恭也の言葉に二人が頷くと、三人は同時に身を躍らせる。





 § §





王都防衛線の最前線へとやって来た美由希たちは、特にする事もなく、仮説の野営地でただじっとしていた。
すぐにナナシは待つのに飽きたのか、あちこちをうろうろしていたが、今はそれにも飽きて、
近くの岩へと腰掛け、ぼうっと空を眺めていた。
何気なくナナシの方を見ていた美由希は、その横顔にいつもとは違うものを感じる。
どこか儚げな雰囲気で、悲しげな瞳で空を見上げていたナナシは、美由希の視線に気付いたのか、
ふと視線を美由希へと移す。
思わず驚く美由希に、ナナシはいつもと同じ能天気な笑みを見せる。

「美由希ちゃん、どうかしたんですか〜?」

「いえ、別に。ナナちゃんこそ、何か考えていたの?」

「はにゃ? ナナシがですの? う〜〜ん、ナナシは何も考えてませんでしたの〜」

「でも、さっき…」

「さっき? ナナシはさっき、何も考えずにお空を見てたんですの。
 そしたら、懐かしい光景が浮かんできて〜」

「懐かしい? ひょっとして、生前の記憶を思い出したの?」

「多分、違うと思うんですの〜。何も考えずにいると、色々と浮かんでくるんですの」

「でも、懐かしいってさっき」

「さっき? さっき、ナナシは何か言いましたか? ですの〜」

「あ、あはははは。確かに、いつものナナちゃんだ」

ナナシと話をしているうちに、美由希はさっきのは見間違いかなと苦笑を洩らしながら思うのだった。
そんな美由希の顔を見て、ナナシはもう一度同じような事を聞く。


「本当に何ともないですの?」

「うん。私の思い過ごしみたいだったから」

「そうですの。だったら、良いんですの。
 でも、もし何か悩んでいるのなら、いつでもナナシが相談に乗るですよ」

「ありがとう、ナナちゃん」

「お礼なんて良いですの〜。未来の義姉として当然の事ですの〜。
 やっぱり、義妹には優しくしないとですの〜」

「……ナナちゃん? 誰が未来のお義姉さんなのかな?
 私はナナちゃんをお義姉さんと呼ぶ気はないんだけれど?」

やや冷ややかな声になった美由希に気付かず、ナナシはお構いなしに言う。

「それなら大丈夫ですの〜。
 幾らお義姉さんになったとしても、美由希ちゃんは今まで通りで構わないですの〜」

「いや、そうじゃなくてね…」

「そうでござる! 美由希殿の義姉となるのは、やはり師匠の弟子である拙者ではないかと。
 そう美由希殿は仰りたいのであろう」

「いや、それも違うって」

いつの間にかやって来ていたカエデの言葉に、美由希は冷静に突っ込むが、それはカエデの耳には届いていない。
ナナシとカエデの言い合うのをやや呆然と眺めていた美由希の隣に、これまたいつの間にやって来たのか、
ベリオが立ち、もの凄く小さく呟く。

「美由希さんのような義妹なら、居ても良いですよね」

「それって、どっちの意味かな〜」

美由希を妹としたいという意味なのか、カエデたちと同じ理由なのか。
何となく検討が付きつつも、美由希は呟かずにはいられなかった。
まあ、どっちの意味にしろ、美由希にとって好ましくないのは変わらないのかもしれないが。
と、ベリオとは逆側の美由希の隣に、腕を組んだリリィが立ち、目の前のやり取りに大きな溜め息を吐く。

「やめなさいよね、あなたたち。ここには、他の人たちも居るんだから」

そうは言うものの、周りには誰も居らず、この周辺は救世主クラスのみだった。
それに気付いているからなのか、リリィはそれ以上は何も言わず、ただ肩を竦めるだけにする。

「ナナシは、夜中にダーリンの部屋に行った事があるんですの〜」

「何の。拙者は一緒の部屋で寝たでござるよ」

「ずるいです、カエデちゃん〜」

「別段、ずるくないでござるよ」

「うぅぅ〜」

「カエデ、それって、アンタはベッドで寝て、恭也は床で寝たってやつでしょうが」

何を言ってるんだとばかりに、それまで静観を決め込んでいたリリィが割って入りだす。
その勢いのまま、カエデたちに向かって、リリィは思わず口にする。

「私は一緒に寝たわよ」

「っ! そ、そんな師匠〜」

「ダーリン、酷いですの〜。ナナシ、ナナシも一緒に寝たいですの〜」

「えっ、えっ! リ、リリィさん、それって、え、え、えぇっ!」

驚く美由希を無視して、ベリオが冷静に言う。

「それって、単に一緒のベッドで寝ただけって事よね、リリィ」

「そうよ! ちょっと、色々あってね。
 あ、誤解しないでよ、美由希! ただの相談事というか、そんな感じのなんだから。
 私は別に、アイツの事をどうこう思ってないんだからね。
 ただ、カエデたちがあまりにもくだらない事を言い合ってるから、ついね。
 その、黙らせようと思っただけなんだから。
 ほら、美由希だって、恭也と一緒に寝るぐらいあったでしょう」

「確かに、小さい頃はあったけれど…。あ、でも、春とかに山篭りする時は、一つのテントだし…。
 でも、あれは鍛錬中だし、そんなの考えたこともなかったし…」

ブツブツ呟く美由希の横で、ベリオは不適な笑みを見せる。

「って事は、この中ではアタシが一番、恭也と、って事になるのか」

「っ! ベリオ殿、それはどういう意味でござるか!」

ベリオの発言に、恭也を呼び捨てにしているという事に気付かずに全員がベリオへと注目する中、
不意に不適な笑みから、おどおどした顔になると、顔を紅くして俯く。

「えっと、べ、別に、な、何でもありません。
 な、何もありませんでしたよ、ほ、本当です!」

妙に力説するベリオを問い詰めようと、全員がベリオを囲むように動き出す。
ゆっくりと後退しつつ、ベリオは自身の内側で大笑いしているであろう、
もう一人の自分に文句の声を上げる。
そこへ、急き込んだように走ってくる一人の影があった。

「大変っス! 美由希さん!」

「ど、どうしたの、セルビウムくん」

セルの登場で、全員の意識がセルへと向かったのを見て、ほっと胸を撫で下ろすベリオ。
この時、初めてベリオはセルに心からの礼を胸の内で述べる。

「それが……っとと。救世主候補の皆さんに伝令です!
 偵察に出ていた部隊より、破滅軍の進行を確認したとの報が入りました。
 既に他の部隊は戦闘準備に取り掛かっております!
 直ちに救世主候補の方々も、戦闘準備と整えて、出立の準備をとの事です」

真面目な顔付きで背筋まで伸ばして一気に言い放つセルを見て、リリィが訝しげな視線を送る。

「アンタ、本物のセル?」

「し、失礼な! 俺だって、こんな慣れない形式ばったのは違和感を感じてるよ!
 だけど、仕方ないだろう。今は、末端とは言え、王国軍に所属って事になってるんだから」

ブツブツと文句をいうセルを軽くいなしながら、リリィは前方を見据える。
ここからではまだ破滅軍は見えないが、周りの者たちが慌しく動き出しているのは分かる。

「どうやら、連中も救世主の鎧を本気で取りに来るみたいね」

「師匠たちが任務を終えるまでは、拙者たちが何としても」

「ダーリンの為に、ナナシも頑張るですの〜」

「皆、気を引き締めて行きましょう」

「恭ちゃんは私が守る。破滅軍なんか、絶対に、行かせない!」

美由希たちも急ぎ、進軍に加わるべく、その場を後にする。

「……えっと〜、俺の事は皆さん、無視ですか?
 それはないっすよ、美由希さぁぁぁ〜〜んっっ」

完全に置いてけぼりにされたセルの叫びだけが、誰も居ない場所に響くのだった。





つづく




<あとがき>

まだまだ鎧の元へとは辿り着いていない。
美姫 「と言うか、まだ入り口発見しただけよね」
うん♪
美姫 「で、この次は?」
まだ♪
美姫 「はぁぁっ!」
あべしっ!
美姫 「さっさと書いてね♪」
は、はい…。
美姫 「ともあれ、いよいよ中盤って所よね〜」
この後、ああなって、ああして、あの子がああで〜。
美姫 「ここで言わなくても良いから、さっさと書きなさい!」
ぐげろばぁぴょゅぅっ!!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
…………ピクピク。




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