『マリアさまはとらいあんぐる』



第10話 「イベント内容の発表」






三奈子と山百合会の面々が会合した翌日。
校舎内の掲示板には、朝から大勢の生徒が集まっていた。
全員の目は、その掲示板に張り出されているリリアン瓦版の号外に釘付けになっていた。
その記事には、

『山百合会、新聞部合同企画、バレンタインゲーム!』

というタイトルの下、来週の2月14日土曜日のゲームをする事や、
賞品としてつぼみたちとのデート権の等が書かれていた。
その他に、一般協力者として、恭也の名前があげられていた。
ただし、恭也の名前の後ろには注意書きがあり、恭也は甘いものが苦手の為、チョコは受け取らない事が書かれていた。
まあ、最後の一行は兎も角、この話は全校生徒の知る所となり、その日はこの話で持ちきりだった。
そして、昼休みの薔薇の館。

「しかし、今日一日はあの話で持ちきりでしょうね」

聖の言葉に、蓉子が微笑みながら答える。

「そうね。そう言えば、三奈子さん遅いわね」

「そう言えば、今日も来るって言ってたわね」

「ええ、放課後に正式な記事を載せたいからって。だから、昨日打ち合わせしたんだけどね」

江利子の言葉に答えながら、蓉子は一度だけ扉を見る。

「まあ、そのうち来るでしょ」

聖は両手を頭の後ろで組むと、面白そうに志摩子を見る。
聖の視線の先では、恭也が今しがた食べ終えた弁当箱を志摩子に返していた。

「ごちそうさまでした」

「いえ。お粗末さまです」

「そんな事はありませんでしたよ。とても美味しかったです」

「そ、そうですか」

「うーん、志摩子の手作りお弁当ね〜」

「お、お姉さま!」

「照れない、照れない。しかし、思い切った事をするわね」

「そ、そんなんじゃありません。今日はたまたま…」

「そうですよ、聖さん。
 志摩子さんは、たまたま先程の授業で調理実習があったから、自分の弁当を食べれなかっただけなんですから。
 ここには俺たちしかいませんけど、そんな事を言って、変な誤解をされたら、志摩子さんの迷惑になりますよ」

「迷惑ねー。そう言えば、祐巳ちゃんも志摩子と一緒のクラスよね」

「あ、はい」

「だったら、お弁当食べれなくて残ってるとか?」

「い、いえ。私は最初から持って来てませんから」

「ある意味、勇気あるわね祐巳ちゃん」

「な、何でですか、黄薔薇さま」

「だって、ちゃんと出来なかったら、どうするつもりだったの?」

「その時は、パンでも買おうかと。でも、皆さん大抵そうみたいですけど」

祐巳の言葉を聞き、聖が笑いながら、

「そうよねー。普通はそうする人の方が多いわよねー」

「な、何ですかお姉さま」

「何も言ってないわよ」

顔を赤くする志摩子を見て、恭也は手を伸ばす。

「ちょっと失礼」

そう言って、おでこに手を当てる。

「え、あ…」

突然の事に茫然となる志摩子に気付かず、

「少し熱いみたいですね。体調が悪いようなら、保健室へ行かれた方が宜しいかと」

「あ、だ、大丈夫です」

「そうですか?」

「は、はい」

「ですが、あまり無理はなさらないで下さい」

「あ、ありがとうございます」

「いえ」

このやり取りを茫然と眺めていた一同だったが、聖の言葉で全員が我に返る。

「天然は強しって事かしらね」

この言葉に、恭也と志摩子以外の全員が頷くのだった。
そこへ、三奈子が現われる。

「失礼します」

「あら、いらっしゃい」

声を掛けてきた蓉子に頭を下げると、早速三奈子は本題に入る。

「とりあえず、放課後には正式な記事を出したいので、細かい所の打ち合わせをさせて頂きたいのですが」

「その事なんだけど、少し昨日こちらで考えた事があるのよ」

そう言って蓉子が説明をする。

「これでどうかしら?」

「ええ、それで行きましょう。時間もそれぐらいでいいと思います。
 後は、隠すカードはそれぞれの薔薇にあやかった色のカードなんですけど、恭也さんは…」

三奈子は恭也を見ると、尋ねる。

「恭也さんの好きな色は何ですか?」

「黒です」

「じゃあ、恭也さんのカードは黒でいきましょう」

それに恭也は頷きで返す。

「あら、思ったよりも早く済んじゃいましたね。……そうだわ。恭也さん、趣味は何かしら?」

「えっと…」

「ああ、安心してください。別に記事にはしませんから」

「は、はあ。趣味は盆栽と釣りですが」

『…………………』

この答えに全員が絶句する中、恭也は口を開く。

「やはり可笑しいんでしょうか?よく、妹や母にも言われるんですが」

「そ、そんな事はないですよ。うちの父も心が落ち着くと言ってますし」

「そうですか。機会があれば、志摩子さんのお父さんに会ってみたいですね」

「ち、父に会うんですか」

「あ、迷惑なら良いですが」

「あ、そういう事では」

恭也と志摩子の会話に割り込むように、三奈子が声を掛ける。

「じゃあ、次は好きな音楽とかは?」

「音楽ですか」

「はい。よく聞くのは?」

「そうですね。ティオレさんにフィアッセ、ゆうひさん、アイリーンさんはよく聞きます」

「ティオレさん?それに、ゆうひさんっていうのは?」

「あ、いえ、ティオレ・クリステラやフィアッセ・クリステラです。後は、SEENAやアイリーン・ノアですね」

三奈子の指摘に、恭也は慌てて言い直す。
それを特に不審に思わず、三奈子は頷く。
そこへ、蓉子が話し掛けてくる。

「CSSの歌手の方たちですね。確か、祥子もティオレ・クリステラとフィアッセ・クリステラは特に好きだったわね」

「ええ、お姉さま」

祥子の返答を聞き、蓉子は続ける。

「あの人たちの歌は、本当に良い歌ばかりね」

「ええ。彼女たちの歌には魂が篭っていますから」

「へー。ひょっとして、恭也くん、歌上手い?」

「いえ。俺は歌はちょっと苦手ですね」

聖の言葉に恭也は苦笑しつつ答える。

「あ、そうなんだ。てっきり、上手いのかと」

「本当。あんな事を言うもんだから、期待しちゃったわ」

「いえ、あれはティ…、知り合いの受け売りでして」

「そうなの」

「へ〜。その人はきっと上手なんだろうね」

「そうですね。とても綺麗な歌を歌いますよ」

恭也はそっと微笑みながら、そう答える。
その笑みに、その場にいる全員が見惚れる。

「どうかしましたか、皆さん?」

「な、何でもないわよ」

恭也の言葉に祥子が真っ先に答える。その言葉に全員が頷く。

「自覚がないだけに、始末が悪いわね」

聖が洩らした言葉を聞き、全員がまたも頷くのだった。
それを見て、恭也は一人首を傾げる。
そんな恭也に苦笑しながら、三奈子は更に質問を続けようとするが、そこでチャイムが鳴り響く。

「では、私はこれで」

三奈子は立ち上がると、部屋を出て行く。
それに続くように、他の面々も立ち上がり教室へと帰っていくのだった。
そして、その日の放課後、詳細の書かれた瓦版が発行され、生徒たちの間で話題となる。





つづく




<あとがき>

ふー。
美姫 「何、一息ついてんのよ」
それぐらい、いいじゃないか。
美姫 「駄目!」
そんなにきっぱりと……。
美姫 「そう言えば、来週の14日が土曜日な訳でしょ。
    と、言う事は、月曜に恭也が来た訳だから、今は水曜日よね。って、事は……」
2月4日だな。
美姫 「そうそう。じゃあ、後10日間経たないとバレンタインにはならないのよね」
まあ、一気に日数が飛ぶ事もあるけどな。
美姫 「じゃあ、次回は14日?」
いや、次回辺りにあの子を……。
美姫 「予定は未定って言うつもりでしょ」
…………先に言うなよ〜、俺が悲しいだろ、泣くだろ、いじけるだろ。
美姫 「勝手にしてなさいよ」
グスグス、いいもん、いいもん。
美姫 「はいはい。では、皆さまごきげんよう」





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