『海鳴極上生徒会』






第4話 「宮神学園七不思議?」





「ねえねえ、りの聞いた?」

「何々、あゆちゃん」

登校して来たりのが席に着くなり、隣の席から歩が声を掛ける。
それに反応を返してきたりのへ、やや声を潜めて内緒話するように顔を近づける。
それを見て、りのとプッチャンも歩へと顔を近づける。

「何でも、深夜に学校の裏にある林の奥を飛ぶ影が目撃されたらしいよ」

「それって、もしかして幽霊?」

「多分、そうじゃないかって結構、噂になってるのよ」

「おいおい。たったそれだけの事でか?」

「それだけじゃないのよ。他にも、校舎の中で不気味な笑い声が聞こえてきたり、
 音楽室のピアノが突然、鳴ったり……」

「ほうほう。七不思議って奴だな」

「って事は、他にも後三つあるんだね」

「おいおい、後四つだろうりの」

「あ、そっかそっか」

「慌てんぼうだな、りのは」

「あははは〜」

「そういう問題なのかな?」

りのとプッチャンの会話に歩は一人首を傾げる。
と、りのが何かを期待するように歩を見てくる。

「な、なに?」

「他には何があるの?」

「えっと、他は私も知らないかな。
 でも、色々と噂はあるみたいだよ」

「ふっふっふ。そうと聞いちゃあ、黙ってられねえな」

「プッチャン、どうしたの?」

「ふふふ。学園の七不思議、この俺様が見つけてやるぜ!
 ついでに、その正体もな!」

プッチャンの力強い、それでいて楽しそうな声に、りのも楽しそうな表情を覗かせるのだった。



  § § §



「学園七不思議?」

「そう、この学園に伝わると言う七不思議よ、りの」

「それがどうかしたんですか、れーちゃん先輩?」

「今、色々と噂になっているのよ」

「そうみたいですね。朝もプッチャンと話してましたから」

「その通りさ、お子様先輩。そこで、この俺様が立ち上がったって訳だ」

「おう、やる気さねプッチャン。
 勿論、あっしも参加するに決まってて、決定してて、確定だよね」

「よし、これで一人追加だな」

「勿論、小百合も来るよね」

「うん」

「よしよし、二人目確保と」

生徒会室のソファーでお菓子を抓みながらそんな話をするりのたちから少し離れ、
香は会話に加わらないように静かにお茶を飲んでいる。
それに気付かず、りのたちは今の所分かっている怪談をあげていく。
時折、聞こえてくるその会話に香は時々身を縮こまらせるが、それは誰にも気付かれない。
一方、いつもの定位置に座っている奈々穂たちも同じような事を話し合っていた。

「学園七不思議だと?」

「ええ、そうですわ。今、一部の生徒たちの間では、結構な話題になっているらしいですわよ」

カップに口を付けながら告げた久遠の言葉に、奈々穂は鼻で笑う。

「ふっ。な、七不思議なんて、そんなの迷信に決まっている。
 第一、宮神学園は出来てまだ新しいんだぞ。そんなもの、あるはずがない」

「あら、奈々穂さん? もしかして、怖いのかしら」

「ば、バカな事を。わ、私がそんなのを怖がるはずないだろう」

「そうですわよね。まさか、そんな事あるはずないですわよね。
 でしたら、この件は遊撃に任せても宜しいかしら?」

「っ! 別に構わないが、こういった事は隠密の方の仕事ではないか?」

「あら、別に何か問題がある訳ではないですし、隠密が動く必要はないのでは?」

「ならば、遊撃が動く必要もない!」

奈々穂の言葉に、しかし久遠は余裕の笑みを見せて髪を掻き揚げると、恭也を見る。

「会長補佐はどう思われます?」

「……まあ、その程度なら問題にはならないだろうな。いちいち、極上生徒会が動く必要もあるまい」

恭也の言葉にほら見ろと言わんばかりの顔をする奈々穂だったが、恭也はそこで言葉を止めずに続ける。

「だが、その噂の広がったのが問題だ」

「どういうこと?」

奈々穂の言葉に、恭也は少し待つように目で伝えると、休憩スペースに居るりのを呼ぶ。
呼ばれたりのだけでなく、れいんたちも一緒にやってくると、自然と定位置に座る。

「りのがその噂を最初に聞いたのは?」

「あゆちゃんから今日聞いたんですけれど」

「どんな内容の奴だ?」

「深夜に黒い影が飛ぶって言う」

「そうか、ありがとう」

りのへと礼を言うと、恭也は奈々穂へと顔を戻す。

「実は隠密にこの件で少し調べてもらったんだが、七不思議の噂が広まり出したのは、ここ4、5日だ。
 そして、最初に広まったのが、今りのが言った噂だ。
 それ以降に出てきた話は、真偽の程は置いておくとして、誰かが興味本位で学校に残って目撃したようだな。
 分かるか? 既にこの時点で二つほど問題が出ている」

「一つは、七不思議を調べようとする生徒が下校時間以降に学校へと来るって事だな」

恭也の言いたいことを理解して奈々穂はすぐに答えるが、もう一つが分からない。
それを助けるように、久遠が恭也へと言う。

「もう一つは、最初に出た噂の目撃者ですね」

「そうだ。深夜に見たと。それも、校舎内ではなく、裏山の林でだ。
 その目撃した生徒は、何故、そんな夜中にそんな場所に居たのか」

「そういう事か。でも、それなら益々、この件は隠密が動くべきじゃないのか、久遠」

「別に動かないとは申してませんよ」

「現に、隠密の何人かはその目撃者探しを既にはじめちゃってま〜す」

久遠にチラリと見られた聖奈は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべたまま述べる。

「でも〜、噂が広がりすぎて、元を辿るのにもう少し時間が掛かりそうなんですね〜。
 それに、興味本位で校舎内に侵入する生徒を止めるのは、うちよりも遊撃の方ですし〜」

「どの作業がどの部署かなんていうのは、どうでも良い。
 要は、今出ている七不思議をどうするかだ。
 別に七不思議そのものは問題ない。ただ、それに興味を持って深夜に校内に来るのが問題なんだ。
 ここは山奥だからな。今の所は問題も起こっていないが、これからもそうだとは限らんだろう」

「お預かりしている生徒を、夜中に出歩かせて危険な目に合わせたとなると大変だものね」

今まで黙っていた奏が困ったように手を頬に当ててそっと溜め息を吐く。

「そういう事だ。そこで、遊撃でも隠密でも構わないから、七不思議を何とかしてくれ」

「一番早いのは、七不思議全ての謎を解くことですわ。
 生憎、隠密は目撃者探しに従事しているので、ここは遊撃にお願いしますわ。
 それとも、やっぱり怖いから断ります?」

「よし、分かった! そこまで言うのなら、遊撃でその全てを明かしてやろう!」

「あら、それは楽しみですこと」

「そ、そんな〜!」

久遠の言葉に奈々穂が決心すると、香が急に情けない声を上げる。
反対に、りのやれいんは嬉しそうな顔を見せ、小百合はいつもと変わらない態度だった。

「蘭堂も参加するのか?」

「はい! 勿論、プッチャンも」

「……まあ、良いだろう。それじゃあ早速、今夜にでも取り掛かるぞ。
 一般生徒には、今日から下校時間を過ぎて校舎に居るものには厳重な罰則を与えると通達した上、
 今夜から巡回が行われると通達を……。所で、美由希はどうした?」

先程から姿の見えない美由希を探すように部屋を見渡す奈々穂に、れいんが手を上げる。

「はい、はいはい、は〜い。
 美由希なら来て早々、あっしたちが七不思議の話をしていると分かった途端、
 回れ〜右して、出て行った、帰った、逃げた〜」

「…………久遠、美由希は隠密の方で動いているのか?」

「いいえ。今回の目撃者探しは、隠密の特性が必要ですから。
 極上生徒会のメンバーという事が知れ渡っている美由希さんを使うことはないですわ」

「分かった。れいん、美由希の首に縄を着けてでも連れて来い」

「分かりました、了承しました、了解〜」

れいんの返事を聞いて奈々穂は頼もしく頷く。

「では、夜八時に極上寮前に集合した後、校内へと向かい調査を行う。
 いじょ……」

言葉を締め括ろうとする奈々穂を遮り、プッチャンが立ち上がる。

「今、ここに学園七不思議を明かすための組織を結成する。
 俺の事は、そうだな、ボスと呼べ、野郎共!」

「プッチャン! 女の子しか居ません!」

「……それは兎も角、行くぜ!」

『おぉー!』

りのとれいんの威勢の良い声だけが生徒会室に響く。
他の者の反応など気にせず、プッチャンは恭也へと顔を向ける。

「で、殿。みゆみゆが逃げたみてえだが、ひょっとして」

「ああ。あいつは、こういうのは全く駄目だ」

「やっぱりな〜」

「所で、やっぱり殿のままなのか……」

既に数日が経過したが、一向に変わりそうにない呼び方に恭也がぼやく。
その横で、奏が楽しそうな笑みを浮かべる。

「あら、別にいいじゃない」

「なら、奏は姫か?」

「恭也になら、そう呼ばれても良いわよ。
 その場合、恭也は騎士かしら?」

「俺が騎士という柄か」

「あら、意外と似合うんじゃないかしら」

「からかって楽しいか?」

「ええ、とっても。でも、今のは別にからかった訳じゃないんだけれどね」

奏の言葉に何処まで本気かというような目で見る恭也に、聖奈が笑いながら声を掛ける。

「まあまあ、恭也さん。でも、恭也さんなら騎士でも通用しますよ」

「聖奈まで、からかうか」

「あら、そんな気はないですよ。ねえ、久遠さん」

「ええ、そうですわね。会長補佐は、もう少し自覚を持つべきですわ」

「久遠まで……」

恭也が呆れたように呟くのを、奏たちは苦笑しながら見詰める。

「でも、恭也さんが殿で会長が姫になるのなら、私は妾で良いかな?」

言って恭也の後ろから手を首に回す。
その顔は完全にからかっている事が丸分かりで、奏も楽しそうに言う。

「その場合、私が本妻なのね」

「そうなりますね。ああ、でも、姫だから娘というのもオッケーですよ」

「それでしたら、私が本妻になりましょうか」

「じゃあ、私は恭也と久遠さんの娘になるのね」

「そうなりますわね。それで、婚約者が奈々穂さんと」

「何故、私だけ男役なんだ」

「いや、もっと他の所に突っ込んでくれ奈々穂。
 と言うか、頼むからもう勘弁してくれ」

恭也は降参を伝えるように手を上げる。
それを見て、聖奈は恭也から離れると、自分の席へと戻る。

「お楽しみのところ悪いんだが、ここに居ない他の嬢ちゃんたちはどうするんだ?」

「そうだな。とりあえずは、遊撃だけで当たってくれ。
 忍はまた何やら発明に掛かりきりだし、まゆらはその監視だからな」

「分かったぜ。でも、発明部でもない会計ねーちゃんが、マッドの監視ってのは?」

「ああ。忍の奴は、放っておくと予算を上回るからな。
 それの監視だよ」

「成る程な。まったく、はた迷惑なねーちゃんだな」

「はた迷惑で悪かったわね」

「げっ! どうしてここに!?」

「とりあえず一区切り着いたから、来たのよ。
 それよりも、げって何よ、げってのは」

「誰だって、急に声を掛けれれば驚くだろう」

「ほうほう」

「プッチャン、止めなよ〜」

「りのは黙ってな。このマッドには一回、ビシッと言わなければ」

「ふふふ。面白いことを言うわね、この人形。
 一度、どうやって動いているのか調べたかったのよね〜。
 丁度いい機会だから、分解して中を見てやるわ」

「うわっ! よせ、止めろ! この変態!」

「へ、変態ですって!? 言うに事欠いて、変態って何よ!
 えぇい、もう許せない! 絶対にその仕組みを解明してやる〜。
 白綿を抉り出してやる〜!」

「うぎゃ〜、止めろ、この人形殺し〜」

「あわわ、あわわ。プッチャン〜。忍先輩、落ち着いてください〜、止めてください〜」

りのを間に挟んで格闘する二人を呆れたように眺める恭也だったが、
流石にプッチャンを本当にバラバラにしそうな忍の様子に、忍の背後に立つノエルへと視線を向けて一つ頷く。
それだけで伝わったのか、ノエルも同じように頷き返すと、忍の後ろから近づき、その首筋に手刀を落とす。

「きゅぅぅ〜」

気絶した忍を抱えると、ノエルはプッチャンに頭を下げる。

「忍お嬢様が大変ご迷惑をお掛けしました。プッチャン様」

「はぁ〜、はぁ〜。ま、マジで死ぬかと思ったぜ……」

「恭也様、皆様、それでは私たちはこれで」

言って頭を下げると、ノエルは生徒会室から出て行くのだった。

「結局、何しにきたんだ、あのマッド?」

その場に、小さな疑問だけを残して。

「……ともあれ、この件は頼んだぞ、奈々穂」

「了解!」

何もなかったかのように話を戻す恭也に、奈々穂も返事を返すのだった。





続く




<あとがき>

次回はいよいよ七不思議の謎へと迫る
美姫 「いや、今回の内に迫りなさいよね」
あははは〜、それを言われると辛いな。
美姫 「で、七つって他には何があるの?」
それは当然ながらまだ秘密〜。
美姫 「だと思ったわ」
って、当たり前じゃ!
とりあえず、その辺りは次回で。
美姫 「次回も極上よ」







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