『DUEL TRIANGLE』






第三十九章 反逆の雷





王都へと辿り着いた恭也たちの元へ、リリィたちが駆けつける。
それぞれの無事を喜び合う中、血相を変えた二人の騎士が走り寄って来る。

「クレシーダ王女!」

駆け寄ってきた男の騎士は、クレアの無事を確認するとほっと胸を撫で下ろし、
女の騎士はそのままクレアへと抱き付く。

「本当に良かった〜」

「恭也さん、本当にありがとうございます」

「いや、俺だけじゃ無理でしたよ」

「皆さんもありがとうございます」

恭也と顔見知りの騎士カグラに続き、メルも恭也たちへと頭を下げる。

あまりの丁寧さに困惑を隠し切れない所へ、それを引き締めるようにクレアが口を挟む。

「カグラもメルもその辺にしておけ。
 それよりも、騎士団の準備は整っておろうな」

「はっ! 命令通り、既に」

「そうか。なら、これより破滅軍に対する警戒をより一層強めつつ、王都の警備にあたれ。
 私はレベリオンの元へと向かう。
 さて、救世主候補たちよ。そなたたちには少々無理を言うが、私をその場所まで護衛してくれ」

クレアへと改めて要請されたリリィたちは、恭也へと視線を向ける。
それを受け、恭也は一つ頷く。

「あの空中にある奴を何とかしない事にはどうしようもないしな。
 それよりも、この件は学園長には?」

「ミュリエルには既に伝えておる。時間が少しでも惜しい故、このまま向かうぞ」

言って王城の方へと歩くクレアの後に恭也たちも続く。
心配そうに見詰めるメルの肩にそっとカグラが手を置き、
二人も自分たちのすべき事をするために、この場を立ち去る。
静寂が降りる街の中、静かに今日という時間が終わろうとしていた。





 § §





流石に空腹を覚えた恭也たちは、少々行儀が悪いとは思ったが、携帯食を食べながらクレアの後に続く。
裏の通用口らしき場所から城の中へと踏み入った恭也たちは、表の方が騒がしい事に気付く。
恐らく、先ほどクレアが口に出していた騎士団が動き出しているのだろう。
壁に掛けられた絵画を横目に眺めつつ、恭也たちは足早に城の奥へと進んで行く。
その横で、リリィが溜め息を洩らす。

「折角のお城だっていうのに、着ているものはボロボロの上、手には携帯食。
 しかも、それを食べながらの移動だなんて」

そう嘆くリリィに、未亜たちも苦笑を洩らすしかない。

「まあ、事態が事態だからな。
 それに、考え様によっては、これはある意味凄いことかもしれないぞ。
 アヴァターを収める王族の城を、こんな格好で闊歩するなんて。
 普通なら、即捕まっても文句は言えないだろうし」

「流石に、恭也くんのようにそこまでは割り切れません」

「拙者も、流石にやや緊張しているでござるよ」

「だよね。幾ら、クレア王女の許可を頂いたとはいえ、お城の中を食べながら歩くってのは」

カエデに続き同意する美由希に、恭也はそんなもんかとリコや未亜を見る。
二人も同じなのか、小さくだが頷く。
ナナシへと視線を転じてみれば、こちらは恭也同様、全く気にした様子もなく、
鼻歌を歌いながら、今にもスキップしそうではあった。

「ナナシはそんな事はないみたいだな」

「それを一緒にするのは間違っているからね、恭也」

リリィの指摘に恭也は何も言わず、クレアへと視線を向ける。

「ところで、俺たちは何処へと向かっているんだ」

「城の最奥じゃ。そこに、王族しか知らぬ秘密の通路がある。
 レベリオンはその先じゃ」

離れのように作られた宮殿へと入り、そこから複雑に折れ曲がる通路を通る。
途中に幾度となく分かれ道が存在したが、当然の如く、クレアは迷うことなく進んでいく。
幾つかの扉を抜け、ようやく一向は一つの扉の前で足を止める。
恭也たちを少し下がらせると、クレアはその扉へと手を当てて眼を閉じ、小さく何事かを呟く。
それに応じるように扉が一瞬だけ光り、ゆっくりと開いていく。
扉が開ききったその先は、すぐに下へと降りる階段となっており、クレアは迷う事無く踏み出そうとして、
後ろから恭也に腕を捕まれて止められる。

「ここから先へは、一度でも行った事はあるのか?」

「ないな。ここまではあるが、ここから先は私も知らぬ。
 ただ、一本道故、迷う事はない」

「罠とかの類は?」

「いや、聞いた事がないから、恐らくはないのだろう」

「念のためだ。クレアは後から来い」

「…うむ、分かった。では、先頭は任せる」

そう言ってクレアが後ろへと下がった横を、恭也が進む。

「かなり暗いな。クレア、手を。カエデ、すまないが先に行ってくれ」

召還器を持たないため、夜目の利かないクレアの手を取ると、先にカエデを進ませて、その後を恭也が続く。

「美由希、念のために最後尾を頼む」

後ろから返事が返ってくるのを聞きながら、恭也はゆっくりと階段を降りていく。

「クレア、そのレベリオンっていうのは、撃つのにどれぐらい時間が掛かるんだ」

「正直、分からん。
 何せ、資料にそういった兵器があるという記述はあったが、今までに誰も使ってないゆえな」

「なら、その間にあのガルガンチュアの攻撃がくるかもしれないな」

「可能性はある。だからこそ、こうして休む間もなく向かっておるのじゃからな」

「そうだったな」

そんな事を話しているうちに、恭也たちは階段を降り終える。
そこは天然の洞窟をそのまま使っているのか、ドーム状の天井と言わず、
左右の壁もはごつごつとした岩肌が剥き出しのままだった。
天井や壁にある光りごけのようなものの一種で、はっきりとまでは行かないまでも、
薄っすらと先を見渡す程度は出来る。
だが、クレアは恭也の手を握ったまま離そうとはせず、先へ行くように促す。
足元が暗い事には変わりがないため、恭也もクレアの手を握ったまま歩き始める。
流石にこの状況では文句を言う者もおらず、一向は静かに進んで行く。
かなりの距離を歩いたと思われる頃、ようやく広い空間へと出る。
そこは、まるで遺跡のような風体をしており、それを見た恭也と未亜は小さく息を飲む。

「救世主の鎧の時に来た遺跡と似ている…」

未亜が呟いた言葉に、リコが一つの可能性を見出す。

「他にもここへと繋がる入り口がある可能性があります」

「という事は…」

「はい。破滅が侵入している可能性も」

この言葉に全員が気を引き締める。
さっきよりも慎重に、一向は奥に見える扉へと進んで行く。
扉を抜けたその先はまたしても一本道の通路となっており、そこを進むとまたしても扉が一行の前に立ち塞がる。
それを潜り抜けると、ようやく恭也たちはレベリオンの元へと辿り着く。
円形のフロアの壁には、アーチ状の出入り口らしきものがずらりと並んでおり、
恐らくそのどこかからレベリオンの砲身を外へと向けて出し、発射するのだろう。
フロアの中央に置かれた、大きな砲台にも見える機械。
その根元というような場所に、恭也たちの世界で言うパネルのようなものがついている。
そこから複雑にコードらしきものが伸び、より一層、目の前の魔導兵器を機械じみたものに見せている。
クレアはそのパネルへと近づくと、何やら操作を始める。
ブゥンという機械じみた音が空気を震わせ、レベリオンが微かに振動する。
と、機械的な音声が流れる。

≪レベリオンの起動準備に入ります。認証確認の手続きを≫

その音声に応えるように、クレアは持っていた小刀で指先に小さな血の雫を作ると、
それを先ほど操作していたパネルの横にあった別のパネルへと押し付ける。

≪認証確認完了。これより稼動状態へと移行します≫

クレアは満足そうに頷くと、首から架けてあったペンダントを外してレベリオンのパネル脇にある穴へと差し込む。
先祖代々の魔力に、クレア自身の成長さえも代償として蓄えられたエネルギーの供給により、
レベリオンの振動が大きくなる。
やがて振動が収まると、クレアは伸びていたコードのうち二本を手に取り、
そのまま両腕に注射器の針を刺すようにして突き刺し、椅子らしきものへと腰を降ろす。
身体から力が抜ける感覚に顔を顰めつつも、クレアは毅然とした眼差しで前方のパネルを見詰める。

「魔導兵器よ、我は汝が主。
 古の契約により、古き眠りより覚め 地上に大いなる力を示せ」

クレアの言葉と共に重低音が響き、今度はレベリオンだけでなく、部屋全体が振動し始める。
と、アーチ状に開いた出入り口の向こうに見えていた岩肌が、ゆっくりと流れるように下へと動き出す。
いや、部屋全体にかかる圧力から考えると、部屋そのものが上へと動いている。
やがてそれが止まると、さっきまで岩肌が覗いて所からは、暗い夜空が広がる。
クレアはというと、トランス状態に入ったように虚ろな瞳でただ前方を見詰めていた。
慌てて駆け寄ろうとする恭也をリコが止める。

「大丈夫です、マスター。王女は今、レベリオンと繋がっているだけです」

リコの言葉にほっと胸を撫で下ろすが、すぐに視線を外、夜空へと向ける。
夜空の星に紛れるようにして存在していた小さな黒い点が、徐々に大きくなってくる。

「破滅のモンスターか!」

恭也の叫びと共に、美由希たちも空を見上げる。
既に視認できるほどに大きくなった点は、確かに羽の生えたモンスターの姿をしており、
その足にぶら下がるように、一人の人物がいた。
全部で三つの点は、次第に大きくなってくる。
未亜、リリィ、リコが攻撃を放つが、それよりも先に二つの影はモンスターから飛び降り、
レベリオンの間へと降り立つ。

「久しぶりね、恭也」

言って紅い剣をその手に、ロベリアが恭也へと妖艶な笑みを見せる。
その横にイムニティが降り立つ。
その顔を見た恭也とリコ以外の救世主候補たちが驚きの声を上げる。

「リコとそっくり…」

「どういう事!?」

ベリオやリリィが驚く中、イムニティは恭也とリコのみを意識して話し掛けてくる。

「ごきげんよう、赤の主。どう、あれから気持ちはまだ変わらないかしら?」

「ああ。悪いが、そっちにつく気はない」

「そう、残念だわ」

恭也とイムニティの言葉に更に驚くも、美由希たちはただ黙って二人のやり取りを見ている。
そこへ、ロベリアが割って入るように恭也へと話し掛ける。

「恭也、こっちに来ないか。それとも、まだ違うの?」

「言っている意味がよく分からないが、さっきも言ったようにそちらへとつくつもりはない」

「そう」

やや悲しげに取れる言葉を吐き出すロベリアへ、今度は恭也が尋ねる。

「俺も聞きたい事がある。ルビナスさんを殺してまで、救世主になりたかったのか?」

恭也の言葉にびくりと肩を震わせたかと思うと、ロベリアはリコへと視線を転じる。
目は布で覆われているが、全身から怒りを発するその姿に、知らず美由希たちは一歩下がる。

「赤の書! お前が余計な事を!」

言ってリコへと魔法を繰り出すが、それを恭也が弾き返す。
事情は分からないものの、この攻撃が切っ掛けとなり美由希たちも動き出す。
そこへ、ようやく三人目が降りてくる。
三人目は降りてきた力をそのままに、更に地を蹴って最も近い者へと斬り掛かる。
それを美由希が受け止めるが、そこへ蹴りが来る。
吹き飛ぶ美由希を尻目に、蹴りを入れた人物はそのまま手を地面に着け、低く唸り声を上げる。
肩口まである黒髪を揺らし、セレナは剣を口に加えて手と足で地面を蹴る。
その出鱈目な動きを見て驚く恭也へと、イムニティの雷が降る。

「くっ!」

それを寸前で躱してイムニティへと斬撃を飛ばすと、リコへと接近していたロベリアの剣を受け止める。
計らずも、初めて対戦したときのように分かれた形となるも、イムニティはロベリアへと何かを告げる。
瞬間、二人の姿が消える。

「逃げたのか?」

「いえ、マスター、あそこです!」

リコが指差す先、クレアの真後ろへと現れた二人に、恭也だけでなく他の者も動きを止める。
その一瞬を逃す訳もなく、セレナは剣を横へと振るう。
その一撃で、接近戦と展開していた美由希、カエデ、ナナシの身体が吹き飛ぶ。
人質にするつもりはないのか、二人はクレアの元で何かする仕草は見せるものの、こちらへと関心を持たない。
その間も、セレナはそんな事は関係ないとばかりに今度は未亜たちへと向かう。

「リコ!」

リコの名を呼びながら駆ける恭也の意図を察し、リコがセレナへと雷を放つ。
セレナはそれを剣で振り払う。
その為に足が止まり、そこへ恭也が斬り掛かる。
セレナと切り結ぶ中、恭也は相手の攻撃が予測し辛い事を悟る。
まるで、獣のように手や足を、口を使って攻撃してくるセレナに、
恭也も蹴りや無手、ルインで攻撃を合わせる。
セレナ目掛け、リリィやベリオの魔法、リコの召喚した生物などが襲い掛かる。
壁に激突した美由希たちも、何とか立ち上がるとセレナへと斬り掛かる。
その全てを剣で力任せに振り払い、時には俊敏に跳んだり動いたりして躱す。
その間も恭也はクレアの元へと行く機会をずっと窺っている。
それを知ってか知らずか、セレナは恭也を主に狙ってくるのだ。
レベリオンから引き離されつつある中、恭也が地面を強く蹴ってその身を宙に置く。
それを迎撃するように頭上を振り仰ぐセレナへと、三方向から美由希たち前衛が斬り掛かる。
煩そうにそれらを振り払った所へ、未亜、リリィ、ベリオの攻撃が多方向から押し寄せ、
止めとばかりにリコの魔法が頭上から落ちる。
その隙に恭也はセレナの背後へと着地すると、攻撃する事無くクレアの元へと走る。
恭也を追おうとするセレナの前に、美由希たちが立ち塞がる。

「何処へ行く気でござるか」

「あなたの相手は、私たちです」

「ナナシも頑張るですの〜」

それぞれの獲物を構える美由希たちへと、セレナは恭也の事など忘れたように斬り掛かる。



クレアの元へと辿り着いた恭也の傍には、リコもやって来ており、二人は揃ってロベリアたちを睨む。
見ると、クレアは苦しそうに息を乱していた。

「クレアに何をした!」

「なに、ちょっとした事だよ。別に危害は加えていないよ」

ロベリアが答える間に、イムニティはクレアへと囁く。

「さて、王女様。レベリオンの座標をN000、E001に設定して」

「う……うぅぅ。レベリオン、座標設定……N000、E001」

苦しげにうめきつつも、イムニティの告げた座標へとレベリオンの照準を合わせる。
それを確認すると、イムニティはにやりと笑う。
逆に、リコの顔が青く変わる。

「その座標は、王立フローリア学園の座標!」

「ふふふ、そういう事よ。それじゃあ、私たちの用はこれで済んだわ」

言って消える二人。
慌てて振り返ると、やはりと言うか、二人の姿はセレナのすぐ後ろへと現れていた。
行き成り現れた二人へと、セレナの剣が襲い掛かるが、それをロベリアは受け止める。

「ったく、この馬鹿が! 味方を攻撃してどうするのよ。
 だから、こいつは連れて来たくなかったのよ」

「仕方ありません。ムドウもシェザルも万全とは言えない上、メイは怪我までしてますから。
 現状で動けるのは彼女だけ。
 まあ元々、救世主候補全員を相手にして時間が稼げるのも彼女だけですけどね」

言ってセレナの肩に手を置くと、セレナの姿が消える。
先にセレナを帰したのだろう。
これでゆっくりと話が出来るとばかりに恭也たちを見る。

「にしても、無駄な努力を続けるのね、あなたたちは」

「無駄な努力ってのはなによ! まさか、もう勝ったつもりじゃないでしょうね」

イムニティの言葉に真っ先にリリィが噛み付くが、イムニティは小さく笑う。

「その事じゃないわ。
 既に、救世主となる可能性を持つ者が決まっているのに、未だに救世主を目指しているあなたたちの事よ」

「既に決まっている? どういう事なんですか!」

ベリオまでもが今の台詞を聞き捨てならないと強い口調で問い返す。
それらを一笑すると、イムニティは意地悪そうにリコへと視線を向ける。
いや、リコと恭也へと。

「リコ、まだ教えてなかったんだ。赤の主もいい趣味をしているわね。
 既に他の者にその可能性がないのを分かっていながらそれを隠して、こっそり笑っていたのかしら?」

「マスターはそんな人ではありません!」

「まさか、その救世主というのは師匠の事でござるか」

美由希たちの視線が恭也に向かうのを、イムニティは楽しそうに見る。

「さて、それはどうかしらね。まあ、嘘だと思うのも勝手だけれど。
 さて、あまりここに居るとレベリオンに搾取されてしまうから、ここらで退散させて頂くわ」

一言も話さず、ただ恭也の方をじっと見ていたロベリアを促し、イムニティの姿が消える。
奇妙な沈黙が降りる中、リリィが詰め寄るが、それを未亜や美由希が止める。

「リリィさん、今はそれどころじゃないですよ」

「そうです。恭ちゃんには後で説明してもらえば」

「…そうね。分かったわ。アンタたち、後できちんと説明しなさいよ」

「ああ、分かった」

リリィの言葉に頷くと、恭也はクレアの頬を軽く叩く。

「クレア、クレア。今から座標の変更は出来ないのか?」

問い掛けるも、クレアの瞳は虚ろのままで反応がない。
リコはクレアの様子を探ると、首を横に振る。

「駄目です。恐らく、ロベリアのネクロマンシーの術か何かで操られ、その後放置されたのでしょう。
 術が解けて居ない所為で、王女自身の意志が戻ってきてません」

「じゃあ、どうするのよ。このままだと、学園が。お義母さまたちがあそこには居るのよ!」

恭也たちの会話が聞こえていたのか、リリィが珍しく泣きそうな声を上げる。
沈痛な面持ちでクレアを囲む恭也たちに、リコが更なる事実を突き付ける。

「学園が危ないだけでなく、このままでは私たちも危険です。
 レベリオンは周囲の魔力を無作為に吸い取ります。このままでは私たちも…」

その言葉を肯定するように、レベリオンから声が響く。

≪最終調整に入ります。周辺に居る作業員は、直ちに避難をしてください。繰り返します…≫

無情に響き渡る声に、リリィたちは顔を見合わせる。
ベリオが入ってきた扉を調べるが、びくともしない。

「駄目です、開きません!」

「そうでしょうね。
 レベリオンが最終段階に入れば、誰にも止められないように周囲の出入りは出来なくなります。
 本来なら、やり過ごすための壕があるんですが…」

ここにはそのようなものはない。
つまり、逃げ道がないということだ。

「本当に何も手がないの!?」

「一人だけなら、逆召喚で逃がせます」

全員が沈黙し、揃えたようにその視線が恭也へと向く。

「お前ら、何を考えている」

「何ってアンタが思った事よ。
 どういう事情があるのかは知らないけれど、アンタが現状では最も救世主に近いんでしょう」

「はい。更に言うなら、マスターが死ぬと、敵に救世主が誕生する危険も」

「だったら、尚のことですね。ここは恭也くんが逃げるべきです」

「しかし!」

「駄目でござるよ、師匠。ここで生き延びる事こそが、師匠の役目でござる」

恭也は美由希や未亜、ナナシへと視線を向けるが、三人も何も言わなずに微笑を浮かべる。
と、そこへ苦しげな声が届く。

「くぅっ。きょ、恭也……。今、どうなって…」

現状を求めるようにクレアが声を上げる。
どうやら意識が戻ったらしいが、レベリオンは既に最終段階に入り、強制搾取へと移ろうとしていた。
恭也が説明をするよりも早く、リコが口を挟む。

「王女、座標をN013、E124、H237へと変更してください!」

「くっ。レベリオンよ、座標をN013、E124、H237へと変更じゃ……」

≪座標の変更、N013、E124、H237へと変更。
 ……マナ重責ヴォーテックス、目標焦点座標確認≫

ギリギリで座標の変更が間に合いほっと胸を撫で下ろすが、強制搾取が始まる。

「リコ、早く恭也を」

「駄目だ!」

「まだ言っているでござるか」

「リコ、俺の魔力も使っても良いから、ここに居る全員を逆召喚で転送できないか」

「…不可能ではありません。
 ですが、それだとはっきりとした座標を定められず、皆バラバラになってしまいます。
 それ所か、何処へ行くのか分かりません」

「それでもだ。リコ! あまり使いたくはないが、初めて使わせてもらうぞ。
 赤の書のマスターとして命じる。ここに居る全員の逆召喚だ」

「…分かりました。王女はレベリオンのマスターですから心配ありません。
 なので、王女を除く全員を転送します」

「すまないな、リコ」

「いえ。それでこそ、赤の書の、私のマスターですから。
 いきます!」

恭也の決断を聞いていたリリィたちは、苦笑を洩らす。
だが、これこそが恭也なのだと妙に納得する。

「さて、何処へ飛ばされるのかしらね」

「何処だろうが、リリィなら大丈夫だろう」

「当たり前よ。それよりも、絶対にもう一度会うわよ、皆」

『勿論』

全員の言葉が重なると同時、恭也たちを白い光が包み込み、同時にレベリオンの強制搾取が始まる。
レベリオンが発射された後、その場には誰もいなかった。
果たして、逆召喚が間に合ったのかどうか。
それすらも、今の段階では知る由もなかった。





つづく




<あとがき>

さてさて、恭也たちは無事なのか!?
美姫 「一体どうなるって所で、また次回なのね」
そういうこと。
さて、次回はどうなるのか!?
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」




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