『海鳴極上生徒会』






第14話 「予算がある!?」





放課後の生徒会室。
今、ここはかつてない程の緊張感によって満たされていた。
全員が部屋の奥側に置かれた円卓に着いており、手元に置かれた書類らしき纏められた用紙に視線を落としている。
会長である奏の右隣に座った恭也は無言でそれを捲る。
恭也とは逆側、左隣に座っている書記のりのもまた珍しく緊張したような面持ちでこの会議の成り行きを見詰める。
無言のままで頬に手を当てて事態を見守る奏の前で、恭也の隣に座る久遠が重々しく口を開く。

「そういう訳ですので、これはうちが頂きます」

「何がそういう訳だ。それで納得できるわけないだろう」

久遠の発言が終わるや、りのの隣に座る遊撃を束ねる奈々穂が反論する。
先程からこの二人が口論を展開し、会議は全く進んでいないのである。
この議題自体はこうなるかもしれないと予測していたまゆらによって、一番最後に持ってこられていたため、
会議そのものはこれを除けば無事に終わったとも言える。
問題はこの議題に関してはどちらも全く譲る気配を見せないという事である。
余剰分の予算が出たので、それをどうするのかというこの議題に。
当然のごとく遊撃が追加予算の申請を出せば、隠密もまた負けじと出してくる。
共に予算は既に組まれているのだが、この余剰予算を手に入れようと必死である。
隠密はその活動から非常時に備えての蓄えを持っておきたいと主張し、
遊撃は校内のセキュリティ設備に使いたいと主張する。
延々と続く二人のやり取りに、他のメンバーは疲れを見せ始めている。

「このままだと決まらないだろうし、ここは発明部が貰うって事で良いんじゃないかな、まゆら。
 うちもうちで色々と購入するのに予算は大いに越した事ないし」

ちゃっかりと漁夫の利宜しく横から掠め取ろうとする忍。
しかし、それは久遠や奈々穂が止めるよりも先にまゆらが反対をする。

「忍には前回の反省も踏まえて今回の追加予算は一切認めません!」

「えぇー! 会計横暴!」

「横暴でも何でもありません。
 そもそも、前に予算がなくなった原因は何だったのかもう忘れたんですか!」

「う、それを言われると辛いんだけれど」

流石に予算を使い切る所かマイナスにしてしまった件を持ち出されて忍も強くは出れない。
そんな忍を助けるように奏がまゆらをとりなす。

「まゆらさん、そのぐらいで良いんじゃないかしら。
 月村さんも充分に反省しているみたいだし」

「……会長がそこまで仰られるのであれば」

「うぅぅ、会長ありがとうございます。
 そんな訳で、我が発明部も追加予算を請求するわ!」

久遠と奈々穂に対して宣戦布告するかのように指を突きつける。
これにより車両部以外が追加予算を手に入れるべく三つ巴となる。

「シンディはいらないのか」

「イエス」

何も言わない車両部のシンディに恭也が尋ねれば、シンディは短くそう返す。
新しく買う乗り物もなく、修理などに掛かる予算はちゃんと組まれているので文句はないという事だろう。
シンディの返答を聞き、恭也はさっさとこの会議を終わらせるべく主に三人に向かって告げる。

「ならば、三等分すれば良いな」

だが、恭也の出した案に三人が三人とも否定を始める。
そうしてまたしても三人で言い争いを始める中、まゆらが控えめに恭也に進言する。

「恭也さん、予算が少し余っているとはいえそんなに多い訳でもないですし、前の件も考えて取っておくというのは」

いつまで経っても終わりそうにないと感じ、また忍を嗜める際に持ち出した前回の件の事を思い出してそう告げる。
言われた恭也は確かにその通りかもしれないとまゆらの意見に頷くも、既に三人はその発言を聞いておらず、

「だったら勝負して決めよう!」

「あら、奈々穂さんにしては良い案ですわね」

「オッケー。勝ったものが頂くって事ね。恨みっこなしよ。
 発明部の潤沢な予算のためにも負けられないわ!」

火花を散らす勢いで勝手に話を展開させる三人。
そこに不穏な空気を感じつつもまゆらが勇気を出して割ってはいる。

「忍? 潤沢といってもそんなにたくさん余っている訳じゃなくてね。
 更に言わせて貰えれば、これは何かあった時のためにとっておきたいんです!
 たった今、恭也さんから許可も貰いましたし!
 ねぇ、聞いてくれてますか皆さん!」

結論から言えば、誰も聞いていない。
それどころか何で勝負するかという話になっており、
それまでやる気のなかった他のメンバーまでもが面白くなってきたとばかりに目を輝かせる始末である。

「あうあう、きょ、恭也さ〜ん」

結局、会長補佐に泣きつくしかできず、目で止めるように訴える。
が、既にそれらの行動は全て遅く、まゆらの訴えも虚しく、既に三者はやる気満々で互いを探り合う目で牽制し、
今更やめろと言っても止まらない状態であるのは目に見えてはっきりと分かる状態である。
そんな中、りのはぐったりと机に上体を預けるように倒れる。

「はぁぁ、お腹が空いた〜」

全く緊張感のないりのに、ある意味大したものだと感心しつつも、
まゆらはがっくりと肩を落として成り行きを見守る事にする。いや、そうする事しかできない。

「ふふふ。りの、もう少し我慢してね」

「はーい。今日の晩御飯は何かな〜。管理人さんのご飯は美味しいから大好きです♪
 ねぇ〜、プッチャン」

奏の言葉に笑顔で返しながら、りのはプッチャンへと話し掛ける。
話し掛けられたプッチャンもすぐに同意し、管理人の料理を褒める。

「あの年であそこまでの腕を持っているなんて、本当に大した奴だぜ。
 料理が出来るというのは、かなりポイント高いからな。そう言えば、この生徒会の連中はどうなんだ?」

「どうとは、料理が出来るかどうかという事か」

「おう。殿は……」

「まあ、簡単なものなら作れるぞ」

「ほうほう。なら会長さんは?」

「私も少しだけ」

奏が柔らかく微笑みながら返した言葉に、りのが今度作ってくれるようにねだる。
それを快諾する奏からプッチャンへと視線を戻し、恭也は言う。

「少しと言うが、それは謙遜だからな。まあ、奏は本気でそう思っているのかもしれないが」

「という事は、会長さんはかなり出来るって事か」

「ああ。かなり美味いぞ」

「ほーう、殿がそこまで言うとは。なら、俺も食べれる日が来るのを楽しみにさせてもらうぜ。
 で、他の連中は……」

言って未だに言い争っている三人を見て肩を竦めるプッチャンであったが、不意に思いついたように口を挟む。

「副会長さんよ、その勝負料理対決ってのはどうだ」

「料理ですか?」

プッチャンの言葉に久遠が最初に反応し、忍や奈々穂は少し考え込む素振りを見せる。
その間、りのが楽しそうにプッチャンの言葉に対して尋ねる。

「プッチャン、それってアレ? どっちの〜、とか」

「いや、そうじゃなくてそれぞれの部で料理を作って試食するんだよ。
 で、審査員による審査で決着をつける。面白そうだろう。しかも、審査員になれば料理が食べれるぞ」

「わーい、ご馳走だー! わたし審査員やりたいな」

既にご馳走なのは決定なのか、りのがそう口にする。
途端、奏がりのにやりたいのか確認し、それをりのが肯定するなり恭也に顔を向ける。
それで全てを理解し、恭也は肩を竦めつつも言い争いの止まっている三人に告げる。

「そういう事で料理対決となったがどうする?
 他に何かあるのなら聞くが」

一方的に決めるのも何なので、一応三人に尋ねる。
その言葉に久遠は真っ先に自信を持って返す。

「私は構いませんわよ。もっとも遊撃を束ねる方がこの勝負を飲むかどうかは怪しいですが」

「な、何だと! 受けてやろうじゃないか。料理ぐらい……、う、うちには香がいるんだ!」

「ふふん、この勝負もらったわ。うちにはノエルが居るんだもの。楽勝よ♪」

「ノエルは発明部所属だが立場的に今回は協力しないでくれ」

久遠以上に自信満々で言い放つ忍であったが、恭也のその言葉にその顔が引き攣る。

「忍、どうかしたのか。顔色が悪いようだが。今ならまだ恥をかく前に降りる事もできるぞ?」

「な、何でもないわよ!」

引くに引けなくなり忍は奈々穂の言葉に語尾を荒げて返し、改めて料理対決に応じる。
再び静かに火花が散る中、決して大きくはない声なのに二人の耳にはっきりと届く。

「え、えっと、私は遊撃であり隠密だからどっちに参加したら良いのかな……」

そう困り顔で美由希が一人呟いた瞬間、

「美由希、お前は隠密だ! だから、向こうを手伝え!」

「いいえ、美由希さんは普段は主に遊撃として動いてらっしゃるのですから、遊撃ですわ」

「なっ! 有事の際は隠密の方が優先順位が上だと言って使うじゃないか!」

「あら、それに文句を言うのは奈々穂さんですわよ。
 それに今は美由希さんほどの方を使うような有事ではありませんし。どうぞ、平時通りに遊撃で」

「予算を巡って争っているんだから、充分に有事だろう!
 悔しいが美由希はそっちにくれてやるよ。貴重な戦力をあげると言っているんだ、喜んで受け取れ」

両者が真剣な顔で睨み合い火花を散らす中、忍は額に浮き出た汗を清々しい笑顔で拭い去る。

「間違いなく、美由希ちゃんは発明部じゃないからね。まあ、頑張って美由希ちゃん♪」

「は、はぁ……」

忍の言葉に曖昧に返す美由希を他所に、久遠と奈々穂の言い争いは激化していく。

「とにかく、ハンデとして戦力をやると言っているんだ、ありがたく受け取っておけ」

「ハンデですか? それならそちらの方がより相応しいのではなくて?」

「はっ、後で戦力不足と泣く前に戦力をあげるって言ってるだからありがたく頂戴しておけば良いんだ」

「ありがた迷惑というものですわ。
 それに、そんなに貴重な戦力なら尚の事、無理に引き抜くのは申し訳ないですわ。
 後になって戦力を取られたからと言われるのも嫌ですから、どうぞ遊撃でお使いください」

「そんな事は言わないさ。だから隠密の手伝いを……」

「いえいえ、遊撃で……」

「……そうだ、忍の所は忍一人だろう」

「あら、そう言えばそうですわね。ノエルさんが参加できないとなると、さぞかし困るでしょう」

不意に飛び火した話に忍は始めはきょとんとするもすぐに首を横に何度も激しく振る。

「いやいや、美由希ちゃんは発明部とは何の関係もないから、いらない、いらない。
 そっちで取り合って」

「いやいや、勝負はやはりフェアにいかないとな。と言うわけで、遊撃から発明に派遣しよう」

「隠密もそれに賛同しますわ。これで両部から許可が下りた形になりますから、どうぞ遠慮しないでください」

「いやいや、流石に貴重な戦力をただで借りるのは申し訳ないって。
 だから激しく遠慮しておくわ」

二人の言い争いから三人へと発展し、互いに言い争いを始める。
内容が変わっただけで、先程と同じような展開が目の前で繰り広げられる。

「あはは、私を取り合って言い合っているなんて、ちょっと快感かも♪」

そんな三人の論争を聞きながら、美由希は一人悦に入ったように笑みを零すのを見ていたプッチャンが、
素朴な疑問として恭也に尋ねるのは自然のことだろう。

「なあ、殿。俺には取り合っているんじゃなくて、押し付けあっているように見えるんだが?」

「……まあ、夢を見るのは個人の自由だ。好きにさせてやってくれ」

「という事は、やっぱり間違いじゃないんだな」

「……」

その無言が肯定を示していると理解し、プッチャンは遠くを見る目付きになると、

「現実はいつだって辛いもんだな。せめてもの救いは本人が気付いていない事か……」

まるで黄昏るかのように呟くのであった。
結局、最後まで美由希の押し付け合い、もとい取り合いは決着がつかず、それは後日ということになる。
というよりも、流石に本気で終わらないと感じた恭也がやや強引にそう取り決める。
その上で改めて料理勝負をすると宣言し、審査員を執行部の四人と車両部のシンディ、それにプッチャンで行うと告げる。

「それで何を作れば宜しいのですか。それとも、何でも良いのかしら?」

久遠の質問に恭也は言い出したプッチャンを見れば、プッチャンも特にその辺りは考えていなかったようで、
その目がりのへと向かう。
だが、その視線を向けられたりのはその意味を理解しておらず、ただ笑顔を返すだけであった。
そこへ奏が取り成すようにりのへと質問する。

「りのは何か食べたいものとかある?」

「食べたいもの? うーん、うーん、あ、デザートとか!」

「デザート? なるほど、スイーツだな。
 よし、スイーツで勝負だ!」

プッチャンがそう宣言する中、甘いものが苦手な恭也が少しだけ顔を顰める。
だが、既に他の面々はそれでやる気になっているので恭也は仕方ないと観念する。
こうして、生徒会の予算を掛けたスイーツ大会が行われる事となるのであった。





続く




<あとがき>

今回は料理勝負ネタ〜。
美姫 「対決はスイーツなのね」
ああ。このまま一気に料理対決まで書いてしまうかどうかで悩んだんだが、そちらは次回に。
美姫 「短いんだから、そこまで書けば良いのに」
がっ! む、胸に突き刺さる言葉の暴力。
美姫 「はいはい、バカ言ってないでさっさと続きを書きなさい」
へいへい。それではまた次回で。
美姫 「まったね〜」







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