『DUEL TRIANGLE』






第五十章 千年越しの決着





最終決戦へと臨む前の前哨戦として、現在王都目指して進軍してくる破滅軍を撃退すべく王国軍が動く。
当初、共に来るはずだったクレアは、恭也に窘められる。

「最終決戦でお前が先頭に立つというのなら、余計に今回の出撃は見合わせるべきだ。
 はっきり言って、誰かを守りながら闘えるほど楽な状況じゃない。
 破滅に対する反乱軍の旗印とも言える王女が倒れるような事があれば、
 兵だけでなく立ち上がった民たちにまで影響が出るぞ。
 お前が今すべき事は、最終決戦に向けての準備だろう。
 闘う意志を持った民たちをまずは纏めるのが先じゃないのか。
 本当は最終決戦でもお前には前線に出て欲しくはないんだがな」

「お主の言う事を聞いて今回はここで見送ろう。
 じゃが、やはり最終決戦には私も前に出るぞ。
 兵や民のみを戦わせてばかりはおられぬ!」

「…お前の戦いは破滅相手ではないんだがな。
 例え辛くとも、最後まで全てを見届け、破滅を倒した後の平和な世界にこそ、お前の戦いはあるんだが」

「それも分かっておる。じゃが、そのためにもまずは破滅だろう。
 ならば、私だけが安全な場所に居て良い訳があるまい」

「はぁ、分かった」

結局、恭也の方も多少譲歩する形となり、今回の出撃は見送り、次の最終決戦では前線に出るという形となる。
そんな経緯を思い返しながら、恭也たちは王都を出てかなり進んでいた。
ガルガンチュアによって荒野と化した元平原を進む一行の前に破滅軍が現れる。
その戦闘に立つ人物を見て、ルビナスが進み出る。

「ごめんなさい、恭也くん。彼女は私に任せて欲しいの」

「分かりました」

恭也はそう答えると、モンスターの相手をすべくルインを手にする。
王国の騎士たちは既に戦闘を始めているらしく、そこかしこで戦いの音が響く。

「久しぶり、になるのかしらね」

「何を言って……いや、お前はまさか」

「あら、もう私の事は忘れてしまったの。悲しいわね。
 少なくとも、今の貴女の身体の元持ち主なんだから、忘れるのだけはやめて欲しかったわ」

「やっぱり、貴様ルビナスかっ!」

激昂して叫びながら、真紅の刃ダークプリズンを振り上げるロベリアを静かに見据え、
ルビナスは手を前にかざす。

「エルダー・アーク」

ルビナスの言葉に答え、その手に光を放つ長剣が現れる。
ルビナスの召還器、大いなる古の剣エルダー・アークが。
ロベリアの一撃を受け止めるルビナスを、ロベリアは憎しみの目で睨みつける。

「貴様は何処まで行っても私の邪魔を!」

「ロベリア、いい加減に目を覚まして」

「うるさいっ! 私はいつだって正気だ!」

ロベリアは片手を離すとそこへと魔力を集中させる。
それを察知したルビナスはロベリアが魔法を放つよりも早く口を動かす。

「エルストラス・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり。
 我は万物の根源たる四元素に命ずる。爆ぜよ!」

ルビナスとロベリアの間の空間が突然、爆発する。
呪文を唱えると同時に後ろへと跳んでいたルビナスへ、ロベリアの魔法が飛ぶ。
それを躱すも、今度は骨をつなぎ合わせた鞭が空を切り裂いて近づく。
それを長剣で弾き飛ばしたところへ、駆け寄ってきたロベリアの剣が襲い掛かる。
横薙ぎの一撃を受け止めると、ルビナスはロベリアの胴へと斬りつける。
それを躱後ろへと高く跳躍して躱しながら、ロベリアは再度魔法を放つ。
魔法の矢がルビナスの胸に突き刺さり、ロベリアは笑みを刻むが、
その目の前で陽炎のようにルビナスの姿が消える。
気付いた時には遅く、ロベリアの背後に回りこんでいたルビナスの一撃がロベリアを襲う。

「がっ!」

地面へと叩きつけられながらも何とか起き上がるロベリアの頭上から、ルビナスの長剣が襲い掛かる。
もう少しで当たるというその時、ルビナスはその場を蹴って横へと飛び退く。
たった今までルビナスが居た場所へと、
背後から無数の切っ先をナイフのように鋭く尖らせた骨が通過して突き刺さる。
互いに手の内を知り尽くした相手である上に、剣と魔法を併用する似たような戦闘スタイル。
簡単に決着が着かないと両者共に考えていた。



恭也たちはモンスターたちを相手に戦い続ける。
一体一体は大した事無く、簡単に倒せる。
しかし、その数がとんでもなく多く、倒しても倒しても次から次へと現れるのだ。
恭也と美由希が二人で切り込んで行き、零れた分をカエデが討ち取っていく。
後方からはリリィにリコ、ベリオにミュリエルの魔法が飛び、それらの隙間を未亜の矢が通り過ぎていく。
打ち洩らす事なく破滅のモンスターたちを倒して行く恭也たちに触発されるように、
王国軍も破滅のモンスターを押し始める。
恭也たち前衛が遠距離の攻撃方法を得たように、リリィたち後衛も近接戦闘をある程度こなすようになっている。
リリィは美由希から教わった体術を自分に合うように変化させ、
呪文を唱えるまでに接近されても、あしらって呪文を完成させる。
未亜も同じように、恭也から教わった簡単な体術と以前見たメイの動きから接近戦も出来るように努力してきた。
その努力の成果が、接近を許したとしても弓で攻撃を裁き、距離を開けてすぐさま矢を放つという所からも分かる。
リコも簡単な体術の腕は持っているが、そもそも相手を近づけるという事はさせない。
恭也との契約により、制限がなくなった魔力はやはり他の救世主クラスの者と比べても抜き出ており、
圧倒的な火力で敵を寄せ付けない。
稀に接近に成功するモンスターも居たが、すかさずテレポートして距離を開けるのである。
それぞれの努力の結果を目の当たりにして頼もしく感じるミュリエルだったが、
僅かに怪訝そうな顔でベリオを見る。
それぞれに苦手部分を僅かなりとも補えるように闘う恭也たちに比べ、劇的に変化したのがベリオの戦い方だった。
元も、防御や治癒にその能力を発揮していた彼女だが、戦闘スタイルは魔法での遠距離だった。
しかし、今ミュリエルが見詰める先では…。

「まだまだっ!」

手にした鞭を華麗に操り、中距離で戦闘を繰り広げている。
その動きも素早く、一つどころに留まらずにあちこちを舞うように移動する。
その際にも鞭が蠢き、モンスターを倒して行く。
かと思えば、急に足を止めて魔法を放つ。
苦手部分を努力して若干出来るようにした、というレベルではなく、
完全に二つの戦闘スタイルを状況に応じて使い分けているという形である。
が、ここに来て戦力の大幅な向上に文句があるはずもなく、ミュリエルはその疑問を仕舞いこむと、
こちらへと向かってくるモンスターの群れに大きな魔法を放つ。



互いに無数の傷や火傷の痕を身体に刻みつつ、ロベリアとルビナスの二人は呼吸も荒く向かい合う。
震える腕でダークプリズンを振り上げ、同時に呪文を唱える。
負けじとルビナスもエルダーアークを振り上げてロベリアの攻撃を受け止める。
ぶつかり合う二人の刃が音を立て、それと同時に両者共に魔法を放つ。
二人の中間で爆発した魔法により、共に後方へと吹き飛ばされる中、ルビナスの姿がまたしても消える。

「なっ!? しまっ…」

ロベリアが気付くも少し遅く、ルビナスは吹き飛ばされたロベリアの背後に移動しており、
その背中に手を置く。

「どうやら、私の勝ちね」

ルビナスの手から放たれた雷撃により、ロベリアは身体を痙攣させるとその場に崩れ落ちる。

「あっ……がっ。ぐぅぅぅ。こ、殺せぇぇっ!」

意識は残っているのか、痺れて動けない身体でロベリアはルビナスを睨みつけると叫ぶ。
それを悲しげに見下ろしながら、ルビナスは首を横へと振り、屈み込む。

「お願いだから、昔のように仲良くしましょうよ」

「何が仲良くだ。私はお前たちにとって都合の良い存在というだけだろうが」

パンと乾いた音を立ててロベリアの頬が鳴る。
頬を引っ叩かれたと理解したロベリアはルビナスへと噛み付こうとするが、
そのルビナスは掌を振りぬいた形で止まっており、その顔には悲しげな、それでいて本気で怒っている顔を見せる。

「本当に私たちがそんな事を思っていると、本当にそう思ってるの。
 私たちが…」

今にも泣き出しそうなルビナスの声を聞きながら、ロベリアはただ無言でルビナスを見上げる。

「貴女が苦しんでいたのに気付かなかったのは、私たちが悪いと思っているわ。
 でも、私は貴女の事を今でも仲間だと思っているのよ」

「信じられるか。私が今信じられるのは、自身の力と破滅の存在のみだ。
 全てが滅びた後の新たな世界。それ以外に興味などない」

「そう…。でもね、そんな世界はないのよ」

ルビナスは悲しげな顔を隠そうともせず、自身が知った神の計画を話す。
聞いていくうちに顔を白くさせるが、反論するように口を開く。

「そんな出鱈目など誰が信じるかっ!」

「嘘ではないわ。本当の事よ。それに、貴女にも思い当たる節はあるんじゃない」

「……」

その無言がルビナスの言葉を肯定するようで何か言おうと口を開くのだが、
そこから意味のなる言葉は出てこず、ただ意味のない形を生さない音のみが出る。
やがてロベリアは力なく顔を伏せると、その口から苦痛とも嘆きとも取れる声を上げる。
かと思えば、狂ったように笑い出す。

「あははは。とんだお笑い種だな。それじゃあ、私はその神とやらにまで裏切られたという事か。
 しかも、都合の良いように利用するだけされて。くっくっく…あーはっははははっ!
 本当に笑い話にもならないぐらい愚かだな私は。
 そんな事とは露知らず、千年前は救世主になるために必死になって、今は破滅の一員として戦って…」

感情を爆発させるように叫んだ後、ロベリアは沈黙する。
やがて静かに、力のない呟きがその口から零れる。

「私なんか誰も必要としないって事か。
 利用されるだけの存在ってか」

「ロベリア…」

やや躊躇った後、ルビナスは思い切ってロベリアへと話し掛ける。

「私が居るじゃない。私は貴女を必要としているわ。
 少し時間が掛かったけれど、昔のように…」

「……今更、そんな事できるわけないでしょう。
 散々、お前に当り散らしてきたのに、そんなに都合よく…」

「都合が良くても何でも良いじゃない。私が良いって言っているんだから。
 だから、ねえ、ロベリア」

そう言って手を差し出すルビナスを、ロベリアは眩しそうに見詰める。

「お前のそういう偽善的な所が嫌いなのよ」

「あら、私は貴女のそうやって悪ぶる所は好きなのに」

「勝手に言ってろ」

小さく笑いながらルビナスの手を取る。
痺れも大分収まってきたのか、その手に惹かれるように上半身を起こして座り込む。
そこへ恭也たちがやって来る。

「ルビナス、そっちも終わったみたいだな」

「ええ。そっちは」

「こっちは小休憩って所だな。破滅の進軍が途切れたからな」

恭也の言葉通り、周囲にはモンスターの姿が見えない。
しかし、彼方からこちらへと進軍してくる姿は見える。
騎士たちも今のうちに態勢を整えるように陣形を組みなおしている。

「恭也か…」

真実を教えられて味わった絶望から少し立ち直ったとは言っても、
まだ少しどこか力の入らないロベリアへ、恭也以外の救世主候補たちは警戒心も顕に身構える。
そんな美由希たちとロベリアの間にルビナスは身体を入れると、両手を広げて背中にロベリアを庇うようにして立つ。

「待って、彼女はもう敵じゃないから!」

その言葉を半信半疑で聞きながら、疑わしげに見詰める美由希たちに、ロベリアは小さく苦笑する。

「良いさ、ルビナス。自業自得ってもんだ。
 私は抵抗しないから、信じられないってんなら好きにしたら良い」

言ってロベリアは自身の武器を地面へと放り投げる。
その全く敵意のない様子に戸惑う美由希たちとは違い、恭也は座り込むロベリアの前に出る。

「……成る程な。こういった事は進んでやっているんだったな。
 良いよ、やってくれ。お前にやられるのなら満足さ」

言ってじっと見上げてくるロベリアへと、恭也はしかし優しく手を差し伸べる。

「会う事を望めば、例え千年後でも」

悪戯が成功した時の子供のような笑みを見せる恭也を暫し呆然と見詰めていたロベリアだったが、
すぐに笑みを見せると、その目の端に僅かながら雫を見せる。

「……まさか、やっとなの」

「ああ。ようやく、会う度に色々と言っていた意味が分かったよ」

おずおずと伸ばしてきたロベリアの手を取って立ち上がらせる。
その光景を何となく面白くなさそうに見詰める一同へ、恭也がロベリアを庇うように言う。

「根はそんなに悪い奴じゃないんだ。
 だから…」

恭也にまでそう言われ、渋々ながら美由希たちも同意する。
元よりさっきのロベリアとルビナスのやり取りが少し聞こえていた事もあり、
そう強く反対するつもりはなかったのだろう。
ただ、やはりそれまで敵対してきただけに、すんなりと受け入れる事も出来ずにいた。
そんな所だった。
ロベリアは恭也の隣に立つと、自らの召還器を拾い上げてその刃を恭也の肩に乗せる。
色めき立つリリィたちを恭也が手で制する。
ロベリアから全く殺気が出ていないからこそ止めた恭也だったが、次にロベリアが何をするのかまでは分からない。
そんな恭也へと、引き締めた顔でロベリアは厳かに告げる。

「たった今、これより私の剣は恭也のために振るう事を誓うよ」

言うと剣を降ろす。
呆気に取られた恭也だったが、小さく肩を竦めるだけで何も言わなかった。

「さて、それじゃあ第二陣を迎え撃つとするか」

照れ隠しか、そんな事を口早に告げるとロベリアは戦前へと歩き出す。
その背中を苦笑しながら見送る恭也にルビナス。
リリィたちも何とも言えない顔でそれを見ながら、その後を追う。
さっきの行為がロベリアなりの誠意の見せ方なのかもしれなし、違うのかもしれない。
けれど、美由希たちもまたロベリアを少しだけ信じても良いと思っていた。





つづく




<あとがき>

ふっふっふ。
美姫 「何よ不気味ね」
いや、いよいよ次回は…。
おっと、これ以上はまだ言えないな。
美姫 「何かむかつくわね」
あ、あははは。
その物騒なものはしまってね。
美姫 「じゃあ、さっさと書いてね♪」
お、おう。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。
美姫 「次回は二分後よ♪」
いや、絶対に無理だから、それ。
嘘は言わないように。




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