『涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失』






第九話 花見だSOS団





いや、まあ確かに身体を休めたいと願ったさ。
そのお陰か、まあそうそう毎日事件など起きては堪らないからな、寧ろ今週のように慌しい方が珍しいとも言えるんだが、
ともあれ、昨日は特に何もなく平穏に過ぎ去ったさ。
古泉の奴や高町さんとゲームしたりしたけれど、ゆっくりと休めたと言えるね。
しかも、終業式で明日からは春休みだ、という非常に喜ばしい一日であった。
なのに、どうして俺は今日、休みの初日にこんな重いものを持ってえっちらおっちらと歩いているんでしょうね。

「重いのなら持とうか?」

そう親切に言ってくれるのは俺の隣を歩いている高町さんである。
しかし、俺はそれをご丁重にお断りする。
別にプライドがどうこうとかではなく、単純に高町さんの両手を見てだ。
俺よりも遥かに多い量の荷物を手にしてらっしゃるというのに、その上俺の荷物まで持たせては申し訳ない。
どこぞの団長様と違い、俺はその辺の分別ぐらいはあるぞ。
さて、先程から黙って俺と同じ量の荷物を手にして歩いている古泉も含めた俺たちが何をしているのかと言うと……。
まあ買い物だな。もう少し正確に言うと買い出しになるのか。
事の発端は朝に突如掛かってきた電話だったりする。
休み初日の電話、ましてや相手があのハルヒとなれば嫌な予感しかせず、
出るのに一瞬とは言え躊躇を覚えるのは仕方ないと思うのだが、その辺りは仕方ないだろう。
思わずそのまま寝てしまおうとも考えたが、そうなると後が怖いから俺は渋々と電話に出る事にしたんだ。

「ちょっと遅いじゃないのキョン! 一体どれぐらい待たせる気よ!」

開口一番それかよ。
どれぐらいも何も一分も経ってないだろうに。

「当たり前でしょう! 一分も待たせたら処刑よ処刑!」

へいへい。それで折角の休みだってのに、一体なんなんだ。
不思議探索は明日で今日じゃないだろう。
まさかとは思うが、お前の気まぐれで今日に変更とか言い出すなよ。
こっちにだって予定というものがあるんだからな。

「予定ってどうせ昼過ぎまで寝ているだけでしょう」

失礼な。休眠は人類が誕生してから現在まで続く――

「はいはい。そんな事より」

俺のご高説をそんな事呼ばわりか。いや、ハルヒらしいっちゃらしいが。

「今からいつもの所に集合よ! 遅れたら死刑よ!」

言うだけ言って切りやがった。
遅れるって何時に集合だよ。と言うか今からって事はすぐに来いって事だろう。
正確な時間も何も告げずに来いと言ったり、遅れたらって言葉が出てくる辺り不条理を感じんでもないが。
まあ団長直々の命令だし、とっとと着替えて出かけますか。
素早く身支度を整え、朝飯も食べずに玄関で靴を履く。
と、そこへ顔を出したのは。

「あれ、キョンくんどこか行くの?」

「ああ、ちょっと出かけてくる」

「わたしも行く!」

行くって何処に行くのか分かっているのか?
と言うかお前は大人しく留守番してなさい。

「いやー、わたしも行くったら行くの!」

我侭な事を言う妹を置いて俺は急いで待ち合わせ場所へと向かうべく玄関の扉へと手を掛け、
そこで再び電話が鳴ったので取り出して耳に当てる。

「キョン、言い忘れたけれど妹ちゃんも連れてきて良いわよ」

おいおい、お前は何処かで俺のことを監視でもしているのか。

「はぁ!? あんたなに言ってんのよ。あんまりバカな事ばっかり言ってないでさっさと来なさいよ。
 もう皆集まっているんだからね」

もう集まっているってやけに早すぎるだろう!
お前、さっき電話してきたばかりだぞ。
と言うより、皆が集まってから俺に電話してきたな。間違いない。
じゃないと流石に説明つかない。

「良いからさっさとしなさい」

へいへい。
何で休み初日の朝っぱらから、とは言えもう十時はとうに回っているんだが、こんなにも疲れないといけないんだろうね。
と言うわけで、連れて行ってやるからさっさと支度しろ。

「本当!? やったー!」

何が嬉しいのやら喜びを全身で現す我が妹を見遣り、
もう少ししっかりした方が良いんじゃないかと将来を兄として心配になっている間にさっさと出かける準備を済ませる。
さて、それじゃあ出掛けるとするかね。
ってな感じでいつもの集合場所へとやって来た俺を言葉通りに全員が既に揃って待っていた。
妹の奴はハルヒたちを見ると嬉しそうに駆けて行く。
俺は別段急ぎもせずに皆のもとへと近づくと、

「おっそーい! 遅いわよキョン!」

遅い遅いと連呼されてもな。
そもそも電話が掛かってきてから真っ直ぐに来ているんだからこれ以上早くは無理だっての。
俺がそう文句を言うとハルヒの横からにゅっと顔を出し、

「まあまあハルにゃんも落ち着いて。キョンくんだって頑張って来たんだから良いじゃないさ。
 それよりも今日はこれからめがっさ楽しもうじゃないかい」

「分かったわ、鶴屋さんがそこまで言うのなら今回は不問にしたげるわ。
 あんた、ちゃんと鶴屋さんに感謝しなさいよ」

言われるまでもなく感謝するさ。
とは言え、鶴屋さんまで来ているって今日は何をするんですか。

「にゃはははは〜。それはまだ秘密さね。
 とりあえず、女の子たちは先にあたしの家に行っているから、
 キョンくんたちはここに書かれている物を買ってきてちょうだいさね。
 あとであたしの家で合流さ」

言って渡されたメモを見れば、ジュースなどの飲み物や食材、酒のつまみまで書かれている。
まあ肝心のお酒の方はメモにはないみたいだが、とりあえず買い出しに行けという事らしい。
宴会でもやるつもりなのか。

「それは後の楽しみよ。ほら、さっさと買いに行った行った」

追い遣るように俺の背中を押して、実際に追い遣られて俺たちは近くのスーパーまで買い出しへと行く。
とまあ、そんなこんなで今に至るんだが。
にしても、メモに書いてある食材の多いこと多いこと。
一体何をするつもりなのかは知らないが。何か知っているんじゃないのか古泉。

「いえ、生憎と今回は僕も全く知らされていませんよ。
 急な電話で呼び出されたのもあなたと同じですし」

まあ鶴屋さんやうちの妹なども呼んでいることから考えれば、そうそう無茶な事はしないと思うけれどな。
そうこうするうちにようやく鶴屋さんの家が見えてきたな。
いつ見ても凄いお屋敷だ。
立派な門を潜り――勝手に通っても叱られたりしないよな。
門の前には誰もいないんだから仕方ないと割り切り、
さっさと重たい荷物を下ろしたいとばかりに聞かされていた方へと足を向ける。
確か玄関に入らずにそのまま庭の方に回ってくれって話だったけれど。

「あ、やっと来たわね。こっちはもう準備できているわよ」

中庭へと出れば、ハルヒたちがドラム缶を縦から半分に切ったようなものの中に炭に火をつけ、
とそんな紛らわしい言い方はしなくても良いな。どうも疲れているらしい。
早い話がコンロで炭火を起こしていた。
もうここまで来れば何をするつもりなのかは一目瞭然だな。
バーベキューか。それでこんなにも買い込んだんだな。高町さんも長門もよく食べる方だし。
ハルヒにしては中々良いイベントじゃないか。
珍しく褒めてやったというのにハルヒの奴は呆れたように肩を竦めやがる。

「ったく、これだら花より団子のお子様は。
 ちゃんと周りを見なさいよね」

言って手を広げるハルヒの後ろには見事な桜の木々。
丁度横から吹いた風に乗り花びらがひらひらと舞い、思わずハルヒも含めたその光景に目を奪われる。
……まあ、こいつは黙っていれば間違いなく美少女だしな。
健全な男子高校生であるところの俺が何かの気の迷いで一瞬とは言え見惚れることもなきにしもあらずだ、うん。

「ほら、そんな事よりも買ってきた物を出してそっち置いて。
 みくるちゃん、ようやく食材が来たから今度は切るわよ」

「あ、はーい」

何故かメイド服を着て、いや、着させられたんだろうが、メイド姿の朝比奈さんがハルヒの元へとやって来る。

「あ、キョンくん。これをお願いしても良いですか。
 あっちにテーブルがあるから、そこにでも置いておいてください」

言って渡されたのはおにぎりだった。
おお、朝比奈さんの手作りか。

「私と涼宮さん、鶴屋さんで作ったんです。良かったら食べてくださいね」

勿論、ありがたく頂きますとも。
いやー、本当に今日はいい日だ。朝比奈さんのメイド姿が拝める上に手作り料理まで食べれるなんて。

「そんな……。手作りと言ってもおにぎりですし」

顔を赤くして照れる朝比奈さんに思わず感動していると、ハルヒの奴が俺の尻を蹴り上げる。

「バカキョン、いやらしい目でみくるちゃんを見ている暇があるのなら、さっさと持っていきなさい。
 あと火の番を有希と交代ね」

へいへい、分かりましたよ。
しかし、一体いつの間に企画したんだ。
これが公園とかなら突然思いついたとしても驚かないが、鶴屋さんの家だろう。

「ふふーん、実は一昨日に鶴屋さんから家の桜が見頃だって話を聞いてね。
 それでこっそりと二人で計画したのよ。名付けて、びっくり花見大作戦ね。
 まあ放課後に打ち合わせとかしたから、もしかしたらあんたたちに見られるかもとか思ったけれどね。
 あの日は皆真っ直ぐに部室に行ったみたいで見つからなかったわ。いやー、ちょっとドキドキして面白かったわよ」

言葉を返すようだが、いつも真っ直ぐに部室へと言っているぞ。
ん? 待てよ、一昨日だと。
しかも放課後に密談だって? まさかあの時か?
そんな俺の疑問を感じ取ったのか、いや、俺が無意識に長門を見ていてそれに気づいたのか、
近くにいた長門の奴が説明してくれる。

「涼宮ハルヒは単に私たちに自分の目的が終わるまでは見つかりたくないと願った」

まさか、その結果があの閉鎖空間もどきなのか。
コクリと頷いてくれる長門。そこは否定してくれた方が俺としては嬉しかったりするんだが、そうもいかないらしい。
って事は何か。ハルヒの気まぐれとも言える思いつきであんな目にあったと。
それを長門は分かっていたから、時間が経てば戻れると行ったのか。
つまり、ハルヒと鶴屋さんの密談が終われば自然に戻れると。
またしても頷く長門に俺は思わず空を見上げる。
驚くほどに晴れ渡った青空に似つかわしくない思い溜め息が出てくるのを止めれない。
一昨日のあれがまさか、ハルヒが鶴屋さんと花見の段取りをするためだけに起こり、
しかもそれが終わったからと解放されたって。いや、本当につくづく、やれやれだな。
まあ何はともあれ、わざわざ閉鎖空間もどきにまで閉じ込められて迎えた花見だ。
存分に楽しむとするか。

「はいはい、皆グラス持った? まだ何て言う奴が居たら蹴っ飛ばしちゃうわよ」

やたらとテンションも高くなみなみとジュースの入ったグラスを頭上に掲げるハルヒ。
って、零れてる零れてる!
大体にしてグラスを持つも何も現状で持っているのはお前だけだ。
皆、まだ用意している途中なんだぞ。
見てみろ、朝比奈さんなんて突然のお前の言葉に慌ててコップを取ろうとして転んでしまっているじゃないか。
それをいつの間に移動したのか、助け起こした高町さんへと何度も頭を下げている。
一方で長門の奴はとことんマイペースに立ったまま、うーんさっきから視線がずっと固定されているような気がするな。
もしかして、そんなに肉の山が気になるのか?

「……別にそういう訳ではない」

言いながらもやはり視線は動かないんだな。
まあ別に構わないが。

「とりあえず、涼宮さんは乾杯をしたいみたいなのでグラスを手にしてもらえますか」

そう言って俺と長門に空のコップを差し出してくる古泉。
それを長門と二人手に取れば、古泉の奴がジュースを注いでくる。
何が悲しくて男の酌なんだと嘆きたくなるが、ハルヒの奴をこれ以上待たせるよりはましか、
と長門のコップにジュースを注ぎ終えた古泉に俺もまたコップを差し出す。

「まああなたの気持ちも分からなくもないですが、ここは我慢してください。
 これ以上ぐずぐずして、またあんな所に閉じ込められるのは流石にごめんですからね」

そう言って無意味な笑顔を振り撒きながら注ごうとするも、それを長門が横から奪う。
まさか乾杯するよりも前に飲み干してしまったのか。
って、まだコップの中にあるじゃないか。
どういう事だと思うよりも前に、長門がペットボトルを差し出してくる。
……これはつまり長門が入れてくれるという事か。
長門は一つ頷くと、早くしろとばかりにペットボトルを軽く持ち上げる。
それじゃあ、ありがたく厚意に甘えるとしよう。
俺のを注ぎ終えると長門は黙って古泉にも同じように差し出す。

「僕の分もですか。いやー、これはこれはありがとうございます。
 ありがたく注いで頂きますよ」

古泉のコップにもジュースが注がれ、見れば他の皆も既に準備完了といった所か。
それを見て満足そうに頷くとハルヒは乾杯の音頭を取ろうと――せずに俺を指差しやがった。

「まったく皆を待たせて悪いと思わないのキョン!
 そんな事だからいつまで経っても平の団員のままなのよ!
 罰として後で何か隠し芸の一つや二つを披露しなさい!」

待て待て!
幾らなんでもそれは理不尽ではないだろうか。
お前が声を掛けた時には誰一人として準備は整っていなかったはずだ。
更に言わせてもらえば、少なくとも俺は古泉よりも先に準備を終えていたはずだが。

「古泉くんは副団長で、あんたはただの団員でしょう。
 だから古泉くんにはボーナスタイムが付くのよ。
 その結果、古泉くんよりも少しだけ早かったあんたが一番最後になったってわけ」

これで分かったでしょう、とまるでさも当然という顔で言われても納得できる訳ないだろう。
断固拒否させてもらうぞ。

「はいはい、いつまでも喚いているんじゃないわよ。
 皆待っているんだから、静かにしなさいよね」

またしても俺のせいかよ、という言葉は飲み込む。
ハルヒの奴は兎も角、これ以上口論して他の皆を待たせるのは悪いからな。
ああ、何て我慢強くなったんだろう。この一年で俺の堪忍袋はやたらと広く丈夫になっただろうな、うん。
それだけは間違いない。しみじみと感じ入る俺を無視し、ハルヒはコップを高々と掲げると、

「かんぱいっ!」

『かんぱいっ!』

ハルヒに続き一斉に皆が唱和する。
乾杯の音頭が済むとハルヒは一気にコップの中身を飲み干しまたしても偉そうに腕を組んで胸を張る。

「それじゃあ、今日は無礼講よ!
 皆、存分に食べて飲んで楽しんでね」

お前はいつも無礼講のような気がしないでもないがな。
さて、それじゃあハルヒの奴が何かやらかす前にしっかりと食べるとするか。
って、早いなおい! もう網の上が肉で埋まっているじゃないか。
いや、まあ誰の仕業かなんて分かりきっているが。

「長門、肉ばかりじゃなくて野菜も食べないと駄目だぞ」

「分かっている。この次は野菜を焼く」

そうかそうか、分かっているのなら良いんだ。
だがな、一つだけ言わせてくれ。肉も野菜も均等に並べような。

「…………分かった」

俺の言葉に暫しこちらを見上げてから、ようやく頷いてくれる。
まあ相手はあの長門だから、大丈夫だろう。とりあえず、そろそろ焼けてきた肉を一切れ頂く。
皆、それぞれに楽しんでいるらしく、あちこちで話をしながらも箸を進めている。
ハルヒの奴は高町さんに絡んでいるみたいだな。
まあ何を話しているのかは分からないが、困っているようにも見えないからフォローとかもいらないだろう。

「あ、キョンくん、そっちのお肉がもう焼けてますよ。
 こっちも焼けました。はい、妹さんどうぞ」

「ありがとうみくるちゃん!」

ちゃんと礼を言うのは我が妹ながら偉いぞ。だが、口の周りが何故もうそんなに汚れているんだ。
同じく気付いた朝比奈さんが取り出したティッシュで妹の口を拭いてくれる。
朝比奈さんはここでも甲斐甲斐しく他人の世話をしているが、自分は良いのだろうか。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫ですよ。
 私は私でちゃんと頂いていますから」

そう言って笑う朝比奈さんに俺もそれ以上言うのはやめる。
まあ本人がそう言っているのなら、そうなのだろう。
って、気が付いたら既にあれだけ焼かれていた肉の半分以上が姿を消しているじゃないか。
おいおい長門、少しはゆっくりと味わえよ。

「私だけじゃない」

言って長門が正面を見詰め、そちらを見ればハルヒから解放された高町さんがいつの間にかいて、
これまた長門に負けず劣らずの早さで箸を動かしていた。

「キョンも食べないとすぐになくなるぞ」

あ、はい頂きます。
促されるような形で俺も肉を取る。
その開いたスペースに新しく肉を置いていく高町さん。
だがさっきの長門とは違い、野菜もちゃんと置かれていく。

「ああ、すみません恭也さん。私がやりますから」

別に朝比奈さんの役目という訳ではないのだが、やはりこの一年でメイドとしての何かが目覚め始めているのか、
朝比奈さんは少し申し訳なさそうに高町さんから肉のパックを受け取ろうとする。
だが高町さんはそれを渡さず、

「でしたら、あちらの開いている所に野菜を並べてもらえますか」

「あ、はい分かりました」

仕事を与えられて何処か嬉しそうに野菜を並べ出す朝比奈さん。
いや、本当にこのままメイドになってしまいそうですね。
これもまたハルヒの奴が望んだからか。
そんなバカな事を考えていると、

「キョン、楽しんでる?」

「おう、楽しんでるよ。そういうお前は……聞くまでもないか」

全身から楽しんでいるという空気を振りまいているハルヒを見れば、聞くだけ野暮ってもんだ。

「ほら、あんたももっと食べなさいよ。どれ団長自らが取ってあげるわ。
 感謝して私の方に足を向けて寝れないわよ!」

言うが早いか俺が手にしていた取り皿を勝手に取り上げ、そこに肉を放り込んでいくハルヒ。
どうでも良いが、俺はお前の家がどこにあるかなんて分からないんだ。
足を向けていないかどうかなんて分かるかよ。
って、ちょっと待てハルヒ! それまだ焼けてないだろう!

「細かい事は気にしない、気にしない」

するわ! というか、何だその野菜の量は!
最初に入れた肉が隠れて見えないではないか!

「野菜は肉の三倍は取らないと駄目なのよ。
 これも団員の健康を気遣った私の優しさよ。さあ、食べなさい!」

言って返された取り皿には小さな山を作る野菜。
そしてその下に埋もれているであろう肉が。
入れるだけ入れて満足したハルヒの奴は、今度は長門の更に肉を入れていく。
と言うか、見事に肉ばかりだな。まあ、偶に野菜も入れている辺りはちゃんと考えているようだが。
どちらにせよ、俺のようにこんもりと野菜が山となるような事はないみたいだ。
……新手の嫌がらせだったのか。
真剣にそんな事を考えつつも俺はありがたくて涙が出るらしい団長自らが取ってくださったそれらを口に入れていく。
そんな感じでこの賑やかな時間は続いた。
途中でハルヒが宣言したように俺が芸をやらされるような場面もあったが……できればそれはすぐにでも忘れたい。
まさにあの時、鍋をした時以来の悪夢の再来だ。
ああ、頼む俺の記憶力よ! 今すぐにでも消し去ってくれ!
と言うわけで、その件に関しては決して触れないで頂きたい!
今日も少し疲れた感はあるが、今日のこれはとても心地良いものだな。充分以上に楽しめた。
明日は明日で不思議探索があって出掛けなければいけないが、それは明日考えれば良い。
本当にこいつと出会ってから、騒がしくて忙しくて、けれども決して退屈はしない。
全く大した奴だと改めて思うね。次は何を仕出かすのか楽しみにしている自分を感じながら、
それを誤魔化すように今日の本来の目的である桜を見上げるのだった。





つづく




<あとがき>

という事で、前回の原因も判明と。
美姫 「いよいよ残り話数も少しね」
だな。次回は不思議探索という事で。
美姫 「また次回でお会いしましょう」
ではでは。




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