『海鳴極上生徒会』






第18話 「合宿スタートです」





「という訳で、夏休みも早くも二日目〜! 長い夏休みも残すところ、まだたくさん。
 皆さん、宿題はもう済みましたか? まだの人はちゃんとこれからの計画を立てないといけませんよ」

合宿当日、寮の前に集まった生徒会メンバーたちであったが、行き成りテンションも高く忍が飛ばしまくる。
それに対し、呆れたような溜め息を吐きつつ、それでも相手してやる恭也。

「計画も何も、そもそも二日目で終わっている奴がいるのか?
 お前だって終わってないのだろう」

「はーい、わたしもまだでーす」

恭也の言葉に答えたのは忍ではなくりのであった。
こちらも忍ほどではないがテンションも高く、手を高々と上げて答えている。

「りのちゃん、宿題は計画的に、よ」

「はーい」

「31日に泣きついてきても、お母さんは手伝いませんからね」

「頑張りま〜す」

「はぁ、忍の奴はどうしてあんなにテンションが高いんだ」

りのが忍の相手をしてくれるので任せ、恭也は出発前だというのに疲れた声を出す。

「お疲れ様です、恭也様。毎度の事ながら忍お嬢様がご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

そんな恭也に労いの言葉を投げつつ謝ってくるのは、忍の専属メイドであるノエルである。

「いや、ノエルが謝る事じゃないだろう。
 にしても、いつになく飛ばしているな」

「はい。実は昨日、正確には一昨日終業式が終わってから殆ど眠っておられませんでしたので、
 多分それが原因ではないかと思われます」

「……また何か作っていたのか」

「はい。重ね重ね、忍お嬢様がご迷惑をお掛けする事になるかもしれませんが……」

これから何か起こるかもしれないと先に謝罪を口にするノエル。
流石にこれには恭也だけでなく、話を聞いていた久遠や奈々穂も顔を若干引き攣らせている。

「今回は学園内とは違うんだ。程々にするように釘を刺しておいてくれ」

「その点は大丈夫です。今回は何も怪しいものを持ってきていないのを確認しておりますので」

それでも、夏休み中にはまた発明絡みで何かが起こるんだろうな、と誰もが容易に想像でき、
ノエルの未来に対する謝罪がそれを指しているのだろうとも理解する。
同時にノエルに対して同情する視線が複数飛ぶ中、最も巻き込まれる回数の多い恭也は、ポンとその肩に手を置くと、

「まあ、今回の合宿場所は温泉だから、ノエルもゆっくりと休養すると良い」

「お心遣い感謝いたします。恭也様も休養を」

互いに力ない笑みを交換し合う二人であった。

「恭也さん、バスも来た事ですし出発しましょうか」

聖奈の言葉に頷き、荷物を手に持つ恭也。
見れば、忍はいつの間にか荷物を先に乗せ終え、その手にツアーコンダクターが持つような三角の旗を手にし、

「はーい、それじゃあ忍ちゃんと愉快な仲間たちのドキッ道の旅湯煙浪漫連続殺人事件、完全アリバイを崩せ、
 事件の鍵は七年前の失踪事件!? 難事件にあの迷探偵が挑む 迷子探偵美由希シリーズ第十二弾ツアー出発〜!」

「いや、もうあれは放置しておこう」

「忍さん、迷子って何ですか!? そんなに迷子になりません!
 しかも、めい探偵の所が何か引っ掛かるし! おまけに第十二弾って、シリーズもの!?」

疲れた顔で早々に忍を放置する事に決めた恭也と違い、美由希が思わず突っ込みを入れる中、
他の者たちはバスへと乗り込んでいくのであった。



「皆さん、右手をごらんください。それが窓です。
 続いて左手をごらんください。この辺りから下に向かって伸びている線、それが生命線です」

自らの左手を広げて見せ、右手の指ですっとなぞりながら説明する忍。
既に聞いている者がいるかどうかも怪しいのだが、忍は一人続けてガイドみたいな事をしていく。
のだが、流石に反応がなくて飽きたのかブーブーと口で言い出す。

「無視なんて酷いじゃない!」

「そんな事は良いから、大人しく座ってなさいよ忍」

「まゆら、そんな事って酷い! 徹夜して旗まで作ったのに!
 まあ、実質一時間も掛からなかった上に、ノエルに頼んだんだけれどね。
 それでも、せめて突っ込みぐらいはしてよ」

「突っ込みも何も、そんな暇もなく一人で喋っていて何を言うかな、このマッドは。
 なぁ、りの」

「うーん、プッチャン、わたしの生命線ひょっとして短いかも」

「なにぃ!? どれどれ……って、手相なんて分かるか!
 心配するな、りの! 俺なんか生命線はおろか、金運その他、どんな線もないぞ!」

「あ、本当だね」

「はっはっはー。だから、細かい事を考えるな!」

何だかんだと言いつつ、プッチャンもまたテンションが高かった。

「小百合、これ食べる」

「れいん、さっき朝食を食べたばかりじゃない」

「いやー、ほら甘いものは別腹と言うじゃない。
 あっしの身体が甘いものを要求して、求めて、渇望しているんだよ」

早速お菓子を頬張りだすれいんに呆れつつも仕方ないといった感じの小百合。
その後ろでは奈々穂と久遠が何やら言い合いを始めており、
ノエルは運転しているシンディに疲れたら代わると声を掛け、香は美由希と二人でガイドブックを覗いている。
バスの中と言う違いはあるが、そこには普段の生徒会室とあまり変わらない様子を見せるメンバーたち。

「何処に行ってもこいつらは変わらないと言うか……」

「あら、皆、楽しそうで良いじゃない」

「誰も悪いとは言ってないだろう」

一番後ろの席で恭也と奏は生徒会メンバーを見ながら、そう感想を漏らす。
それを聞いていたのか、聖奈がいつもと変わらない笑みを湛えたまま振り返る。

「恭也さんも楽しまないと損ですよ〜」

「充分楽しんでいるさ」

そう答えた恭也に、奏と聖奈は顔を見あせて小さな笑みを見せるのだった。
極上生徒会のメンバーを乗せたバスは、こうして一路温泉街目指して走って行く。

「まさか、その先にあんな事件が待っているなんて、この時は微塵も思ってもいませんでした。
 ……ええ、良い人だと思っていたんですけれどね。確かに無愛想な人でしたけれど」

言いながら忍は自分の目の前で両手の指をひらひらと動かし、恐らくはモザイクのつもりなのだろう、
声を若干高めにしてそう言うと、マイクを美由希に向ける。

「それで、今回の加害者Kさんは普段はどういった感じだったんでしょうか」

「え、え。えっと、い、いつかはやるんじゃないかと思ってました。
 普段から言われなき暴力を振るい、暴言を吐いてましたから。もう何度も止めてと言ったのに。
 うぅぅ、今でもその時の事を思い出すと身体が震えて……」

「ああ、何て可哀相なんでしょう」

「とりあえず、今後の俺の安息のためにもあの二人を何処かで捨てようかと思うんだが。
 どの辺りに捨てるのが良いかと悩んでいるところだ」

「「あ、あははは、冗談ですよ?」」

冷や汗を流しつつ懸命に冗談だという事を主張する二人。
本当にいつもと変わらない感じで合宿が始まるのだった。





続く




<あとがき>

夏休み! そして合宿へ!
今回は出発という事でちょっと短いけれど。
美姫 「本当に短いわね」
あははは。
さて、いよいよ合宿と言う名目の慰安旅行みたいなものが始まった訳だが。
果たして、日頃の疲れをしっかりと取る事が出来るのだろか。
美姫 「特に恭也やまゆら、奈々穂なんかはね」
そんなこんなで、また次回。
美姫 「まったね〜」







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