『DUEL TRIANGLE』






第五十六章 ガルガンチュア侵入





王城の謁見室へと呼び出された恭也たちにクレアから第一声が掛かる。

「良く来たな、救世主たちよ」

クレアはまず最初に恭也へと目を向け、その様子を見て誰にも分からないぐらいに小さく胸を撫で下ろすと、
その場に居る全員へと声を張り上げる。

「いよいよ、破滅に対してこちらから討って出る!」

この場にいるのは主だった者たちばかりだが、それでも小さなどよめきが生まれる。
この事は既に全国民が知らされている事だったが、いよいよかと。
それらが静まるのを待って、クレアは再び口を開ける。

「作戦と呼べるようなものはないというよりも、最早無意味だろう。
 向こうも総力を持って向かって来るだろうからな。
 我らがすべき事は二つ。一つは、民たちを守る事に全力を注ぐこと。
 そして、救世主たちを敵の要塞、ガルガンチュアへと乗り込ませる事のみ!」

クレアの言葉に広間が静まる中、少し間を置いてからカグラが進み出る。

「かと言って、全くの戦術なしという訳にもまいりません。
 そこで、大まかにですがこのように…」

言ってカグラが部隊の配置などを説明していく。

「そして、この作戦の中枢とも言うべき救世主の皆さんはここに…」

「多分、それでも破滅のものたちに見つかるでしょう。
 いえ、寧ろガルガンチュアへと近づく以上、接触は避けれないでしょう。
 ですので、救世主の皆さんの周囲には護衛として王国騎士団を配置します。
 彼らがモンスターたちの相手をしますから、皆さんはただ真っ直ぐガルガンチュアへ」

カグラの説明を補足するようにメルが恭也たちへと告げる。
一通りの説明を聞き終え、リリィが手を上げる。

「敵の要塞は空中に浮いているんですよね。
 そこまではどうやって」

「それは、この者たちに」

クレアが言うと、その後ろに二人の女性が現れる。
その内の一人は恭也たちもよく知っている者だった。

「既に知っているだろうが、ダリアと、そしてこっちは初めてだろうな。
 九音だ」

突然現れた二人に恭也や美由希、カエデ以外が驚く中、ダリアは普段の呑気な声で言う。

「そういう訳で〜、私たちが皆をあそこまで連れて行ってあげるからね〜」

普段と同様に間延びした声を出すダリアをミュリエルは複雑そうに見る。
だが、それも仕方ないだろう。
ダリアが自分を監視するためにクレアが送り込んだスパイだったと教えられたのだから。
それでも、その辺りの事は既に割り切っているのか、ミュリエルは静かに頷く。

「私とロベリアもリリィたちと共に行動します」

「ああ、頼むぞ」

ミュリエルの言葉にクレアは一つ頷く。
他にも細かく詰めておくべき事などはあるが、それは部隊ごとの話で、
この場での話し合いはそれで終わりとなる。
この場にいる者全員が、これで最後であると感じながら、決して楽ではないという事も理解していた。





 § §





王都の中でも中心に近い場所に位置し、最も大きな広場に今、破滅に抵抗するための人間たちの兵力が全て収束する。
それを見送る者たちが周りを囲む中、
終戦へと向けて集まった義勇兵や騎士たちの混合部隊は出撃の合図を待つ。
そこへ、クレアが姿を見せる。

「皆の者、これが本当に最後の戦いだ。
 破滅を滅ぼすか、我らが滅ぶか」

凛としたその一声だけで、その場に居る全ての注意を自分へと向けさせる。
自身の不安や守るべき民たちにまで戦場に立たさなければいけないという不甲斐なさを押し殺し、
クレアは鼓舞するように言葉を紡ぐ。

「救世主たちがあの要塞へと辿り着けねば、我らの負けとなろう。
 逆に、救世主たちがあそこへ辿り着いたのなら、後は彼らがきっと何とかしてくれる。
 そのためにも、我らはこの身を盾としても、必ずや救世主たちをあの要塞へと届けるのだ!」

王女の言葉に応えるように、あちこちから閧の声が上がる。
それらをその身に受けながら、クレアはそっと手を上げる。
同時にしんと静まりかえる広場。
一拍の間を置き、クレアはその手を勢い良く振り下ろす。

「いざ、出陣っ!」

クレアの言葉に王城の外へと、行軍がいま始まる。
それらを少し離れた所から見ながら、恭也たちもまた動き始める。

「俺たちも行くぞ。クレアたちの気持ちを無駄にできないしな」

恭也の言葉に頷くと、救世主たちも動き始める。
どうやら、破滅側の方でも動きがあったらしく、両者にとっても最後になるであろう戦いの幕が開く。



攻めて来るモンスターたちの群れを前に、クレアは微動だにせず前方を見詰める。

「中央突破を計る! 道を切り開けっ! そして、決して後ろへと通すな!」

『おおぉぉ!』

クレアの言葉に兵たちから一斉に声が返り、王国軍はモンスターの群れへと突撃して行く。
王国軍と破滅軍がぶつかり合うのを見ながら、恭也たちは味方が切り開いた道を進んで行く。
しかし、全体の後方の方に配置され、ガルガンチュアを目指す恭也たちの前にも、
やはりというかモンスターたちが姿を見せる。
思わず戦闘態勢を取る恭也たちの前に、騎士たちが武器を手に展開する。

「ここは私たちが。あなた方は、できる限り体力の温存を」

その言葉に美由希たちが戸惑いを見せるが、それを一際強い声が押さえつける。

「ここは俺たちに任せろ、恭也。特に美由希さんには一歩も近寄らせねぇ!」

「セルビウムくん」

救世主たちを護衛する任を受けた騎士たちに同行していたセルが背中の剣を抜き放ち、モンスターへと向かう。
その後を騎士たちが続く。
思わず後に続こうとする美由希の肩を恭也が止める。
振り返る美由希に恭也はただ静かに首を振る。
彼とて援護したいのは山々なのは、付き合いが長い美由希には痛いほど分かる。
だからこそ、美由希も大人しく引き下がる。
幸い、この場まで来たモンスターはそんなに数もいなかったのか、すぐに決着が着く。
だが、少し進むだけでまたしてもモンスターたちに出くわす。
どうやら、破滅側もガルガンチュアを中心したように布陣しており、その壁が分厚い。
それでも、クレアは突撃の命令を下す。
進軍前に宣言したように、その身を命を文字通りに削って。
破滅のモンスターを打ち倒すのではなく、全体が一つの生き物のように、自らを削りながらも、
ただその奥深くに一つの楔を打ち込まんと。
前方で討ち漏れたモンスターが出るが、それらは恭也たちに届く前にセルたちによって切り伏せられる。

「そうそう、恭也たちにばかりいい所はやれねぇからな」

減らず口を叩いて自分自身を鼓舞するも、疲労は隠せない。
それでも、王国軍はモンスターの群れを突き進む。
そこかしこから、剣戟の音が、肉を立つ音、悲鳴が上がり、辺りに血の匂いを、死の影を振り撒く。
共にそれを恐れる事無く突き進むが、破滅のモンスターたちは休む事なく、
その圧倒的な数をもって襲い掛かる。
懸命に足を動かして駆け抜ける恭也たちの目にも、倒れて行く王国の者たちが映る。
それでも、決して止まる事無く駆け抜ける。

「…いかせ……ない」

「まだ、だ…」

ある者は倒れてもなお、モンスターの足を掴みその進行を止め、
ある者は武器を無くしてもなお、その手で身体で、モンスターたちを懸命に押し留める。
多くの人々が倒れ、傷付きながらも、ただ救世主たちをあの場所へと。
ただそれだけの為に、その命を使ってまで。
多くの人々の犠牲の上に、遂に恭也たちはガルガンチュアの眼前へと迫る。

「よしっ! ここまでくれば…。
 ダリア、九音、恭也たちを!」

「はい」

「みんな、行くわよ」

クレアの言葉に、いつになく真剣な顔付きでダリアが恭也たちを一箇所へと集める。
恭也たちをダリアと九音とで挟むように位置取ると、二人は同時に呪文の詠唱へと入る。
それに気付いたモンスターたちがこちらへと攻撃の矛先を変え始める。

「皆の者、後少し頑張ってくれ」

恭也たちを守るように騎士たちがモンスターの前に立ち塞がる。
だが、その中の一匹だけがその包囲網を突破して飛び出てくる。
向かう先は、無防備に背中を見せているダリア。
それを知っても、ダリアは振り向きも反撃をする素振りも見せず、ただ自分の任務をこなす為に呪文を唱える。
その爪が背中へと振り下ろされる瞬間、横から伸びたセルの剣がそれを受け止める。

「させるかよっ!」

力任せにモンスターを吹き飛ばすと、そのまま地面を蹴りモンスターへと肉薄する。
交差するように剣を一閃させ、モンスターを倒す。
同時、ダリアと九音の呪文が完成して恭也たちの体が浮き上がる。
セルは恭也たちに親指を立てると、

「こっちは任せておけ。その代わり、そっちは任せたぜ」

「ああ。セル、死ぬなよ」

「当たり前だ! 俺にはまだやらなければいけない事が山ほどあるんだからな。
 まずは、平和になった世界で美由希さんとデートに…。って、それは良いんだよ!
 お前らも死ぬなよ」

こんな時にもセルらしい言葉に、恭也は苦笑しつつ強く頷く。
セルは恭也たちを見上げていたが、すぐに顔を正面に戻す。

「とりあえずは、ここを無事に切り抜ける事が先だな」

救世主たちが居なくなった今、騎士たちは今度はクレアを守るように布陣を取る。
その輪の中に加わりながら、セルは強く剣の柄を握り締めると、モンスターに斬りかかって行く。

「おぉぉっ! 破滅なんかに負けるかぁぁっ!」

セルを筆頭に、騎士たちがこの場を撤退すべく動き出す。
騎士たちに守られるように走り抜けながら、クレアは一度だけ空を仰ぐ。
そこに浮かぶ、魔法で作られた皮膜の中に居る者へと。

「世界を頼むぞ、救世主たちよ。……恭也」



眼下で繰り広げられる激戦を見下ろしていたが、すぐに視線を上、ガルガンチュアへと移す。
遠目からでも大きいとは思っていたが、近づけば近づくほど、その大きさに驚愕する。
あまりの大きさに、視界に映るのが全容ではなくその一部にと変わりつつある。
が、破滅側もそう簡単に乗り込ませるつもりは当然なく、ガルガンチュアから無数の影が飛び降りてくる。
そのまま地面へと落ちる事無く、途中で翼を広げた有翼のモンスターたちは群れをなして近づいてくる。

「九音、もう少し急ぐわよ」

ダリアの言葉に九音が頷くと、恭也たちを包み込んだ浮遊魔法の皮膜が少し速度を上げて上昇する。

「そうね〜、あそこに降りれそうね」

城塞へと近づいた所で、ダリアはミュリエルを見る。

「後は降下するだけ。学園長なら、お一人でもこの人数、大丈夫ですよね〜」

「え、ええ」

「それじゃあ、お願いしま〜す」

「ダリア先生、あなたまさかっ!」

「あら〜、まだ先生って言ってくれるんですね〜。
 てっきり、もう首かと思ってました〜」

「…そう簡単に止めさせる訳ないでしょう。
 まだまだ給料分は働いてもらいますよ」

潤む目を誤魔化すように細め、唇で小さく笑みを形作る。

「え〜、もう充分、給料分は働いたと思うんですけれど〜」

「まだですよ、それに、私を欺いていたのだから、減給ものですしね。
 減給されるのは来月分ですから、少なくとも来月分の働きをしてもらわないと」

「あははは〜。大人しく首になってた方が良かったかも〜。
 と、それじゃあ、そろそろ行きますね〜」

ダリアは浮遊魔法を消すと、恭也たちから離れる。
九音はじっとミュリエルを見詰め、ミュリエルが浮遊魔法を発動させるや自分もダリアの隣に浮かぶ。

「あなたたちは死なせないから…。ここは私たちに任せてね」

いつものような笑みを恭也たちに見せると、ダリアは背中を向けてモンスターの群れへと飛んで行く。
その隣に並ぶように九音が追い付いて来る。
一瞬だけ後ろの恭也たちを振り返り、再び前を向いたダリアは真剣な眼差しを前方に向け、静かに呟く。

「さて、それじゃあ、行きましょうか九音」

「ああ」

ダリアへと短く返すと、たった二人で空を飛ぶ無数のモンスターへと立ち向かって行く。

「さーて、ここから先は通さないわよ。
 折角なんだから、私たちと遊んでいきなさい」

言いながら、その両掌に魔力を集める。
九音と同時にそれを解き放つ。
直後、暗い空に魔力の光が煌く。
無言でそれを見詰めながら、恭也たちは遂に敵の空中要塞へと降り立つ。

「……泣いている暇も悲しんでいる暇も私たちにはないわ。
 先を急ぎましょう」

「それは余りにもっ!」

ミュリエルの言葉に、カエデが思わず噛み付く。
が、それを途中で恭也が止める。

「学園長の言う通りだ。
 ここで俺たちが立ち止まれば、それこそ俺たちをここへと送るためにその身を掛けてくれた人に申し訳が立たない」

恭也の言葉にカエデも大人しく引き下がる。
ミュリエルへと恭也は近づくと、その手を取る。

「応急処置ですが」

持っていた布で強く握り締め過ぎて皮膚を破り流れ出る血を拭くと、そのまま掌に巻きつける。

「…ありがとう」

「いえ」

「カエデちゃん、分かってあげて。ミュリエルは優しい子よ」

「学園長、申し訳ないでござる」

ルビナスの言葉に詫びるカエデに、ミュリエルは首を一つ振ると先を促す。
まだガルガンチュアへと辿り着いただけ。
戦いはここからが本番であると。
それを証明するかのように、恭也たちの視線の先にある城のように聳え立つ建物からは、
大量の数のモンスターたちが押し寄せてくる。
戦いはまだ始まったばかり。





つづく




<あとがき>

いよいよ最終決戦。
美姫 「まさに終盤!」
否応なしに書く方にも力がっ!
美姫 「って事は、更新が早くなるのね」
ああ〜、力が抜ける〜。
美姫 「って、何でよ!」
いや、冗談だって。
美姫 「ほうほう」
あ、アハハハ〜。じ、次回ができるだけ早くアップできるように頑張るよ、うん。
美姫 「それは勿論よ」
で、ですよね。
美姫 「うふふふ」
アハハハ。
美姫 「お・し・お・き、決定ね♪」
ご、ごめ、ごめんなさいぃぃぃっ!!




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