『DUEL TRIANGLE』
第五十七章 前哨戦〜内部突入
恭也たちがガルガンチュアへと降り立つなり、建物からモンスターの群れがぞろぞろと這い出てくる。
「間違いなく、破滅の将たちはあの中でしょうね」
「ふんっ。あんな雑魚では倒せないと分かっているから数をけしかけてくる、か。
数によって私たちの体力を消耗させようって魂胆か」
ルビナスの言葉にロベリアが面白くなさそうに吐き捨てる。
「ですが、有効な手ですね。こちらとしては、恭也くん以外の戦力をぶつけても無意味。
その主力を消耗させてしまえば…」
ミュリエルが冷静に判断するのを聞きながら、ロベリアは不適に笑う。
「なら、奴らの目論見を壊してやろうじゃないか。
起きろ、ダークプリズン!」
ロベリアの言葉に応えるかのように、その手に真紅の刃が姿を見せる。
「雑魚が元とは言え、破滅の将の一角を担った私を止めれるつもりかっ!」
ロベリアが振るった刃から衝撃波が飛び、数体のモンスターが吹き飛ぶ。
その結果を見る事無く、ロベリアはモンスターの群れに走り出す。
「ここは私が引き受けてやるよ。だから、さっさと行け!」
叫びながら振るわれた刃にロベリアが切り込んだ周囲にいたモンスターが切り伏せられる。
右手にダークプリズンを握りながら、ロベリアは剣の間合いの外の敵へと開いている左手を向ける。
「剣の間合いの外だからって、油断してるんじゃないよ」
ロベリアの掌から放たれた黒い塊が後方のモンスターたちを薙ぐ。
塊はある程度進んで止まると、その中から無数の骨が連なって出来た鎖を吐き出し、その周囲の敵をも薙ぎ払う。
たった数秒の間に何十というモンスターを打ち倒したロベリアの隙を付くように、
三体のモンスターが捨て身で槍を掲げて突撃する。
「ちっ」
舌打ちをして下がろうとするロベリアの側面から、大きな幅広の剣が突き出され、三本の槍を纏めて受け止める。
「油断は禁物よ、ロベリア」
一言注意を投げながら、その剣エルダーアークを横に薙ぎ払い、三体のモンスターを吹き飛ばすルビナス。
「余計な真似を」
「良いじゃない。仲間なんだから、助け合うぐらい。
と、もううるさい子たちね。エルストラス・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり。
我は万物の根源たる四元素に命ずる、爆ぜよ!」
ルビナスの術が、二人へと迫ったモンスターを爆散させる。
術から逃れてルビナスへと迫るモンスターへと、ロベリアの紅刃が襲い掛かる。
背中合わせでモンスターの群れの中に立ちながら、ルビナスは何処か嬉しそうに口を開く。
「こうしてまた貴女と肩を並べて闘えるなんてね」
「私は嫌気がしてるけれどね」
ルビナスの言葉に唇を吊り上げて皮肉げに言うものの、その言葉には喜びが混じっており、ルビナスは小さく笑う。
「意外と意地っ張りで頑固なのよね、貴女って」
「そうやって何もかも分かった風な態度が嫌いなんだけれどね」
「私は好きなのに、残念だわ」
「生憎とそっちの趣味はないんでな」
良いながらも二人の手は縦横に動き、迫る敵を薙ぎ倒していく。
「凄い……。これが千年前のメサイアパーティー」
二人の攻防に思わず魅入るリリィたち。
と、二人の死角を突くように、敵が数体回りこむ。
しかし、それらは飛来した炎の魔法によりすぐに倒される。
「二人とも、共闘を喜ぶのは後にしなさい!」
「うーん、相変わらずミュリエルってば小言ばっかりよね」
「本当に。そんなんだから、小皺が増えるんだ」
「……私はあなた達と違って普通に時を過ごしたんです!
あなた達だって、後数十年すれば皺の一つや二つ」
言いながら八つ当たりするかのように大きな魔法が周囲に爆破の花を咲かせる。
三人となったロベリアたちの前に、モンスターたちはどんどん数を減らして行く。
しかし、破滅側も戦力をある程度ここに残していたらしく、新たなモンスターが次々と現れてくる。
それらを見ながら、ミュリエルが恭也たちに告げる。
「今からあの入り口まで道を作ります。
道が出来たら、私たちに構わずに走り抜けなさい」
「ここは私たちに任せてね」
ミュリエルに続き、ルビナスがそう言って片目を瞑ってみせる。
時間に余裕がないのは、破滅側よりも寧ろこちら側である。
だから、恭也たちは頷く。
それを合図とするように、ロベリアとルビナスの二人が群れの中へと斬り込んで行く。
その後を恭也たちが駆け抜け、ミュリエルは恭也たちを守るようにその後を走りながら魔法を放つ。
モンスターの群れを突破した一向は、そのまま止まらずに建物へと侵入する。
その入り口の前に立ち、ルビナスたち三人は改めてモンスターの群れへと向き直る。
「さて、ここから先はご遠慮願おうか」
「大丈夫よ。代わりに私たちがちゃんと相手をしてあげるからね」
「二人とも、油断はしないで」
ロベリアとルビナスに一言注意すると、ミュリエルは大きめの魔法を唱える。
その邪魔させないよう、ルビナスとロベリアが前へと出る。
千年前に結成され、一度は壊れたはずだが、やはり身体は忘れていないのか、
何も言わずともそれぞれの役割を把握し、しっかりと動く三人。
ロベリアとルビナスが下がれば、そこへミュリエルの大きな魔法が炸裂し、
隊列の崩れた所へ、再び二人が切り込む。
前衛の二人が孤立しないように、ミュリエルは定期的に魔法による援護射撃を入れ、
前衛の二人も魔法を使用しては、近距離から中距離の敵を倒して行く。
しかし、多勢に無勢。
流石に底を知らないかのように次々と現れるモンスターたちを前に、ロベリアたちも多少の疲労を感じる。
「本当に、どこにこれだけの兵力を残してたんだか…」
「文句を言っても仕方ないわ。
それに、恭也くんたちは無事に内部へと侵入できたんだから、それで良しとしましょう」
「ルビナスの言う通りですね。後は、彼らが何とかしてくれるのを待ちましょう」
話しながらも手を休める事無く、三人はいつ終わるとも知れない戦いに身を投じる。
§ §
内部へと突入した恭也たちは、暫く進んでから左右に分かれた通路の前で立ち止まる。
「戦力の分散は出来れば避けたいところだけれど…。
どうする?」
リリィが自分の意見を述べた後、恭也たちへと尋ねる。
誰かが意見を言う前に、左の通路の置くから一つの影が現れる。
「そのような事、気にする必要はありませんよ。
ここであなた方は死ぬのですから」
言葉と供に円型に鋸のような細かい刃が付いたものが飛来する。
中心部分に鎖が付けられており、それで投擲後もある程度は軌道を操れるようで、
真っ直ぐに飛んできた円鋸は弧を描くように軌道を変える。
それを鞭で弾き飛ばすベリオ。
「ここはアタシに任せて、恭也たちはそっちから」
ベリオ、いや、パピヨンの言葉に円鋸を投げた男、シェザルも同意するように円鋸を回収して言う。
「ええ、それで構いませんよ。初めから、私の目的はたベリオただ一人ですから。
他の人たちは他の者に任せます」
「奇遇だね。アタシもアンタに用があってね」
「ふんっ。お前の用などどうでも良い。
私はただ、お前の死に行く声さえ聞ければね」
仮面の奥で怪しく笑うシェザルを睨みつけたまま、パピヨンは恭也たちに右の通路を進むように促す。
暫し逡巡した後、恭也たちは右の通路を走り出す。
恭也たちの姿が見えなくなってから、ゆっくりとシェザルとベリオは構える。
既に互いに語る言葉はなく、お互いを敵と認識して。
§ §
通路を進み、少し開けた場所へと出ようとした瞬間、先頭を走っていたカエデが大きく後ろへと跳ぶ。
それにより他の者が足を止めると同時、今正に踏み入ろうとした部屋の入り口から火柱が立ち昇る。
「ちっ、折角の仕掛けだったのに誰も引っ掛からなかったか。
だが、活きのいい小娘共がたくさんいて嬉しいぜぇ。
てっきりシェザルの野郎に刻まれたかと思ったからな。やはり、女は切り刻む前に楽しまないとな」
肩に大きな半月刀を乗せてムドウが部屋の中央で待ち構える。
「八虐無道…。罠とは卑劣な」
「何を言ってやがる。ここは俺たちの本拠地だぞ。
罠の一つや二つ当たり前だろうが。まあ良い。纏めて相手してやるぜ」
言って刀を右手で持ち上げるムドウへと、カエデが進み出る。
「貴様の相手は拙者一人が引き受ける」
「あぁ〜。お前一人で何が出来るってんだ?」
「やってみないと分からないでござるよ。ただ、今までの拙者と同じと思っていたら、痛い目を見るでござるよ」
「くく、言うじゃねぇか。柊の小娘、たっぷりと可愛がってやるぜ。
あの世で両親に報告するんだな。ムドウ様に女の幸せを教えて頂きましたってな。
親娘共々、感謝する事になるだろうな」
「っ! ムドウ! 両親の仇っ!」
すぐにでもムドウへと飛び掛ろうとするカエデの腕を恭也が掴む。
「師匠、離してくだされ!」
「駄目だ。今のお前にここは任せられない。美由希」
「うん、分かった」
カエデに代わって美由希が前に出る。
それを見て、カエデも多少は落ち着いたのか、何度か深呼吸をする。
「……もう大丈夫でござる。ですから、ここは拙者に」
懇願するように恭也を見るカエデを見て、美由希がどうするのかと恭也に視線を向ける。
その間もムドウを牽制するようにリリィたちが構えている。
恭也はカエデをじっと見詰め、どうやら熱くなりすぎていないと確認すると、掴んでいた腕をそっと離す。
「復讐したい気持ちも分からなくはない。だが、それだけに囚われるな」
「分かっているでござる。復讐は少しの間忘れるでござる。
ここに来るまでに、皆が頑張ってくれた出ござるからな。
それを無駄には出来ないでござるよ。だから、ここは師匠たちに先に行ってもらうために戦うでござる。
師匠の、主の為に道を切り開くのが忍の務め」
この戦いに赴く前に、カエデよりお願いされた一つの証。
カエデの故郷である柊の里にある真の主従関係。
師弟よりも深く重い生涯ただ一人仕える主君。
その主君へとこれからの行動を口にするカエデに、恭也は静かに頷く。
「なら、ここはカエデに任せる」
「しかと、任されました」
恭也の言葉に深く頷くと、カエデはムドウへと向かい合う。
「待たせたでござるな、ムドウ」
「ああ、本当にな。それじゃあ、ボチボチおっぱじめようぜ」
ムドウが言い終わるや否や、カエデは懐からクナイを取り出してムドウへと投げる。
同時に拳よりも小さ目の黒い玉をその足元へと幾つか叩き付けるように投げる。
クナイを刀で打ち払ったムドウの足元へとその玉が飛来し、地面に当たって砕ける。
と、そこから煙幕が立ち昇りムドウを包み込む。
「今のうちでござるよ!」
カエデの言葉に恭也たちはムドウを迂回するように回りこみ、その後ろにあった扉へと姿を消す。
ようやく煙幕が晴れると、カエデはムドウへと再びクナイを投げ、その身を宙に舞わす。
これまた先ほどと同じように刀でクナイを打ち払い、頭上から迫るカエデへとその凶刃を振り上げる。
ムドウの刀とカエデの忍者刀とぶつかり合い、小さく火花を散らす。
§ §
少しずつ戦力を削られつつも、同様に相手の主力を押さえ込みながら恭也たちは奥を目指す。
残る破滅の将は二人。
だが、他にも白の精に副幹たるダウニーが控えている。
そして、この戦いを終わらせるために倒さなければならない最後の敵。
破滅の将にして、恭也の師匠、そして父親、高町士郎。
終局へと向けて、ゆっくりとだが確実に事態は推移していく。
まるで神が自分が降臨する前に楽しむために用意したかのような前菜へと。
つづく
<あとがき>
破滅の将二人が足止めに参上。
美姫 「そして、その相手はそれぞれに因縁のある者同士」
さてさて、残る者がどうなるか。
美姫 「そう言えば、恭也とカエデって主従の関係を結んだの?」
まあ、軽く触れた程度だがそうだよ。
美姫 「その辺りはお話になるのかしら?」
どうでしょう。まあ、軽く触れる程度に出る可能性もある。
美姫 「出ない可能性もあるのね」
まあ。とりあえず、師弟関係よりも深いものって感じで。
ご主人様とメイドみたいなものだと思ってもらえれば。
美姫 「いや、違うでしょう、それ」
アハハハ。ともあれ、また次回で!
美姫 「次こそは早い更新をお願いしたいわね」
ぐっ。
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