『DUEL TRIANGLE』
第五十八章 内部突入Ⅱ
恭也たちが更に内部を走り抜けて行くと、長い通路に出る。
その通路のほぼ中央に二人の人物が立ち、恭也たちが来るのを待ち構えていた。
二人のうち一人、紅獣のセレナは今しも飛び掛らんと剣を手に四つんばいで構える。
それを押さえるように、残る一人、無限の射手のメイが手を肩に置く。
「まだだよ、セレナ」
「ぐるるるぅぅぅ」
逸る気持ちを押さえ込むセレナの髪を愛しげに一度撫でると、恭也たちに視線を向ける。
「全てが終わるまで、ここで大人しくしていてはもらえませんか」
「それは無理だ。俺たちはどうしてもその先に行かなければならない」
「…そうですか。では、仕方ないですね」
次の部屋へと通じる扉は、長い通路の中央に立つ二人の後ろ。
先に進むにはこの二人を倒すしかないという訳である。
腰に差したルインを手にしようとする恭也の前に、美由希が立つ。
「恭ちゃん、ここは私が。
士郎父さんには恭ちゃんじゃないと駄目だろうし、そうなると残る格闘戦が得意なのは私だろうからね」
「…任せた」
「うん、任されたよ」
恭也の言葉に美由希は少し嬉しそうにしつつ、力強く頷く。
美由希は龍鱗を抜き放つと、メイへと真っ直ぐに襲い掛かる。
それに反応してセレナが美由希をまずは敵として見なして走り出す。
それこそ美由希の望む状況である。
美由希とセレナの剣がぶつかる中、恭也たちはその横を走り抜ける。
「行かせません！」
恭也たちの動きを当然の如く読んでいたメイが弓の弦を引く。
すると弓に剣が番われる。
それを解き放とうとしたメイに、美由希から飛針の攻撃が飛ぶ。
その場から飛び退いて飛針を躱すメイの横を恭也たちは駆け抜ける。
一方、飛針を投げた美由希はセレナの腕力に吹き飛ばされる。
足で地面を擦りながら数メートル先で踏み止まると、美由希は止まらずに再び飛び掛る。
それを気配で察していたのか、メイはセレナの影に隠れるようにして、
走り去る恭也たちの背中目掛けて弓を放とうとする。
思った以上に吹き飛ばされており、
またメイとの直線上にセレナが居るために飛び道具を使えずに美由希は唇を噛み締める。
考えが少し甘かったと。
だが、思わぬ助けが入る。
恭也たちへと狙いを定めたメイに、三本の矢が飛来したのだ。
メイはそれを矢として番えた剣で打ち払うと、飛んできた方へと顔を向ける。
見れば、美由希より数歩斜め前に未亜がジャスティを構えていた。
「未亜ちゃん、先に行ったんじゃ」
「向こうは二人なのに、こっちは美由希ちゃん一人だと大変でしょう。
それに、向こうも剣と弓、こっちも剣と弓で丁度良いんじゃないかな」
未亜の言葉に美由希は嬉しそうに頷くと礼を言う。
それを照れくさそうに受け取る未亜。
「べ、別にお礼なんて良いよ。今までは美由希ちゃんに守られてばっかりだったし。
それに、私たち友達でしょう」
美由希と未亜のやり取りを見て、メイは知らずその口元を緩める。
だが、それと勝負とは話が別ですぐに顔付きを引き締めると、美由希と未亜の二人へと弓を構える。
「先に行った連中は副幹たちに任せるとして、あなたたちはここで足止めをします」
メイが言い終えるや否や、セレナが剣を口に咥え、四本足となって駆け出す。
美由希たちまで後数歩の所で地面を蹴り、頭上高く舞う。
そこをメイの放った剣が飛んでくる。
それを美由希が龍鱗で叩き落し、美由希の頭上へと剣を振りかぶるセレナへは、未亜の矢が飛ぶ。
セレナは数本の矢を剣を円を描くように横薙ぎにして全て叩き落すと、そのまま美由希の頭へと蹴りを放つ。
それを龍鱗で受け止める美由希。
未亜は標的をセレナからメイに変え、ジャスティの弦を目一杯引き絞る。
矢がそれに合わせるように伸び、細長く変化する。
やがて、光に変わった矢を未亜は解き放つ。
もの凄い速さで飛ぶ矢に僅かながらも驚愕の表情を見せつつ、メイはそれを身を捻って躱す。
そこへ炎の矢、氷の矢、雷の矢など様々な矢が飛んでくる。
「ブレイズ！」
メイはレイピア型の召還器を呼び出すと、躱しきれない矢を全て叩き落す。
メイ本来の弓型召還器シェルに加え、新たに与えられたレイピア型の召還器ブレイズ。
それを上手く扱いながら、全ての矢を叩き落したメイはすぐさまシェルを構えて未亜へと矢を放つ。
矢と化した剣型の召還器が襲い来るのを、美由希が間に入って叩き落す。
その隙を付くセレナへは、未亜のジャスティが雨のように矢を放ち足止めする。
§ §
「ねえ、恭也。美由希は大丈夫なの？」
間違いなく破滅の将の中で一、二の実力を持つセレナ。
それだけでなく、傍にメイが居た。
殆どチームワークというものが存在しない破滅の将の中にあって、
あの二人はしっかりとした連携攻撃が取れるのだ。
正確には、セレナの動きをメイが完全に読み取って援護している、だが。
どちらにせよ、あの二人が手強いのは間違いない。
実際に戦った事もあるし、それが良く分かり思わずリリィの口からそういう言葉が出る。
だが、恭也はそれに対して酷く落ち着いて言う。
「今の美由希なら問題ない。御神の本領は何かのために闘うことだからな。
それに、美由希一人じゃなくて、未亜も一緒だからな」
恭也に言われ、リリィは初めて未亜が居ない事を知る。
「破滅の二人の連携も凄いのかもしれないが、美由希と未亜は元の世界からの親友だからな。
あの二人の連携だって負けないさ」
何の保証もない言葉だが、自分たちは先に進まなければいけない。
だからこそ、リリィもその言葉に少しの安心を貰って頷く。
幾つかの曲がり角を曲がり、一向の目の前にアーチ型の扉を見つける。
慎重に扉に手を掛けて押し開けるとゆっくりと中へと入る。
「よくここまで来ましたね」
不意に聞こえた声に、しかし恭也たちは驚きもせずに部屋の中に佇む男、ダウニーを見遣る。
「そろそろ出てくると思ったわよ。
自慢の破滅の将も足止めにもならなかったんじゃない？」
「そうでもないと思いますけれどね。
現に、あなた方も全員がそろってここに居るわけではないでしょう。
まあ、正直彼らには特に期待もしてませんでしたから、
全員揃って来られたとしても問題はないのですがね。
私一人でも充分ですから」
あくまでも余裕の笑みを絶やさないダウニーを睨みつけると、
リリィはライテウスを着けた手を持ち上げて向ける。
「だったら、試してあげるわ。……ブレイズノン！」
リリィが放った魔法の火柱にダウニーはその身を包まれる。
反撃が来るかと思って身構えていたリリィだったが、その反撃もなく火柱が消えるとそこには炭だけしか残らない。
「…あっけないわね」
訝しみながらもリリィはそう感想を洩らす。
と、背後から急に声がする。
「それはすいませんね」
リリィが反応するよりも早く、恭也がルインを抜いてリリィとダウニーの間に割って入る。
ダウニーが振り下ろした剣を受け止めると、恭也はダウニーへと蹴りを放つ。
それを後ろに飛んで躱すダウニーへ、リリィが険しい顔を向ける。
「幻術って訳ね」
「流石は座学では救世主クラス一位のリリィさん」
「はんっ。誰でも分かるような事で褒められても嬉しくも何ともないわよ。
その剣を見るからに、魔法剣士って訳ね。面白いじゃない」
不適な笑みを見せつつ、リリィは小さく恭也にだけ聞こえるように言う。
「アンタはさっさと先に行きなさい。
あいつが私たちの背後から襲おうとしたお陰で、先に進む扉は無防備でしょう」
「お前、初めからそのつもりで…」
恭也の言葉にリリィは小さく笑う。
元からリリィは次に敵が現れたら自分が引き受けるつもりだったのだ。
そこへ現れたのがダウニーだったというだけである。
ただ、仮にも副幹を名乗る者を相手に、恭也たちが部屋を出て行く隙を作れるかどうか考えていた。
すると、ダウニーが幻覚を使って目の前から背後へと回ろうとしていたのだ。
リリィはそれに気付かないふりをしてわざと魔法によって生み出された幻覚に攻撃をしたのである。
恭也は一瞬だけ躊躇うも、すぐにリコを連れて先に進むべく走り出す。
それに気付いたダウニーが攻撃しようとするが、その眼前で小さな爆発が起こる。
「アンタの相手は私よ」
「ふぅ、してやられたというところですかね。
でも、まあ良いでしょう。奥で待っているのは主幹とイムニティの二人。
万が一にも負ける事はないでしょうからね。あなたの相手は私がしてあげましょう。
さあ、来なさい」
その物言いに思わず激昂しそうになるのを堪える。
小さく息を吐き出すと努めて冷静に聞こえるような声で返す。
「なら、遠慮なく」
その冷静な反応をダウニーの方が少しだけ面食らったようだったが、すぐに気を取り直す。
そこへ、言葉通りに行き成り氷の礫が襲い来る。
マントを翻して手にした剣でそれらを弾く。
そこへ今度は雷が襲い掛かる。
それを横に跳んで躱すとリリィへと肉薄する。
対するリリィは距離を開けつつ、次の呪文を唱える。
§ §
とうとう二人となった恭也とリコは、それでも奥を目指して走る。
「マスター、もしイムニティが出てきた場合は私が食い止めますから先に」
「ああ、頼む」
リコの言葉にそう返しながら走る。
だが、二人の予想とは裏腹にイムニティには出会わないまま、一際大きな扉の前に到着する。
他にモンスターも何も出てこなかった事に罠の匂いを感じつつも、進むしかないと恭也は扉に手を掛ける。
玉座のような椅子が部屋の奥、小さな壇上に添えつけられただけの、他には何もないだだっ広い空間、
神の座と呼ばれる部屋へと辿り着いた恭也たちを、士郎とイムニティの二人が出迎える。
「よく来たな、恭也。
ここまで来たという事は、既に覚悟は決めたということか」
「ああ」
イムニティを横に、士郎はゆっくりと部屋の中央へと進み出る。
同じように恭也も部屋の中央へと進みながら、ゆっくりと口を開く。
「何故、こんな事を」
「さあな。知りたければ、俺を倒せ。むろん、出来ればの話だがな。
イムニティ」
「分かっているわ。リコ、あなたの相手は私よ」
イムニティの言葉にリコも異論はなく、恭也から離れる。
「マスターどうかお気を付けて」
「ああ。リコもな」
「はい」
恭也と短く言葉を躱すと、リコとイムニティは部屋から姿を消す。
少し遠くで爆発音が響く。
恐らく、ここへ来る途中の通路で戦いを始めたのだろう。
ここに来るまでに、恭也を先へと進めるために残った仲間たちの事を少しの間だけ案じるが、
それを全て今は奥へと押し込め、恭也はただ静かにルインを抜き放つ。
同じように、士郎もまたその腰から一刀だけを抜き放つ。
静かに対峙する二人。
それは昔、二人きりで全国を旅しながらやった鍛錬と同じで、しかし、その中身はまるで違っていた。
相手を鍛えるため、己を高めるためではなく、互いを倒すために。
恭也と士郎、二人の足が同時に地を蹴る。
最後の戦いへと向けた舞踏を舞うために。
つづく
＜あとがき＞
遂に神の座へと到着。
美姫 「そして、それぞれに戦闘を開始」
果たして、どんな結果が！？
美姫 「士郎の口から真実は語られるのか！？」
真実って？
美姫 「いや、色々と」
？？
美姫 「ちょっと、まさか…」
いや、冗談だって。流石にそこは忘れてないっての。
結構、大きな謎というか、まあ、そんな所なんだから。
そこを忘れてたら、俺馬鹿じゃないか。
美姫 「いや、アンタがバカなのは確定なんだけれどね」
……うわぁぁ～～ん。
美姫 「いや、今更泣くようなことじゃないでしょう」
む、それもそうか。
美姫 「いや、それはそれでどうなの？」
なんだ、色々と注文が多いな。
美姫 「はぁ」
どうしたんだ、疲れた顔をして。
美姫 「アンタの所為でしょうがっ！」
べらっぴょ～～ん！
美姫 「本当に、もう。……コホン。
それじゃあ、また次回でね～」
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