『海鳴極上生徒会』






第2話 「ようこそ極上生徒会へ」





りのたちが校門で眠ってしまった翌日。
校門前で自分たちの事でちょっとした騒ぎになっている中、目を覚ましたりのはそこで桜梅歩という少女と出会う。
彼女の案内によって職員室まで連れて来てもらったりのは、彼女に礼を述べて職員室へと入る。
担任の先生に案内されて向かった教室で、りのは再び歩と再会し、りのは朝、校門に居た理由を話す。
それを聞いた歩は、それだったらと生徒会入りする事を薦める。
この宮神学園では、生徒会のメンバーは極上寮に住むことができる上、学費などが免除されるというのである。
しかし、そう簡単にメンバーになれるはずもなく、どうやって入るかを二人で相談しながら、
中庭で昼食を取っていた。と、そこへ、

「待て!」

不意に鋭い少女の声が聞こえて来て、そちらを向けば、一人の男を追いかけるように、一人の少女が走っていた。

「どうしたんだろうね、プッチャン?」

「さあな。だが、あっちの男は学園関係者じゃないだろうな」

「そうなの? 先生かもしれないよ」

「いや、先生があんな目を隠すようなサングラスにマスクなんてしないだろう」

「花粉症なのかな」

「おいおい、りの」

二人の真剣なのか漫才なのか分からない会話を止めたのは歩だった。

「今追いかけていった方は、同じクラスで生徒会の遊撃部に所属する和泉香だったわよ。
 だとしたら、追いかけられている方は、何かしたのよ」

歩の話を聞いた途端、プッチャンがりのを引っ張るように動き出す。

「プッチャン、何処に行くの!?」

「りの、チャンスだぞ。ここで、さっきの奴の手伝いをすれば……」

「何かあるの?」

「分からないのかよ、りの。あいつは生徒会の人間だぜ。
 その手伝いをしたとなれば、上手くすればりのも生徒会入りだ」

「そう上手くいくかな?」

「りのは何の心配もするな。全て俺に任せておけ。
 そうすれば、どんな小さな事も、途端に大騒ぎさ!」

「さすがだね、プッチャン」

「おう」

「……それって、騒ぎを大きくしてるだけで、いい事じゃないんじゃ」

歩の突っ込みは、しかし二人には届かず、りのは後を追うようにして走り出してしまったのだった。
その背中を仕方なさそうに見送り、歩は肩を竦めるのだった。



  § § §



りのと歩が昼食を取っている頃、生徒会室には五人の人物がいた。

「どうやら、ターゲットが現れたようね」

モニターの正面に座り、手元のキーを次々と押しながら久遠が言うと、
それを後ろから覗き込んでいた恭也が隣の少女へと視線を向ける。

「忍、この装置はちゃんと動作しているんだろうな」

「当たり前でしょう。この発明部きっての天才、忍ちゃんが信じられないの?」

「前回のお前の発明品を覚えてないのか?」

「あ、あれは〜、あ、あははは」

「笑い事じゃなかったんだぞ。
 ったく、あちこちで爆発は起こるわ、ペイント弾とは言え、銃に狙われるわ」

「だからって、全て壊さなくても良いじゃない」

「壊さなければ、止まらなかっただろうが。ったく」

忍の言葉に恭也が大げさに肩を竦めると、モニターから少し離れた所でソロバンを弾いていた少女が顔を上げる。

「そうですよ。その所為で、追加の予算に幾ら掛かったと思っているんですか」

「あ、あははは〜。ごめんね、まゆら〜。でも、文句は壊した恭也に言ってよ」

「それは違うと思いますけれど……」

責任転嫁しようとする忍をじと目で見詰める少女まゆらは、会計職を担っており、
全ての予算は名目上、彼女が管理しているのである。
つまり、予定にはない出費が起こるたび、彼女は計算をし直さなければならないのだった。
何となく緊張感が削がれた感じのする中、この部屋に居る一人、会長の奏が久遠へと話し掛ける。

「それで、現状は?」

「はい、今、予定通りに更衣室へと向かっています。
 …………後数秒で更衣室の前に」

それを聞いた恭也は、久遠の後ろからモニター横にあるマイクに手を伸ばして口を開く。
久遠はじっとモニターを見詰め、カウントダウンを始める。

「3……、2……、1……、今です!」

「香!」

恭也のマイクからの声が、耳に付けたイヤホンから聞こえる。
名前を呼ばれた香は力いっぱいドアを蹴りつけて、ドアを開く。
その勢いで開かれたドアは扉の前にいた男の頭に勢いよく当たり、ゴンという重い音を立てる。

「さて、変質者さん、何の用かしら?」

凄むように両手の指を鳴らして近づく香に、男は頭の痛みを堪えながら走り出す。

「こちら和泉です。予定通りに犯人は逃亡。れーちゃん先輩、お願いします」

制服の襟に付けた小型マイクで、誰かへと報告をあげる。
すぐさま、その相手から返事が返ってくる。

「了解で、ラジャーで、オッケー」

それらのやり取りを聞いた恭也は、すぐに次の指示を出す。

「犯人は逃亡予想ルートBを使って逃亡。
 美由希は、その場を破棄してポイントDへ移動。
 小百合はその場にて待機して、れいんが誘導した犯人を外へ」

それぞれに了解という返事を得ると、恭也はマイクを離す。
そこへ、奏が話し掛けてくる。

「でも、恭也。すぐに捕まえれば良かったんじゃないの?」

「多分、あいつらならそれも可能だろうな。
 だけど、犯人がどんな抵抗をするか分からないからな。
 一般生徒に危害が加わらない所まで誘導する事にしたんだ」

「そういう事」

「ああ。まあ、これで大丈夫だな。最後に待ち構えているのは……」

「宮神学園の番犬ですものね」

「奈々穂が聞いたら怒るぞ」

「あら、誰かが言わない限り大丈夫ですわ」

言って笑う久遠に何ともいえない笑みを見せる恭也。
と、不意に忍がモニターににじり寄る。

「あれ? これって。久遠、ちょっとごめんね」

一言断ってから、忍はキーを幾つか押す。
モニターに移る画面が切り替わり、違う場所を移す。

「どうかしたのか、忍」

「あ、うん。こっちに反応があったから。あ、ほら、ここ」

忍が指差す所には、確かに侵入者を示すマークが付いていた。

「まさか、複数犯か」

「にしては……。あ、裏の林に行くみたいね。
 あ、ラッキー。丁度、あそこにはこないだの失敗作がまだ残ってるわ。
 確か、カメラがついていたはずだから……」

忍はそう呟くと、自分の定席に座りなおし、キーボードを叩き出す。
暫くして、忍が全員に告げる。

「出すわよ」

忍の言葉に応じるように、円卓の中央の床から大型のディスプレイがせり出してきて、
その件の映像を映し出す。
そこに映し出されていたのは、こちらもマスクにサングラスで顔を隠している、見るからに怪しい人物だった。

「忍、その男のポケットを拡大してくれ」

映像を見ていた恭也が何かに気付いてそう頼むと、それに応えて忍がその部分を拡大して見せる。
不自然に膨らんだポケットからは、新聞紙のようなものが覗いている。
しかし、それにしては膨らみ過ぎている。

「久遠、昨日の放火犯が捕まったというニュースはやってたか?」

「いいえ、まだ捕まっていなかったと…………。まさか」

「もしかしたら、とんでもないお客さんまで来たかもな。
 聖奈も琴葉も今はいなかったな。ふむ、俺が行こう」

「会長補佐が自らですか。そっちは私が」

「いや、久遠には別の事を頼む。
 忍、変質者の方はどうなっている?」

「ん〜っと、予定通りかな」

「そうか。では、そこへ向かっているその子は?」

言って、予め予測した逃走ルートにだけ設置していた数台のカメラに映る一人の少女を指差す。

「あれ? 何で、一般の生徒があんな所に」

「どうやら、紛れ込んだらしいからな。
 悪いが久遠には、あっちを頼む」

「分かりました」

言って動き出そうとした二人に、奏が声を掛ける。

「久遠さん、私も一緒に行っても良いかしら?」

「会長が、ですか?」

「奏、何をするつもりだ?」

「別に何も。ただ、皆が忙しく働いているのに、私一人がここに居るのもつらいですもの」

「…………はぁ、好きにしろ。ただし、無茶はするなよ」

「大丈夫ですよ。あそこには副会長も居ることですし」

「じゃあ、早く行ってくれ。忍はここで放火犯の行き先を俺に教えてくれ。
 まゆらはシンディに言って、車を出すようにしてくれ。久遠たちはそれで向かってくれ。
 後、美由希のポイントDでの誘導が終わったら、こっちに来るように伝えてくれ」

恭也は指示を出し終えると、走り出す。
その背中に返事をしつつ、それぞれに動き始める中、奏は久遠と並んで早足で歩きながらそっと溜め息を吐き出す。

「偶に、どっちが会長か分からなくなるんだけれど、それは私の気のせいかしら?」

「うふふ。それだけ、会長補佐が優秀って事なんじゃないですか」

「それもそうね」

「ええ。それに、皆、会長のために動いているんですから」

「それは嬉しい言葉ね」

結構、早く歩いている二人なのだが、何故かのんびりとした感じを受けるのは、この二人だからなのだろうか。
ともあれ、二人の侵入者に対し、動き出す生徒会の面々だった。



  § § §



香と遭遇した変質者は階段を転げ落ちるように下っていく。
完全に逃げようとはせず、ほとぼりが冷めるまで隠れていようという魂胆なのか、
香の姿が見えないのを確認した男は、そのまま階段を降りていかず、途中の階で足を止め、
壁に身を隠しつつ廊下を伺う。
その男の視界に、幼さを残した少女の姿が映る。
少女は片手に数枚のカードを広げて持ち、男と目が合うとにぃっと笑う。

「いっらしゃいで、ウェルカムで、ようこそ〜。ここから先はあっしが相手に……」

男は少女、れいんの言葉を最後まで聞く事無く背中を向けて階段を降りる。
それに肩を竦めて見せると、れいんもまた襟元に向かって話す。

「こちら、れいん。犯人は一階へと逃亡しました。
 ってな訳で、美由希ちゃん、ちゃんと外へと追い出してね」

「りょ、了解です。って、予想より早いって。
 大体、犯人の予想逃亡ルートが離れすぎ〜。
 というか、この学園、広すぎ〜」

美由希は喚きながらも足を懸命に動かして、静かな廊下を掛ける。
予め恭也たちが予想したルートは、東側と西側の二つだった。
その為、それぞれの出口に美由希と小百合を配置し、犯人が向かった先に居た方はそのまま外で待機し、
奈々穂が待ち構える場所へと追いやる役を。
残る一方は、校舎から確実に、待ち構えている出口へと犯人を追い出すため、
一階を横断して待機という形になっていた。
そして、今、犯人は小百合が外で待つ方へと逃げている。
すなわち、美由希は急いで一階の階段まで走らなければならないのだった。

美由希が階段へと姿を見せるのと、男が一階に辿り着くのはほぼ同時だった。
男は自分目掛けて走ってくる美由希に、追っ手と思ったのか、特に美由希が何をするでもなく、
自然と近くにあった扉から外へと出る。
それを見た美由希は、これまた先の二人と同じように、任務完了を報告する。
ただ、他の二人とは違っていたのは、それに対する返答が、美由希のみに返って来た事だった。

「ご苦労様、美由希ちゃん。で、早速で悪いんだけれど、校舎裏へと通じる林へと向かって。
 途中で進路変更の指示は出すから」

「えっと、それってどういう事でしょうか、忍さん」

「うん、恭也からの指示」

「恭ちゃんからの。わ、分かりました。うぅぅ、人使い荒すぎ……」

ぼやきつつも再び来た道を駆け出す美由希だった。



一方、外へと出た男は左右を見渡し、左側に木刀を持った眼鏡の少女を見つける。
その少女、小百合は静かに木刀を正眼に構える。

「さて、言い訳は後で聞くとしよう。大人しく、捕まるならよし。
 もし、逆らうなら……」

言って木刀を静かに頭上へと振り上げると、男は悲鳴を上げて右側に見える林の中へと駆け込んでいった。
その背中を見遣りつつ、小百合は呆れたように溜め息を吐く。

「せめて少しは向かってこようとはしないものか」

「小百合、それは無茶で、無謀で、無理っすよ。
 相手は素手。それもこそこそするような変質者なんだから、逃げるでしょう」

「れいんか。香も一緒か」

「はい。どうやら、誘導は上手くいったみたいですね」

「ああ。後は副会長に任せておけば問題ないだろうな。
 一応、私たちも行こう」

小百合の言葉に頷くと、香とれいんも林へと向かって歩いて行く。
先に林へと逃げ込んだ男は、混乱していた。
前回同様、楽に忍び込めたと思ったのに、そこには待っていたかのように、
いや、実際に待っていたのだろう、少女たちが立ち塞がるのだから。
兎に角、捕まるわけにはいかないと、必死で足を動かして逃げる。
その行く手に、ついっと影が立ち塞がる。
ショートカットのその少女は、腕を組んで仁王立ちで男の行く先を防ぐ。

「さて、そろそろ観念したらどうだ。というよりも、ここでお終いだけれどね」

ゆっくりと胸の前で組んでいた腕を解き、ポケットからヨーヨーを取り出す。

「大人しくするのなら、痛い目は見ずにすむが?」

「あ…………う、うぅあぁぁ」

男は忙しなくきょろきょろと辺りを見渡すが、道は自分の後ろか、少女の立っている前のみ。
前を通るのは、恐らく、いや、間違いなく無理だろう。
自慢ではないが、自分は腕っ節が強くないという自覚がある。
そこで男は、目の前の少女、奈々穂に背を向けて逃げる事を考える。
しかし、そこに香たちが現れ、背後の退路も断たれてしまう。
ちらりと横の茂みを見詰め、そこへと飛び込めば、
上手くすれば逃げれるかもしれないと男の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
奈々穂たちはそんな男の考えもお見通しで、ゆっくりと、だが、確実に男との距離を狭めて行く。
男が茂みへと飛び込もうとした瞬間、ヨーヨーで男を絡め取るべく、奈々穂が静かに構える。
そして、今まさに男が飛び込もうと…………。



  § § §



「俺とした事が、りのの方向音痴を甘くみていたぜ」

「ごめんね〜、プッチャン」

「まさか、学園で迷うなんてな」

「本当にごめんね〜」

「しっかし、まあ、それも仕方ないか。
 なんつー、広さだよ」

「ほんっっっと〜〜に、ごめんね」

ブツブツと呟くプッチャンに、何度も謝るりの。
後を追って走ったはずの二人は何故か、林のような場所へと出てきていた。

「にしても、ここは何処だ?」

「多分、まだ宮神学園だとは思うんだけれど……」

「ん? ちょっと待てりの」

「どうしたの?」

「いや、今、声が…………」

「ひょっとして、誰か居るのかな?」


プッチャンの言葉に希望を得たのか、りのが顔を輝かせる。
じっと耳を澄ましていたプッチャンは、不意に斜め前方の茂みを指差す。

「あっちからだ。って、茂みの向こうかよ。
 りの、どこか道を探して……」

「あっちだね」

プッチャンの続く言葉を待たず、りのはプッチャンが指差した場所目掛けて突っ込む。

「って、痛い、痛いぞ、りの。うわぁ〜、もっとソフトに扱ってくれ〜。
 こう見えても俺は、デリケートなんだ。や、破れる〜。俺の身体が〜」

「ごめん、プッチャン。でも、もうすぐだから我慢して…………。
 ぷはぁっ! ほら、出れた! …………って、あれ?」

茂みから何とか身体を出したりのだったが、目の前には見知らぬ男。
それも、サングラスにマスクという怪しい出で立ちの。
その男が、数人の少女に囲まれて立ち尽くしていた。

「何で、こんな所に一般の生徒が!?」

驚いた声を上げる奈々穂の言葉に、あっけにとられていた男も我に返り、その視線にりのを捉える。
りのを見て、勝てると判断したのか、男はりのへと目掛けて手を伸ばす。
人質にしようとしている事は明白だったが、奈々穂たちが動くよりも早く、男の手がりのの腕を掴む。



  § § §



「恭也、どうやらその男は校舎裏に行くみたい」

モニターを見詰めながら忍が男の到着地点の予想を告げる。

「にしても、助かりました、今日で」

「確かにね。普段なら、こんなシステムなんてないものね」

まゆらの言葉に忍が笑って応える。
ここで上げたシステムというのは、恭也たちが変質者が来るのを予想して設置したシステムで、
何箇所にも設置された小型の赤外線センサーを改良したもので、人が通過するとその場所を教えるというものだった。
普段は当然ながら設置されていないので、まさに運が良かったというべきなのか、
放火魔が校内に入ったのだから、運が悪いというべきなのか。
ともあれ、時間ごとに送られてくる男の足取りから、忍は向かうであろう場所を恭也へと報告する。
それを受けて恭也は、更に速度を上げて校舎裏へと向かう。
忍は同じ情報を美由希にも出す。



校舎裏へと着いた恭也は、今まさにライターで新聞紙に火を点けようとしている男を見つける。
足元に落ちてあった手ごろな石を取ると、男の手にぶつける。

「そこで何をしている?
 一応、言っておくがここは校内だから、関係のないものは入ってはいけない。
 まあ、それ以前に、犯罪行為をしようとしていた訳だが」

男は舌打ちすると、ポケットから折りたたみ式のナイフを取り出す。

「やめておけ。素直に投降する事をお勧めするぞ」

「うるさい!」

ナイフを握る手を震わせながら、男はナイフを恭也へと突き付ける。
それに仕方ないという顔を見せつつ、恭也はすっと横に退く。
男は恭也がナイフに怯んで道を開けたと思ったのか、一歩踏み出す。
が、恭也はそんな男に目も暮れず、自分の背後へと声を掛ける。

「という訳で、放火の現行犯だ。美由希、頑張れ」

「はぁー、はぁー。……って、放火!?
 えっ、えっ。何が一体、どうなってるの?」

「落ち着け。とりあえず、目の前の男を捕まえれば良い」

「は、はい」

再度恭也に言われ、美由希は背を伸ばしてその指示を受け取る。
そのやり取りを見ていた男は、相手が美由希に変わったと知り、美由希へと向かって走る。
ナイフに驚いて身を躱したその横を走り抜けるつもりで。
対する美由希は、ただ静かに向かって来る男を見据え、男が一定の距離に入った瞬間、
右手を腰の後へとやり、制服の中へと入れる。
すぐさま 抜き放たれた手には、一振りの小太刀が握られており、美由希は踏み込みながら小太刀を振るう。
あっさりと男のナイフを弾き飛ばすと、逃げるつもりで走っていた男の勢いをそのまま利用して、
左手一本だけで男の身体を一回転させて地に転がす。
短くくぐもった声を洩らす男に近づくと、恭也は手早く男の手足を拘束する。

「今のは中々良い踏み込みだった。投げる時の力の方向も、身体のバランスも申し分ないな」

「えへへへ」

「さて……。忍、聞こえるか?」

「はいはい〜」

「こっちは片付いたから、向こうも片付いていたら、警察へと連絡を頼む」

「了解〜」

忍からの返事を聞き終えると、恭也は男の足を持って引き摺って運ぶ。
その後ろから美由希も付いていきながら、目が覚めたとき、原因不明の頭痛に襲われる男に少しだけ同情する。
もっとも、自業自得なので、すぐにそんな事は忘れるのだった。



  § § §



「きゃぁ〜、何するんですか〜」

「黙ってろ! おい、お前たち、下手に動くと……」

りのの腕を掴んで自分の身体の前へと持っていきながら、変質者の男は奈々穂たちにそう言う。
そこへ、奏たちを乗せた車が香たちの背後からやって来て止まる。
それを見た男は口元を歪める。

「丁度いい所に足が来たな。良いか、お前たち動くなよ」

男の言葉に唇を噛む奈々穂に笑みを見せながら、男はゆっくりと車へと向かう。
と、それを邪魔するような声が。

「で、これは一体、どうなっているんだ?」

「プッチャン、助けてよ〜」

「助けてと言われてもな〜。事情が全く分からないんだが……」

「私だって分からないよ〜」

突然始まった腹話術に全員が呆然とする中、プッチャンは男へと声を掛ける。

「おい、お前! りのからその汚い手を離せ!」

「何だと、お前! 少し黙れ!」

男に怒鳴られたりのは首を竦めるが、それを見たプッチャンが低い声を出す。

「おい、りのに何をしやがる!
 いい加減に、この手を離せ!」

言ってプッチャンは男の腕を叩くと、りのの腕を解放する。
それを見た奈々穂たちが動くよりも早く、プッチャンの両手が男の頭を腕を胸を殴る。

「この、この、この!
 りのを苛める奴は、この俺が許さん!」

言って振るわれたプッチャンの右手のアッパーが男の顎に決まる。
ペチと音が聞こえてきそうなぐらいにしょぼいパンチなのに、何故か男の身体が宙へと浮く。
それを見たプッチャンの目が光を反射してきらりと光ったように見えたのは、気のせいだろうか。
プッチャンは宙へと浮いた男目掛け、止めを刺すべくポーズを決める。

「喰らえ、今、必殺のプッチャンダイナミック!!」

プッチャンの身体が金色に輝いたかと思うと、すさまじい加速で男へとぶつかる。
軽い爆発音が響き、立ち昇る煙が晴れると、そこには既に元の姿に戻ったプッチャンと、
りのの足元で所々焦がしながら伸びている男の姿があった。

「ありがと〜、プッチャン〜」

「ふっ、何、大したことじゃねーさ。
 ただ、俺の拳が飢えていた。そして、こいつは偶々そこに居合わせてしまった。
 それだけのこと」

「あははは、プッチャンったら〜」

「あはははは〜」

言って二人で笑うりのとプッチャンを、生徒会のメンバーは呆然と眺めていた。
そんな中、車から降りながら奏が久遠へと声を掛ける。

「久遠さん、後の処理をお願いします」

「は、はい。忍さん、聞こえますか?」

忍と連絡を取り始めた久遠を背に、奏は奈々穂たちに労いの言葉を掛けると、りのへと近寄る。

「蘭堂りのさんね」

「あ、はい」

「私は神宮司奏よ。ここ宮神学園の極上生徒会会長を努めさせて頂いている」

「極上生徒会の会長さん」

「ええ、そうよ。生徒たちに楽しい学園生活を送ってもらうための組織」

「あ、あの、わたし……」

「丁度、書記がいなかったのよ。良かったら、極上生徒会の書記にならない?」

「えっ! い、良いんですか」

「勿論よ。私からお誘いしているのよ。どうかしら?」

「会長、ちょっと宜しいですか」

「何、奈々穂?」

「何って、本気なの?」

「ええ。それに、奈々穂もこの子の実力を見たでしょう」

奏に言われて押し黙る奈々穂の後ろでは、
奏に親しげに声を掛けてもらっているりのを恨めしそうに睨む香の姿があったり、
面白そうに眺めているれいんの姿や、プッチャンに見惚れているシンディの姿があったりと、
それぞれに色々な顔を見せている。
そこへ、新たな声が届く。

「諦めろ、奈々穂。奏の中では、既に決定しているという顔だ、それは」

「きょ……。会長補佐」

恭也の言わんとしている事は、奈々穂にもよく分かる。
奈々穂とて、奏との付き合いは短くはないのだから。
だから、奈々穂は仕方ないと肩を竦めると、奏の言葉に賛成を示すのだった。
それを見たりのが嬉しそうに両手を上げる。

「わ〜い、良かったねプッチャン。生徒会に入れたよ〜」

「ああ、良かったなりの」

喜ぶ二人を尻目に、小百合が恭也の足元に転がるもう一人の男に気付く。

「恭也先輩、それは」

「ああ。さっき捕まえた放火魔だ」

「何!? そんな奴が我が学園に侵入していたのか」

恭也の言葉に奈々穂が眦を上げて男を睨む。

「昨日、放火してここに逃げ込んで来たんだろう。
 ほら、ニュースで犯人の手がかりを掴んだみたいな事を言っていたから、焦ったんじゃないのか」

「ああ、アパートの放火の際に落したという手がかりか」


「…………ねえ、プッチャン。もしかして、そのアパートって」

「まあ、間違いないだろうな。でも、そのお陰でこうして生徒会入りできたんだ」

「そうだよね」

言って微笑み合うりのに、恭也が話し掛ける。

「蘭堂りのさんだったね」

「はい」

「これからは、君も俺たちの仲間だ。宜しく」

「こ、こちらこそ」

言って頭を下げたりのが顔を上げると、全員がりのへと向かって一斉に声を上げる。

『ようこそ、極上生徒会へ』







私立宮神学園には教職員よりも権限を持つ生徒会がある。

私立宮神学園極大権限保有最上級生徒会

略して――

極上生徒会!



その極上生徒会に長らく不在だった書記に新たな人物が加わった。
蘭堂りのと言う、新しい仲間が。





続く




<あとがき>

さて、次のお話は〜と。
美姫 「次は何かしら?」
ふふふふ。既に四話までの構想は出来ている。
美姫 「でも、書けていなければ、それはないのと同じ事」
た、確かに。
美姫 「という訳で、早速書こうね〜♪」
ぬぐわぁ〜。しまった!
いらん事をいってしまった〜。
美姫 「ほらほら〜。と、それじゃあ、また次回でね〜」







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