『マリアさまはとらいあんぐる』
第２話 「恭也、お嬢様に会う」
南川の車で連れてこられたのはとても大きな屋敷だった。
感嘆の声を上げるリスティと何かを注意深く探る恭也。
車は門を少し通り過ぎた所で止まる。
「さて、話はもうついているはずだ。ここからは恭也一人で行ってくれ」
「はい。分かりました」
「それと何度も言うけど、くれぐれも」
「気付かれないようにですよね」
「Yes.じゃあ頼んだよ」
恭也は頷くと車を降りる。恭也を降ろした南川はすぐさま車を発進させる。
それを見届けると恭也は門の前に立ち、
「ふむ。とりあえず入るか」
呼び鈴を押すとインターフォンから女性の声で用件を尋ねられる。
恭也は名前と用件を告げ、しばらくお待ち下さいという返答に従い門前で待つ。
しばらくすると一人の女性が現われ、恭也を家の中へと招き入れる。
「あらあら、よく来てくださいました。確か、高町恭也さんでしたよね」
「はい、そうです」
「私は小笠原 清子といいます。よろしくお願いしますね」
「あ、はいこちらこそ」
お互いに頭を垂れ挨拶を交わす。
「でも、大変ですね。他校からわざわざ視察のために来られるなんて」
「いえ、そんな事はありませんよ。それよりもこれからお世話になります」
「どうぞ遠慮なさらずに自分の家だと思って寛いで下さいね」
「は、はぁ」
「私と娘以外の人がこの家にいるなんて久しぶりだわ」
「そうですか……、っへ？あ、あの他に人はいないんですか？」
「ええ、いませんけど。お手伝いさんも夜になると帰ってしまいますから」
「えーと、旦那さんとかは」
「仕事で帰ってきませんよ」
「そうですか………」
そこからは暫く無言で歩く。
そして、二階のある部屋の前で立ち止まると恭也へと話し掛ける。
「この部屋を使ってください。分からない事があれば、隣が祥子の部屋ですから」
「隣ですか！？」
「ええ、そうですよ。どうかしましたか？」
「い、いえ別に」
（まあ、護衛上そちらの方が良いかもな）
恭也はそう思い直し、何事もなかったかのように言う。
「今は出かけていますから、帰ってきたら紹介しますね」
「お願いします小笠原さん」
「あらあら、私の事は清子で構いませんよ」
「で、でも……」
「名前で呼ばないと私も娘も小笠原ですよ」
「そ、そうですね。分かりました」
「では改めてお願いします清子さん」
そう言って笑いながら少しだけ頭を下げる。
「はぁ〜………」
「？？？どうかしましたか？」
「いえ、別に何でもないですよ。ただ、恭也さんは笑顔がとても綺麗ですね。では、私はこれで」
「は、はぁ」
（俺が綺麗？……きっと聞き間違えたんだろうな）
恭也はそう納得すると部屋へと入る。
そして、近くに誰もいない事を確認するとリスティの携帯電話へと電話をかける。
数度の呼び出し音の後、リスティが出る。
「どうしたんだい、恭也？まだ定時連絡の時間じゃないだろ。早速何か起こったのかい」
「そうじゃなくてですね。いや、起こったといえば起こったになるのか？」
「おーい、もしもしぃー。一人でブツブツ言ってたら分からないよ」
半分からかうような言い方に恭也は一つの答えに辿り着く。
「知っていましたね」
「何のことだい？」
「この家に俺と祥子さん、清子さんの三人だけって事ですよ」
「ああ、それは仕方がないさ。元からそうみたいなんだから。別に今回の件でそうした訳じゃない」
「そうなんですか」
「そういう事。それに、その方が護衛しやすいだろ」
「それはそうですけど……」
「他に問題でもあるのかい？」
「ですから男が俺一人と言うのは……」
「それがどうかしたのかい？」
どこか楽しげにそう言ってくるリスティに恭也は盛大な溜め息を吐く。
「………はぁ〜分かってて言ってるでしょ」
「さあね。で、何か問題があるのかい？」
「…………特にありません」
「そうだろ。要は恭也がちゃんとしてれば良いんだよ。まあ、仕事中に恋愛をするなとまでは言わないから安心しなよ」
「何の安心ですか。そんな事する訳ないでしょう」
「っち、面白くない奴だな。周りは女の子ばっかりなんだぞ。
それに、ここには那美たちもいないんだから」
「何で那美さんが出てくるんですか？」
電話の向こうで驚いたような呆れたような声が聞こえる。
「別に何でもないさ。それよりも、それだけならもう切るよ」
「あ、はい分かりました」
「じゃあね♪」
リスティとの電話を終えた恭也は持って来た荷物を部屋に用意されている箪笥などに整理していく。
「こう広いと落ち着かないな……」
整理を終え、ざっと部屋を見渡しそんな事を呟く。
（鍛練は庭を借りてやるか。後で庭を使わしてもらえるか聞いておこう）
そんな事を考えながら、恭也は来るまでに見たこの家の見取り図を頭に描き、実際に自分で歩いてみる事にする。
途中何人かのお手伝いさんに挨拶をしながら、一通り見終えた恭也は広間へとやって来る。
そこへ清子が声をかけてくる。
「恭也さん、丁度いい所へ。今、祥子が帰ってきましたから紹介しますね」
「あ、お願いします」
恭也は清子に案内される形でリビングへと入って行く。
そこには椅子に腰掛け優雅にティーカップを口元に運ぶ女性の姿があった。
その女性は清子に気付くと、その後ろにいた恭也を見て清子に尋ねる。
「お母さま、そちらの方は？」
「こちらは高町恭也さん。恭也さん、こっちが娘の祥子です」
「どうも、高町恭也です」
「初めまして小笠原祥子と申します」
お互いに頭を下げ挨拶をする。
「で、お母さま。こちらの高町さんはどういった御用で？」
「ああ、そうなのよ。実はね、当分の間うちで預かる事になったの」
「なっ、何を言ってるんですか！」
「だから、うちで預かる……」
「私が言ってるのは、そういう事ではなくて何でうちで預かるのかということです」
「それはね、恭也さんのお父さんとお義父さまが古い知人だかららしいのよ」
「お母さま、そうじゃなくてですね……。お爺様の知り合いだろうが何だろうが、どうしてうちで暮らすんですか？
高町さんのご実家は？」
「ああ、そういう事。だって、恭也さんは明日からリリアンに通う事になってるから実家からは通えないのよ。
それで、うちから通う事になったのよ」
「……通うって、リリアンにですか」
「ええ、そう聞いてるわよ」
「本当ですか？」
祥子は恭也の方を見て尋ねる。
それに恭也は頷いて肯定する。
「高町さんは教師なのですか？」
「いいえ、祥子と同じ高校２年生ですって」
「………でしたら、女性の方ですの？」
祥子はまさかとは思いつつも聞いてみる。
「そんな訳ないじゃない。いや〜ね、この娘ったら」
「では、何故リリアンに」
怒鳴りそうになるのを堪えながら、祥子は冷静を装い恭也に尋ねる。
清子に聞くよりも早いと判断したのだろう。
「他校を生徒の視点から視察するという事らしいですよ」
「それで、何故リリアンに。それに、それだったら女性が来るんではなくって？」
祥子の最もな意見に恭也は内心冷や汗をかく。
（確かにそうだよな。大体、リスティさんの考えたこの設定自体おかしいしな）
そんな事を思いながらも、口に出しては勿論言わない。
「それは俺には分かりません。俺もこっちに来て初めて女子高と知ったぐらいですから」
（ふむ、嘘は言っていないな）
「……それもそうよね。そんな事まで学校側が説明するはずないですわね。
でも、高町さんが選ばれたという事はよっぽど優秀なんでしょうね」
「いえ、どちらかと言うと逆ですね」
「………そ、そう」
「ね、ね、祥子。そういう訳だから、ね」
「はぁ〜、分かりました」
「ありがとうございます」
恭也は祥子に向って微笑みながら礼を述べる。
それを見た祥子は一瞬だけ見惚れ、それを誤魔化すようにそっぽを向きながら席を立つ。
「で、では私はこれで失礼しますね高町さん」
「はい、ではまた後程、祥子さん」
突然、名前で呼ばれ必要以上に驚く祥子に清子が話し掛ける。
「駄目よ祥子。当分、一緒に暮らすんだから高町さんなんて。恭也さんって呼ばなきゃ」
何かを言おうと口を開きかけるが、諦め大人しく頷く。
「分かりました。では、また後程、恭也さん」
「あ、はい」
それだけを言うと素っ気無く祥子は出て行く。
それを微笑みながら見てる清子に恭也は話し掛ける。
「すいません清子さん」
「何でしょうか？」
「朝と夜に庭をお借りしても宜しいですか」
「庭、ですか？
ええ、構いませんけど何をされるんですか」
「えーと……、ちょっと日課で体を動かしたいので」
少し暈して伝える。
「そうですか。自由に使って下さって構いませんよ」
「ありがとうございます」
「では、私も部屋に戻っていますので、何かあったら遠慮なく言って下さいね」
「はい」
清子がリビングから出て行くのを見届け、恭也は部屋へと戻る。
部屋に戻った恭也は鍛練に使う道具を用意すると、早速庭へと向った。
こうしてこの日は特に何事もなく無事に過ぎていった。
つづく
＜あとがき＞
まりとら第二話！
美姫 「とか、言ってる間にいつの間にかマリみてアニメ化よね」
うーん、時が経つのは早いな。
美姫 「いや、毎度の事ながら、浩の書くペースが遅いだけだって」
………それでは、美姫さんごきげんよう。
美姫 「逃がす訳ないでしょ！」
シクシクシクシク。お願い！見逃して！
美姫 「幾ら可愛く言っても浩だし駄目。って言うよりも全然可愛くない」
見逃してくださいよ〜旦那〜。
美姫 「誰が旦那だ、誰が！」
おねげぇしますだ〜。それだけは勘弁してくだせぇ〜お代官様。
美姫 「しつこい！」
ガツッ
うげっ！
美姫 「ったく、では皆さん、ごきげんよう」