『海鳴極上生徒会』






第24話 「埋蔵金を探せ」





青い空に白い雲。さんさんと照りつける太陽は何処までも暑く正に夏という感じを……。
などと演出するようなものは見当たらず、見渡す限り見えるものを一言で言うのなら、

「岩だらけだな」

という事になる。
サングラスではなく、安全の為に付けていたとも取れるゴーグルを外し、恭也は改めて周囲を見渡す。
とは言え、自分でも口にしたように見える範囲は全て岩である。
整備のされていないごつごつとした岩肌を足元に、周囲をぐるりと天井も含めて同様の岩が取り囲んでいる。
当然、明かりなどあるはずもなく、唯一の明かりは恭也が手に持つ古びた感じのランプ一つだけである。

「はぁ、どうしたものか」

いつになく重い溜め息を吐き、恭也はこうなった原因を思い返してみる。
そもそもの始まりは忍の一言からであった。
親戚が所有する山の一つに埋蔵金の噂があり、それを確かめに行こうと言い出したのだ。
既にある程度は手入れされた洞窟があるという事で、そこに入ったまでは問題もなかったように思う。
問題は所々地盤が緩い事と、それを気にせずに楽しげに発明品と証したドリルで掘削を行った忍がいたという事だ。
途中、幾つかに分かれて穴を掘っている時にそれは起こった。
少し離れた所、恐らくは忍の向かった先で小さな爆発音と地響きが起こり、慌ててそちらへと向かう途中、
自分たちの足元が見事に崩れ落ちたのだ。
上ろうにも天井は高い上に、壁は脆くどうしようもなかった。
大きな問題が一つある中、唯一の救いは奏は別荘に居るという事だろう。
因みに忍たちは無事のようで、その事に関しては色々と思う所もあるが良しと思う事にする。
何はともあれ、未だに小さな地響きがする中、恭也の声も届かないようで、横を見ればどうやら奥へと続く道がある。
そこは完全に未踏のようで、ここに来るまでに所々で設置されていたランプもなく真っ暗である。
本来ならここで待っているのが一番なのだが、問題はその頭上にあった。
今にも崩れ落ちてきそうなのだ。現に今も小さな破片がパラパラと継続して降っている。
恭也は天井を見詰め、やがて意を決したように横道へと進む。
この判断は功を奏したようで、恭也が通路を進んで暫くして後方から一際大きな音と粉塵が起こる。

「間一髪という程でもないが、あのままあそこに居たら危なかったな。奈々穂は大丈夫か?」

言って恭也は隣に立つ奈々穂に尋ねる。

「ああ、こっちは何ともないよ。そっちも大丈夫そうだね」

言って奈々穂は恭也の持つランプに照らされた奥を眺める。
そうこれこそが今回の大きな問題なのだ。
いつも遭難なり何なりしても、奈々穂が迎えに来てくれる。
恭也にとっても信頼できる仲間、勿論、他の者が信頼できないという訳ではなく、役割上の話だが。
つまりは、いつも探してくれる側の奈々穂が恭也と同じように遭難側に居るというのが問題だったのだ。
他に宛てに出来そうな人物もいるが、間違いなくあの妹は鬼の居ぬ間にとばかりに別荘か近くの川で遊んでいるだろう。
だとしても、大きな問題ではないかと恭也は気持ちを切り替える。

「まあ、久遠や聖奈が気付くか、忍たちが戻って伝えれば捜索してくれるだろう」

そう口にし、不安そうにしている奈々穂を元気付ける。
対する奈々穂はその辺に関しては信頼しているのか、迷いなく頷くのだが、やはり不安そうな顔で周囲を見渡す。

「とりあえず、もう少し進んでみようと思うんだが」

恭也の言葉に頷いて返し、恭也の半歩後ろを服の裾を握って付いてくる。
と、何歩も行かない内に奈々穂は足を止め、引きつった声を上げる。
奈々穂が怯えて見る先を見ても、そこにはランプの炎に照らされ、ユラユラと揺れる自分たちの影しかない。
が、ここに来て恭也はようやく奈々穂の言動に納得がいった。

「そう言えば、奈々穂はお化けとかが苦手だったな」

「に、苦手な訳ないだろう。そ、そもそもそんなの存在しない……ひっ。
 きょ、恭也、今そこで何かが動いた」

「あれはお前の影だ。落ち着け。別に恥ずかしがる事はないだろう。美由希もお化けは苦手だしな。
 第一、俺や奏とお前の付き合いはそんなに短くもないんだぞ。ここには他に誰も居ないんだし」

「そ、そうだったな……う、うぅぅ、何でこんなに暗いのよ。また、何か動いたよ、恭也ー」

他に誰も居ないという言葉を聞いたからか、奈々穂は先程までの控え目な感じではなく、がっしりと恭也の腕を掴んで抱き込む。
口調も恭也や奏だけしか居ない時のものとなっており、身体を震わせる。
そんな他のメンバーが見たら驚くような奈々穂の姿にも恭也は驚く事無く、落ち着かせるように頭に手を置いて宥める。

「大丈夫だ。あれは俺の影だ。ランプの炎は一定じゃない上に揺れているからな。
 それに合わせて影も揺れているんだ。ましてや持っている俺が歩いているから余計にな」

「うぅぅ、もう嫌だ。と言うか、忍の奴、戻ったら覚えてなさいよ」

恐怖を紛らわせる為か、奈々穂はここには居ない元凶へと文句を述べつつ、おっかなびっくりといった腰付きで歩く。
腕を掴まれながら歩く事に文句も言わず、恭也はただ小さく口元を緩める。
それに気付いた奈々穂が拗ねたように唇を尖らせ、恭也を睨むように見上げる。

「悪かったわね、こんな事で怯えて」

「ああ、すまん。別に奈々穂を笑った訳じゃない。前にも言ったと思うが、苦手な物があって当たり前なんだから、気にするな」

「だったら、どうして笑うのよ。どうせ、普段男勝りな私が女の子のように怯えているのを楽しんでいるんでしょう」

恐怖からか、もしくはそれから逃れようとしているからか、珍しく奈々穂が絡んでくるのだが、恭也は慣れた様子でそれをいなす。

「違うって。単にちょっと昔を思い出していただけだ。昔、美由希も同じような事があったなと」

「へぇ、まあ美由希は確かにこういうの私以上に苦手だしね。それっていつの事?」

恐怖を紛らわす事が出来るからか、奈々穂は恭也に詳しい話を尋ね、恭也も応えるように口にする。

「あれは小学生高学年ぐらいだったな。当時は今ほどでもなかったんだがな」

「そうなの? 何か信じられないわね」

「まあな。確か墓場で肝試しをする事になったんだ。
 で、その時俺はお化け役、つまりは驚し役だったんだが、美由希がだだをこねて俺とペアになったんだ。
 その途端、スタートする前に、もう俺の腕にしがみ付いてきてな。
 奈々穂は俺や美由希の使う本当の流派が何かは知っているだろう」

「うん。それと何か関係あるの?」

急に違う話題が出てきた事に首を傾げつつ尋ねる奈々穂に、恭也は何も言わずに続ける。

「あるというか、何と言うか……。
 あまりにも怖がるんでな、暗闇でも闘えなければならないと美由希の怖がりを直そうとしたんだ」

興味が出てきたのか、それとも美由希は駄目だったようだが、自分はもしかしたら克服できるかもと期待半分で続きを待つ。
それに苦笑を見せながらも恭也は続きを口にする。

「しがみ付いている美由希に向かって、今、お前がしがみ付いているのは誰だと思う、と低い声を出して、
 本来、付けるはずだったマスクを丁度持っていたので、それを被って美由希の方を見た途端、見事に気絶した」

「…………」

言葉を無くす奈々穂に、恭也は精巧に出来たゾンビのマスクだったんだぞと何故か嬉しそうに語る。
やがて、奈々穂はふと口に出す。

「もしかして、酷くなったのってそれが原因なんじゃ……」

「……ま、まあ過ぎた事を考えても仕方あるまい」

弱点を克服される所か、逆にトラウマを植えつけたかもしれないという疑惑が浮上してくるも、
恭也はそれを誤魔化すように視線を逸らす。
奈々穂は呆れつつも釘を刺すように言う。

「今、私にそんな事をしたらどうなるか分からないからね」

「承知している。そもそも今の状況でそんな悪戯などしないさ」

「うん、信じてあげる」

恭也のやや憮然とした声を感じ取り、奈々穂は少しだけ可笑しそうに笑う。
多少は薄らいだ恐怖心からか、今の状況を改めて冷静に見詰め直す。

「…………っ!」

「どうかしたのか?」

「な、何でない」

挙動から何か感じ取ったのか、恭也がこちらを見てくるのだが奈々穂は思わず顔を逸らす。
特に恭也はそれ以上は聞かず、また正面を向くが、それを横目で見詰めながら、
周囲が暗いお蔭で奈々穂は赤くなっているだろう顔を見られずに済んだ事に感謝し、掴んだ腕にもう少しだけ力を込めて抱き付く。
暫く無言で歩き続けた恭也たちは、前方が明るくなっているのを見つける。
二人、顔を見合わせて慎重にしつつも足早に明かりを目指せば、そこは間違いなく外へと続く出口のようで、風が吹き込んで来る。

「どうやら外のようだな」

「助かった〜」

安堵の吐息を漏らしつつ、奈々穂は少しだけ残念そうに恭也の腕を離す。
そうして、改めて二人は周囲を見渡す。
そこは見事に崖と言う言葉がぴったりくる程、垂直に近く、下までの距離もかなりあり自力で降りるのは不可能だったからだ。
だが、二人の顔に絶望などは見当たらない。何故なら、二人は仲間を信じているから。
ここで待っていれば、きっと見つけてくれるであろうと。
そして、それは程なくして証明される事となる。
生徒会所有の、この夏何度目かになるヘリコプターのが遠くからこちらへと向かってくる姿が見える。

「まったく、またしてもとんだ災難だ」

「本当にご苦労さまです、会長補佐」

「まだ他に誰も居ないのに、口調が戻っているな」

「まあ、癖みたいなものですから。それにしても、本当に災難でした」

「まあ、奈々穂にとっては特にそうだろうな」

「言わないでください」

疲れたように呟き、恭也の前に出て近付いてくるヘリコプターを眺める奈々穂に、恭也は思い出したように声を掛ける。

「ああ、そうそう。洞窟での事だが……」

恭也の言葉に振り返った奈々穂へと、恭也はいつもと変わらず、いや微かに微笑を浮かべて当然のように口にする。

「俺や奏にとっては、奈々穂はいつだって可愛い女の子だよ」

一部分なくても良いと思われる言葉もあったが、奈々穂はその言葉を聞いて顔を赤くしつつも嬉しそうに頷くと、
それを誤魔化すように近付いてくる久遠たちに向かって手を振るのであった。



そんなやり取りを知らないであろうが、忍は恭也に感謝するべきだろう。
この一言で、忍へのお仕置きを考えていた奈々穂が今回は大目に見る事にしたのだから。





続く




<あとがき>

予告通りに奈々穂と。
美姫 「で、また遭難?」
今回は遭難と言うよりも生き埋め、でもないか。
まあ、災難は災難だがな。
美姫 「のんびりとした夏休みが来る日はあるのかしらね」
どうだろうな。さて、次はどの子になるか。
美姫 「それは次回のお楽しみに〜」
ではでは。







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