『DUEL TRIANGLE』






第六十七章 恭也と士郎





恭也と士郎の刃がぶつかり、音を奏でる。
不規則に、けれども絶え間なく奏でられる演奏は、終わる事無く続いている。
士郎の放つ御神の奥義、花菱を恭也は虎乱と虎切で防ぎきると、雷徹を放つ。
それを薙旋で打ち返し、射抜の構えを取る士郎の死角から恭也の刃が迫る。
射抜の為に納刀したもう一本の小太刀を即座に抜刀して受け止めると、
射抜に構えていた小太刀をそのまま突き出す。
互いに譲らずに攻防を入れ替えて続く剣戟。
先程の交叉で魔法を使った以降は、二人は互いにただ剣でのみ勝負をしていた。
打ち合いつづけてどのぐらいの時間が経過したのか。
共に間を取るように同時に後方へと跳躍して、互いの距離を開ける。
真剣な眼差しを向ける恭也に対し、士郎もいつの間にか余裕の笑みは消え、真剣な顔付きへと変わっている。
召還器の力もあるが、それを差し引いてもよく独学で、
それも美由希に教えながらここまで成長したものだと感心する。
このままでは、決着が付くまでに時間が掛かると判断したのか、士郎はニ刀を構えたまま口を開く。

「御神の剣士としての戦い方はここまでだ。
 ここから、本当に本気だ」

士郎の小太刀に薄い紫色をした魔力が纏わり付く。
炎のように揺れるソレを刃に付けたまま、士郎は恭也へとまるで距離などないと小太刀を振り下ろす。
小太刀の切っ先から、紫色の魔力が解放されたかのように飛び出す。
それを同じようにルインから魔力を生み出し、黒き斬撃で相殺する。
同時に走り出していた士郎へ、恭也は更に黒き斬撃を飛ばす。
それを士郎は避けながら距離を縮め、再び魔力を小太刀に纏いつかせると、ニ刀を重ねて放つ。
ニ刀を重ねて威力を増した紫光の魔力は、真っ直ぐに恭也へと伸びる。
それを同じくニ刀を重ねて放った黒き斬撃で打ち消すと、すぐそこまで迫った士郎へとルインを薙ぐ。
刃がぶつかりあった瞬間、士郎は少しだけ小太刀を引き、恭也のルインと自身の小太刀に僅かばかりの隙間を作る。
その隙間に紫光が生まれ、雷となり恭也を襲う。

「くっ」

もう一刀で雷を受け止めるも、士郎のもう一刀がその隙に恭也へと迫る。
後方へと跳ぶ恭也の腕を浅く斬り裂き、宙に血の赤を飾る。
だが、恭也はゆっくりとしている暇もなく、すぐさま横へと身を投げ出すようにして転がる。
そのすぐ傍を、風の刃が通り抜けて行く。
恭也が避ける間に、士郎は右手を引き、左手の小太刀を重ねるように構える。
その構えは。前に恭也が喰らい倒れた士郎の技だった。
二つの刃の間から、紫光が生まれて零れる。
音を立て、空気を震わしながら小さな雷を生み出す。
それを見据えながら、恭也はルインを一刀だけ構え、一刀は鞘に仕舞う。
恭也の腕からルインへと、黒い魔力が姿を見せる。
士郎の刃の間に生まれた雷が空気を震わせ、風を呼ぶ。
恭也の纏った魔力はいつしか消え、代わりに風がルインを取り巻くように渦巻く。
共に風を生み出し、周囲の空気を掻き乱す。
先に動いたのは士郎だった。
士郎は横にした左の小太刀を薙ぎ、雷を飛ばす。
すぐさま風が後を追うように動き出し、竜巻を生み出す。
逃げ道を塞ぐように周囲へと竜巻が渦巻く中、恭也はルインの纏った風を一気に解き放つ。
形を成さずに解き放たれ、荒れ狂う風に雷が飲み込まれる。
それほどの風が恭也から生み出されていた。
雷が消えようと、士郎は構わずに駆け出して、右の刃で突きを繰り出す。
それをルインを下から上へと振るい、まだ刃に渦巻いていた風で壁を作る。
風の壁に士郎は足を止めるも、それごと斬り裂かんと刃を突き出す。
が、恭也は更にルインを振るう。
恭也が振る動きに合わせ、風が動き渦を巻く。
螺旋に伸びる風の刃の先端が、士郎の突き出した切っ先とぶつかり合い、互いに威力を相殺させる。
士郎の小太刀より生まれた雷は、暴風の中で真っ直ぐに飛ばずに逸れて床に穴を穿つ。
だが、士郎のこの技はこれで終わりではなく、周囲の竜巻から雷が襲いくる。
それに対し、恭也は鞘に納めていたルインを抜き放つ。
すると、そちらのルインにも風を纏わり付かせていたのか、鞘から解放されるなり、
周囲へと暴風を吐き出し、恭也を囲むように風が暴れ回る。
周囲から降り注ぐ雷を全て飲み込みながら、徐々に狭まる竜巻から恭也の身を守るように、
風が渦巻き、互いの風がぶつかり合って摩擦でか、火花が飛び散る。
長いようで短い時が流れ、両者の風が治まりきると、そこには共に無傷のままの二人の姿があった。
珍しく、士郎は顔を忌々しそうに歪ませて舌打ちをする。

「ちっ。まさか、あれを防がれるとは思わなかったぞ。
 純粋に成長を喜ぶべきか、脅威となったお前をさっさと始末しなかった自分を恨むべきか」

士郎の呟きに恭也は無言のままルインを構える。
言葉とは裏腹に、士郎の目はまだ力を持った輝きをしており、戦う意志がひしひしと伝わってくる。
構えを取ったままの恭也を見て、小さく笑うと士郎も小太刀をニ刀構える。

「本当の本当にとっておきの技を見せてやる。お代はお前の命になるかもしれんがな」

士郎はニ刀を広げるように掲げ持つと、静かに目を細める。

「名を消されし神器。その力は風を自在に操ることだと思われがちだが、実は違う。
 その真髄は、炎」

士郎の言葉を証明するかのように、二本の小太刀が薄紫色の炎に包まれる。
周辺の空気さえも燃やすかのような炎はそれだけでも脅威だが、
士郎がそれを単に放つだけの事を技とは呼ばないだろうと、恭也は注意深く見る。
触れただけでもあっという間に灰になるであろう炎を纏った小太刀を構えたまま、士郎はやや前傾姿勢へと変わる。
恐らくは神速だろうと察しを付けた恭也は、士郎の技が何であれ、こちらも持てる力を出すだけだとルインを握る。

「父さんは少し勘違いしているみたいだから、最後に一つ言っておく。
 俺も基本的にはルインの力で風を起こしたりしてはいる。
 だが、俺自身も魔力はあったみたいでな」

意味深に告げると、恭也はニ刀を翼を広げるように持ち上げる。
それに何を感じたのか、士郎は思わず半歩下がり、ゆっくりと元の位置へと戻る。
士郎は充分に小太刀に力が溜まったのを感じ、神速へと踏み込む。
瞬間、恭也の唇が動く。

「天空を斬り裂くは雷光。
 駆けるは疾風…」

恭也の言葉に応えるようにルインが震える。
士郎より数瞬遅れ、恭也もまた神速へと入る。
神速で恭也へと接近した士郎は、間合いの外で小太刀を振るう。
解き放たれた炎が刃と化して恭也へと迫るかと思われたが、それはその場で止まる。
クロスした状態で止まった炎の刃を追い越し、士郎が恭也へと迫る。
士郎はまたしても間合いの外で刃を振るう。
が、今度は炎の刃は発生しなかった。
いや、恭也の正面ではなく、恭也を囲むように左右後ろの三ケ所に炎が発生する。
士郎が地面を蹴って飛び上がり、恭也へと炎を纏った小太刀を振り下ろそうとすると、
それに合わせるかのように、四つの炎の刃が恭也へと向かう。
士郎自身の斬撃も含め、恭也を囲むように五つの斬撃。
逃げ道もなく、また五つの斬撃が同時に対象に重なる事で、その威力を増す。
だが、恭也は酷く落ち着いた顔でそれを見遣りながら、左右のルインを同時に振り下ろす。
最後の呪文を唱えながら。

「共に其の意の下に!!」

振り下ろされたルインから、雷と風が巻き起こる。
が、風と雷が生み出されたのではなく、ルインより生み出されたのは黒い、
全てを飲み込むような黒い球形のもの。
その物体が、黒い雷を周囲に撒き散らし、周囲の大気を掻き乱す。
それが何か分からないが、途中で攻撃を止める事も出来ず、士郎はそれごと斬り裂くつもりで刃を振るう。
五つの炎の斬撃により、恭也の体は切り裂かれ、灰も残らずに燃え尽きるはずだった。
だが、炎の刃は四つとも、軌道を逸らして恭也を通り過ぎ、士郎の振り下ろした小太刀は、
黒い魔力を纏わり付かせたルインで受け止められる。
全てを燃やすはずの炎も、ルインの魔力の前に普通の炎にまで押さえ込まれ、
刃はルインの刃で押さえられる。
何が起こったのか分からず、思わず動きの止まる士郎。
その士郎へと恭也は反撃を繰り出す。
ようやく得たチャンスに、恭也は迷う事なくルインを引き戻し、左のルインに雷を、
右のルインに風を巻きつかせて擦れ違うようにしてニ刀を僅かな時間差で重ねて斬りつける。

「……疾風刃雷」

擦れ違った恭也の小さな呟きを耳にしながら、士郎はゆっくりと倒れて行く。
だが、その顔には小さな笑みが浮かんでいた。
それを恭也は見る事はなく、背後で士郎が倒れる音だけを耳にするのだった。





つづく




<あとがき>

今回はあとがきなし!。
美姫 「えぇっ! 私の出番は!?」
当然、なし!
美姫 「このバカ!」
ぶべらっ! ……って、あとがきなしにしたのに、何故、こんな目にあっているのかな……?
美姫 「それじゃあ、また来週ね〜。って、短いけれど、これもあとがきなんじゃ?」




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