『海鳴極上生徒会』






第20話 「迷探偵参上?」





二日目の朝、恭也たちの部屋に来客が現れたのは、
朝食を取り終えてこれから何をしようかと相談している最中の事であった。
応対に出たノエルは二人の来客を連れて部屋に戻ってくると、
後ろから続いて来る二人の男性へと手を向ける。

「こちらの方は警察の方だそうです。
 少し聞きたいことがあるとの事です」

言って席を勧めるとノエルはお茶の用意を始める。
少し太った中年の男性はどっこいしょと声を上げながら腰を下ろし、
その隣でまだ若い中肉中背の刑事は、年配の刑事の言動に苦笑を漏らしながら同様に座る。
ノエルにお構いなくと年配の刑事が声を掛け、その間に若い方の刑事が恭也たちに話しかける。

「私は南川と言いまして、こっちが山北と申します。
 皆さんは見たところ学生さんみたいですけれど、ご旅行かなにかですか?」

南川と名乗った刑事に久遠が代表するような形で応対をする。
その返答を聞き、山北はほうほうと頷きつつ出されたお茶を啜る。

「合宿ですか。最近の生徒会は大変ですな」

「いえいえ。殆ど合宿の名を借りた旅行と変わりませんから。
 まあ、うちは少々変わっているので大変と言えば大変ではありますわね。
 それで、どういったご用件でいらっしゃったのでしょうか?
 何も用がないのに刑事さんが来られるはずもありませんわよね」

顔では微笑を浮かべつつ、久遠は若干目を細めて観察するように二人の言動を見遣る。
それに何かを感じ取ったのか、刑事の方がまるで尋問されているかのように居住まいを正す。

「流石は副会長さんってか。
 俺の方まで思わず緊張しちまったぜ」

「隠密とはいえ、久遠は表に出ているからね。
 また立場的に外との外交的な事もよく任されているから、こういう場合は頼もしいわ」

プッチャンの呟きに忍がこっそりと応える中、山北が顔を真剣なものに変えて懐から写真を取り出す。

「実は今朝方、ちょっとした事件が起こりまして。
 それで、この顔に見覚えはないかと」

取り出された写真を受け取り久遠はそれを一瞥すると、小さく声を上げるて恭也へと写真を手渡す。

「恭也さん、この人……」

「……ああ、昨日の」

「知り合いですか」

二人のやり取りを見ていた奈々穂がそう尋ねると、恭也と久遠は揃って頷き、恭也が口を開く。

「知り合いと言う訳ではないが、顔は知っている。
 昨日、風呂上りに奏でにしつこく声を掛けていた奴らの一人だ。
 プッチャンも見ていただろう」

言って写真をりのに渡し、プッチャンがそれを覗き込む。

「ああ、間違いないな。殿が近づいたら悪態をついて立ち去った奴だな」

突然喋る人形に刑事の二人は驚きつつも、腹話術とでも思ったのかそこには触れず、もう一度確認を促す。
やはり間違いがないと恭也とプッチャンも頷くのだが、久遠は一人怪訝そうな表情を見せる。

「確かに昨日、僅かとはいえ顔は見ていますけれど、知り合いという程でもないですわよ。
 それなのに、何故わざわざ私たちの所へ来られたのでしょうか?」

「実はですね、その事件と言うのがあまり大きな声では言えんのですが殺しなんですよ。
 被害者はその写真の男で、東京から旅行に来ていた伊庭史雄(いばふみお)。
 それでちょっとした目撃情報がありまして、昨日、そちらの人と揉めていたと聞きまして」

言って山北は恭也は見る。
ざめく周囲とは裏腹に、恭也は落ち着いてお茶を飲むと、

「つまり容疑者という事ですか」

「いえいえ、あくまでも念のためになんで。気を悪くしないでもらえると助かります」

南川が慌ててそう口にするも、山北は恭也の昨夜から早朝に掛けてのアリバイを尋ねる。
当然、その時間帯に部屋に居た恭也にしっかりとしたアリバイを証明する術はない。

「とりあえず、現場を見せてもらえたりはしませんか」

「いや、流石にそれは……」

恭也の発言に南川は困ったように顔を曇らせるも、山北は恭也を暫く見つめた後、

「中には入れれませんが、遠くから見る程度なら、まあ、構わないでしょう。
 現場検証の方も大方済んでますし。ただし、くれぐれも中までは入らないでくださいよ。
 それと場所が場所だけにあまり騒ぎにしたくはないとの事なので、出来る限り騒がんように頼みますわ」

南川が本当に良いのかという視線を向けるも、山北はそれを受け流して恭也を促す。
大人しく山北の後に続く恭也であったが、その後に他のメンバーまでぞろぞろと付いてくるのを見て、
山北は流石にそれを止めるのだが、その前に久遠が立ち塞がる。

「あら、一人も大勢も変わらないと思いますけれど?」

「ですから、こうぞろぞろと来られると……」

「離れの部屋なら、周囲は流石に立ち入り禁止にされているのでしょう?
 だとすれば、特に怪しまれる事もないかと思いますけれど。
 逆にここで連れて行かないとなると、恭也さんの身を案じたこの子達が勝手に付いて行くかもしれませんわよ。
 そうなると、現場の保存に加え、他の方に知られるかもしれませんわね」

久遠の言葉に山北は困ったように頭を掻いた後、最終的に折れる形で全員を事件の現場へと案内する。
旅館の奥から一旦外へと出て、更に奥へと進むと離れにつき立ち入り禁止の看板が見えてくる。
その看板の傍には二人ほど私服を着させられた警察官が立っており、山北に敬礼を返す。

「一応、ここから中は覗けるはずだから。ああ、これ以上は入らないでね」

まだ部屋で幾人かが作業をしているのを捉えながら、恭也は現場と思われる箇所を見つめる。
既に遺体の方は退けられており、そこにはよくテレビなどで見かける人型を模した線が描かれているだけであったが、
床は赤く染まっており、まゆらなどは顔を青くしてすぐに顔を背ける。

「出血死ですか」

「いえ、心臓部への一撃が致命傷みたいでしたね。
 その他にも腹にも数箇所刺された後もありましたが」

そう答えながら山北は恭也の様子を伺う。
それはまるで何かぼろを出さないかと観察しているようで、恭也の方もそれに気付きつつも現場をじっと見つめる。
同様に現場を見つめていた奈々穂は恭也に呟く。

「どう思う? 心臓を一突きなら刃物の扱いに慣れた人物かとも思うけれど、腹を何度も突いているということは」

「分からん。至近距離なら刃物の扱い云々は関係ないだろうしな。
 それこそ親しい人物なら警戒されずに近づける。逆に刃物の扱いに慣れている者が犯行を誤魔化すため、
 心臓を刺した後に腹を刺したのかもしれないしな」

「と言うかよ、殿。その死んだ奴は何人かで来ていたんだろう?
 だとしたら、他の奴らはどこに居たんだ?」

二人の会話にプッチャンが割って入ってくる。
その言葉に確かにと二人は頷き、こちらを伺っていた山北へと顔を向ければ、

「第一発見者は被害者と一緒に遊びに来ていた友人たちで、彼らと伊庭さんは別々の部屋を取っていたらしい。
 で、朝食の時間になっても現れず、電話しても連絡が付かなかったんでまだ寝ていると思って朝食に行ったらしい。
 で、朝食後にこの離れに来て死んでいる所を発見して通報。因みに、死亡推定時刻は昨夜の12時から1時の間。
 この時間帯、彼らは旅館近くのバーで飲んでいたとの証言も得られている。
 伊庭さんだけが一足先に旅館へと戻ったみたいなんですよね」

暗にアリバイがないのは恭也だけだと告げつつも、他に怨恨の線がないかも今調査中だと説明する。
恭也たちのやり取りを眺め、美由希や奏も何かを考えるようにじっと現場を見つめる。
そんな中、同様にじっと見つめていた忍は何を思ったのか、やおら拳を握り締め、

「事件は学園内で起こっているんじゃない!
 揉み消せない外で起こっているんだ!」

「おい、こら。そんな不穏な発言は止めろ」

いつもの調子で訳の分からない発言をかます忍を注意するも、

「ですが、忍さんの言うとおりですわ。
 学園内ならいざ知らず、これでは揉み消せませんわね」

物騒な事をさらりと発言する久遠に、流石の刑事たちも頬を引き攣らせる。
対する恭也は疲れた表情を二人に向け、

「素敵な発言をありがとう。お蔭で益々、俺の立場が悪くなった」

呟く声に忍は流石に冗談が過ぎたと笑うが、久遠の方は本気だったのか意外そうな顔をする。

「おい、久遠」

「あら、嫌ですわ怖い顔。別に恭也さんが犯人だなんてこれっぽちも疑ってませんわよ。
 ただ、私は事実として学園での権力がここでは使えないと言っただけで」

「それが充分に怪しい発言になっているんだ……」

久遠の怪しい発言の所為か、山北の恭也を見る目も何処か胡散臭さを宿しており、
頭を掻くと恭也に任意の同行を申し出てくる。
ほら見ろと久遠を睨めば、久遠は流石に申し訳なさそうな顔を見せるも既に後の祭りである。

「伊庭さんがそちらのお嬢さんに攻め寄っていたという証言はお友達から得ているんですよ。
 で、あなたがそこに割って入った事も。いえ、決してそれだけでどうこうと言っている訳ではないんですけれどね」

現状で一番近くでアリバイもなく、何らかの思いを抱いているのが恭也だから話を聞かせてくれと言ってくる。
恭也は天を仰ぎ、次いで久遠と忍を軽く睨んでから仕方ないとばかりに大人しく従おうとする。
だが、そこへ美由希が間に入ってくる。

「待ってください、刑事さん。確かに恭ちゃんの趣味は妹苛め、特技は妹の悪口ですが、
 本当に恭ちゃんがやったのなら、そんな証拠が残るような事はしません!」

「確かに、恭也さんなら死体を残すような事すらしないでしょうね」

「うんうん。確かに、完璧に死体どころか事件があったという事さえ認識させないよね、きっと」

「……お前たち、信用しているのかいないのか判断できかねる発言は止めてくれ」

「いやいや、殿。これはある意味信用されているって事じゃないか?
 つまり、殿が何かしらの犯罪をしたのなら、それはこんな半端な形じゃなくて完全犯罪になると」

「そんな信用はいらないし、それは本当に人として信用されているのか?」

先ほどよりも更に疲れたように呟く恭也に、冗談だよと笑う美由希たちだったが、恭也は肩を落とす。
あまりの言い分に美由希の発言さえ突っ込む気力もないようである。
それを見て流石に同情したのか、山北がポンポンと慰めるように恭也の肩を軽く叩く。

「それにしても、恭也会長補佐もやりすぎっすよ。
 会長にしつこく声を掛けたぐらいで殺人は……。流石のあっしも恐怖を覚えます」

「れいん、まさかとは思うが本当に恭也先輩がやったと思っているのか?」

「そうですよ、れーちゃん先輩。恭也会長補佐がそんな事をするはずないじゃないですか!」

今までの冗談っぽい流れを断ち切るように、一人悲壮感さえ漂わせて真剣な顔で呟くれいん。
流石に親友である小百合も思わず問い質し、香に至っては憤慨だとばかりに声を荒げる。
そんな二人の対応にれいんも真剣な表情からにへらと相好を崩し、

「あははは、冗談、ジョーク、ギャグじゃない。そんなに本気にならないでよ。
 あっしだって恭也会長補佐がやったなんて思ってないって。
 もし、やむにやむえずやったとしたら、それこそ美由希たちが言うように証拠なんか残さないと思うし。
 はっ! と言うことは、既に犯罪を犯している可能性もあるってこと!?」

「そうなんだよ、れいん。恭ちゃんは毎日のように妹を虐めるという犯罪を……」

「美由希、気持ちは分かるけれどそれは犯罪とまでいかない」

今度はふざけていると分かったのか、美由希がれいんの言葉に応じれば、小百合がすぐさま突っ込みを入れる。
それに大げさに顔を手で覆い嘆いてみせる美由希。
何気に目薬で涙を演出する辺り、実に芸が細かくなっている。

「うぅぅ、無理やり襲われたり、日々暴力を振るわれる日々。
 立派な犯罪だよ……。よよよ……」

「それは酷い! でも、強大な権力を待つ恭也会長補佐の前に泣き寝入りの日々」

「そうなんだよ、れいん。もう一人の妹であるなのはにはあんなに優しいのに」

「確かに甘い、過保護、兄バカ、って感じだよね」

「同じ妹なのに……。はっ! ま、まさか、なのはにもその毒牙を伸ばすために懐柔しているのかも。
 言わば、光源氏計画。恭ちゃん、何て恐ろしい人!」

「うわー、鬼畜、外道、人でなしじゃないですか。きっと今回も学園内と同じで揉み消せると思ったのかも。
 安心して、美由希。よく犯人の周囲の人にインタビューが来るじゃない。
 それが来た時は、そんな事をする人には、なんて言わないから。
 はっきり、きっぱし、ずびしっと、いつかはこういう事をする人だと思ってました。
 いいえ、ようやく発覚したかというような気持ちです、って答えるから」

「れいん!」

「美由希!」

二人して抱き合い麗しい友情劇を見せ付ける。
だが、既に二人の近く似た小百合や香が離れている事には気付いていないのか。
まるで自らの芝居に酔ったように抱き合ったままの二人の頭上に影が一つ落ちる。

「散々言いたい放題言ってくれてありがとう。
 お蔭で、周囲の警察関係者たちの俺を見る目がとっても素晴らしいものに変わったよ」

二人の頭に手のひらを乗せ、まるで撫でるように軽くぽんぽんと位置を確かめるかのように数度触れる。
引きつった笑みを浮かべながらその背後を見れば、確かに恭也の言うように、
山北は今にも手錠を取り出さんばかりの恭也の背中を睨み付けている。
流石に冗談が過ぎたかなと反省する二人であったが、反省するよりも先に後悔する羽目になる。
ぎりぎりとしまっていく頭が訴える苦痛に。

「み、見てないで誰か、助けて、ヘルプ、救出を〜」

「恭ちゃん、痛い、痛い。か、奏会長、笑ってないで助けてください〜」

一連のやり取りを微笑ましそうに見つめていた奏と目が合い、助けを求める美由希の声にのんびりと返す。

「そうね。恭也、そろそろ許してあげたら?
 角元さんたちが何て言おうと、ちゃんと私がそんな事をするとは思いませんでしたって答えてあげるから」

「……奏」

奏の言葉に恭也は何とも言えない表情で、毒気を抜かれたように二人の頭を解放する。
解放された二人はそれでも頭を庇いつつ、奏の言葉に流石に顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
いや、二人だけでなく、他の面々も呆れたような、何とも言えないような表情をしており、
一人、いや、りのと二人、皆の様子にきょとんと不思議そうに首を傾げるのだった。

「あー、ちょっとすみませんが……」

そこへ山北が申し訳なさそうな顔で割って入ってくると恭也の方を見遣る。
その顔は同行を急かすものであったが、恭也は未だに顔色を悪くしているまゆらを見遣る。
気分が悪いのだろうが、それでも心配そうに恭也を見ているまゆらを見て、恭也は小さく嘆息を漏らすと、

「久遠、そろそろ真相を話しても良いか?」

「真相、ですか? それはつまり、犯人が分かったということでしょうか」

「多分な」

恭也の言葉に久遠を始め幾人も驚いた顔を見せるが、久遠はとりあえず恭也に続きを促す。

「犯人云々かどうかは別として、久遠、聖奈、忍の三人は間違いなく絡んでいるだろう。
 後はノエルもか」

「ちょっ、私たちが犯人とか言わないでしょうね」

「だから、犯人云々は別と言っているだろうが。第一、ここで殺人なんか起こってないだろう。
 だとすれば、お前たち三人の悪戯と考える方が納得できる」

恭也の言葉に名前の挙がった三人以外が驚いた様子で三人を見つめる中、忍は何とか言おうとするのだが、
既に久遠と聖奈は諦めたように肩を竦める。

「はぁ、思ったよりも早くばれてしまいましたわね」

「ちょっ、久遠」

「忍さん、諦めが肝心ですわよ。
 既に見抜かれている以上、見苦しくあがくのは私の美学に反します。
 それで、どの辺りで気付かれたのですか?」

「割と最初から可笑しいとは思っていた。刑事を名乗る割には一度も手帳の提示がなかったからな。
 だから、ノエルもひょっとしたら忍に言われて協力しているのではないかと思ったんだ。
 だが、主犯というか、まあそういったものはお前たち三人だろうがな。
 後は、そもそも、朝に通報があったばかりで被害者の写真があった時点で少し可笑しいと思っていた。
 そういう事もあるかとも考えたが、一応気にはしていたんだ」

「あと、久遠副会長が離れの部屋と言ったのも失敗だったかも。
 事件が離れであったなんて刑事さんも言ってなかったのに、どうして知っているのかなって。
 まあ、隠密を統べているから、既にこの事件の情報も集めたのかとも思ったけれど、
 事件を知ったのがさっきならそれもないだろうし。
 それに現場を見せたのは失敗かもね。あれって、本物の血じゃないでしょう」

「そりゃあね。始めは動物の血でも使おうかと思ったんだけれど、後処理を考えるとね。
 って、美由希ちゃんも気付いてたの!?」

「えへへへ、当然だよ。じゃないと、流石にあんな冗談は口にできないよ」

驚く忍の言葉に美由希は笑いながら返す。
だが、冗談の所で少しだけ恭也の様子を伺うのは忘れなかったが。
幸い、恭也の方も怒っている様子もなくほっと胸を撫で下ろす。
逆に忍の方は肩をがっくりと落とし、

「はぁぁ、わざわざ用意した推理ゲームがまさか最初から躓くなんて。
 この後、無実の恭也を救うために動き出した皆の為に色々とヒントを仕掛けていたのに」

「いつの間にそんな事を。と言うか、本当に遊びには全力だな忍」

奈々穂も流石に呆れたように呟く中、聖奈と久遠の二人は反省会などをしていた。


「やっぱり恭也さんには初めからお話して、こちら側についてもらうべきでしたわね、久遠さん」

「ええ、そうですわね。
 元々、任意同行という事で車に移動してもらって、そこで話して引き込む手筈だったのですが。
 寧ろ、美由希さんにまで気付かれたという方が驚きですわ」

「だから言ったじゃないですか。もしかしたら、美由希ちゃんも気付くかもって」

「確かに読書量は認めますけれど、まさか本当に気付くとは思いませんでしたわ。
 この辺りは次回以降の教訓といたしましょう」

「お前らは反省の方向が違うだろうが。今後はこういうことを少しは慎め。
 まゆらなんかは本気で体調を悪くしているだろうが」

「それに関しましては本当に反省してますわ。
 次からはもう少し演出を控えめにします」

「だから、反省の方向が違う」

軽く久遠を小突く恭也に、久遠は小さく舌を出して笑みを見せる。
ただし、二度としないとは言わない辺りは久遠らしいかもしれないが。
気付けば山北など刑事の役をしていた者たちは既に立ち去っており、改めてその手際の良さには感心をするも、
恭也は一転して真面目な顔で一同を見渡し、

「で、だ。気付いていた美由希は兎も角、気付いていなかったお前らの発言で、
 普段、俺の事をどう思っているのかがよく分かった。特にれいん」

「あ、あははは。あっしのあれも冗談ですよ?」

「その割にはかなり目が本気だったように見えるが?」

「き、恭也会長補佐の目をも騙すなんて、あっしの演技も捨てたものじゃない……えっと。
 か、会長も言ってたっすよ」

苦し紛れの言い訳の途中ではあったが、恭也の視線が冷たくなったのを見て、急遽道連れを作ろうと発言する。

「奏は別に良い」

するのだが、それはあっさりと恭也に切り捨てられる。
だが、そう簡単に引き下がれるはずもなく、寧ろその発言にれいんは反抗する。

「ずるい、せこい、贔屓っす! 会長ばっかり」

「贔屓で結構。さて、言い訳はもうお終いか?」

「う、うぅぅぅ、さ、小百合〜」

「すまないが、私にはどうする事もできん」

「そ、そんな〜。そ、そうだ、美由希!」

「ごめん、私にも無理!
 と言うか、いつもは私がその立場だけにれいんの気持ちは分からなくはないけれど、いつも助けてくれないよね?」

あっさりと友情を確かめ合ったばかりの友にも見放され、れいんはいやいやをするように首を横へと振って後退る。
だが、下がった分だけ恭也が前に出て、笑みこそ浮かべていないものの無表情に腕を伸ばす。

「た、助け、刑事さーん!」

そんな叫びも空しく、れいんは襟首を掴まれて逃げられなくなる。
逃げれないれいんに向け、恭也は静かに死刑宣告を告げる。

「まあ、半分は冗談だったようだし、夕食の一品で許してやろう」

「ほ、本当!?」

「ああ。確か今夜は伊勢海老が出るはずだからな。それで手を打ってやろう」

「お、鬼、悪魔、人でなし! せめて、せめて汁物で」

「却下だ」

「そ、そんな……」

がっくりと襟首を掴まれたまま頭を垂れるれいんを見て、反省しただろうと今回は許してやる事にする。

「おお、ありがとうございます、お代官様、神様、仏様〜」

本当に感謝しているのか、と思わなくもなかったがれいんを解放してやる。
逆に美由希は何か文句を言いたそうに恭也を軽く睨むのだが、流石に何かを言うような事はしなかったのだった。





続く




<あとがき>

と言うわけで、事件(?)らしきものも解決と。
美姫 「今回は美由希も学習して、最後で何も言わなかったわね」
まあ、ついさっきまでのれいんとのやり取りを見ていれば、流石に言えばどうなるかはすぐに分かるだろうしな。
美姫 「という事で事件もお終いね」
あっさりとな。
因みに余談だが、被害者の名前である伊庭史雄だが、これを「ふみ」ではなく「し」と読み替えて逆から読むと……。
美姫 「おしばい。……お芝居」
とまあ、そんなちょっとした謎解きもあったり。
美姫 「いや、普通は分からないって」
まあお遊びだから。と言うよりも自己満足!
美姫 「はいはい。で、次回は?」
次は合宿の続きになるか、それとも合宿後の夏休みのお話になるか。
美姫 「どっちになるのかしらね」
それはまた次回ということで。
美姫 「それじゃあ、また次回でお会いしましょう」
ではでは。







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