『DUEL TRIANGLE』






第七十章 神の力





そこに存在するだけで神々しい雰囲気を辺りに醸し出し、鎧装束に身を包んだ翼持つ巨人。
神が現れた瞬間、空気が、いや、世界が震える。
それは新たに生まれる歓喜の産声か、それとも滅び行くことへの嘆きの声なのか。
どちらかは分からないが、確かに空気が震えた。
それは、ここ神の座、いや、ガルガンチュアから遠く離れたクレアたちにも何かを感じさせるほどで。
モンスターの消滅に沸きあがる騎士たちも、この空気に気付き、誰ともなく空高く浮かぶ要塞を見上げる。
救世主の勝利だと思ったのがまだであった事を、今これからこそが本当の戦いの始まりだという事を、
今この時、誰もが理解した。
勿論、相手が何者かなど想像付く者は、恭也たちと共に話を聞いたクレア以外には居なかったが。
皆がガルガンチュアを見上げ、まるで祈るようにある者は手を合わせ、ある者は目を瞑り、
ある者はじっと宙を見詰めたまま、聖句を口にする。
皮肉な事に、その祈りを捧げる対象こそが、世界を滅ぼそうとしているのである。
クレアは自嘲めいた笑みを一瞬だけ浮かべると、すぐに心配げに空を見上げるのだった。
その先に居るであろう恭也たちへと全てを託し、その無事をただ胸の内で願いながら。





 § §





姿を見せた神へと、まずはリリィとミュリエルの攻撃魔法が先制の声を上げる。
二人が生み出した炎は、互いに絡まり合い一つとなってまるで大蛇のように襲い掛かる。
神は背中より生えた翼を一度羽ばたかせる。
ただそれだけで、風が唸り真空が作り出されて刃と化し、迫る炎を断ち切る。
その後ろからベリオの放った光線は神の目の前で、何かに当たったかのように急に角度を変えて通り過ぎて行く。
見れば、神の目の前に薄っすらと幕のようなものがレンズのように揺らめいていた。
リコとイムニティが呼び出した召喚獣は、姿を見せた瞬間に泡のように掻き消える。
二人が呼び出すために、その足元に描かれた召喚陣を囲むように、
更に大きな魔法陣――逆召喚陣がいつの間にか描かれている。
魔法による攻撃に対処している間に、恭也たち前衛は神を囲むように一斉に迫る。
前方より迫るロベリアとルビナスへと、神はゆっくりと手を向ける。
そこから光が生まれ、光は帯となり、地面を抉りながら二人へと向かう。
それぞれ反対に跳んで躱した二人の間を光の帯はゆっくりと進み、床をいとも簡単に削り取る。
神が攻撃に転じた瞬間に放った未亜のトレイターを、神は見向きもせずに翼で叩き落す。
翼はそのまま大きく広げられたまま、背後へと先端を鋭く尖らせた羽根が打ち出す。
背後から迫っていた恭也と美由希の二人は、数十と襲い来る羽根に足を止めて迎撃せざるを得なかった。
動きの止まった恭也たちへと、神を中心として風が巻き起こり、吹き飛ばされないように力を入れる。
と、恭也たちを吹き飛ばそうとしていた風が、不意に向きを、今度は神自身へと向かって、
まるで吸い込むように動きを変える。
先ほどの風は、この為の準備だと言わんばかりに数倍もの強さで。
それに堪えきれず、リコとイムニティの二人が上空へとその身体を持ち上げられる。
神の背丈よりも高くその身を置いた二人へと、神が凶器と化した羽根を打ち出す。
弧を描くように横側から飛来する無数の羽根から、
未だ暴風に翻弄されて満足に動けない二人は身を躱す術などなく、
そのまま羽根にその身を貫かれるかに見えた瞬間、二人の姿が掻き消える。
テレポートをして羽根の攻撃から逃れた二人だったが、
その呼吸は荒く、何度もテレポートをした後のようであった。

「なんなのよ、あれは。ただテレポートするだけで、ここまで魔力を使うなんて」

「多分、あの暴風の中は一種の結界、それもかなり強力なものと同じなのでしょう。
 つまり、一つの世界を越えるのに等しい…」

憤慨するイムニティへと、リコが自身の分析結果を口にする。
忌々しげに神を睨みつつ、イムニティもリコの意見に賛同するように頷く。

「仮にも神だものね。その振るう力一つ取った所で、見た目よりも強力って訳ね」

神の圧倒的とも言える力を前に、しかし恭也たちは攻撃の手を休めずに攻め続ける。
その様子を離れた所で見ながら、カエデは悔しそうに唇を噛む。
皆が戦っているときに、自分は満足に動く事さえもできないと。
かと言って、ここで無理に攻撃に加わっても、逆に足を引っ張るであろう事は理解できる。
理解できるからこそ、余計に感情が納まらない。
だが、結局は何もせずにただ見ているしかないのだった。

カエデが葛藤して悩む中、恭也たちは神へと挑み続ける。
リリィとミュリエル、そしてベリオが魔法を放ち、
それを神が防いだ瞬間に未亜はジャスティからトレイターを神の足元へと放つ。
神の足元、床へと突き刺さったトレイターは瞬時にその姿を複数の爆弾へと変じ、一斉に爆発する。
床を砕き、砂塵と煙を立ち昇らせてまず神の視界を悪くする。
そこへルビナスとロベリアの二人が走り出し、神の足へと集中攻撃を掛ける。
そんな二人へと神はかまいたちを発生させる。
二人はその攻撃を掻い潜り、僅かに身体が傷付くも気にも止めずに神へと迫る。
が、そこへ更なる追撃として炎の壁が立ち昇る。
その壁は、未亜のジャスティから放たれた斧型に変じたトレイターによって切り裂かれ、
二人は僅かに出来たその隙間へとその身を潜らせて、更に神へと近づく。
神がルビナスとロベリアへと攻撃を仕掛けている間に、神の後ろに居た恭也と美由希は静かに得物を構える。
一刀になってしまったルインを右手に持ち、後ろへと引き絞る。
美由希も龍鱗を同じようにして構える。
その二人の半歩後ろに、リコとイムニティが佇み、ロベリアたちの戦況を見てチャンスを待つ。
程なくして、神の注意が二人――下へと向かい攻撃をした瞬間に、それぞれの主を逆召喚で神の頭上へと送る。
神の頭上へと現れた恭也と美由希のすぐ後ろに、ベリオの防御魔法による壁が現れ、
更にその後ろへと、リリィとミュリエルの爆炎系の魔法が炸裂し、二人を吹き飛ばす。
攻撃魔法により文字通り爆発的な推進力を得て、二人は神の頭上から奇襲を掛ける。
それに気付いたのか、神の翼が再び広がり始め、恭也と美由希を襲う。
襲い来る鋼鉄のような強度を持ち、刃のようにするどい羽根を見据えて、美由希が射抜を放つ。
龍鱗の先端から、螺旋状に雷が伸び、近づく羽根を弾き飛ばす。
が、美由希の射抜も威力を無くして失速する。
美由希の背後から、失速せずに守られる形となっていた恭也が追い抜く。
その瞬間、美由希はセリティを呼び出し、龍鱗と交差させるようにして斬撃を放つ。
二つの刃の峰を返して交差している部分へと、恭也の後ろ蹴りが繰り出され、美由希の斬撃とぶつかり、
恭也の身体は更に加速する。
恭也へと迫っていた第二陣の羽根は、急加速した恭也を捉える事が出来ずに、そのまま空に消えていく。
神へと肉薄し、射抜を放つ恭也。
しかし、神は寸前でその攻撃を手首より伸びた光で作られた剣で受け止める。
が、神は失念していた。
足元に自分へと攻撃を繰り返してきていた二人の存在を。
元より、頭上か足元どちらかでも攻撃が届けばという考えだった恭也たち。
その隙を見逃さず、ルビナスとロベリアの剣が弧を描く。
だが、二人の剣は空を切り、神と切り結んでいた恭也は、そのまま支えを無くしたかのように地面へと降り立つ。

「消えた…」

呆然と呟くロベリアに対し、反応できたのは恭也と美由希の二人だった。
二人は同時に少し離れた場所へと視線を向けると、即座に飛針を投げる。
その動きを見て、ロベリアたちがそちらへと顔を向ければ、いつの間にか神の姿はそこへとあった。
迫る飛針を埃でも払うかのように軽く一蹴すると、全包囲へと翼より羽根を打ち出す。

「まさか、テレポートか」

「リコやイムニティも使えるんだから、考慮するべきだったわね」

「確かに、今更そんなものの一つや二つ使えた所で驚くほどではないか」

動揺を抑えるように軽口を叩き合うロベリアとルビナスだったが、それをリコとイムニティが否定する。

「テレポートとは違います。幾ら神とはいえ、魔法を使うには多少の時間が掛かります」

「さっきのは、それがなかったわ。それに魔法という感じじゃなかった」

「どちらかと言うと…」

「神速と同じ原理の技だろう」

リコの言葉を受け継ぐように、近くにいた恭也がそう口にする。
美由希も同じ意見らしく頷き返す。
恭也たちの言葉に、ロベリアたちはやり辛そうな表情で神を見詰める。
羽根を打ち終えた神は、次なる攻撃に移ろうとしていた。
壁際に追い詰めているような形となってはいるが、実際には追い詰めてなどいない。
寧ろ、まだ神にまともな一撃すら決まっていない。
それでも、恭也たちは未だ戦意を衰えさせる事無く、神に立ち向かう。





つづく




<あとがき>

ようやく更新。
美姫 「遅い、短い、反省しろ!」
ぶべらっぼえっ!
美姫 「という訳で、短いですが七十章をお届けします」
…………。
美姫 「次回はできるだけ早めにアップさせますので。ねっ!」
ガックン、ガックン
…………。
美姫 「このように頷いてますから、待っててやってください」
…………ガクン。
美姫 「それじゃあ、また次回で」




ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る