『涼宮ハルヒの挑戦、高町恭也の消失』






第十一話 考えるもの





ハルヒたちと別れた恭也と有希は歩き出したまでは良かったが、特に行く当てなどもなく、
これから何をするのかというのは理解しているが、どうするのかは分からず、恭也は有希へとそのま質問をぶつける。

「それで、これから俺たちはどうすれば良いのですか」

「……涼宮ハルヒの望み通り不思議を探す。
 けれど、それが見つかる可能性は0と言っても良い」

「それでも探索をするんですか」

恭也の問い掛けに対し、有希は足を止めてじっと恭也を見上げ、

「あなたさえ良ければ移動する」

「移動、ですか。どこか行きたい場所でもあるんですか」

小さく頷く有希に恭也も特に異論もなく、また一人で探索をしても有希の言葉から無駄だと分かる上に、
この周辺はそこまで詳しくもない。故に肯定の意味で頷き返すと、有希は再びゆっくりとした足取りで歩き始める。
その隣に並びながら、恭也は周辺を一応とばかりに見渡す。
共に無口で歩いてはいるが、特に気まずさを感じる事もなく進んで行く。
特に会話を探していた訳ではないが、ふと気づいて恭也は有希へと質問してみる。

「所で、俺がいつ頃戻れるのかという目処ぐらいは付きましたか?」

「まだ不明。涼宮ハルヒは未だに異世界人の存在が目の前に現れてくれる事を強く望んでいる。
 その想いがある限りは無理」

有希の言葉にそうかとだけ呟くと、恭也はその話を打ち切り話題を変える。

「それでこれから何処に行こうとしているんですか」

「もうすぐ。あそこ」

歩みを止めずに指差す先を見れば、かなり大きな建物が目に入る。
それから程なくして、恭也にもその建物が何なのか分かる。

「図書館ですか」

確認するかのような呟きに有希は特に答える事なく、その姿はそのまま図書館の中へと消えていく。
その後を追って恭也も中へと入れば、左右だけでなく奥にも広がりを見せる部屋には本棚がずらりとならび、
間違いなくここが図書館だと分かる。
見れば有希は既に目的の場所があるのか、立ち止まる恭也には目もくれずにずんずんと奥へと進んでいく。
その後姿を眺め、部室だけでなく家の中でもずっと本を読んでいる事を思い出す。

「まるで美由希みたいだな」

知らず零れた妹の名に苦笑しつつも有希の後に付いて行く。
それに気づいたのか、有希は一度足を止めて肩越しに恭也へと振り返る。

「時間になったら呼びに行くから、それまでは好きにしてて」

「分かりました。とりあえず、暫く適当に見て周ります。
 集合時間の三十分前に玄関で待ち合わせで良いですか」

恭也の言葉に少し考えてから頷くと有希はすぐさま背を向けて本棚の向こうへと消えていく。
その背中を見送り、恭也は改めて周りを見る。
見た所で、目に入るのは本、本、本と本ばかりなのだが。
とりあえず、どんなものがあるのかと背表紙に目を向け、
その見るからに難しそうなタイトルにさっさとこの区画を出る決意をするのだった。



 § §



さて、ハルヒの奴に引っ張られて移動していた俺であったが、
いつまでもそんな注目を浴びる様な真似に甘んじている訳ににもいかず、
またハルヒの方にも羞恥心を味わうなんていう変な性癖も持ち合わせていない事から、今では自然と並んで歩いている。
ハルヒの奴は時折、建物と建物の間に隙間があればそこへと走り出してそこを覗き込み、
またベンチなどが置かれていれば、その下の様子を窺うという、出来れば他人の振りをしたいような事を繰り返している。

「ちょっとキョン! ボサボサしていないであんたも探しなさいよね!」

知らん振りしようにも、こうも大声で呼ばれた日には無視する訳にもいかない。
すれば後が怖いからな。
そんな訳で申し訳程度のやる気を振り絞り、俺もハルヒを真似て歩道の横に植えられている草むらを覗いたり、
溝の中を覗き込んだりをあたかも何か探してますというポーズを取る。
所で、俺たちは何を探しているんだろうな。

「はぁ!? あんた一年近くもやってきておいて、未だにそんな事も分かってなかったの?」

なんだその頭は本当に大丈夫かと言わんばかりの顔は。
不思議だっていうのは分かっているさ。俺が聞きたいのはそうじゃなくて、もっと具体的な形とかだよ。
漠然と不思議っていうだけじゃなく、もう少しはっきりとしたビジョンがあれば探しやすいかもしれないだろう。

「兎に角、普通とは違うものよ!
 そうね、例えば異世界へと通じる穴とかがあれば一番ね。
 ほら、これを聞けばあんたもやる気が出てきたでしょう!
 前にも異世界人に興味を持ってたみたいだしね! という訳で、今日こそ見つけるわよ!」

……すまんがやる気が一気に下落だ。
お前は知らないかもしれないが、既に異世界人もお前の傍に居るんだよ。
まあ、今回の件は俺にも責任の一端はあるんだろうが。
なんて事を正直に言えるはずもなく、また言ったとしてもこいつは信じないだろうが。
またアヒルのように口を尖らせて、盛大に呆れて見せてくれるあろう。
キョン、不思議ってのはそう簡単に見つからないから不思議なのよ、ってな感じだ。
そう簡単に見つからないと分かっているのなら、折角の休日を毎週の如く潰さないでもらいたい。
これもまた正面きって言えるはずもなく、そっと胸の奥深くに仕舞い込む事にする。
まあ、ハルヒが傍に居る事もあって俺も午前中は真面目に探しましたよ。
もうそれこそ疲れるぐらいにな。
結局、これといった収穫は得られずに集合時間が近づき午前の探索はお終いとなったけれど。
流石にこれで何か発見して、更に事態がややこしくなるのは避けたいから、この結果には満足である。
ハルヒにはちょっと気の毒だが、他の奴らの収穫を聞いている横顔を見ている限り、そう問題もないみたいだしな。
そんなこんなで他の二組も収穫は特になく、一旦休息を兼ねて昼食を取ることとなった。
古泉お勧めの店へと出向き、そこでそれぞれに腹を満たす。
それが済むと、再び出番だとばかりにハルヒの手に紙ナプキンで作られた六つの籤が登場する。
さて、今度はどんな組み合わせになるのやら。



……オウジーザス!

「それじゃあ、三時にここで。キョンくんも頑張ってくださいね」

「みくるさん、それじゃあ行きましょか」

「はい。私たちはあっちでしたね」

「それじゃあ、僕たちも行くとします。
 涼宮さん、また後ほど」

「…………」

午前中と男女でパートナーが変わっただけの高町さんたちを呆然と見送る俺の襟首を、
午後もまた共に行動する事となったハルヒの奴が遠慮なしに掴み、そのまま引っ張っていく。
腕と首の違いはあるが、またしても引きずられていく俺。
つくづく、つくづく神よ!ってな心境で祈りそうになるも、その前にこれをどうにかしないと祈り云々以前に、
直接会って文句を言えるような事になりかねない。

「待て待てハルヒ! 流石に首は苦しいっ! い、息が!」

少し乱暴になってしまったハルヒの腕を振り解き、数度首を擦ってようやく人心地つく。
はずが、ハルヒはそんな暇はないとばかりに午前中よりも熱心に、それこそ路地裏にまで侵入して探索をする。
その後を付いて行きながら、いつも以上の情熱をそこに感じ取ってしまう。
これはまだ当分、高町さんは帰れないかもしれないな。
そんな事を思いつつ、既に高町さんが居る事にも慣れている自身に知らず笑みが浮かぶ。
まだ一週間だというのに、やたらと俺たちに馴染んでいる高町さん。
まあ、それだけ色々とあったのも確かだが。
勿論、ちゃんと元の世界に戻してあげたいという思いもあるのだが、思わずもう少しと思ってしまった。
それを誤魔化すようにハルヒの隣で同じように周囲に何かないかを探す。
だが、やはりそう簡単に不思議には出会えないもので、目ぼしいものは何も見つからなかった。
その内、何の成果も上げられないまま集合時間が迫り俺たちは集合場所へと向かう。
いつにも増して苛立っている感じのハルヒと共に集合場所へと戻り、既に集まっていた二組と合流する。
向こうも何も成果はなかったらしく、古泉は肩を竦めてまで見せる。
まあ、これもいつもの事と言えばいつもの事だ。
午前と午後、二回目の探索を終えても何も成果なしなんてのはな。
で、いつもならここで解散するか、遊ぶなり何か食べたりする所なのだが、今回はハルヒも未だにやる気を見せており、
ポケットから本日三回目のメンバーを決める籤を取り出す。
いつもよりも熱心に不思議を、異世界人を探すことにこだわっているように見えるんだが。
まだ異世界人への興味は薄まっていないって事か。
ちらりと高町さんを見れば、こちらは特にいつもと変わらない様子である。
自分の世界に帰れるかどうかという事も関わっていると言うのに、本当に落ち着いているな。
とは言え、さっき自分が思ってしまった事を思い出せば、知らず目を逸らしてしまうが。
ともあれ、こうして本日三回目のグループ分けが行われた。
結果、俺の相手は長門となり、古泉の相手は本日二度目の朝比奈さん。
で、残ったのは高町さんとハルヒと。
うーん、高町さんの事だから大丈夫だとは思うが、思わずという事もあるしな。
一応、軽く注意しておくか。
そんな訳で高町さんに異世界人であることがばれないように念を押し、俺と長門は探索へと出ることになる。
が、先を歩く長門の向かう先にはある建物がある事を俺はちゃんと知っている。
最早確認するまでもなく、目的地の検討をつける。

「図書館か」

俺の問いに前を歩きながら頷く。
それに思わず苦笑を零しつつ隣に並び、午前中も行ったんじゃないかと聞いてみる。
案の定、高町さんを連れて行ったようである。
ある意味、これもまたいつもの事なのかもな。



 § §



恭也とハルヒも二人で探索していく。
午前中回った所に見落としがなかったか、もしくは油断して出てくるかもしれないと。
必死に探すハルヒの隣を歩きながら、ハルヒの話に耳を傾け、時折相槌や質問を混ぜながら。
やがて話は、宇宙人や未来人、超能力者の話になり、その中でもキョンが異世界人に興味を示したと話す。
嬉しそうに話すハルヒを見ながら、恭也はハルヒに自分がその異世界人だとばれないように会話を続ける。

「せめて、異世界人だけでも召喚する方法はないのかしらね。
 宇宙人は呼ぶための儀式が色々とあるのに、可笑しいわよね」

「それはキョンのためですか?」

「ち、違うわよ! 別にキョンは関係ないわよ!
 単に私が一緒に楽しく遊びたいの! それだけよ!」

「ええ、分かりましたよ。でも、キョンなら異世界人を呼ぼうとは思わないんじゃないですかね。
 向こうの都合なども考えずに勝手に呼んでしまったら申し訳ないとか言って。
 それに呼んだけれども帰す方法がないのでは可哀相だとか言い出しそうですね」

「確かに言い出しそうね」

「今のままでもキョンは口にこそ出しませんが、かなり楽しそうですよ」

「本当に!?」

「ええ、間違いなく」

「ま、まあ、そうよね。なんたってこの超団長である私が作ったSOS団にいるんだものね」

「ええ。だから、キョンが言った異世界人云々はむしろ、涼宮さんのために言ったのかもしれませんね」

少し照れた感じで恭也から視線を外し、気のない風に返事をする。

「じゃあ、キョンはううん、キョンだけじゃなく皆、楽しんでいるって事よね」

「そうですね。キョンだけじゃなく、長門さんにみくるさん、古泉さん、勿論俺も本当に楽しんでいますよ」

「そっか。じゃあ、こんなに必死になって異世界人を探さなくても良いかもね」

そう言って笑ったハルヒの顔は、どこかすっきりしていた。
結局、その後も不思議とは出会うこともなく、三度集合した一同はようやく解散となったのであった。



 § §



とまあ、それで一日が終われば良かったんだが、こうして俺はまだ外に居る訳である。
あれから一度分かれた後、俺たちは再び長門のマンション前に集まっているのだ。
というのも、帰り際に長門から後で来てと言われたからだ。
これが今までの様々な経験を積み重ねてきておらず、高町さんが居候しているという事を知らないのなら、
胸も高鳴るような展開が待っているのかと落ち着きをなくす所だろうが、悲しいかな、
既に何かあった時の常習とすらなっている故に、特に変な期待もせずに再びハルヒを除く俺たちは集まった。
集まった俺たちを見て、長門はまるで明日の天気を話すかのような、本当に何でもないことのように、
いつもの如く淡々と語ってくれた。
俺たち、少なくとも俺にとってはかなり驚きを持つ事を。

「涼宮ハルヒが異世界人への執拗なまでの興味心を無くした。故に明日にでも彼を帰す事が可能」

一体、どんな心境の変化がハルヒにあったのかは分からないが、あまりにも突然な話に皆流石に驚いていた。
とは言え、このチャンスを逃せばまたハルヒが興味を抱いて帰れないなんて事になるのかもしれない。
全員が高町さんの方を見ると、高町さんは少し考えるように目を閉じ、数秒後にゆっくりと目を開けて静かな声で、

「確かに急な事態ですが、お願いします」

はっきりとそう口にしたのだった。





つづく




<あとがき>

いよいよ恭也が帰還することに。
美姫 「いよいよ次回でラストね」
だな。うーん、十二話は思ったよりも短かったかも。
もう少しドタバタとさせれば良かった。
美姫 「春休みに入ったばかりだものね」
ああ。まあ、原作で佐々木という新たなキャラが出てきたからな。
春休みに入ってすぐだが、時期的には良いかもな。
美姫 「何はともあれ、次で最後ね」
おう! それではまた次回で。
美姫 「まったね〜」




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