『DUEL TRIANGLE』






第六十章 救世主候補と破滅の将U





二人横に並んでもまだ充分にスペースに余裕のある通路で、二人の救世主候補と破滅の将が対峙する。
最初に駆け出したのは美由希、次いでそれに反応するかのようにセレナも走り出す。
応えるように援護するのは共にその場に留まった弓使い。
未亜の放つ魔法の矢とメイの放つ剣が互いを打ち落とす。
矢と剣が飛び交う中、セレナは溜めもなしに全身のバネを使って頭上高く飛び上がると、
その剣を力任せに振り下ろす。
それを龍鱗で受け流し、落下してくるセレナの身体へとセリティを横に薙ぐ。
迫り来るセリティの刃の横腹を、躊躇せずにセレナは蹴り上げて軌道を逸らす。
逸れた刃が軽く二の腕を掠めるが気にも止めず、セレナは着地と同時に剣を下から上へと切り上げる。
バックステップで躱す美由希だったが、すぐさま剣は下へと振り下ろされる。
身を横にして躱しつつ、更に踏み込んで龍鱗を振るう。
それを引き戻した剣で受けつつ横に薙ぐ。
美由希は退がる事なく、怯む事無くその距離を保ち両手の小太刀を振るう。
相手の間合いの内、自分の間合いで。
重い衝撃に顔を顰め、早い斬撃にいつその身が切り裂かれるか分からない中、美由希はただ前へと出る。
臆することなく、ただ前だけを見て。
そんな美由希の攻めに対し、セレナはやり難そうな様子も見せず、剣を腕を足を使って美由希を攻め立てる。
既に理性はなく、メイ以外の者は敵とも味方とも判断できずにただ暴力と言う名の暴風を巻き起こし。
近接しての早い攻防に未亜は美由希の援護ではなく、メイを足止めすべく続けざまに矢を放つ。
炎、氷、雷。
様々な効果を付属された魔法の矢がメイへと襲い掛かる。
それを同じく弓を構えて打ち落とし、時には手にしたブレイズで打ち払う。
だが、矢に対して剣を放つメイの方が一撃の重さは上で、数本の矢を一本の剣で弾き飛ばされる。
その間隙を付くように、放たれた剣が未亜へと向かう。
それを必死に躱しながら未亜も負け時と矢を打ち返す。

「シャワーアロー!」

未亜が弓を少し上に向け、数本の矢を連続して放つ。
弧を描いてメイへと落ちていく矢がその途中で無数に分かれる。
頭上より落ちてくる無数の矢を見据え、メイは静かに弓型召還器シェルを頭上へと向けて弦を引く。
弓に番われる剣へと周囲の空気が風となって螺旋を描くように集まり出し、メイはそれを放つ。

「唸れ風刃!」

放たれた剣を中心に風が巻き起こり、メイの周辺1メートル以内に降り注ぐはずだった弓だけを弾き飛ばしていく。
自らの為した行為に自信があるのか、その結果を見届ける事なくメイはブレイズを眼前で振る。
頭上の攻撃に気を取られている隙に未亜が放った光の矢が弾かれる。
だが、そのすぐ後ろに隠れるように普通の矢が全く同じ軌道で放たれており、メイへと襲い掛かる。
それをシェルを横にして受け止める。
流石にこれには未亜も驚き、思わず手を止めてしまう。
その隙にメイはシェルを構えて未亜へと攻撃を放つ。

「吼えてっ、三霊!」

雷、炎、氷礫の三種の剣が未亜へと襲い掛かる。
ジャスティを構えて矢を放つも、三本のうち二本はそのまま襲い来る。
身を捻って躱すも、雷の剣が左腕に掠り腕が痺れる。
思わず右腕で押さえつつしゃがみ込む未亜目掛けて、メイが更に攻撃を重ねる。
放たれる一際大きな大剣。
しかし、それはメイと未亜との間に割って入った影によって弾き飛ばされる。

「くっ。重たい」

未亜への攻撃を邪魔した美由希は、僅かに顔を顰めつつもメイへと一気に踏み込む龍鱗を振るう。
全く予想していなかった美由希の攻撃にメイはブレイズで反撃するも、
剣術においては美由希の方が上のようで、龍鱗でブレイズを押さえ込むとセリティを振るう。
それを後ろへと跳んで躱す。
後ろから未亜を助けるために蹴り飛ばしたセレナが迫っている事を感じつつ、美由希は更に前へと踏み込む。
セレナへは未亜が矢を放つ。
左腕がまだ痺れていて上手く使えないため、未亜は足で弓の下部を、顔で上部を挟み込んで弓を射る。
正確に飛ばす事はできないが、足止め程度にはなるはずだった。
だが、セレナは肩に矢が刺さっても気にもせずにメイの元へと向かう。
踏み込んだ美由希のセリティがメイの二の腕を浅く傷つけ、更に踏み込もうとするも、
すぐ背後から振るわれるセレナの一撃に横跳びに躱して追撃を諦める。
メイを庇うように前に立つセレナの肩から矢を抜いて、メイはセレナに礼を言う。
しかし、セレナはそれに応えることはない。
それを分かっているメイは、少しだけ寂しげな顔を見せるも、
ただ、目の前の敵を倒す事だけしか考えられないセレナの背中をただ無表情に戻った顔で見詰める。
と、セレナの喉が震え、途切れ途切れだが言葉を吐き出す。

「……めい、きずつ…、ころスッ!」

殆ど意味をなさないような言葉だったが、メイは何を言いたかったのか理解し、
その顔に僅かながら感情を覗かせる。
しかし、すぐに美由希へと斬りかかっていくセレナに、メイはまた無表情に戻るとシェルを構える。
美由希の足元へとまずは三連続で剣を放ち、足止めをする。
その間に頭上へと舞ったセレナが襲い掛かる。
その時にはメイは標的を美由希から未亜へと変更し、そちらへとまた放つ。
ようやく痺れの取れてきた左腕でジャスティを構えつつ、未亜は自分へと飛来する剣へと矢を放つ。
一撃の重さが違って弾かれると言うのなら、相手の剣を落とすまで放つだけだとばかりに連続で。
が、打ち落とした剣の後ろから全く同じ軌道で剣が姿を見せる。
先程、未亜がやって見せたのと同じ攻撃を今度はメイがしたのである。
無理に打ち落とす事はせずにそれを躱す未亜。
躱しながら放った矢は、メイの手に持つブレイズで叩き落される。
今までの攻防を振り返り、未亜は唇を噛み締める。

一方、セレナの頭上からの強襲をニ刀で受け止めた美由希は未だ空中にその身があるセレナへと蹴りを放つ。
空中で身動きの取れない所を狙ったのだが、
セレナは三本の剣が重なり合う場所を支点に空中でその身体を回転させる。
そのまま美由希の背後に降り立つと、身体を横へと回転させて剣を薙ぎ払う。
屈んで躱す美由希の肩目掛けて、軌道を下に変えた斬撃が落ちる。

「くっ!」

それを龍鱗で受け止めると、美由希はセレナの懐へと入り込むように身体を起こしてセリティを振るう。
軽く受け止められた所へ、鞘に戻していた龍鱗を抜刀する。
御神流抜刀術虎切。
セレナの剣をセリティで押さえつけて繰り出された一撃。
しかし、それは手首を足で押さえつけられて防がれる。
セレナはそのまま美由希の手首を蹴って跳ぶと、次に美由希の肩を蹴る。
同時に身体を縦に回転させ、美由希の頭へと剣を振るう。
それを殆ど勘だけで躱すと、そのまま地面を転がるようにして距離を開ける。
地面へと着地したセレナは止まらず、美由希へと向かって走り出す。
その数メートル先で地面を蹴る。
また上かと警戒する美由希の目の前で、セレナは斜めに壁へと跳ぶ。
壁を蹴って更に高く宙へと舞うと、その勢いを利用して美由希の襲い掛かろうとする。
美由希も同じように地面を、壁を蹴り三角跳びでセレナと同じ空域へと舞う。
互いに空中で剣を打ち合わせうこと数合。
美由希はセレナを蹴って先に着地すると、下で着地する瞬間のセレナを待ち受ける。

「GURUuuuuu! がぁぁぁっ!」

吼えて空中で剣を振るうセレナ。
瞬間、美由希は嫌な予感を感じてその場を飛び退く。
その判断は正しかった。だが、少し遅くもあった。
セレナの身はまだ空中にあり、剣も届く位置ではないにも関わらず、美由希の左肩から血が吹き上がる。

「えっ、な、なんで…」

呆然と流れ出る血を信じられないものでも見るように見詰める美由希。
その間にセレナは地面へと降り立ち美由希へと迫る。

「美由希ちゃん!」

咄嗟に未亜が叫んで矢を放つ。
セレナが矢を弾くのを見て、美由希は跳んで距離を開ける。
礼を言おうと未亜へと振り返った美由希は、そこで信じられないものを見る。
右足を長剣に貫かれ、そのまま背後の壁に縫い付けられた未亜の姿を。
呆然となる美由希にメイの言葉が投げられる。

「馬鹿な子です。自分へと飛んで来た剣への攻撃を止めて、貴女を助けるなんて」

目を伏せて語るメイの言葉が聞こえていないのか、美由希はただ呆然と未亜を見詰める。

「未亜ちゃん…?」

美由希の言葉に答える代わりに、未亜はジャスティを構えて美由希へと迫るセレナへと放つ。

「だ、大丈夫だから。美由希ちゃんを助ける前にたくさん矢を放っていたから、
 軌道が逸れて足に当たっただけだから」

「当たっただけって…」

「美由希ちゃんっ! 後ろ」

未亜の言葉に美由希は振り向き様セレナの剣を龍鱗で受け止める。
力ではセレナの方が上なのか、徐々に押され始める。
その背中に未亜は声を掛ける。

「美由希ちゃん、駄目だよ。今は目の前の敵に集中しないと。
 私は大丈夫だから」

言ってジャスティを構えて迫るメイの攻撃を叩き落す。
だが、壁に縫い付けられた状態ではそれもいつまでも続かないだろう。
それに気付いた美由希が未亜の元へと向かおうとするが、それを簡単に許すような相手でもない。
メイは美由希と未亜を見た後、美由希を先に倒そうと考えたのかシェルを美由希へと構える。
だが、横手からジャスティより放たれた矢が飛来し、目標を変更する。

「そうでしたね。貴女は手が使える限り攻撃できるんでしたね」

メイは静かに攻撃目標を未亜へと変更すると、ゆっくりと弦を引き絞る。

「その身体を打ち抜いて上げます。最も貫通力のあるこの技で」

引き絞られた弦に細く長い剣が姿を見せ、それがバチバチと音を立てて雷を放つ。

「撃ちぬけ、雷刃!」

力ある言葉と共に放たれた剣は真っ直ぐ、一直線に未亜へと向かう。
避けることの出来ない未亜はジャスティで迎撃するも威力は全く衰えない。
諦めかける未亜だったが、ただ一人、美由希だけは諦めていなかった。
美由希はセリティと龍鱗を十字に重ね、斬撃を放つ。
御神流の中でも破壊力の高い奥義、雷徹。
流石のセレナもこれには数メートル後退させられる。
その隙に神速を発動し、未亜へと向かう雷の剣を払い落とさんとする。
神速から抜け出すと同時、美由希の刀は放たれた雷の剣へと届き打ち払う。
同時、セレナが再び吼えて剣を振るう。
瞬間、美由希の背中が斜めに切り裂かれる。
それは剣によって付けられたような痕。
美由希は自分の遥か後方で剣を振り下ろし、
まさに今何かを斬った後のようにしているセレナの姿を呆然と見詰めながら倒れる。

「美由希ちゃん!」

目の前で倒れる美由希へと声を掛けるが、美由希はそれに答えるだけの余裕がないのか荒く呼吸を繰り返すだけ。
そんな美由希を、メイは少しだけ悲しげに、同時に驚きの目で見詰める。

「二度もセレナの奥の手を避けるなんて…。
 でも、二回目は完全には避けきれなかったみたいね」

「奥の手って、何をしたんですか! だって、あんなに離れているのに」

メイの言葉に未亜が思わずそう洩らす。
未亜の方を向き、メイはどうせ最後だからと説明を始める。

「セレナの持つ召還器インサニックによる攻撃よ。そう、ただの斬撃。
 ただ、セレナがインサニックの力を完全に解放して振るえば、その斬撃は空間を斬る。
 空間を斬るのだから、距離は関係ないわ。そして、回避も不可能。
 刃を振るった瞬間には、その空間に存在するものも含めて斬られているのだから。
 経緯と結果を同時に出す、セレナの奥の手だった技。
 理性をなくして、本来の戦い方さえ忘れた彼女が、唯一覚えていた技…」

またも悲しげな顔をして語るメイ。
だが、すぐにいつもの無表情に戻るとシェルを未亜へと向けて構える。





つづく




<あとがき>

今回は美由希と未亜のコンビ。
美姫 「でも、ピンチ所か…」
最早、ここまで。
美姫 「万事休す!?」
ってな所で次回〜。
美姫 「アンタ、最近こういう所でばっかり区切ってるわね」
あ、あははは。
美姫 「良いから、笑っている暇があればさっさと書きなさい!」
ぶべらっ!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
…う、うぅぅ、酷い。




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