『DUEL TRIANGLE』






第四十五章 クレアとルビナスのお出掛け





それは午後の出来事だった。
昼食を終えた恭也の元へ、クレアとルビナスがやって来る。

「恭也、出掛けるぞ」

「恭也くん、お出かけしましょう」

恭也の部屋の扉を開けるなりそう言ってくる二人に、恭也は特に予定もないからと頷く。
その返事を聞くや、二人は両横から恭也の腕を取ると、足早に家を出る。
やや二人に引っ張られる形となった恭也は、何とか靴を履きながら二人に話し掛ける。

「出掛けるのは構わないが、何をそんなに慌てているんだ」

「別に慌ててなどおらんぞ」

「そうそう。慌ててなんかいないわよ」

この状態からではあまり信じられない事を口にしつつ、二人は急げとばかりに恭也を引っ張る。
暫くして二人ともようやく普通に歩き始める。
しかし、恭也の腕はしっかりと取ったまま離す様子はない。
恭也が離してくれるように頼むが、それはすぐさま却下される。
仕方なくそのまま二人に腕を取られながら歩きつつ、恭也は今更ながらに何処に行くのか尋ねる。
それに二人は朗らかな笑みを見せる。

「別に何処とは決めておらん」

「単に恭也くんとお出掛けが出切れば良いの」

二人の言葉に自分と出掛けてもと思ったものの、二人がそれで良いと言っているのだからと納得する。
あちこち連れ回されながらも、恭也もそれなりに楽しんでいた。

「それにしても、この世界は暑いな」

「まあ、夏だからな」

「この国特有の四季っていう奴ね」

「ルビナスはいやに詳しいな」

「まあね。美由希ちゃんから色々と本を借りて読んだから、多少はね」

「そんな事はどうでも良い。暑い、暑い、暑い」

「そう暑いと連呼されてもな」

クレアを困ったように見遣りつつ、そんなに暑いのなら引っ付いてこなければ良いのにと思う。
だが、それは口にはしない。この辺り、自分では成長したなと思っているのだが、
その理由までは思い至っていない時点で周りから言わせれば、まだまだなのだが。
と、クレアの目がアイスクリームの露店にいく。

「恭也」

「ああ、分かった、分かった」

クレアの言いたい事を察し、恭也たちは露店へと足を向ける。
何種類かあるようで、悩むクレアを余所に恭也とルビナスはさっさと注文する。

「抹茶」

「バニラで」

悩むクレアを余所に先に会計をしようとした所で、恭也はふと気付く。

「手を離してくれないと、どうしようもないのだが」

未だにしっかりと組まれている腕を見て困ったように呟く恭也に、クレアもルビナスも仕方ないと腕を離す。
久しぶりに自由になった腕で会計を済ませてアイスを受け取る頃には、ようやくクレアも注文を終える。
歩きながらアイスを食べながら、クレアたちは楽しそうに笑う。

「恭也、抹茶とは何だ? お茶の仲間みたいだが」

「その通り、お茶だよ。昨日飲んだ、日本茶のな」

興味津々のクレアに苦笑を浮かべると、恭也は自分のアイスをそっと差し出す。

「まあ聞くよりも実際に食べた方が早いだろう。
 尤も、本当の抹茶よりも甘いがな」

言って差し出されたアイスをじっと見詰めていたクレアだったが、ソレに齧り付く。

「どうだ?」

「うん、これはこれで美味いな」

「そうか」

「あ、殿下だけずるい。私ももらい♪」

反対側から齧り付いてくるルビナスにこれまた苦笑を見せつつ、恭也はそっと差し出す。

「うん、美味しい」

ぺろりと舌を出して唇についたクリームを舐め取るルビナスに思わず目が釘付けになる。
それを誤魔化すようにアイスを口にする。
他にも出ている露店を冷やかしながら、三人はまだ日も高い中を歩く。
いつの間にかまたしても両腕を取られつつ見て周っていると、不意に二人の足が止まる。
見れば、アクセサリーを扱っている露店のようで、二人の目はそれら様々なアクセサリに注がれている。
やはり女の子かと思いつつ、恭也は口を出さずに二人が動き出すのを待つ事にする。
出切れば何処か日陰で待っておきたい所だが、二人に腕を掴まれていてはそれもできず。
と、何気に周りを見れば、周囲は女性しかおらず、
恭也は自分が場違いではと二人の腕を解いてこの場を離れようとする。
しかし、それを察した二人により更にしっかりと腕を掴まれてしまう。
時折、周囲から二股という言葉や好奇の視線を浴びるという拷問に耐えながら、恭也は二人を見る。
見れば、二人の視線は一つのものに注がれており、恭也もそちらへと視線を向ける。

「指輪?」

特に何かデザインが施されている訳ではない、極々普通のリングを熱心に見詰める二人を見て、
すぐにこの場を立ち去りたいと思っていた恭也は、値段を見て店主に声をかける。

「すいません、これを二つ……。いえ、八つください」

二人だけに買ったのがばれると、後で絶対に何か言われると思った恭也は、他の者たちのも頼む。
途端、辺りから今まで以上のどよめきが起こる。
その理由が分からずに居る恭也へ、店主が声を掛ける。

「本当にこれと同じのを八つで良いんだね」

「あ、数がないとか」

「いや、数なら充分あるけれど。えっと、そっちの子たちはそれでも良いのかな?」

恭也ではなく、その両横に居る二人にそう尋ねるが、二人は恭也がリングを買ってくれるという事柄に、
ただ嬉しそうにすぐさま頷く。

「そうか。まあ、当事者たちが良いって言っているんなら、こっちとしては一向に構わないんだけれどね。
 兄さん、気を付けないとそのうち背後からぶっすりと刺されるかもよ」

そんな訳の分からない事を言って店主は同じ指輪を全部で八個取り出す。

「で、兄さんの名前は?」

「恭也ですけど」

恭也が名前を告げると、店主は恭也の名前をリングの内側に彫っていく。
八つ全てに恭也の名前を彫ると、クレアとルビナスの名前を聞き、それを一つ一つに彫る。

「はいよ。これがクレアさん。こっちがルビナスさんのだ」

名前を入れるサービスが付いてくるのだとこの時知った恭也は、その間ここから移動できない事に気付き、
更に先程よりも何故か好奇の視線が集中する中、待たされることになる。
だが、受け取ったリングを嬉しそうに指に嵌める二人を見て、まあ良いかと思うのだった。

「って、何故左手に?」

「ん? 別に良いではないか」

「そうそう。どっちに嵌めても自由でしょう」

言って楽しそうに薬指を見せるルビナスに、恭也は一刻も早くこの場を立ち去りたいと心底願う。
周りからの視線が痛いのだ。

「はいよ、これで終わりっと。
 結構、長いことこの商売しているけど、流石に兄さんみたいなのは初めてだよ。
 まあ、頑張りな」

店主の意味の分からない言葉を不思議に感じつつも、恭也は二人を引き摺るように早足でこの場を立ち去るのだった。
その後も色々と見て周り、日も傾いた頃、三人はようやく帰途に着く。
案の定と言うか、帰宅した恭也を待っていたのは美由希たちによる尋問だった。

「で、何処に行ってたのかな恭ちゃん」

「外だが」

「外なのは分かっているんです。私たちを置いて、三人だけで何をしていたのかを聞いているんです」

普段と変わらず丁寧な口調のベリオだが、恭也は得も知れぬものを感じる。
と、そんな恭也たちから離れて、帰って来てから始終ニコニコしている二人へと視線を向けたリコが息を飲む。

「どうしたの、リコ?」

問い掛けるリリィに答えず、リコは細めた目で恭也をじっと見据える。

「…マスター、聞きたい事があります」

全く感情を感じさせないリコの声に、一緒に問い詰めていた未亜たちも思わず息を飲んで見守る。

「あのお二人が指にされているモノは、マスターが贈られたのですか」

リコの言葉に全員の視線が一斉に二人の指に注がれる。
それを察した二人が、見せつけるように左手を持ち上げて、指を真っ直ぐに伸ばして甲の方を皆へと向ける。
全員がゆっくりと、まるで油の切れたブリキの玩具のように、ギギギと音を立てるかのように、
本当にゆっくりと恭也へと向き直る。
その顔は一様に揃ったように笑顔を浮かべていたが、誰一人として本当に微笑んでいる者はいなかった。

(ああ、やっぱりこうなるのか)

今までなら、ここで恭也が心底疲れるまで罵詈雑言を浴び、いわれのない事を言われ、
最後には暴力が襲い掛かってくる所だが、今回は恭也には多少の余裕があった。
恭也はその余力が削り取られる前にポケットへと手を突っ込み、包みを取り出す。

「とりあえず落ち着け。お前たちの分もあるから」

その言葉に全員の動きがピタリと止まった隙に、恭也はリングを取り出して名前を確認する。

「これがリコだな。で、これがベリオで、こっちがリリィのだ。
 ほら、カエデ、未亜。で、美由希と。
 ちゃんと全員の分を買ってきてあるから、そう怒るな」

その事を知っているくせに、まるで煽るような事をした二人を恨めしそうに見るが、
二人はそ知らぬ顔でこちらと視線を合せようとはしなかった。
一方、リングを貰った美由希たちは、それぞれ素直に喜びを表わす者、必死でそれを隠そうとする者など、
微妙な違いはあったものの、怒りを収めたらしい。
その事に胸を撫で下ろす恭也の前で、全員が左手にそれを嵌めるのだった。

「恭ちゃん、ありがとう」

「師匠、拙者あまりの嬉しさに……。うぅ」

「そ、その、ありがとうございます、恭也くん」

照れつつも礼を述べる三人に対し、未亜は真っ赤になりながらも何とか礼を口にする。
リコは無言ながらも嬉しそうな顔でじっと自分の指に嵌めたリングを見詰める。
リリィは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いているものの、小声で礼を言ってくる。
どうやらお土産を気に入った様子なのを見て、恭也はほっと胸を撫で下ろすのだった。
そこへ、玄関のチャイムが来客を告げ、未だに何処か夢心地といった感じの美由希たちを残し、
恭也は玄関へと向かう。

「小包です」

「あ、はい」

判子を押してそれを受け取り、送り状を見た恭也の目付きが鋭くなる。
その届いたばかりの長細い包みを手に、恭也はリビングへと向かう。





つづく




<あとがき>

いよいよ龍鱗が召還器かどうか判明するぞ〜。
美姫 「やっとなのね」
まあ、俺としては龍鱗が届くまでに一キャラ毎の話をしたかったんだが。
リリィやルビナス、クレアは今回までに終わったから、残るキャラの話を。
美姫 「それは、龍鱗の後でも良いんじゃない」
…かも。うーん、出切れば、未亜とクレアをもう少し弄りたい。
美姫 「何故、その二人なの?」
今までに、イベントらしきものがないから。
美姫 「……確かに、この二人はないわね。って、ルビナスもないんじゃ」
彼女は今回やったし。ナナシとして…………やってないな。
美姫 「今回を入れると、クレアも含まれるんだけどね」
むむ。困ったもんだ。
美姫 「で、どうするつもりなの?」
その辺は、おいおい考えよう。
美姫 「つまり、このままナシって可能性もあるのね」
ぐっ。…困ったもんだ。
美姫 「アンタの頭がね」
と、とりあえずは次回!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」




ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ