『DUEL TRIANGLE』






第五十九章 救世主候補と破滅の将T





避けるスペースの殆どない通路を、無数の銃弾が踊る。
それらをベリオは壁や天井さえも足場として利用して躱していく。
懐より取り出した鞭を振るい、迫る円鋸を弾き飛ばすと足から床に華麗に着地を決める。
弾き飛ばされた円鋸が弧を描き頭上から再び襲い掛かってくるが、
左手に持った杖型召還器ユーフォニアを構える。

「ホーリーシールド」

ベリオの解き放った魔法の障壁が円鋸の攻撃を防ぐ。
シェザルは小さく舌打ちすると円鋸を引き戻し、逆の手でナイフを投擲する。
それを右手にした鞭で払い飛ばす。
ベリオとパピヨンの動きが完全に協調し合い、
一つの身体でありながらそれぞれの得意とする動きを見せる。

「この僅かな期間にそこまで腕を上げるとは。
 だが、勝つのは私だっ」

叫ぶなりベリオへと走り出す。
今まで遠距離攻撃しかしてこなかったシェザルの接近に驚きはするも、
ベリオも黙って接近させるつもりはなく、魔法で光の輪を作り出して足元を狙うように放つ。
低い位置から迫る光輪を軽く飛び越えるが、光輪は軌道を上げてシェザルに迫る。
空中でありながら身を捻り光輪に服の裾だけを切らせて躱しきると、
シェザルはまだ空中にいる状態からベリオへと銃口を向けて発砲する。
それをベリオが避ける間に着地し、距離を詰めるべく走り出す。
駆けながら服の裾へと手を忍び込ませると、そこから幾本ものナイフを取り出しては投げてくる。
それらを鞭や召還器で弾きながら、隙を見て魔法を放つがシェザルはそれを軽い身のこなしで躱す。
ついにシェザルがベリオの懐へと潜り込むように身を低くして接近すると、そこから蹴りを繰り出す。
それを上下に伸ばした鞭で受け止めるベリオ。
受け止められたにも関わらず、シェザルは笑みを零す。
嫌な予感を覚えてその場を飛び退こうとするよりも早く、銃口がベリオの眉間を捉えた。
乾いた音を立てて銃弾がベリオへと向かう。
この近距離では普通なら避けきれなかっただろう。
そう、普通なら。
だが、今シェザルの相手をしているベリオは、少し普通ではなかった。
接近してきたシェザルの相手をパピヨンに任せていたベリオは、同時に呪文を詠唱していた。
シェザルが発砲すると同時に、ベリオが魔法を放つ。
それは攻撃用ではなく防御用のもので、ベリオとシェザルの間に魔法の壁が作られる。
銃弾はその壁に阻まれてベリオへは届かない。
しかも、その壁に触れたシェザルは数メートル吹き飛ばされる。
先程と立ち位置を逆にして再び対峙することとなる二人。
再び開いた距離に、しかしシェザルは特に焦りも何も浮かべずに静かな眼差しでベリオを見詰める。
元々、接近戦よりも遠距離からの攻撃を主としているシェザルにとって、
距離が開いたところで大きな問題はないのかもしれない。
ベリオを見詰めたまま、シェザルはゆっくりとした動作で服の内側に手を入れる。

「フッフフフフ。全ては計算通りだよ、ベリオ。
 別に私は接近戦がしたかったわけではないんだよ」

言ってシェザルが服の内側に入れていた手を出す。
何かのスイッチのようで、ボタンらしき場所にシェザルの指が掛かっている。

「ここで私が待ち伏せしていた時点で警戒すべきだったんだよ。
 さぁて、どんな声で鳴いてくれるのかな。楽しみだよ」

言うやシェザルは何の躊躇いもなく、寧ろ楽しそうにそのスイッチを押す。
途端、ベリオの立っていた床、横の壁、頭上の天井から爆発が起こり、
あっという間に煙に包まれ、そこへ天井が壁が崩れて雪崩のように降りかかる。
それをシェザルは楽しそうに見詰めていた。





 § §





カエデの投げたクナイを剣で全て叩き落すと、ムドウはカエデへと迫る。
巨体に似合わない速さでカエデへと迫り、その巨大な剣を振り下ろす。
だが、その手応えは人を斬ったにしては妙なもので、
実際、そこにカエデの姿はなく代わりに二つに切られた丸太が地面に横たわる。
頭上からムドウへと迫りつつ、カエデは再び牽制に懐から取り出したものを投げる。

「何度も同じ手ばかり。いい加減、通用しないと学習しな!」

馬鹿にしつつ飛来したそれを再び剣で全て叩き落す。
が、今カエデが投げたのはクナイではなく、直径が二センチにも満たない丸い玉だった。
それはムドウの剣に切られるや、中から煙を噴き上げる。

「ちっ」

ムドウはカエデの小細工を忌々しげに吐き捨てると腕を大きく振って煙を吹き飛ばす。
その間にカエデはムドウの背後へと回っており、篭手型召還器黒曜を着けた左腕を繰り出す。

「紅蓮!」

左腕を炎が包み込み、カエデの一撃を必殺へと昇華させる。

「小娘が舐めるなっ!」

吼えてムドウは剣を背中越しに構えて剣でカエデの一撃を受け止めるも、威力を受け止めきれずに吹き飛ばされる。
壁に叩き付けられながらも、すぐさま振り返り剣を構えるムドウの眼前にカエデが迫る。
カエデは無数の蹴りをムドウへと繰り出す。
それらのうち、致命傷になりそうなものや急所狙いのものは剣で受け止め、
それ以外は筋肉の鎧で受け止めてムドウは剣を大きく頭上に振りかぶる。
力任せの一撃をカエデは後ろに飛んで躱すが、そこへムドウの蹴りが唸りを上げて襲う。
腕を交差させて防ぐも、重い一撃に顔を顰める。
足の止まったカエデへ、今度は横薙ぎの一撃が襲い掛かる。
それをしゃがんで躱すと、身体を起こしつつ雷を腕に纏い打ち上げる。

「ぬおっ」

紙一重で躱すムドウの肩へと、カエデは蹴りを放ち距離を開ける。
カエデの蹴りで崩れた態勢を直す間にカエデはムドウの間合いの外へと出ており、
ムドウは憎々しげにカエデを見る。

「ちっ。手足の腱を切って泣き叫ぶのを楽しもうと思ったが止めだ。
 本気で相手してやる。お前を殺した後、その死体をあの小僧たちの前で犯してやろう。
 どんな反応を見せてくれるのか楽しみだぜ。まあ、お前の反応が見れないのは残念だがな」

卑下た笑いを見せた後、ムドウはカエデへと斬り掛かる。
ムドウの言葉に吐き気を覚えつつも、カエデはムドウの刃を躱して腹へと拳を当てに行く。
それを片腕だけで受け止め、残る手で大剣を持ち上げて振り下ろす。
黒曜で受け流し、大剣が地面に突き刺さるとカエデは剣を更に地面に食い込ませるように峰を蹴り、
刃の上に立つとムドウの首筋へと高速の蹴りを放つ。
ムドウは大きく息を吸い込むと、一気に吐き出す。
口からは空気ではなく炎が吐き出され、目の前にいたカエデはそれを浴びてしまう。
地面を転がり、ムドウから離れながら炎を消すが、腕や足などが軽い火傷を負う。
引き攣るような痛みに一瞬だけ顔を顰めるがすぐに引き締めると、ゆっくりと立ち上がる。
その間に、ムドウは地面に突き刺さった己の得物を抜き出す。
互いに無言のまま視線をぶつからせると、同時に地面を蹴る。
単純な力ではムドウの方が上で、カエデもそれは分かっているから力での勝負は仕掛けない。
ムドウが振るう剣を躱し、受け流し、決して受け止めようとはしない。
その上で、剣を振るった瞬間の僅かな隙に反撃をする。
しかし、ムドウは思った以上に素早く、そのカエデの攻撃を防いでみせる。
だが、速さ自体はカエデの方が上で、ムドウの攻撃はカエデには届かない。
カエデは常に動き回り、時折、ムドウへと攻撃を仕掛ける。
この戦法にムドウの苛立ちが募っていく。
ムドウは不意に動くのを止める。
それを訝しみながらも、カエデはムドウの周囲を走り回る。
ピクリとも動かないムドウに対し、カエデは不意に背後から仕掛ける。
今まで以上の速度で迫るカエデに、しかしムドウは未だに動きを見せない。
何かの罠かと用心し、間合いまで後数歩の所でカエデは方向を変えて横手に回り込む。
そのまま動きを見せないムドウへと手刀を繰り出す。
と、ここでようやくムドウが動きを見せるが、カエデはここからでは自分の方が早いと判断する。
ムドウは背を逸らして、やや顔を上向きにすると口を開ける。
何事が叫んだと同時に、ムドウの身体から周囲に見えない何かの衝撃が走り抜ける。
途端、カエデの身体は動きを止める。ムドウの脇腹まで後十数センチというところで。
急に動かなくなった身体に動揺するカエデの腕をムドウががっしりと掴む。
時間にして一、二秒ほどとは言え、戦いにおいて、ましてやこれだけ接近していた状態では致命的とも言える時間、
カエデは硬直していたのだ。
ようやく動くようになるが既に腕は掴まれていて解く事ができない。

「今のは…」

「おれさまの奥の手の一つよ。
 おれさまの周囲、ほんの一メートル程だがある言葉と共に気を放出させるんだ。
 すると、さっきのお前のようになる。さぁぁって、やっと捕まえたぜぇ」

分厚い唇を舌でベロリと舐め、カエデの身体を上から下まで舐めまわすように鑑賞する。
その間にカエデはムドウへと蹴りや右手で攻撃を繰り出すが、爪先立ちの状態では大した威力もなく、
ムドウは平然としている。
カエデの右手も掴み、両手首を片手だけで掴むとムドウはカエデを持ち上げる。

「さて、どうしてくれようか…」

剣の切っ先を首筋に当て、ムドウは楽しげにカエデの顔を覗き込むのだった。





つづく




<あとがき>

今回は前回出番のなかった二人。
美姫 「ベリオとカエデね」
おう。いよいよ最終戦〜。
美姫 「果たして勝者は!?」
誰が生き残れるのか!?
美姫 「それじゃあ、また次回で」
次回で〜。




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