『incomprehensible ex libris』
第八章
9月20日(水)
──風芽丘学園、一年A組──
誰もいない教室の扉を開け、恭也は教室の中へと足を踏み入れる。
「さて、美由希の席はどこだ?」
ぐるりと教室を見渡し、鞄の他に荷物の置いてある机を見つけ、その席へと近づく。
机の横に置かれている袋を手に取り重さを確かめる。
(重さはこんなものなんだが、もし剣道部員とかの荷物だったら・・・)
意を決して袋の口を開ける。そこから覗く柄は恭也も見慣れた美由希の物だった。
その小太刀を腰に差すと恭也は再び、自身の教室に戻る。
「・・・しかし、ここまでして何事もなかったらただの笑いものだな」
そう一人ごちるが、実際には謎の男が拳銃を持っていた以上、何かが起こっていると考えている。
そこで、自分のクラスに戻ると未だに気絶している男に活を入れ目を覚まさせる。
「さて、貴様に訊ねたいことがある。今、ここで何が起こっている」
「サァ。ワタシ、にほんごムズカシクテワカラナイヨ」
「そうか」
恭也は静かにそう呟くと懐から小刀を取り出し、ヤンの鼻先に突きつける。
「御神不破流には拷問に用いる技もあってな…。俺も昔、父さんに何度かやられたこともあって一応、一通りは知っている。
その身で受けてみるか?」
恭也の言葉にヤンは無言のままでいる。恐らく恭也の言葉を信じていないのだろう。
恭也はヤンの傍に屈むと小太刀を鞘のまま腰から外し、そのまま男の右胸を当てる。
「貴様らの目的は何だ?」
「ただの観光デス」
ヤンがそう答えた瞬間に恭也は小太刀を握る手に力を込める。
途端に嫌な音が音がして、恭也の手にヤンの肋骨の折れる感触が伝わってくる。
「ぐっぐぐぐぅぅ」
「目的は何だ?」
「し、シリマセン」
恭也は無言で腕に力を込める。その度にヤンの口から空気の漏れるような声が出る。
それから数分後、ヤンはついに音を上げ語りだす。
「ワ、ワタシもクワシクハ知りません。ただ、適正値をモッタニンゲンを探してイルトダケキイタ。
ソレいじょうはシリマセン。ワタシはただ、ラルフにヤトワレタダケデス」
「仲間は何人いる」
「ぜ、ゼンブで6人デス」
「後、あそこにある白い箱は何だ?」
「知りたいデスカ。なら、教えてアゲマス。アレは爆弾デス」
「なっ!起爆スイッチはどこだ!それと、時限タイプか!」
恭也はヤンの首元を締め付け、低い声で訊ねる。
「時限タイプではありまセーン。そんなモノはオモシロクもなんともナイデスから。
起爆スイッチはソ、ソコの入れ物の中デス・・・」
ヤンは苦しそうに答えながら自分が持って来た小さなケースを目でさす。
恭也はそのケースの傍まで寄るとケースを開けて中を確認する。
その中から片手に収まる程の小さなスイッチらしき物を見つける。
「これがそうか」
「ソウデス」
恭也はそれを身長に取り出すと自分のポケットへとしまい込む。
「では次の質問だ。あの爆弾はどうやったら解除できる」
「・・・・・・くっくっくくくくくく。はぁ〜はっはははは」
最初、きょとんとした顔をしていたヤンだったが、急に面白い物を見たように大声をあげて笑い出す。
「何が可笑しい」
「くっくっく。痛ぅー。ソーリー。でも、あなたの質問がとてもオモシロカッタからデスヨ」
笑いすぎて折れた肋骨にでも響いたのか痛みに顔を顰めながらヤンは説明をする。
「素人がドウコウできるモンじゃありまセーン。説明するダケむだデース」
「くっ」
恭也は忌々しげにヤンを睨みつけるが、その言葉が事実なだけに何も言えずに黙り込む。
(兎に角、何とか外と連絡をとるしかないか。どうやら俺の存在は連中に気付かれていないみたいだしな。
一旦、外に出てリスティさんに連絡を入れれば・・・)
「おい、ここ最近、あちこちで起こった失踪事件はお前らの仕業か」
「ソウデス」
「いなくなった人たちは何処だ!」
「ソレハ・・・」
ヤンが何かを言おうとするのを途中で黙らせ、恭也は耳を澄ます。
何者かが階段を上ってくる足音が微かに聞こえてくる。
(まさか存在に気付かれたか。・・・最初の発砲音のせいか。だとしたら、一ヶ所に留まるのは危ないな。
一旦やり過ごした後に移動するか)
今後の方針をすぐに決めると恭也は気配を消して身を潜める。
足音は丁度、この階で立ち止まり、恭也のいる所へと向ってくる。
固唾を飲んで見守る中、扉の開く音が廊下から聞こえてくる。
どうやら、一つ一つ虱潰しに確認していく気らしい。
(まずいな。何とかやり過ごさないと)
恭也は扉の陰に隠れ、耳を欹てる。
そんな恭也の後ろでヤンが微かに腹に力を込める。
しかし、恭也の神経は廊下へと向かっているため、ヤンの様子に気付かなかった。
近づいて来る足音に、ヤンは大声で助けを呼ぶ。
「こ、ここだ!ここにまだ一人残っている!」
舌打ちを一つすると、恭也はヤンを素通りして窓側へと近づく。
窓を開けたところで、教室の扉が開き、ミハイルとドイルが入ってくる。
二人は教室を見て、大体の事情を察したのか銃を恭也へと向ける。
恭也は銃を向けられても動きを止めず、そのまま窓から外へと飛び出す。
突然の恭也の行動に、流石の二人も動きが遅れる。
我に返り、すぐさま窓に近づくと下を覗く。
銃を突きつけられた事による恐怖からの行動かと思い、地上に描かれているであろう凄惨な風景を予想していた二人だったが、
予想に反し、地上は綺麗だった。
恭也は鋼糸を使い、下の教室へと移動すると、そのまま窓をぶち破って中へと飛び込む。
二人は顔を見合わせると、すぐさま下の教室へと向う。
そんな二人にヤンが声を掛ける。
「これを解いてくれよ!」
ヤンの言葉に、ドイルがヤンの手足を括っていた鋼糸を切断する。
その間に、ミハイルは先に下へと向かう。
「一体、何があった」
「別に何でもねーよ。ただ、ちょっと油断しただけだ。
あのガキ、絶対に殺す!」
怒ったように言うヤンに、ドイルが注意を促がす。
「勝手に殺したりしたら、エイルが黙っていないぞ」
「一人ぐらいどうって事無いだろう」
「駄目だ。お前が勝手な事をして怒られるのは勝手だが、俺たちまで巻き込まないでくれ。
どうしても殺ると言うのなら、エイルに許可を貰え。それまでは、生け捕りが最優先だ」
ドイルの言葉に舌打ち一つをするものの、そこまでするつもりはないのか大人しく従う。
「でも、腕の一本ぐらいなら構わないよな」
「まあ、折る位なら構わんだろう」
ドイルの返答に満足そうに頷くと、ヤンは先に言ったミハイルに追いつこうと駆け出すのだった。
<to be continued.>
<あとがき>
久々の更新〜
美姫 「本当に久し振りよね」
ああ、久し振りさ。
美姫 「なのに……、なのに……」
な、何だよ。
美姫 「話が短すぎるわ……」
……あ、あははははは。
と、とりあえず、次回はバトル予定という事で。
美姫 「シクシク。私、悲しいわ」
あ、あはははは。
美姫 「笑って誤魔化さない!」
ぐげっ!
美姫 「とりあえず、また次回で」