『マリアさまはとらいあんぐる』
第13話 「黄薔薇と紅薔薇のつぼみ」
江利子と出会い、3人で街を歩く。
どこか機嫌が悪くなったような祥子を気にしつつも、恭也は江利子に話し掛ける。
「所で、江利子さんは何か買い物だったんでは?」
「ええ、そうよ。でも、少しだけね」
「は、はあ。あの、そろそろ手を…」
そう言って、恭也はまだ繋がれたままの手を見る。
「気にしない、気にしない」
「もしかして、面白がってませんか?」
「あ、分かる」
笑みを浮かべながら言う江利子に、恭也は苦笑しつつ頷く。
と、そこへ祥子が割って入る。
「黄薔薇さま、恭也さんの迷惑になりますから、そういった事は…。な、何ですか、その顔は」
「別に何でもないわよ」
「それが、何でもないって顔ですか」
とぼけてみせる江利子に食って掛かる祥子だったが、軽くいなされてしまう。
そんな祥子を見て、江利子は可笑しそうに笑う。
「な、何ですか」
「いえ。ただ、今のあなたの顔が、聖が祐巳ちゃんにちょっかいを掛けている時とよく似ていたから」
「………知りません」
祥子は拗ねたように横を向くが、その顔はほんのりと朱に染まっていた。
それを面白そうに眺めながら、江利子は暫らくの間、恭也をあちこちへと連れ回した。
その間に、怒るだけ無駄と思ったのか、祥子の機嫌も直っていた。
「さーて、充分楽しんだし、私はそろそろ本来の目的に戻るわ」
「そうですか。今度は令でも誘ってみては如何ですか?」
「そうね、それも良いわね。でも、そうなると由乃ちゃんも一緒でしょうね」
「多分、そうでしょうね」
「それはそれで楽しそうだわ」
そう言って笑うと、江利子は二人を交互に見る。
「二人とも付き合ってくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「それでは、また月曜日に」
「ええ、ごきげんよう。って、何か私服だと少し変な感じね」
そう言って、もう一度笑みを浮かべる江利子に、祥子も笑みを浮かべながら答える。
「そうですわね。それでは、黄薔薇さま、ごきげんよう」
「では、これで」
祥子に続き恭也も挨拶をする。
それを聞き届けると、江利子は自分の用を済ませるために駅前へと戻っていった。
その姿が見えなくなった頃、
「じゃあ、そろそろ俺たちも帰るか」
「ええ、そうね」
恭也はさりげなく車道の方へと体を移しながら、祥子の横に並ぶと歩調を合わせて歩き出す。
それを見て、自分でも微かに浮かんだ笑みに気付かないまま、無意識に祥子は普段よりも少しだけゆっくりと歩き始めた。
つづく
<あとがき>
幕間のような話数です。
美姫 「てっきり、聖さまかと思ったのに……」
ははっは。
まあまあ。次はやっとイベント当日へ!
美姫 「おお、やっとね。って、一気に一週間も過ぎるの!」
ははははは。
さーて、次、次と…。
美姫 「あ、こら待ちなさいよ」