『涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失』






プロローグT 高町恭也





それは長い冬もようやく終わりを告げ、徐々に日差しに暖かさが増し始めたある昼下がりのことだった。
休日の午前中に盆栽の世話を終えた恭也は、一人静かに縁側でお茶を飲み干す。
その光景を遊びに来ていた那美と一緒に、彼の妹である美由希が苦笑めいた笑みで眺める。
二人の視線に気付いた恭也が顔を向けると、二人は誤魔化すようにはっきりと笑うと手を振る。

「別に何でもないよ。でも、休みの日に家の中ばかりというのもあんまり良くないんじゃない?」

「それもそうだな。よし、少し散歩でもしてくるか」

恭也の言葉に、美由希と那美の二人を顔を見合わせ、何とも言えない顔をするのだった。
そう、始まりはそんなありきたりないつもの一日だった。
美由希たちに言った通りに本当に散歩を楽しむようにゆっくりと歩く恭也。

「ほう、梅か。見事なものだな」

時折立ち止まり、木々や花を眺め、擦り寄ってくる猫の相手を軽くし、恭也は充分に堪能した時間を過ごしていた。
が、ふと思い出したかのように、何処かへ向かうべくその足取りがやや早いものへと変わる。
恭也が向かった先、それは高町家。
何の事はない、家に戻ってきただけの事である。
恭也はそのまま部屋へと直行すると、すっかり手に馴染んだ、頼りになる相棒を手に持ち、
バックに詰めると、ふと机の引出しを開けて、色々と取り出してこれらもバックに詰める。
こうして物を詰めた大して大きくもないバックを恭也が持ち上げると、
ぎしっという音が聞こえてきそうな感じで持ち手がいっぱいまで伸びる。
しかし、恭也は何ともないようにそれを持ち上げると、また外へと出て行く。
鍛錬道具一式を揃え、いつも夜中に鍛錬を行う神社へとやって来た恭也は、バックに入れたものを取り出し、
次々と身に付けていく。最後に刀よりも短い、小太刀と呼ばれる日本刀の一種を二本、腰に差す。
完全武装し、一人技を磨くための鍛錬を開始する。



父であり、師でもあった士郎亡き後、無茶のし過ぎで砕いてしまった右膝。
剣士としての限界を悟り、同時に士郎との約束でもあり、自らの夢でもある妹の美由希を成長させるということ。
その為にも、最近、益々力をつけ始めた美由希のために、また自身のためにもこうして鍛錬を繰り返す。
美由希なしで、美由希を成長させるためではなく自己を高めるための鍛練を。
まだまだ教えなければならない事はたくさんあり、そのためにも、少しでもその前を長く歩かなくてはならない。
だからこそ、美由希が那美と遊んでいない今、たった一人で鍛錬を行う。
言わば、この鍛錬は自身を鍛える意味もあるが、多分に美由希を成長させるためのものでもある。
まだまだ原石に近く、研磨が必要な石。
けれども、その才能はとても大きく、どう育つのか楽しみを覚えずにはいられない。
美由希の成長に本人にははっきりとは言わないが、その努力、出来に満足げな笑みを知らず浮かべつつ、
鍛錬の手を休め、恭也はじくじくと痛む右膝をそっと手で押さえる。
僅かなりとも自身も剣士として成長は可能。
だが、その限界が低い事も理解している。
それでも、美由希が更なる高みへと登るために、その為に美由希の前をまだ走っていられるように、
いま少しだけ付き合ってくれと願いを込めるように、そっと撫でる。
撫でながらそう考えながらも、やはり剣士としての性か、恭也自身も見極めたいのかもしれない。
果たして、この故障を抱えた身体でどこまで登りつめる事ができるのかを。
とは言え、無茶は決してしないように恭也は右膝を特に入念にマッサージしながら、身体をクールダウンさせる。
これ以上の鍛錬は深夜の鍛錬に影響を及ぼすかもしれない。
そうなれば本末転倒もいい所である。
少し休憩をし、十分に身体を休めると恭也は帰宅すべく荷物を再びバックに詰め込んで神社を後にしようとする。
その時である。
恭也の感覚に何かが引っ掛かったのは。
特に人の気配を感じたという訳ではなく、ただ何となくといった曖昧なものを感じたのだ。
原因を調べるかどうか少しの逡巡の後、恭也は何となく感じた方へと足を踏み出す。
生い茂る木々を掻き分け、茂みの生い茂る向こう側へと足を伸ばした瞬間、
そこに本来なら足を受け止めるべきはずの地面がなく、恭也の身体は一瞬の浮遊感を感じる。
同時に、穴に落ちたはずなのに目も眩む程の光に包み込まれ、恭也は目を閉じる。
閉じながら、未だに浮遊感を感じている事からかなりの深さだと考える。
が、その浮遊感が急に消えたと思えば、今度は上昇しているような感覚を肌が感じる。
瞼を閉じても尚、視界を白く染める光に目を開けられない恭也。
その分、研ぎ澄まされた感覚が告げる。
上昇していると。だが、それを感じた瞬間、今度は横へと流され、また下へと落ちる感覚が襲う。
上下左右、何の法則性も見出せず、ただ身体を振り回される感覚を受ける中、
恭也は必死に意識を繋ぎ止め、気絶しないように堪えていた。
白一色の世界の中、不意にその光が収まると同時に、恭也の身体をあれほど襲っていた振り回される感覚も消える。
ゆっくりと目を開けると、今度は黒一色の世界。
自分が立っているのかさえ分からないほどの闇の中、夜目の利く恭也が暗闇を凝視するも、
その先には壁らしきものは見当たらず、試しに両腕を延ばすも何物にも阻まれる事なく伸びきる。
と、その足元に突如一つの亀裂が走り、光が洩れ零れる。
恭也が視線を足元に移し、それを確認するや否や、急に重力というものを思い出したかのように、
身体に重さが戻ってくる。
ここに至り、恭也はさっきまで自分が全く重さを感じていなかったと気付くも、
今はどうでも良いと切り離す。
恐らくは出口であろう亀裂と、無限に広がっているようにも見える闇の先を見渡す。
光が入っても尚、闇以外に何も見えない世界。
果たして何が起こっているのかは分からないが、ここに残るべきか、穴へと飛び込むべきか。
考え込むのは一瞬。恭也はすぐさま決断を下して、その身を亀裂へと飛び込ませるのだった。





つづく




<あとがき>

という訳で、涼宮ハルヒとのクロス〜。
美姫 「言い出しっぺは夜上さん」
以降、考えて書く人、俺。
美姫 「監修は私♪」
そこは激しく違う人を希……ぶべらっ! ぎょみょにょっ!!
美姫 「うふふ♪ 冗談ばっかり言ってもう〜」
あ、あがが……。
美姫 「ともあれ、そんなこんなで涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失、スタートです!」




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