『海鳴極上生徒会』
第22話 「夏と言えば合宿も良いけれどビーチだよね」
青い空、光を反射する海に白い砂浜。そこに居るのは水着の女性。
まさに夏といったシチュエーションと言えるであろう。
「太陽がいっぱい」
浜辺に寝そべり、照りつける太陽へと手を翳してそう口にする美由希の頭上に影が差し、
忠告も警告もないままに顔面目掛けて足が落ちてくる。
それを間一髪の所で転がって避けると、身体を起こしつつその影へと文句を口にする。
「恭ちゃん、危ないじゃない! そもそも女の子の顔を足で踏むなんてどういう神経しているのよ。
はっ、もしかしてそんな性癖が!? でも、それを押し付けないでよ。変なものに目覚めちゃったらど――ふぎぃっ!」
捲くし立ててくる美由希にうんざりした顔を隠そうともせず、恭也は美由希の鼻を摘まんで強制的に黙らせる。
鼻を押さえて涙目で見上げてくる美由希の無言の抗議を無視し、
「お前はこの状況下で、よくもそれだけくつろげるな」
呆れた目で美由希を見下ろす。
言われた美由希は少しは自覚があるのか、乾いた笑みを浮かべて頭を掻きつつようやく立ち上がる。
「別にくつろいでいた訳じゃないよ。ただ、ちょっと現実逃避を……」
「余計に性質が悪い」
美由希の言い訳を一刀両断し、恭也は改めて周囲を見渡す。
とは言っても、見渡す限りに広がるのは青い海。
背後を見れば、鬱蒼と覆い茂った木々と遠くに見える崖のような山。
海を正面に見て左手にはこれまた見事としか言いようのない崖があり、右手は砂浜が円を描くように伸びている。
が、それも少し行けばやはり海へとその姿を変える。
「これまた見事に漂流したね。それも計ったかのように無人島」
「ようやく現実と向き合ってくれたようで何よりだ」
現実へと帰還した美由希を歓迎するように言い、恭也は美由希を連れて森の方へと歩き出す。
とは言っても、そう遠くまで歩くのではなく、砂浜と森の境にある木の元へ。
「待たせたな、奏。ようやくバカな妹が現実に気付いてくれたようだ」
「本当に二人は仲が良いわね」
二人のやり取りを見ていた奏が可笑しそうに笑うのを受け、恭也は憮然とした態度で、美由希は言葉で反論する。
「奏会長、今のどこを見ればそうなるんですか。
恭ちゃんは私を虐めて楽しんでいるんですよ。うぅぅ、私はただ兄の優しい愛情が欲しいだけなのに……」
「それはそうと、殿。そろそろりのの奴も起こした方が良いんじゃないか」
珍しく奏の左手に嵌められていたプッチャンからそんな言葉が紡がれる。
見れば、りのは奏の膝枕で幸せそうに眠っている。
「そうだな。ざっと島を見て回った限り、本当に無人のようだったしな。
流石に島の反対側は崖で見てこれなかったが、人のいるような感じではないな」
美由希が現実逃避をし、りのが昼寝をしている間に島を回った恭也がそう結論を口にする。
その割には慌てた様子もないのだが、その辺りは既にプッチャンも慣れてしまっていた。
「まあ、よっぽど大きな野生の獣じゃない限り、殿がいれば安心だしな」
「そうそう、熊ぐらいなら何とかなるもんね」
「……あー、みゆみゆ。俺の認識では熊は大型に分類されると思うんだが?」
「されるね。でも、熊ぐらいなら大丈夫だって」
「殿、つくづく恐ろしい男だぜ。何度も死線を潜って来た俺をここまで震撼させたのはお前で二人目だ」
「最初じゃないのか。と言うより、美由希も出鱈目な事を言うな。
幾ら何でも素手で熊と戦って勝てるか」
恭也の言葉に美由希は心底驚いたような顔を見せ、またまたご冗談をとばかりに手を振る。
「奏会長に襲い掛かったら、熊だろうが虎だろうが狩っちゃうくせに」
「……一度、じっくりとお前の俺に対する評価というものを聞いてみたいな」
「あ、あははは……」
「……その前に俺は素手じゃなければ勝てるのかと突っ込みたいんだが。
殿の言う武器ってのは銃じゃないんだろう」
兄妹の会話にプッチャンが小さく呟くも、それに答える者はおらず、逆に奏が不思議そうに恭也を見上げて尋ねてくる。
「昔、お父様と熊を狩って鍋にしたと言ってなかった?」
その言葉に恭也は昔の事だと顔を逸らし、美由希は何か言いたげな視線を向ける。
そんな中、プッチャンは肩を竦めて突っ込みたいのを我慢するのだった。
「さて、いい加減りのを起こしてくれ」
恭也の催促に奏とプッチャンが二人でりのを起こせば、まだ眠たいのか目を擦りつつりのもようやく身体を起こす。
「おふぁよ〜ございます〜」
間延びした眠気を誘うような声に微笑しつつ、奏は刎ねていた髪を手櫛で整えてやる。
「えっと……あれ? わたし、どうしてこんな所で寝てたんだっけ?
あー、プッチャンがいない!」
自分の手を見て叫ぶりのの眼前にプッチャンが姿を現し、
「落ち着けって、りの。俺はここだ。全く、寝ぼけるのも大概にしておけよ」
「えへへへ、ごめんね」
謝りながら奏からプッチャンを受け取り、本来の位置へと戻す。
「ふ〜、会長さんの手も居心地が良かったが、やっぱりりのの手の中が一番落ち着くぜ」
「わたしもプッチャンが居ると落ち着くよ」
「ははは、よせよ照れるじゃないか」
「あはははは」
「はっはははは」
何が可笑しいのか笑い合う二人の会話を遮るように恭也が話し掛ける。
「さて、起きたばかりで悪いが、りのは現状を把握しているか?」
「現状?」
「りの、ここに来るまでに何をしていたのかは覚えている?」
「はい! ……えっと、えっと、確か」
奏の問い掛けに断言した割には考え込み、頭を抱えて必死で思い返す。
やがて、思い出したのか顔を上げて嬉しそうに片手を頭上に上げて宣言するように言い放つ。
「忍さんが用意したボートに乗ってジュースを飲んでた!」
「正解だ。更に時間を進めると、何処かのバカが改造したエンジンが暴走してボートが爆走。
結果として、この島に流れ着いたという訳だ。幸い、乗っていた俺たちは無事だったといった所だな」
「あの、恭也先輩。わたしたちじゃなくて、操縦していた人はどうなったんですか?」
恐る恐るといった様子で尋ねるりのに、恭也は安心させるように言う。
「それは問題ない。と言うよりも、最初にそれを確認しておくべきだったんだが。
元々、運転している人はいなかったみたいだ。忍の奴が無人操作に改造していたみたいだな」
「本当にろくな事をしないマッドだな」
「それには反論はないが、今は文句を言ってもどうしようもないな。
本来、あのビーチ内を周回するだけなら問題なかったんだろう。が、エンジンを改造したのが悪かったみたいだな」
「全くだ。いきなりとんでもないスピードで走り出したかと思えば、エンジンが煙を吹いたときにはびっくりしたぜ」
早い話、いつもの如く忍の発明によって恭也たちは無人島へと漂流してしまったという訳である。
島に着くなり恭也はエンジンを見てみたが、素人ではどうこうできる状態ではなく、仕方なく島を見て回ったのだ。
「幸い、今回の旅行には奈々穂も来ているし、すぐに何か手を打ってくれるだろう。
とは言え、数日はこの島で過ごさなければならないかもしれんが」
「とんでもない夏休みになったな」
恭也の言葉にプッチャンが同情するように言うが、それを壊すように美由希があっけらかんとした声で加わる。
「とんでもないも何も、合宿の時点で既にとんでもなかったよね。
殺人事件やシージャックに遭遇なんて、そうそうないよ」
「殺人事件は忍たちの悪戯だったがな」
そう口にして、恭也は不意に疲れたように肩を落とす。
その肩を励ますようにプッチャンがポンポンと叩く。
それで気を取り直したという訳でもないだろうが、恭也は改めて奏たちを見て、
「さて、とりあえずは食料と水の問題なんだが」
「見た所、木の実とかは豊富そうだよね。周りが海で魚もいるみたいだし」
「美由希の言うとおりだ。水の方も少し奥へ行けば川があったし、水質も問題ないようだった」
「となれば、数日は問題ないと考えても良いって事だな、殿」
プッチャンの言葉に頷いたのを見て、プッチャンは問題は解決したとばかりにりのを海へと誘う。
「よし、夏の海をエンジョイするぞ、りの!」
「うん」
りのも言われるまま海へと駆け出し、恭也が呼び止める間もなく浜辺へと踊り出し、そこで見事に転んでいた。
「何もない所で器用に転ぶなんて真似が、美由希以外にできるとは」
「恭ちゃん、随分と刺のある言い方だよね」
「気のせいだろう。ったく、何をしているのやら。
食料の心配はないかもしれないが、それを取らない事にはどうしようもないというのに」
苦言を口にしつつ、恭也は砂浜に顔からダイブしたりのを助けてやろうと歩き出す。
その隣をすっと奏が先に進み出て、砂浜から顔を上げてペッペと砂を吐き出しているりのの隣にしゃがみ込む。
「大丈夫、りの?」
「あ、はい、大丈夫です、奏会長」
「全くりのは仕方ないな。気をつけなければ駄目だぞ」
「ごめんね、プッチャン」
砂を払いながら立ち上がるとりのは奏も海へと誘う。
奏が恭也を振り返れば、恭也は仕方ないとばかりに頷くのであった。
その隣で美由希は何か言いたげな――はっきりと顔に奏会長には甘いと書き――、それでも制裁を恐れて口にせずにいる。
「った! ちょっ、今私何も言ってないよ、恭ちゃん」
「言わなくても顔に書いてあっただろう」
「横暴だ!」
ぶつくさと文句を述べてくる美由希のみつあみを掴み、恭也はずるずると引き摺っていく。
「あ、ああ、やめて、恭ちゃん。髪は女の命なんだよ。そんな、鎖みたいに引っ張らないで。
ああ、でもそう考えると、私は鬼畜な恭ちゃんの奴隷……って、いたたた、思いっきり引っ張らないで!
ごめんなさい、冗談です、許して、抜ける、抜ける、抜けちゃうっ!」
恭也は美由希を引き摺っていたかと思うと、不意に手を離して美由希を放り出す。
突然解放された美由希はそのまま転んでしまい、恨めしげに恭也を見上げるも意に返した様子も見せない恭也に諦める。
「で、浅瀬まで引っ張られてきたんだけれど、何を?」
「とりあえずは夕飯の材料だな。適当に泳げ」
「それだけで良いの?」
「ああ。この辺は鮫がいるから……何でもない。
偶には可愛い妹に休暇を上げようという兄の優しい心意気に感謝して、
無心のまま、いつものようにひゃっほー、うえひゃぁーと叫びながら泳げ」
「色々と突っ込みたいんだけれど? 無心なのにひゃっほーって、かなり弾けてない?
しかも、いつものようにって、私ってばそんな当たり前のように奇声を上げてたかな?
そもそも、最初の鮫という単語が一番聞き捨てならないんだけれど。
つまり、あれでしょう。恭ちゃんは私を餌にするつもりなんだね!?」
「餌というのは何かを釣る際に使うものだぞ。
幾ら俺でも素手で、しかも水中という不利な状況下で鮫を仕留められるはずがないだろう」
「それもそうだよね……って、じゃあ、私が泳ぐ意味は!?
単に私を始末しますっていう遠回しな宣告だったの!?」
「失礼な。ただ、俺はお前に頑張れと言っているだけだぞ」
「つまり私に鮫と戦い、その上で仕留めろと?」
「上手くいけば、今夜はフカヒレが食べれるぞ」
「失敗したら、その今夜に私はいないんだけれど!?」
そんな二人のやり取りを遠く眺めながら、奏とりのは浅瀬で足を海に着けて楽しんでいる。
「本当に仲が良いわね」
「仲が良いというか、完全にみゆみゆがからかわれているだけのような気もするがな。
まあ、それだけ殿が気を許しているという事かもしれんが」
「兄妹って良いよね。わたしもお兄ちゃんとかお姉ちゃんが欲しいな」
「おいおい、りのには俺が居るじゃないか」
「そうよ、りの。プッチャンだけじゃなく、生徒会の皆もいるでしょう。
それに私も。本当のお姉さんにはなれないけれど、そう思ってくれて良いのよ。
私もりのの事を妹のように思っているのだから」
「奏会長〜」
奏の言葉にりのは嬉しそうに抱き付く。そんなりのを優しい眼差しで見詰め、優しい手付きで頭を撫でてやる。
「えへへ〜。本当にこの学校に来れて、生徒会に入れて良かったです」
本当に嬉しそうに笑うりのに奏も頬を緩める。そこへ美由希を連れた恭也がやって来る。
「二人して何を話していたんだ」
「りのを妹みたいに思っているという話よ」
「そうか」
奏の言葉に恭也は静かに頷き、美由希は便乗するように手を広げてりのへと話し掛ける。
「りのちゃん、私の事もお姉さんだと思ってさあ、おいで」
「わーい」
そのまま美由希の胸へとダイブし、
「おおう、これが帝国の最終兵器か」
「何を言ってるのよ、りのちゃん。って、プッチャンじゃないの!」
抱きついてきたりのに紛れ、ちゃっかりと美由希の胸へとダイブしたプッチャンの頭へと拳骨を落とす。
「つっ〜、ちょっとしたお茶目だというのにこの仕打ち……」
「あれ、何かどこかで聞いた事のあるようなやり取り……って、そうじゃなくて!」
「駄目だよ、プッチャン」
反省した様子のないプッチャンへともう一発お見舞いすると、りのも注意する。
流石にりのにまで言われては素直に謝るしかないのか、プッチャンは、それでも謝っているとは言い辛い態度、
片手を上げて胸を張って、やけに偉そうな口調で美由希に謝る。
「星三つ!」
「って、謝ってないから!」
ちゃんと謝って偉い偉いとプッチャンの頭を撫でるりのと、当然だと言わんばかりのプッチャン二人に向けて突っ込む美由希。
だが、当然のようにそれは無視され、美由希はさめざめと涙を流しながら恭也に無情さを訴えるのだが、
「まあ、そう目くじらを立てて怒るな。流石にやりすぎな気するが、冗談だろう。
お前たちは特に仲が良いから、プッチャンも悪ノリしたんだろう」
「うぅぅ、兄にまで見捨てられ……って、いつもの事のような気もするけれど。
じゃなくて、恭ちゃん想像してみてよ。もし、奏会長が同じ事をされたらどうする?」
「流石のプッチャンも奏にそんな真似はしないだろう」
なあ、とプッチャンへと問いかける恭也。
その口調はいつもと変わらないもののはずであったが、プッチャンは何かを感じ取ったのか、やたら真剣な口調で言う。
「当たり前だろう。そんな命が幾つあっても足らないような事をするはずがないだろう」
「ほら、みろ」
「うん、まあ、予想していたんだけれどね。因みになんだけれど、万が一にでもやってしまったら?」
「人形の手足は小さな子が振り回しただけで簡単に取れるものらしいぞ」
「……さて、まだ日も高いし遊ぼうか」
「そうだな、みゆみゆ。食料はもう少し後で良いよな!」
やけに息の合った感じで急に話を逸らす二人を訝しげに眺める奏であったが、仲の良い事は良い事だと笑みを浮かべて見守る。
そんな中、りのが今度は恭也に抱き付く。
「えへへ、お姉ちゃんだけじゃなくてお兄ちゃんもできた」
「あー」
抱き付かれて非常に困った顔をする恭也だが、りのの言った言葉故に強く引き離す事も出来ず途方に暮れて奏を見遣る。
が、当の奏は微笑ましそうに見てくるだけで、恭也もすぐに諦めて大人しくされるがままになる。
すぐに飽きるだろうと考えての事だったのだが、そこへすっと腕が伸びて来て、恭也の腕を絡め取る。
「奏まで何を?」
「りのばっかりずるいもの。私だって良いでしょう」
「良い悪いという問題じゃなくて……はぁ、好きにしてくれ」
これまた言っても無駄だと分かっているのか、恭也はすぐに匙を投げる。
そんな中、一人残された形となった美由希は、りのの行動を見てその手があったかとばかりに抱き付きに行く。
「お兄ちゃん」
「気持ち悪い声を出な、妹」
「ぶみぃっ!」
空いていた左手で美由希の顔面を押さえつける。
当然、全力で抱きつきに行った美由希はその勢いのままぶつかる事となり、結果、赤くなった鼻を押さえて蹲る。
「うぅぅ、前々から思っていたんだけれど、妹に対する扱いに差がありすぎるよ。
はっ、胸、胸が悪いの!? でも、それだと奏会長も私と同じ扱いにならないとおかし――ふぎぃっ!」
ぶつくさと大きめの独り言を言っていた美由希であったが、恭也に頭を蹴られてそのまま前のめりに海面に顔を沈める。
「ぷはぁっ! 恭ちゃん、今のは酷いよ。鼻から海水が入ったぁ〜」
「お前が可笑しな事を言うからだろうが」
「私は事実を口にしただけなのに……って、嘘ですごめんなさい。
だから、その拳骨はやめて!」
両手で頭を抱えて恭也の拳骨から守る美由希と、それを呆れたように見下ろす恭也。
そんな二人を見て、奏もまたいつもと同じ事を口にする。すなわち、
「仲が良いわね、二人とも」
「「何処が?」」
見事には重なって問い返す二人を見て、奏だけでなくりのまでも楽しそうに笑い、
恭也と美由希は憮然とした感じで互いを見るのだった。
その翌日、奈々穂たちによって発見された一行は無事に帰宅する事ができたのであった。
続く
<あとがき>
災難続きの夏休み。
今度は遭難しちゃってます。
美姫 「つくづく、ついてないわね」
あはははは。
美姫 「ついていないと言えば、例のよって美由希の扱いが……」
あ、あはははは。
美姫 「って、笑って誤魔化すな!」
いや、前から言っているように決して美由希が嫌いなんじゃなくて扱い易いんだよ。
すまん、美由希。でもその分、出番も多いわけだし、ね。
美姫 「今回は会話文が多めだったわね」
まあな。で、今回のメインっぽいのは美由希だったから、次は……。
ってな感じで他のメンバーもやっていけたら良いなとか無謀にも考えていたり、いなかったり。
美姫 「いや、どっちなのよ」
あははは――ぶべらっ!
美姫 「だから、笑って誤魔化さないの!」
まあ、ともあれ、今回はこの辺で。
美姫 「また次回でね〜」
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