『incomprehensible ex libris』

   第十一章








やっと鳴り止んだ銃声にラルフは一息吐く。
それとは対照的にエイルは苛立だしそうに髪を掻き毟りつつ、舌打ちをする。

「まったく、あの馬鹿共一体何やってくれてるのよ」

「そうカリカリするな。どうやら、始末し終えたみたいだ。
 と言っても、そうゆっくりともしてられんだろうがな。エイル、手を休めている暇はないぞ」

「はいはい。分かってるって。それと一々、私に指図しないでくれる。
 この半端者が」

侮蔑するように言うエイルの言葉にも、ラルフは表情を変えずに変わらずに機械を操作する。

「次はお前の番だ」

ラルフは那美の腕を掴み立ち上がらせる。
美由希が何か言い掛けるが、それを赤星が押さえる。
そして、今までの生徒たちと同じように那美の手首、足首に機械を取り付ける。
途端、それまで黙っていたエッツィオが声を上げる。

「おいおい。これは…」

「どうしたの?当たりが出たの」

エッツィオの上げた言葉に、エイルが真っ先に反応を見せる。
エイルとラルフはエッツィオの元へと向い、エッツィオが指し示す画面を覗き込む。

「へぇ、中々の数値ね」

「しかし、身体能力が問題だな」

「それはそうなんだけれど。こんな数値は珍しいわよ」

エイルはそう言うと何やら考え込み、やがて口を開く。

「良いわ。アレには無理でしょうけど、何か他のことに役立つでしょうから」

「なら…」

「ええ、彼女はAランクよ」

エイルの言葉にラルフは一つ頷くと、那美の腕を掴んで連れて行く。
しかし、今までの生徒たちが検査が終った後に連れて行かれる場所とは違っていた。
今までの検査が終った生徒たちは、大きく二つの場所へと集められていたが、那美はそのどちらでもない場所へと連れて行かれる。

「可笑しな真似はするなよ。勿論、逃げようともだ。
 少しでもそんな素振りがあれば、この建物そのものが吹っ飛ぶからな」

そのラルフの言葉に、那美はおろか他のものも言葉を失い、ただ大人しくなる。
一方、それを告げたラルフは再び作業へと戻る。

「次はお前だ」

次いで赤星の腕を取る。
すると、再びエッツィオが声を上げる。

「今度こそ当たり?」

期待を含ませた声を上げるエイルに、エッツィオは首を振る。

「いや、確かに今までよりも高い数値だが、これじゃあ無理だ」

エッツィオと同じ画面を見ながら、エイルもそれに頷く。

「確かにねー。悪くはないけど…。まあ、良いわ。Bランクを新たに設定して、そこに入れておきましょう」

「どうするつもりだ」

「余裕があるようなら、って感じでね」

「分かった」

エイルの言葉に返事を一つ返し、ラルフは赤星を連れて行く。
赤星もまた、他の生徒たちとは違う場所に連れて行かれる。
そんな赤星の横顔を見ながら、エイルは舌を出して唇を舐める。

「彼、いい面構えしてるわ。やっぱり、ペットとして連れて帰ろうかしら」

「はいはい。それは良いけど、本当に早く作業を終えないとまずいんじゃない。
 逃げていた一人が外に連絡してないとも限らないんだし」

「分かってるわよ。全く、アンタといいラルフといい!」

喚くエイルを余所に、ラルフはさっさと元の位置に戻ると、次の生徒に装置を当てていた。
そして、

「おいおい、さっきから急に連続じゃないか。一体、どうなってるんだ」

「嘘、またなの。…って、これじゃあ駄目ね。でも、他よりも高いか。
 Bランクを設定したけれど、間違いじゃなかったわね」

楽しそうに言うエイルにラルフが話し掛ける。

「つまり、この子もBか」

「ええ、そうよ」

そう言ってラルフに連れて行かれたのは晶だった。
晶たちには日本語で話していないラルフたちに言葉が分からないが、それでも多少は理解できたのか、
自分や他の生徒を分けた理由を考える。
その後も、レンや唯子がBランクへと振り分けられて行く。
それを見て、エイルも多少驚いたような顔をしている。

「まあ、Bランクはそんなに珍しくはないんだけれど、それでも一つの場所でここまで集まるなんてね」

「だが、肝心の適合者足り得る者は見つかっていない。
 こんなのが多くいた所で、我々の目的には無意味だ」

「そんな事は分かってるわよ。それに、今までだっていなかったんだから、急に都合良く見つかる訳ないでしょう。
 それに、今回はちょっと変わった拾い物もあったことだし、今までに比べたら断然ましよ」

那美の方を一瞥した後、エイルはそう言う。
それに対し、ラルフは一度息を吐き出し、

「だが、ヤンとドイルを失った」

「それこそ問題ないわよ。あんな奴ら、金次第で幾らでも見つけられるわ。
 そんなくだらない事を気にしてないで、さっさと作業に戻りなさい」

ラルフは何も言わずに再び作業へと戻る。
その後ろ姿に中指を立てて見送った後、エイルも自分の作業へと戻るのだった。



  ◇◇◇◇◇



咄嗟に神速を使いミハイルの背後へと周った恭也は、小太刀の峰をミハイルの首筋へと叩き込む。
それによって意識を刈り取られてミハイルは倒れる。
倒れたミハイルの体を探りながら、何か手掛かりがないかと探す恭也。
しかし、特に目ぼしいものは見つけられず、恭也は武装を全て解除させた後、鋼糸できつく縛り付けて拘束する。

「お前には後で色々と聞かせてもらうからな」

そう呟き、恭也は手近な教室の掃除用具入れにミハイルを押し込む。
ミハイルが持っていた銃などは纏めてゴミ箱に放り込む。
そして、自分が持っている武装を確認する。

「これは、起爆スイッチだったな。武器は、美由希の小太刀がニつに、飛針、小刀が数本に鋼糸。
 残る敵は三人か。そして、人質は海中、風校の生徒と教師たち」

現状を考え、恭也はため息を吐き出す。

「はぁー。リスティさんが来てくれるのを待つのが一番なんだが。
 しかし、それを連中に知られたら、何を仕出かす事か。
 何せ、校内に爆弾を仕掛けるような奴らだしな」

恭也はとりあえず立ち上がり、現状できる事を考えてみる。

「もし可能なら、体育館の中の様子を見ておくか」

最後にミハイルから取り上げた無線機を持つと、恭也は教室を出て行く。



  ◇◇◇◇◇



あれから無言で作業を進めていくラルフだったが、ミハイルからまだ連絡がない事に不審を抱く。

(ドタバタしていた所為で失念していたが、ミハイルからの連絡が来ていないな)

それに関してエイルの指示を仰ごうと口を開きかけるが、それを阻むようにエッツィオの声が上がる。

「おいおいおい!この数値は一体何だよ!」

「何々!?今度こそ当たりでしょうね!」

「ああ。見てくれ、この数値を。今、ラルフが計測しているその子の数値だ」

エッツィオが少し興奮気味に語るのを聞きながら、エイルとラルフはそのモニターを覗き込む。
途端、二人とも驚愕の表情を浮かべる。
尤も、ラルフだけは大して変わらなかったが。

「凄いわね、この数値。もし、これが本当なら、ラルフの所の下位の奴らに匹敵…、ううん凌駕するんじゃない」

「一概にそうとも言えんだろうがな。確かにこの数値は凄いな。
 しかし、これだけの数値だ。何処かに可笑しな所とかは…」

「それが見てくれよ。全くない。いや、寧ろ理想ともいえる数値だよ。
 一体、何をしているのかは分からないけれど、バランスもとても良い。
 どうだい、エイル。これなら…」

「ええ、問題ないわ。いいえ、寧ろ予想以上よ。
 言うなら、Sランクね」

そう言って、エイルはその生徒へと視線を向ける。
それに少し遅れ、他の二人も視線をそちらへと向ける。
そこには、会話の内容までは分からないまでも、嫌な予感だけは感じている美由希が立っていた。

「だったら、この辺で撤退するかい?」

エッツィオの言葉にエイルは少し考え込む。

「うーん。こんな数値を叩き出す人間だけじゃなく、Bランクの人間があそこまで出てくるんだから、
 もう少し他の奴らも調べてみたいわね」

そう言ったエイルに対し、ラルフが声を掛ける。

「それだが、予想以上の者が見つかったんだ、やはりこの辺にしておいた方が良いだろう。
 確かに、まだ調べきっていない連中の中にもBランクや、少し変わった奴はいるかもしれんが、
 こんな数値を出す奴はまずいないだろう」

「そんな事は分かってるわよ。でも、Bランクの奴が増えれば、その分使い道が出来るじゃない」

気に喰わないといった感じで言い返すエイルに、ラルフは冷静に切り返す。

「それがそうも言ってられん。逃げていた一人を追い詰めたと連絡のあったミハイルから、未だに連絡が来ない。
 何かあったと考える方が妥当だ。最悪、そいつが逃げ出した可能性もある」

「ちっ!本当に使えない連中ね!良いわ、癪だけれど、アンタの言葉に従いましょう。
 確かに警察が介入してくると少し厄介だものね。
 別に連中の方はどうって事はないんだけれど、それであいつ等に気付かれたら少しまずいものね」

そう言って背を向けると、エイルは声を上げる。

「撤収よ!」

その声に答えるように、エッツィオは機会を片付け始め、ラルフは美由希の腕を掴むと日本語で話し掛ける。

「我々はこれから撤収する。我々が安全な場所まで逃げるまで、君たちには人質となってもらう」

「そういう事よ。それと、下手にここから出ない方が良いわよ。私たちは逃げる時にちょっとした仕掛けをして行くから。
 もし、それを解除しないでここから出たら、その途端にドン!…って訳よ。アハハハハ。
 そうそう、気付いているかもしれないけれど、この辺り一帯は電波妨害の所為で携帯電話も使えないから。
 まあ、無駄だけれど、試したければ試せば良いわ。それじゃあ皆、短い間だったけれど、ありがとうね。
 楽しかったわよ、バイバイ」

それだけを言うと、エイルはA、Bと分けた者たちを後ろ手に縛り始める。
最後の一人である赤星の手を縛りながら、その耳元に囁く。

「アンタだけは特別に私のペットにして可愛がってあげようか?」

そう言いながら、赤星の首筋に舌を這わせる。

「遠慮しておきます。これでも結構、面食いな方でね」

赤星の言葉にカッとなったエイルは、力一杯赤星の腹を蹴り上げる。
咳き込みながら倒れた赤星に向って、エイルは更に何度も蹴りを入れる。

「ぐぅぅ」

「ふん!あまり舐めた口を気かない事ね。
 良いわ、あんたがその気なら、自分からペットにして下さいって言うまで可愛がってあげるわ。
 何処まで耐えられるか楽しみだわ」

唇の端に血を滲ませ、地面に倒れている赤星をエイルは楽しそうに眺め、高らかな笑い声を響かせるのだった。





<to be continued.>




<あとがき>

犯人の目的が少しだけ分かったかな?
美姫 「分かる訳ないでようが!って言うより、最後だけ見ると、ペットを探しに来たかと思うわよ」
おお!って、幾ら何でもそれはないだろう。
美姫 「あり得ない事が起こるのが人生なのよ」
深いような、そうでないような。
美姫 「どっちでも良いわよ、そんなの」
さいでっか。
美姫 「それじゃあ、またね〜」
おいおい、何の脈絡もなくいきなりかい!
美姫 「良いのよ、そんなの」
良いのか!?










ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



Back       NEXT



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ