『海鳴極上生徒会』






第8話 「困った発明」





「んふふふふふ〜♪ うふ、うふふふふ」

薄暗い部屋の中、モニターから出る光に顔をぼんやりと暗闇の中に浮かび上がらせ、
不気味な笑いを先ほど上げているのは、極上生徒会発明部が誇るマッド……もとい月村忍その人である。
気の弱い子供が見たら、夢でうなされそうな光景を展開しているという自覚もないまま、
忍はひたすら作業に没頭している。
その後姿を眺めながら、我が主ながらどうしたものかと頭を抱えるノエル。
だが、声を掛けないわけにもいかず、ノエルは一度だけ小さく嘆息するとその背中へと声を掛ける。

「忍お嬢さま」

「うふふふふ。後は、ここをこうして……」

「忍お嬢さま」

一度の呼びかけで反応しない忍へと、ノエルはもう一度声を掛ける。
ようやくノエルに気付いたのか、忍は作業を止めて振り返る。

「ん? どったの、ノエル」

「頼まれていた材料が届いたのですが、どちらへとお置きすれば宜しいでしょうか」

わざわざ部屋を暗くしている理由を聞くような事はせず、ノエルは今聞きたい事だけを尋ねる。

「あ、来たんだ。んー、じゃあ、そっちに置いておいてくれない。
 今、手を離し難い状況でさ」

「分かりました」

忍の言葉にそう返事をすると、ノエルは先ほど届いた物を運び込むために部屋を出て行く。
閉めた扉の向こうで、再び忍が怪しげな笑い声を上げるのを、聞こえないふりをしてノエルは歩く。



  § § §



放課後、いつものように思い思いに過ごす生徒会メンバーの元に忍がやって来る。

「ふふふ。完成よっ!」

両手で握りこぶしを作り、胸の前で握り締めながら忍は自慢げに叫ぶ。
その声に、何が出来たのか期待するもの、またろくでもないもだろうと苦い顔をするもの、
自分に被害が加わらない事を祈るものなど様々な反応を見ながら、忍は自分の定席へと座る。
そんな忍の元に、りのが真っ先に駆けつける。

「忍先輩、何が出来たんですか」

「ふふふ、よく聞いてくれたわ、りのちゃん」

「おいおい、もったいぶらずに教えろよ」

「落ち着きなさい、プッチャン。でもまあ、あまり焦らすのも可哀想だし、教えてあげるわ」

「別に無理に教えなくても良いぞ、忍。
 いや、むしろそのまま胸の中に仕舞ってくれ。そして、一生それを出すな。
 その発明品と共にな」

忍の出鼻を挫くように告げる恭也に、忍は拗ねた顔を見せる。

「恭也、そんな事を言うんだ…………。良いわよ、恭也には見せてあげないもん」

「ああ、頼む」

「ぶ〜」

完全に剥れる忍だったが、恭也は完全に無視して手元にあるプリントへと目を落とす。

「久遠、この件はどうなってる?」

「その件でしたら…………。ああ、ありましたわ。
 こちらに細かい事を記してあります。まだ、ちゃんとまとめてませんが、大よその所は分かるかと……」

「ああ、悪いな。…………ん? ああ、もう済んでいるんだな。
 じゃあ、すまないが……」

「ええ。明日までにはきちんと報告書を作り上げておきますわ」

「助かる。奏、ほら」

恭也はざっと目を通したその資料を奏へと渡す。
それを受け取りながら、奏は少し笑みを浮かべて恭也へと返す。

「恭也、幾らなんでも少し可哀想じゃない?」

「流石、会長!」

「そうか?」

「うわっ! 恭也ってば冷たすぎるよ〜」

奏の言葉に嬉しそうな顔を見せるも、すぐさま続いた恭也の言葉にへこむ忍。
そんな忍を慰めようとしたのか、ノエルがフォローを入れる。

「忍お嬢様の今までの行いの所為では?」

フォローには全くなっていなかったが……。
いや、もしかしたらわざとかも知れない。
ともあれ、その言葉にへこむ忍だったが、すぐさま首を振って立ち直ると力説し始める。

「今までは今までよ! 過去ばかり見ていては駄目なのよ!」

「発明とは、過去の失敗から色々と学ぶもの、じゃなかったのか?」

「…………恭也、それはそれ、これはこれよ」

きっぱりと言い切る忍に嘆息しつつ、恭也はどうでも良さそうに手を振る。

「分かったから、さっさと言え」

「ふふふ。やっぱり聞きたいのね。なら、教えてあげるわ!」

忍は恭也の気が変わる前にとばかりに早口に捲くし立てる。

「じゃじゃ〜ん!」

言って忍が取り出したものは全長四十センチ程のウサギのぬいぐるみだった。

「それがどうかしたのか、忍」

奈々穂はソワソワとした様子でそのぬいぐるみを見詰める。
フリフリのリボンがたくさんついた服を着て、じっとこちらを円らな瞳で見詰めてくるウサギに視線を注ぐ。
その奈々穂の視線に照れたのか、長い耳を折りたたみ、伸ばしと揺らす。
その仕草に思わず抱きつきそうになるのを堪えると、忍へと何とか視線を移す。

「ふふふん。まあこれを見てよ」

言って忍はウサギを机の上に置く。
すると、ウサギのぬいぐるみは勝手にちょこちょこと歩きだし、何もない所で転ぶ。
上半身を起こして座り込むと、痛むのかおでこをその丸い手でスリスリと擦る。
その仕草にりのたちが感心したように声を上げる。

「自動人形の技術を応用した試作機よ。
 一応、ある程度の知能はプログラムしたんだけれどね。
 まだ感情プログラムが完璧じゃないのよね。だから、これはまだ感情はないけれど」

「おいおい、簡単そうに言ってるが、これって今の技術からすればかなり凄いんじゃないのかよ。
 自動人形ってのがよくは分からないが、マッドって実はかなり凄かったんだな」

「ふふん。少しは見直しなさい」

驚くプッチャンに自慢げに胸を反らせる忍へと、香が尋ねる。

「それで、これは何をするんですか?」

「ゆくゆくは警備が出来るようにしようかと思ってるのよ。
 前に恭也が壊した人型ガーディアンの代わりにね」

「だとすると、これはかなり小型化しましたわね」

「ふふん。そこは忍ちゃんの努力よ。今回は火力じゃなくて、機動力よ。
 小さい方が小回りも利くしね」

感心するような久遠へと、忍は鼻高々に告げる。
そんな忍の自慢げな言葉に反応するように、ウサロボも自慢げに胸を反らし、そのまま後ろへと倒れる。

「さっきから、何か美由希、どんくさい、ドジッ娘のようだけど本当に役立つの?」

「失礼ね」

れいんの言葉に忍が反論すれば、ウサロボも同じように短い腕を上下にパタパタと振って抗議する。
それを見ながら、美由希はへ込んでいる。

「私はあそこまで酷くないもん…………」

「いや、ある意味…………」

「な、何よ。そこで止めないでよ、小百合」

「いや、言わぬが花と言うか……」

「う、うぅぅ」

「で、忍。このロボットに警備をさせようという事は、その、遊撃預かりで良いのか?」

期待するように尋ねてくる奈々穂に、忍はそこまで考えていなかったと顎に手を当てる。
それを真似するように、ウサロボも手を顎へと当てる。

「うーん、まだこの子しかできてないからねー。それに、この子は試作機だし。
 ちゃんと数を揃えたら、警備の問題上遊撃の指揮下に入った方が良いかもね。
 まあ、メンテナンスとかはうちの管轄になるけど」

「そ、そうか。で、テスト期間は?
 本格的に作り出したとして、いつ頃出来上がる?」

「ちょっと奈々穂さん。勝手に話を進められては困りますわ」

「何だ、久遠。何か問題でもあるのか?
 まさか、隠密でも欲しいのか」

「そうじゃなくてですね。試験運転をするのならするで、そのスケジュールを提出して頂かないと」

「そうよね〜。この間の事もあるしね〜」

「せ、聖奈さん、それは言わないでください」

聖奈の言葉に机に手を付いて落ち込む忍をウサロボが慰めるようにポンポンとその手を叩く。

「ん、ありがとう。まあ、今日はお披露目だから、特に何かさせようとは思ってないけど。
 後で試運転に関するスケジュールは出しておくわ。ノエル、お願いね」

「畏まりました」

忍の言葉に頷くノエルを押し退けるように、プッチャンが忍へと問い掛ける。

「なーなー、こいつは喋れないのか?」

「残念ながら、そこまでの機能はまだね」

「まだって事は付けれるのかよ」

「ええ、可能よ。まあ、その分費用が掛かるけれどね」

そう忍が言った瞬間、今まで目を細めてウサロボを見ていたまゆらが席を倒すように立ち上がる。

「そ、そうです忍! これを作る予算は何処から出したんですか!?
 それ以前に、その試作機にはどれぐらい掛かってるんですか!?
 一切、報告も領収書も貰ってないわよ。技術部には、もうあんまり予算も残っていなかったはずなのに」

「あ、そうだったわ。はい、これ」

嫌な予感を抱きつつも差し出された紙を受け取る。
請求書と書かれた用紙の額を見て、まゆらは動きを止める。

「…………い、いち、じゅう、ひゃく、せん…………。
 ま、まん、じゅうまん、ひゃ、ひゃくまん……………………。
 あ、あははは。最近、疲れている所為か、ちょっと目がぼやけてるのかしら。
 えっと、いち、じゅう……………………ひゃ、ひゃくまん…………」

呆然と何度も請求書の数字に虚ろな目を送るまゆらに、思わず奈々穂たちも遠ざかる。

「し、忍、一体、幾らの請求書を渡したんだ」

「ん? えっと、300万ちょっと?」

『さ、300万!?』

予想以上の金額にさしもの奈々穂たちも声を上げる。
そんな奈々穂たちへ、ノエルが酷く冷静な声で告げる。

「正確には、397万5481円です」

「殆ど400万じゃないか!」

「まあ、そういう見方もあるわね、うん」

奈々穂と忍のやり取りを眺めつつ、プッチャンはりのへと話し掛ける。

「この場合、400万でこれを作ったマッドを凄いと言うべきか、
 400万もの大金を事後承諾で請求書だけを平然と渡すマッドが凄いと言うべきか」

「どっちにしても忍先輩は凄いってことだね」

「この場合、凄いの意味が違ってくるがな」

「あ、ちなみにそれは元々技術部にあった予算から出た分だけだから。
 実際にその子を作るのに、前のガーディアンの部品とか、他にも色々あるから。
 一から作るとなると、うーん、500万ぐらいかな?
 という訳で、この子で編成した部隊を作りたいから予算を……」

「そんな予算ありません! って、この請求書の分のお金を何処から捻出しろと!」

「ほら、そこはまゆらに何とか」

「私にどうしろって言うんですか!」

人が変わったように詰め寄るまゆらに、さしもの忍も数歩下がる。
恭也は恭也で、席に着いたまま頭を抱えて小さく溜め息を零す。
その顔には、やっぱり何かしらの問題を起こしたかという諦めのような、疲れたような表情が浮かんでいた。

「来月の技術部の予算を楽しみにしててくださいね、忍」

「えっ!? じゃあ、何とかしてくれるのね」

「そんな訳ないでしょう! 何で、良い方にとるのよ!」

「だ、だって……」

まゆらによる節約の重大性を訥々と語られる忍を一瞥すると、全員の視線がウサロボへと向かう。
流石にこれを大量製作する訳にはいかないと誰もが揃って溜め息を吐き出す。
その中で唯一、ウサロボだけがトテトテと机の上を歩くと忍の元へと寄る。
忍を庇うように両手を広げて立ち塞がるウサロボに気付かず、まゆらは拳を机へと叩き付ける。
ぬいぐるみの柔らかい感触と、僅かに奥のほうにある機械の固い感触。
その二つを拳に感じて見下ろす先で、ウサロボは俯けに倒れてピクリとも動かない。

「あ、あー! よ、よよよよ400万がー!」

「いや、流石にその叫びはどうよ会計ねーちゃん」

一人冷静にプッチャンが突っ込む中、ウサロボは何事もなかったかのように立ち上がり、
黒い目を赤く変化させる。
その内部からブーブーというブザー音を発生させる。
もの凄く嫌な予感を経験から感じた恭也が忍へと顔を向けると、苦笑いと共に冷や汗を頬に流す忍と目が合う。

「あ、あははは。一定以上の攻撃を受けた際に発動する特攻モードが入っちゃったみたい」

「お前はどうして、そんな危なげな装置ばかりつける。
 いや、今は良い。で、それが入るとどうなる」

「えっと、無差別攻撃を開始す……」

忍が言い終わるよりも前に、ウサロボの右腕、手首から先がぽとりと落ち、中から機関銃を思わせる筒を覗かせる。
左腕は肘から大砲のような、右腕よりも直径の大きな筒を。
そして、それぞれが一斉に火を噴く。
流石に実弾ではないようだったが、かなりの速さで打ち出されたBB弾はそれなりに痛い。
右腕からはマシンガンのように吐き出し、左肘からは散弾銃のように一度に一気に大量の弾が吐き出される。
それらが火を噴く寸前、恭也は奏を抱きかかえるとその場からすぐさま飛び退き、
充分な距離を空けて、近くにあった机を盾代わりに立ててその後ろへと奏と共に隠れる。
万が一の場合に備え、奏を下にして覆い被さるようにして胸に奏の頭を抱きながら、
少しだけ顔を出して様子を窺う。
流石に隠密のトップである二人は大したもので、恭也と殆ど同じぐらいに反応を見せて、
その場から飛び退いて物陰にしっかりを身を置いている。
奈々穂は自分に当たる弾だけをヨーヨーで弾き、小百合とれいんは共に木刀とカードで弾を防いでいる。
美由希は迫るそれを躱しながら、隠れる場所を探す。
偶に当たっては痛いと言っているが、大した被害はなさそうなので放っておく。
忍とまゆらの前にはノエルが立ち、二人を庇っている。
香はシンディを庇うように立ち回り、りのにはプッチャンが付いている。
全員の無事を確認すると、恭也はどうしたもんか考える。
まあ、BB弾だから当たれば痛いだろうがそれほど酷い被害もないだろう。
弾が切れるのを待つかと考える恭也の下から、奏の楽しそうな笑い声が届く。

「奏、一応笑っていられる状況ではないんだが」

「だって、楽しいんですもの」

「いや、俺は全然楽しくないぞ」

「そう? 私は楽しいけれどね」

「はぁー。奏が楽しんでいるのなら、まあ、俺も楽しいかな」

「ふふふ。でも、いつまで続くのかしらね。後でお掃除が大変そうね」

「それは当然、忍にやらせるさ。にしても、いつまで続くんだ。
 あのペースで弾を吐き出していれば、そろそろ尽きても可笑しくはないだろうに」

そう思って恭也が除くと、丁度弾が切れたのか、ウサロボの腕からは何も出てこない。
と、背負っていたリュックからアームのようなものが出てきて、銃身を掴んで腕から引き抜く。

「子供にはあまり見せれない光景ですわね」

「なまじ外見が可愛いだけに、変なトラウマになりそうですね〜」

そんな呑気な隠密な意見が響く中、引き抜かれた銃身の後から、右腕からはまたしても銃が、
左腕からは鞭が出てくる。

「ふっ、完璧だわ! 弾切れした場合、マガジンを変えるのではなく銃そのものを持ち変える。
 しかも、より強力なのにね。あの銃は電気銃よ!
 そして、左腕のあの鞭はただの鞭じゃないわよ。静かなる蛇を参考にして作った、電気鞭よ!
 まあ、電力の関係で試作機のはどちらもそこまで強くないけれどね。
 精々が数分痺れる程度かしら」

さっきよりも脅威の増したウサロボに、恭也は再び溜め息を洩らす。
それがくすぐったかったのか、奏は小さく身じろぎするが何も言わない。

「んー、流石にそろそろ止めないといけないかしら」

「だろうな。電気系の武器になった以上、避ける以外の行動は危ない」

恭也の言葉通り、BB弾を弾いていた奈々穂たちも今度の攻撃には躱す事で対処している。
ノエルでさえも、忍とまゆらの二人を抱えて躱すという行動に出ている。
ウサロボは外見とは裏腹に、だが忍のコンセプト通りに素早い動きで部屋の中を駆け抜けると外へと出て行く。

「まずいぞ。まだ生徒が残っているというのに」

奈々穂が上げた言葉に、恭也がすぐさま指示を出す。

「久遠は隠密に連絡して、生徒たちをそれとなく校舎から出すようにしてくれ。
 後、あのロボットの行方を探索。奈々穂は遊撃を率いて、あれを追ってくれ。
 この際だ、破壊も許可する」

「えー!」

『了解』

避難の声を上げる忍を無視し、恭也の出した命令へと返事を返すと動き出す。
恭也は立ち上がると奏へと手を貸しながら、忍へと視線を向ける。
こっそりと逃げようとした忍の襟首をノエルが、その腕をまゆらがしっかりと掴んでいた。

「まゆら、ノエルご苦労。間違いなく、今回の功労者だぞ二人とも」

恭也の言葉に笑みを見せつつ、二人は忍を恭也の前へと引っ張っていく。

「さて、何か言いたい事はあるか?」

「え、えへへへ。ちょっとしたミスってやつよ」

「ほう、ちょっとしたミスねぇ。
 今月に入ってお前のそのちょっとしたミスとやらでどれぐらい騒動が起こったか覚えているか?」

「お、覚えてないかな〜」

「今月に入って、もう四件、今日のを入れると五件よ、忍ちゃん」

「ありがとう、聖奈」

「いえいえ〜」

恭也の礼の言葉に変わらない笑みで返すと、聖奈は久遠と共に隠密へと指示を出す。
それを横目に眺めつつ、恭也は忍へと視線を戻す。

「で、他には何を仕掛けている」

「な、何が?」

「あのロボットだ」

「さっきから言おう、言おうと思ってたんだけれどロボットじゃないわよ。
 アンドロイドと言って。正式型番は、ST02−000プロトタイプウサギ型ね」

「どうでも良い」

「よくないわよ!」

「……お前、自分がした事をまだ分かってないみたいだな」

すっと細められた目から見下ろされ、忍は力ない笑みを見せる。

「あ、あはははは。ロボットで良いです、はい」

「で、他に何か変なものを装備させてないだろうな」

「変ってのはなによ」

「良いから、さっさと言え」

恭也の言葉に剥れつつも、忍は口を開く。

「他の装備は耳に仕込んだナイフが計二本でしょう。因みに、ノエルのブレードと同じ素材よ。
 微振動できるように研究中なんだけれど、まだこれは実装してないのよね。
 だから、ただのナイフね。今の所は。後は、足に小型のミサイルポッドを二基搭載。
 こっちはBB弾じゃなくて、ロケット花火だけどね。
 で、これが最強兵器よ! 目からビーム! これは外せないわよね!
 本当はドリルも付けたかったんだけれど、収納スペースがなくてね。
 あ、目からのビームは今のところ本物はでないわ。ビーム兵器って実用が難しいのよ。
 だから、今はただレーザーが出るだけなのよね。
 で、背中に背負ったリュック型バックパックには、細かい操作用の手以外にも予備電源になっているのよ」

「…………結局、前の物騒なものを小型化しただけか」

「えー、積んでる武器が違うでしょう」

「前よりも酷いわよ!」

忍の言葉に、それまで黙っていたまゆらが叫ぶ。
それらを眺めつつ、恭也は小さく肩を落とすと奈々穂へと今の情報を伝える。
見えないが、電話の向こうでも明らかに呆れたような声で溜め息をつくのが分かる。

「ともかく、一般の生徒に被害が及ぶ前に何としても止めるんだ。
 頼むぞ」

そう言って電話を切ると、恭也は疲れたように声を出す。

「はぁー、疲れる」

呟いて席へと座り込む恭也に、久遠が苦笑してみせる。

「本当に次から次へと色々起こりますね」

「平穏が一番だと思うんだがな」

言って苦笑する恭也に、奏は小さく笑みを浮かべる。



  § § §



「おい、居たぞ!」

プッチャンの言葉に頷くと、奈々穂はウサロボへと攻撃を仕掛ける。
それを素早く回避すると、ウサロボは銃を撃ってくる。
それを壁にへばりつくようにして回避する。

「くっ、厄介だな。お前なら電気は利かないんじゃないか」

「まあ、俺には利かないかもな。やってみないと分からんが。
 だが、りのには間違いなく利くぞ」

「そうだったな。くっ、掠ることすら危険とは。
 忍も面倒なもんを作ってくれる」

「所詮はマッドって事か」

「もう、プッチャンったらそんな事ばかり言って」

「事実だろう」

「危ない、りの」

喋っている間に攻撃をされ、奈々穂はりのの腕を掴んで下がる。

「くっ。足に喰らった。確かに、痛みは殆どないが痺れるな。
 当分、動けない」

「副会長さーん。ごめんなさい〜」

「いや、りのの所為じゃない。それよりも……」

奈々穂が視線を前方へと向ければ、動けない奈々穂へとじりじりと近づいてくるウサロボの姿が。
りのは両手を広げて奈々穂の前に立つ。
足が震えるも、奈々穂を背後に庇う。

「ちょーーっと、待った、ストップ、停止!
 それ以上はやらせないよっ!」

今まさにりのへと銃を放とうとしたウサロボへと、れいんのカードが迫る。
それを壁に張り付くようにして壁を登って躱す。
そのまま天井に逆さまに立つと、れいんへと銃を向ける。
しかし、それはれいんの後ろにいた小百合が押し倒すようにして躱す。
流石に不利と悟ったのか、ウサロボは天井を走って逃げる。
その光景を見ながら、奈々穂は溜め息を付く。

「はぁー。忍の奴め。れいんと小百合は後を追ってくれ」

「了解で、ラジャーで、分かりましたっ! 小百合、行くよ」

「ああ」

れいんと小百合の二人はウサロボの去った方向へと走る。
しかし、既に姿は見えず困ったように周囲を見渡す。
階段へとやって来たれいんは、下と上を交互に見て小百合へと振り返る。

「どっちに行ったと思う?」

「そうだな…………、れいん!」

どっちに行ったのか考えていた小百合だったが、その視界の隅に動くピンクの物体を捉えた瞬間、
考えるよりも先に身体が動いて、れいんを引っ張る。
さっきまでれいんが居た場所を電気銃が走りぬける。

「助かったよ、小百合」

「いや。それよりも……」

小百合の言いたい事を察し、すぐさまれいんは行動に移る。
上へと続く階段の踊り場で銃を構えるウサロボへとカードを投げる。
その間に小百合が階段を駆け上り、距離を詰める。
電気銃を撃とうとすると、れいんのカードが邪魔をして、小百合の接近を許してしまう。
小百合が木刀を振り下ろす。
その木刀を躱すべく後ろへと下がるも、電気銃が半ばから叩き折れる。
そこへ追撃をかけるべく、小百合が迫り退路を防ぐようにれいんのカードが飛ぶ。
ウサロボは左腕を振るう。
鞭が弧を描いて小百合の足を狙う。
それを跳んで躱すが、僅かに腕に掠る。
腕に走った痺れに顔を顰める小百合に鞭が再び迫るが、それはカードによって弾かれる。
れいんは小百合の傍へと駆け寄る。

「大丈夫、小百合」

「ああ、問題ない」

言って片手で木刀を構える小百合。
そこへ美由希と香も駆けつける。
上から来た二人により、完全に挟み込まれたように見えたが、ウサロボには壁に張り付くという機能があり、
またしても壁に立つと鞭を滅茶苦茶に振り回す。

「わ、危ない、デンジャー、危険。
 あの鞭がある限り、近づけない」

「仕方ない。美由希、後は任せる」

言うと小百合は鞭の乱舞へと飛び込む。
小百合の意図を察し、れいんはカードを次々に放つ。
鞭によって叩き落されるカードの束。
しかし、れいんは気にせずにカードを放つ。
カードに鞭が当たる瞬間、ほんの少しだが鞭が止まる。
それを狙い、小百合は木刀を振り下ろす。
身体を電気が流れるのに耐え、小百合は木刀に鞭を巻くと力任せに引き抜く。
流石にそれ以上は立っていられずに膝を着く。

「美由希、今!」

れいんの声に香と美由希がウサロボへと飛び掛かる。
ウサロボは天井へと逃げながら、リュックから伸びた手で二つの耳を手にすると、それを刀のように抜き放つ。

「香ちゃんは小百合たちをお願い。流石にあの刃物を素手では危ないし」

「分かりました」

天井を走って逃げていくウサロボを追いかける美由希の背中を見送り、香は小百合へと肩を貸す。

「保健室に運びましょうか」

香とは反対側を支えながら、れいんは小百合を見る。

「うーん、本当に痺れだけみたいだし、生徒会室で良いんじゃないかな」

「ああ、れいんの言う通りだ」

「分かりました。それじゃあ……」

れいんと二人で小百合を支えながら、香は生徒会室へと向かう。
一方、ウサロボを追って美由希は屋上へと来ていた。

「ここなら誰も居ないから、思う存分にやれるよ」

言うと美由希は手にしていた木刀を置き、手を制服の背中側へと伸ばす。
中から一刀の小太刀を抜き出すと、ウサロボへと向かう。
ウサロボも二本のナイフを手に美由希へと向かう。
思ったよりも鋭い斬撃に驚きつつも、美由希はそれを難なく捌く。
何度目かの打ち合いの後、美由希の手首が翻り、弾いた左のナイフを持つ手へと小太刀が向かい、
そのまま斬り飛ばす。

「後、一本」

慎重に距離を見据えながら、美由希は足を擦りながらウサロボへと近づく。
身長が低すぎて少々やり辛くはあるが、何とかなりそうだと考える。
それでも、決して油断する事なく、次の動きに備える。
と、ウサロボがその俊敏さを活かして真っ直ぐに突っ込んでくる。
その事に驚きつつも、美由希は静かに待ち構える。
と、そこ目が光り、口が開く。

「えっ!? く、口!?」

全く聞いていなかった所が動き驚く美由希へと迫りつつ、その口から言葉が放たれる。

「喰らえっ! 必殺ビーム!」

「うそ! ビームはまだ装備されてないって!」

言いつつも美由希は目から放たれるそれを躱す。
が、肩に当たる。

「……あれ? 痛くない」

それは恭也から奈々穂へ、奈々穂から遊撃へと伝わった情報通りにただのレーザーで痛みも何もなかった。
ただ、それを放つ際に叫ぶという無駄な機能があるという事を知らず、
思わず躱してしまった美由希は、腰を地面に着けたとても悪い態勢にあった。
そこへウサロボのナイフが迫る。
今までの武器とは違い、唯一の凶器を眼前に見据えながらも、美由希はそれを転がって避けようとする。
が、ウサロボの振り下ろされる腕が一瞬止まる。
その一瞬はこの距離、相手を前には致命傷で、美由希は下がるのを止めて小太刀を突き出す。
美由希の小太刀がウサロボの身体を貫き、ウサロボは機能を停止して止まる。
もう動き出さない事を確認すると、美由希は恐る恐るウサロボを拾い上げる。
ナイフをその手から取り上げ、生徒会室へと連絡するのだった。



  § § §



「お疲れさま、美由希さん」

生徒会室へと戻った美由希へと、奏が労いの言葉を投げる。
忍は無残に壊れたウサロボを悲しげに見詰めるが、勿論、誰も同情はしない。
それよりも、その横でソロバンを力なく弾くまゆらにこそ、同情の念が飛ぶ。

「よくやったな、美由希」

恭也からも褒められて嬉しそうに頬を緩めつつ、美由希はウサロボを机の上に置く。

「おおー、こんな無残な姿にぃぃぃ。って、胸を一撃って。
 酷いわ、美由希ちゃん。備品の破壊よ!」

「えっと、流石に私の方が危なかったんで」

あの時、一撃で仕留めていなかったら、間違いなく自分は何らかの怪我を負っていたはずである。
美由希の簡単な報告を聞きながら、奈々穂は美由希の判断は正しかったとする。

「痺れる程度の電気なら兎も角、ナイフを手にしていたのなら身の安全を図るのが第一だ。
 よって、私は美由希の判断は正しかったと思いますが」

言って奏と恭也へと視線を向ける。
恭也が奏を見ると、奏は小さく頷く。
それを受けて恭也が奈々穂と忍へと言う。

「問題ないだろう。第一、試作機で試験運転も済ませていないんだ。
 ならば、まだ備品扱いをする必要もないし、そのような申請も聞いてない」

「う、うぅぅ。私の苦労が…………」

嘆く忍へとノエルがそっと寄り添う。

「元気を出してください、忍お嬢さま。
 それに、まゆら様は忍お嬢さまの所為で、これから苦労をしなければならないのですから」

「うぅぅ、全然慰めになってないわよ」

「はい、慰めていませんから」

流石に今回の件はフォローし切れないと思ったのか、ノエルは忍へとそう切り返すのだった。
まあ、これに懲りて大人しくなるとは誰も思ってないのは当然なのだが。



騒動を終え、全員で帰宅へと着く。
その帰り道、美由希はそっと一番後ろを歩く恭也の横へと並ぶと、
他の誰にも聞こえないぐらいに小さな声を出す。

「恭ちゃん、途中で席を立ったんだって?」

「ああ。ちょっと所用でな。
 まあ、現場での判断任せになっていたから、俺が少し居なくても問題ないだろうと思ってな。
 だが、すぐにもっどて来たはずだぞ。職員室に行っただけだしな」

「ふーん。まあ、その用事が何だったのかは聞かないけれど。
 はい、これ」

言って小さく手を差し出す。
それを受け取りながら、恭也は首を傾げる。

「何だ、これは?」

「七番鋼糸だよ」

「これがどうかしたのか?」

「うーん、どうしたんだろうね〜。ちょっとした所に落ちてたんだけど」

「そうか。お前が落としたんじゃないのか」

「まあ、そういう事にしておくよ。でも、お礼だけは言わせてね。
 ありがとう」

「よくは分からんが、俺は礼を言われるような事をした覚えはないがな」

「うん、私が言いたかっただけだから」

「そうか」

それだけ言うと口を噤み、美由希は小百合とれいんの元へと駆け寄る。
三人で何やら話し始めるその背中を見詰め、恭也はそっとその鋼糸をポケットへと仕舞う。

「恭也は妹に優しいからね」

「奏か。あいつは妹ではなく弟子だがな」

「でも、妹でしょう」

何もかもお見通しとばかりに柔らかく笑う奏に、恭也はやっぱり敵わないと小さく笑みを返す。

「それにしても、今日も楽しかったわね」

「いや、流石に今日のような出来事はないに越した事はないと思うがな」

「ふふ、お疲れさま」

「本当に疲れた。帰ったら、奏の淹れたお茶でも飲みながらゆっくりしたもんだ」

「だったら、先日届いた茶葉を出してあげるわ」

「そうか。なら、楽しみにしておこう」

楽しそうに話しながら帰宅するりのたちを優しく見詰めながら、奏と恭也もまた楽しく笑うのだった。





続く




<あとがき>

忍の発明の巻き〜。
美姫 「いやはや、騒動を起こす発明ね」
あはは〜。まあ、ちゃんと機能しているものもあるんだけどな。
美姫 「この後、忍はどうなるのかしらね」
そりゃあ、たっぷりとまゆらの説教地獄だろう。
美姫 「まあ、仕方ないわよね」
うんうん。さーて、次回はまた大変な出来事が。
美姫 「一体何が起こるのかしらね」
それではまた次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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