『DUEL TRIANGLE』






第四十八章 帰還したのは良いけれど…





何もない荒野と呼ぶに相応しい地帯。
少し行った所には木々が生い茂る森が見える。
その森に背中を向け、手ごろな岩へと腰を降ろしてぼんやりと空を見上げるのは、
全身黒尽くめの者だった。
黒尽くめは小さな吐息を零し、背後の森を一度だけ振り返るが、すぐに視線を空に瞬く星へと向ける。
風に髪をなびかせて憂いを帯びた顔を覗かせる。
不意に視線を落とすと、前方に見える大きな岩へと移す。
訝しげな顔で見詰める先、その岩の裏側から微かな光が零れる。
そこに魔力を感じた黒尽くめは、慎重に岩の裏へと周る。
そこに居たのは、意識を無くした一人の青年だった。
破滅のモンスターではないと分かり、胸を撫で下ろす傍ら、警戒を緩めずに男へと近づいていく。





 § §





ミュリエルは急いで長い廊下を駆けていた。
王城の廊下を走り抜けるという無作法を、しかし咎めるものは居ない。
ミュリエルの立場もあるが、その顔が切羽詰まったものであるからだろうか。
一番の理由は、その場に誰も居ないという事なのだろうが。
ミュリエルがここまで急ぐには理由があった。
その理由を聞き、同じように駆けているのはクレシーダ王女腹心の騎士、カグラとメルの二人である。

「まさか本当に中庭に」

未だ信じられないと呟くカグラに、しかしミュリエルははっきりと頷いてみせる。

「間違いありません。中庭から協力な魔力を感じます。
 何者かが現れようとしてます」

「まさか王城の真中に召喚してくるとは…」

忌々しげにカグラが呟くが、ミュリエルは違う可能性も見出していた。

「破滅とは限りません。そもそも、王都には、更にはこの王城には召喚を邪魔する結界があります。
 それを破ってくるのは、容易ではありません。
 可能性として、他の世界からこの世界へと自力で渡ろうとしている者か、
 もしくはこの場所を知っているリコの召喚魔法という可能性も」

後半の言葉は自身の希望も多分に含まれていた。
何せ、王女たちが消えて五日。
その間、方々を探索したが見つけることが出来なかったのだ。
未だ、纏まった破滅軍の王都への侵攻はないが、少数による単独の侵攻は既に何度もあったのだ。
このままでは、再び態勢を整えた破滅の王都侵攻も時間の問題であった。
そうなっては、少数で攻めて来る今でさえ劣勢だというのに、王都が落ちるのもそう遅くはなかった。
その事は市民には伝えられていないが、騎士が戻ってくる時の様子や、怪我人の多さ、
行きに比べて半分近くまで減っての帰還。
それを目の当たりにしていれば、嫌でも想像がつくのだろう。
今や王都は火を消したように静まり返っていた。
だからこそ、この状況をひっくり返すためにも、皆が救世主候補たちを必要としていた。
ミュリエルは藁にも縋る程の気持ちで中庭へと飛び出す。
いつの間にか地面へと浮かび上がった魔法陣が光を放ち、そこに幾つかの影が生まれる。
魔法陣が放つ光が弱まり、影が色を取り戻していく中、
その中の一つに燃え盛るかのような色が翻るのを見つける。

「リリィ…」

感極まって娘の名を呟く。
その声が聞こえたのか、真紅の髪を後ろへとたなびかせ、リリィは振り返る。

「お義母さま。という事は、ここはアヴァターなのね」

魔法陣の光が完全に消え失せると、そこには待ち望んだ救世主候補たちの姿があった。

「おかえりなさい、皆。やっぱり、他世界へと行ってたのね」

「ただいま戻りました」

皆を代表するようにリリィがそう答えると、待ち遠しそうにしていたカグラが口を開く。

「それで、クレシーダ王女は何処に!?」

その詰め寄る口調に小さな嘆息と共に一人の女性が後ろから前へと出る。

「全く、お主はもう少し落ち着いたらどうだ、カグラ。
 して、状況は?」

そう言ってくる女性を、ミュリエルたち三人は呆然と見詰める。
それを不思議そうに見詰め返しながら、ようやくクレアは自身が成長していた事を思い出す。

「何じゃ、お主らまで私が誰なのか分からぬのか。
 それでも、私付きの騎士か。まあ、仕方ないかもしれんが」

「えっと、その態度に口調…。
 もしかしなくても、クレア!?」

驚きのあまり、普段二人の時の口調になるメルに、クレアはやや憮然としながらも頷く。

「そうじゃ。まあ、色々とあって成長したんじゃ。
 その辺りは後でよい。ミュリエル、お主にも関係のある話じゃからな。
 後でゆっくりとな。そう、救世主の本来の意味なども含めてな」

「殿下、それは」

「…ミュリエル、話は後」

「そうよ。それよりも今は、破滅がどうなっているのかを知りたいわ」

リコとナナシがミュリエルへと話し掛けると、ミュリエルは驚いた顔を向ける。

「まさか、ルビナス? それに、オルタラなの?」

「迂闊ね。貴女ほどの人が、今までオルタラに気付かなかったなんて。
 まあ、私の方は色々と封印や手順があったから分からなくても仕方ないけれど」

「それじゃあ、やっぱり恭也くんが今回の赤の…」

「ええ、そうよ。でもね、彼は殺させないわ」

「っ! 気付いてたのね」

「ええ」

二人の間に見えない火花が散る。
それを見ながら、リリィは改めてクレアの言っていた事が事実だと知り、
どうして良いのか分からず泣きそうな顔を見せる。
恭也を殺されたくはない。それに関しては迷いなく頷ける。
かと言って、母親と敵対できるのか。
どちらも選ぶ事の出来ない選択を前に、動けなくなるリリィ。
しかし、そんな心配は杞憂に終わる。
いや、ルビナスが終わりにする。

「まあ、少し前にそれは諦めたみたいだけれどね」

「…そう簡単に信用しても良いのかしら?
 油断させるためかもしれないわよ」

「だとすれば、もう既にその時は逃してしまっているもの。
 やるんだったら、もっと早くにそうしていたはずよ。
 現状で恭也くんを排除した時のデメリットを分かっているでしょう。
 恐らく、いいえ、間違いなくこの子たちは満足に戦えなくなるわ。それだけじゃない…」

「破滅側に救世主を誕生させてしまうのね」

「ええ、そうよ。奇しくも、千年前と同じようにね。
 尤も、私たちが思っているようなものじゃなかったみたいだけれどね。
 その辺りは、さっきも殿下が言ったように後にしましょう」

「ええ、分かったわ」

色々と聞きたい事はあったが、とりあえずは後へと回し、
先に現状を救世主たちに教える事を優先する。
その前に、既にやめていたとしても、恭也の命を狙ったという事実に対し、
ミュリエルはどんな罰でも受け入れるつもりで恭也へと謝ろうとする。
が、その視線があちこちをさ迷い、最終的にリコへと行く。

「リコ、恭也くんは?」

その言葉に全員が改めて周辺を見るも、恭也の姿だけはなかった。





 § §





男まで後少しと近づいた所で、男が小さく呻き声を発して起き上がる。
慌てて後方へと跳んで距離を開けると、いつでも反撃できるように備える。
目の前の男は周囲を見渡し、黒尽くめへと視線を向ける。
こちらもまた、警戒しながらゆっくりと起き上がろうとする。
それを声を発して止める。

「動くな。動くんじゃないよ。
 可笑しな真似をしたら、敵と見なすからね」

黒尽くめの女性の言葉に従い、男――恭也は中途半端な態勢で動きを止める。
その態勢のまま目の前の人物を観察する。
手練れの剣士。しかも、これだけ開いた距離からも攻撃できるという以上、遠距離に対する攻撃もできるという事。
恐らくは、魔法も使えるのだろうと判断する。
下手に刺激をしないように話し掛ける。

「破滅の人間か?」

刺激をしないように考えながらも、いきなりそんな質問をぶつける恭也。
それに対し、目の前の女性はキッと目付きも鋭く恭也を睨む。

「違うに決まっているでしょう! また、そうやって私だけそんな目で見られる。
 いつもいつも! ルビナスたちは綺麗な格好で皆の羨望を集めるの、私だけはいつもいつも!」

突然喚く女に驚きながらも、今出てきた単語に驚いて反応する。

「ルビナスだって!?」

「ふん。アンタもあいつ目当てでこんな危険な所まで来たのかい。
 ご苦労な事だね。でも、残念だね。ルビナスたちは向こうの森で休んでいるよ」

「いや、別にそういうんじゃない。とりあえず、この態勢をどうにかしても良いだろうか」

恭也は慎重に言葉を選びながら、どういう事か必死に考えていた。
女の許可が出たので何とか立ち上がると改めて目の前の女性の姿を見る。
艶のある長い黒髪が月明かりに照らされて光り、緩やかに吹く風と踊るように舞っている。
やや目付きは鋭いものの、纏う静かな雰囲気から美沙斗などを思わせる。
闇夜に浮かび上がるその姿に、恭也は思わず言葉を無くして魅入る。
純粋に、剣士として立つその女剣士に、またその綺麗な風貌に見惚れる。
それをどう受け取ったのか、女剣士は小さく鼻を鳴らす。

「ふん。何か言いたい事があるのなら、はっきり言え。
 今更、侮蔑の一つや二つどうという事はない」

投げやりに応じる女剣士に、恭也は特に考えもせずに思った事を口に出す。

「すいません。あまり綺麗だったので、じろじろと眺めてしまって。
 女性相手にすべき事ではありませんでしたね」

真顔でそう言われ、その上頭を下げて謝られた女剣士はさっきまでの凛とした雰囲気を霧散させ、
急にオロオロとどうして良いのか分からずに慌て出す。
今まで言われた事のない言葉を言われ、いまいちその言葉の意味するところが理解できない。
いや、理解はしているのだ。
しているからこそ、混乱しているのである。
そんな様子を見ていた恭也は、その愛らしさに思わず笑ってしまう。

「貴様! からかったな!」

「違いますよ。さっき言ったのは本当ですよ。
 今のは、単に貴女のその仕草がさっきまでの様子とギャップがあって可愛かったものですから、つい」

「か、可愛い……」

呆然と言われた言葉を反芻し、顔を真っ赤に染める。
女剣士の言葉に自分の言った言葉を思い出し、恭也も照れたように顔を紅くする。
二人して顔を紅くし、自身の爪先をじっと見詰めていた。
どれぐらいそうしていただろうか、その沈黙を女剣士が先に破る。

「そ、それよりも、お前はどうしてこんな所にいるんだ。
 ルビナスたちが目当てではないのなら、こんな危険なだけで何もない所に」

「それを言うのなら、貴方たちだって」

「私たちは良いんだよ。救世主となるための旅をしているんだから」

「救世主!」

「ああ。って知らなかったのか? いや、でもルビナスの名には反応していたな」

「あ、ああ。ただ知り合いにそういう名前が居るだけで、違う人だ」

「そういう事か」

恭也の言葉に納得したのか、女は腰を降ろすと岩に背を預ける。
既に恭也を警戒する事もなく、恭也もまた警戒を解くと隣に座る。

「本当に可笑しな奴だな、お前は」

「そうですか。まあ、偶にそう言われますが」

「やはりな。相当、おかしいぞ、お前は。
 私なんかを綺麗と言ったり、可愛いと言ったり。……まあ、その少しだけ嬉しかったが」

「嬉しいって、言われなれているでしょう。
 それに、俺は思った事をつい口にしてしまっただけで。
 言ってから気付いて、ちょっと恥ずかしかったですよ」

「ふん、そんなの私が知るか。
 それと、そんな事を言われた事はないな。
 私に向けられる視線は、大抵が侮蔑や汚物をみるような目だから」

腹立たしげに言い捨てる中に、僅かな悲しみを感じて恭也は何も言えずにいた。
そんな恭也の様子から察したのか、女は自分の服を軽く摘んでみせる。

「私は常にその身に黒を纏う暗黒騎士だから。
 ネクロマンシーを使う妖術剣士にして、救世主パーティーの汚点、薄汚れた存在…」

忌々しそうに呟くと、女は口を噤む。
代わりという訳ではないが、今度は恭也が口を開く。

「俺は黒が好きですけれどね。今着ているものも黒ばかりですし」

言って同じように服を摘んで見せる
改めて見れば、確かに恭也の服装も全身黒尽くめだった。
女は小さく笑うと、首を振る。

「お前は変わっているがいい奴だな」

「そんな事はないですよ。さっきも言いましたが、本当に綺麗でしたよ。
 月の光の中に立つ貴女は」

「…わ、分かったから、そう何度も言わないでくれ。
 言われ慣れていないせいか、落ち着かない」

「ええ、これっきりにします。俺も流石に何度も言えませんよ」

お互いに再び頬を紅く染めつつ、同時に空を見上げる。

「別に黒だから悪いって訳じゃないんだ。
 ただ、私が妖術師だから、それがいけないんだろうね。
 妖術と聞くだけで、殆どの人が忌避する。
 だから、そんな私が救世主パーティーの一員に選ばれたんだったら、皆の代わりに汚れてやろうと思った。
 そうする事で、皆が汚れずに済むのなら私一人だけ汚れれば良いのならって率先してね。
 でも、積み重ねていくたびに、私の中が黒く染まっていくのが分かるんだ。
 皆が羨ましいって思い、妬むようになる。
 それでも、それしか知らない私はずっと続けてきたんだ」

じっと空の一点を見詰めて語る女の言葉を、恭也は口を挟まずに同じように空を見上げたままじっと聞いている。
だからこそ、女は更に続ける。
今まで胸の中にずっと仕舞い込んで、誰にも話した事のない事まで。
それが何故なのか、ましてや、会ったばかりの者相手に話しているのか。
そんな事も思いつかないかのように。

「でもね、同じような事をしても、ルビナスたちは羨望や尊敬が、私には侮蔑が返ってくるんだ。
 私は、一体何をしたかったんだろうね。こんな想いまでして」

それっきり口を閉ざした女に、恭也はかなりの間を空けてから口を開く。

「貴女は優しい人ですね」

「私が? そんな訳ないじゃない。
 優しい人間が、仲間を妬む訳ないでしょう」

「いえ、優しいですよ。仲間の為にそんな役を買って出るぐらいなんですから。
 それに、憧れや妬みなんて誰もが持っているものですから」

「でも…」

「それに、俺は貴女を尊敬しますよ。いえ、憧れるが正しいかも」

「私にか?」

突然の恭也の言葉に、女は驚いて恭也を見返す。
その顔は至って真剣で、嘘や冗談ではないと思わせる。
女が見ている中、恭也は薄く笑うと、ゆっくりと口を開く。

「俺も似たような立場ですからね。俺の仲間は皆、強いんですよ。
 ただ強いだけじゃなく、傷を癒したりできる者もいます。
 でも、俺にできるのは、最も得意なのは壊す事ですから。
 まあ、簡単に言えば暗殺技術ってのが近いですね。ただ倒すだけじゃなくて、殺すための技」

「それで? アンタも同じように?」

「ええ。できる限りは俺一人がって思います。でも、結局は皆の力を借りてますけどね。
 でも、それで良いと教えてくれた奴もいますし」

「そうか。で、そうしてきたお前に対する周りの態度はどうだ?
 侮蔑されたりとかはなかったか?」

「さあ、どうでしょうね。でも、それでも良いですよ。
 それぐらいで大事な仲間が守れるのなら。守りたいモノを守れるのなら。
 それで良いと俺は思ってます。だから、それを実践している貴女は凄いと思います」

「大事なもの…」

考え込む女を横目で見ながら、恭也はようやくここが何処か検討を着けていた。

(恐らくは過去。それも、千年前の…)

ここでルビナスたちと一緒に行動して破滅を滅ぼす事も考えたが、
それがどう未来に影響を与えるのか分からないため、恭也は大人しく迎えが来るのを待つ事にする。
にしても、この人物は…。
そんな事を考えているうちに、視線が女の横顔に注がれていたらしく、女はやや照れたように顔を背ける。
慌てて謝罪を口にしながら、恭也も顔を背ける。
再び沈黙が辺りを支配する中、女は思い切ったように恭也へと話し掛ける。

「もし、もしも、もう一度最初から人生を選択できるとしたら、アンタはどうする?
 今と同じ道を選ぶか、それとも…」

「……多分、同じ道を選ぶでしょうね。
 それ以外の生き方を知らないというのもありますが、それよりも、俺はこの剣を誇りに思っているから。
 決して人に誇れるものではないけれど、俺自身はそう思っていますから。
 父がそうであったように、俺もまた大事な人たちを守るためにこの剣を取ったんです。
 だから、何度やり直したとしても、きっと同じこの道を選ぶと思いますよ。
 まあ、実際にそうなってみないと何とも言えないですけれどね」

言って笑う恭也を見て、女も微笑を見せる。

「お前は強いな」

「そんな事はないですよ」

「いや、充分に強いさ」

その笑みにまたしても見惚れる恭也を、女はただ静かに見詰める。
今までどんな敵を前にしても感じた事のない緊張を感じ、鼓動が高まり、暖かなものを感じる
女はその理由に思い至る前に、顔を背ける。
じっと見詰めていたいという気になるが、それは同時に相手も見詰めてくるという事で。
顔が熱くなるのを感じ取り、恥ずかしさからそういった行動を取ってしまう。
しまったと思ったときには遅く、
パーティーの仲間を除いては初めてといっても良いほど親しげに接してくれる相手に嫌われたのでは、
と恐る恐る、本当に恐々と顔を戻すが、恭也は特に気にした様子も見せずにただ首を傾げる。
その事にほっと胸を撫で下ろしながら、女は誤魔化すように再び星を見詰める。
が、星の輝きもかなり弱くなっており、朝が近いことを知らせていた。

「……所で、お前はこれからどうするつもりなんだ」

「そうですね。仲間が迎えに来ると思うので、それまではここに居ます。
 下手に動く訳にもいかないので」

「そうか」

残念そうに呟くと女は立ち上がる。

「お前のお陰で少しだけ楽になった気がする。
 だが、何もお礼ができない」

「気にしないでください。お礼なんて」

「そうか」

「はい」

女の後に続くように恭也も立ち上がる。
と、その足元が不意に光り始める。

「これは、召喚魔法か!?」

「どうやら、仲間が来たみたいですね」

慌てずに告げる恭也の言葉に、女は一つ頷くと指で何かを弾く。
それを受け取り、これは何か問い掛ける恭也に、女は短く答える。

「お守りだ。大した奴じゃないがな。せめてもの礼だ」

恭也は受け取ったコインのようなものをポケットに仕舞うと礼を言う。
その恭也へと、女はこれで最後と聞きたいと思ったことをぶつける。

「お前の名前は?」

「俺の名前は恭也です。高町恭也」

「…恭也か。分かった、恭也またな」

「はい」

女へと頷き返しながら、恭也は目の前の人物に同じように尋ねる。

「良ければ、貴女の名前を教えてもらっても良いですか」

「名前か? 私の名前はロベリアだ」

「ロベリア…」

何処かやはりという思いと共にその名を呟く恭也へ、ロベリアはこれこそが一番聞きたかった事だと早口に言う。

「恭也! また会えるか」

既に身体が消え行く中、恭也は意味ありげな笑みを見せる。

「そうですね。ロベリアが望めば、千年経とうとも」

恭也の答えに満足したのか、ロベリアは不適とも取れる笑みを零す。
それを最後に、恭也の姿はロベリアの前から消える。
暫く恭也が居た場所をじっと見詰めていたロベリアだったが、
背後から自分を呼ぶルビナスの声が聞こえてくると、その声に微笑を洩らし、
岩場の影から身を出しすと、こちらへと駆けて来るルビナスに軽く手を振る。
姿が見えずに心配したのだと分かる彼女の顔を見て、次いで明るみ始めた空を見上げる。

「まあ、もう暫くはこんな汚れ役を続けるも良いかもね」

その小さな呟きは、誰にも聞かれる事無く朝露と共に消えていく。





つづく




<あとがき>

ってな訳で、全く無事に帰還できてません。
美姫 「恭也一人がね」
だな。まあ、最後にはちゃんと帰れたっぽいだろう。
美姫 「だと良いけれどね」
という訳で、次回はその時アヴァター側は、って感じだな。
美姫 「でも、過去に飛ばしちゃうとはね〜」
あははは。まあ、その辺りは多めに見てくれよ。
美姫 「私は別に良いんだけれどね〜」
ぐっ。と、とりあえず、次回で〜。
美姫 「逃げたわね」




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