『マリアさまはとらいあんぐる』
第16話 「イベント結果発表」
「では、結果発表を行います」
その言葉に、静寂と興奮が辺りを支配する。
そして、充分な間を取り、緊張が最高潮に達した頃、ようやく言葉が続けられる。
「黄色のカードを手に入れられたのは…、江利子さま、由乃さん、そして…」
二人の姉妹以外に、後2名の名前が上がる。
どよめきが起こる中、由乃は江利子を見て、
「黄薔薇さまも見つけられたなんて、流石は令ちゃんのお姉さまですね」
「まあね。伊達に令の姉をやっている訳じゃないわよ。すぐに何処に隠してあったのか分かったもの。
何なら、残りのカードの場所も聞かせて上げましょうか?」
由乃の嫌味を含んだ言葉にも、江利子は平然と答え、逆に由乃の神経を逆撫でするように笑みを浮かべながら告げる。
それに頬をヒクヒクさせながらも、何とか笑みを浮かべ、
「別に構いませんわ。それを知った所で、結果が変わる訳ではないでしょうし」
「それも、そうよね。由乃ちゃんの事だから、私が言わなくても何処に隠したかなんて想像が付くわよね」
お互いに笑みを浮かべながらも、目には見えない火花を散らす二人に挟まれ、令は苦笑を浮かべていた。
そんな黄薔薇ファミリーを見ながら、祐巳はただオロオロとし、祥子は大して興味がないような態度を取る。
聖と蓉子は二人して、
「江利子ったら、楽しそうね」
「ええ、本当に。彼女は由乃ちゃんの事がお気に入りだから」
「違うでしょ、蓉子。正確には、自分に突っ掛かってくる由乃ちゃんが、でしょ」
「同じ様な事よ」
「確かにね」
友人である江利子の顔を眺めながら、二人はそんな話をしていた。
が、新聞部が次の結果を告げ始めると、口を噤む。
「それでは、次のカードです。白のカードを見つけられたのは、聖さまお一人でした」
「お姉さま、見つけられてたんですか?」
「まあね。これでも一応、貴女のお姉さまだからね」
当然のように話す聖を見ながら、恭也は苦笑を洩らす。
が、誰もそれに気付かず、真相は闇の中へと消えていった。
「赤のカードを見つけられたのは、恭也さんお一人です」
生徒たちの間から、一際大きなどよめきが上がる。
「きょ、恭也さん、お姉さまのカードを見つけられたんですか!?」
「ええ、まあ。殆ど偶然なんですけど」
「はぁー、いいな〜」
祐巳は羨ましそうに恭也と祥子を見る。
一体、どっちに対して羨ましいと思っているのか微妙な所ではある。
そんなやり取りを余所に、最後のカード取得者を上げる。
「黒のカードを見つけられたのは、祥子さま、志摩子さんのお二人です」
その言葉を聞き、生徒たちから一斉に溜め息が漏れて出る。
「蓉子は見つけれなかったの?」
「ええ、残念ながらね」
「ほうほう、残念ですか」
「何が言いたいのかしら?」
「べっつに〜」
蓉子の言葉に聖はわざとらしく答える。
それを見て、溜め息を一つ吐くが、すぐに笑顔に変わる。
「でも、まあ良いわ。長年夢見ていた、人で一杯に溢れ返る薔薇の館を見れたんですから」
「まあね。それよりも、この後のお茶会の準備をしないとね」
「そうね。人数が多いから、急がないと」
蓉子は嬉しそうな笑みを浮かべながら、館へと入って行く。
それに続くように、他の面々も中へと入るのだった。
薔薇の館の中で、お茶会用の紙コップなどを用意しながら、聖は志摩子に話し掛ける。
「で、志摩子、いつデートしようか」
「そう言えば、日時は当事者同士の話し合いだったわね」
聖の言葉を聞いた蓉子が、思い出したように呟く。
「そう。江利子たちは確か…」
「ええ、私たちは全員纏めて明日よ」
「令をいれて五人でデートとは、これまた集団で」
「でも、楽しそうでしょ」
「確かにね」
後ろで江利子を睨むように見ている由乃を視界に収めながら、蓉子は江利子の言葉に頷く。
「で、聖はどうするの?」
「それなのよね。うちの場合、志摩子が恭也くんのカードでしょ。で、恭也くんが祥子のカード。
祥子も恭也くんのカードだったわね。って、この場合はどうなるんだろうね?デートも2回?」
「さあ?特に決めてなかったわね。まあ、見つけた人がデートできるなら、それぞれに権利があるんじゃない?
それよりも、日時を決めなくても良いの?」
「と、そうだったわね。どうしようか?」
聖は志摩子、祥子、恭也と見回し尋ねる。
「私は後でも構いませんけど」
「ま、普通なら、明日に私と志摩子、祥子と恭也くんで良いんだけどね。志摩子は早くしたいだろうし」
「そ、そんな事は…」
「絶対にない?」
意地悪く尋ねる聖に、志摩子は押し黙ると顔を赤くして俯いてしまう。
「祥子は本当に後でも良いの?」
聖の問い掛けに、祥子は頷く。
「じゃあ、明日は私と志摩子、志摩子と恭也くんを同時にやっちゃいましょう」
「えっと…」
いまいちよく分からないという顔をする恭也に、聖が答えを明かす。
「つまり、三人でデート♪」
「ああ」
「志摩子はどう?」
納得顔になる恭也と、どこか不満そうな顔をする志摩子だった。
そんな志摩子の耳に口を寄せ、
「大丈夫だって。最後までは一緒にいないから。それに、急に二人っきりってのも困るんじゃない?」」
その言葉に顔を赤くさせつつ、志摩子は聖の条件を飲むのだった。
「はい、決定!詳しい事は後で良いかな?」
「はい」
聖は自然な流れで、自分も恭也とデート出来るように段取りをつけるのだった。
最も、蓉子は気付いたみたいだったが、特に何も言わなかった。
ただ、その会話を一緒に手伝いながら聞いていた一人の女性が、
(フフフ。取材よ、取材。別に邪魔をしようという訳じゃないのよ。
元々私は白薔薇姉妹のデートを取材するつもりだったんだから)
何やら自分を正当化していた。
その後、開かれたお茶会には、殆どの生徒がそのまま参加し、薔薇の館前は大変賑やかだった。
それを見た蓉子は、少し涙を滲ませながらも嬉しそうな笑みを浮かべ、
それを見た他の山百合会の者たちも、嬉しそうな顔をしていた。
そして、こんな美味しいシーンを見逃すはずもなく、眼鏡を掛けた少女があちこちでシャッターを切っていた。
つづく
<あとがき>
とりあえず、イベントは終った……。
次はいよいよ……。
美姫 「いよいよ?」
ゴホゴホゴホゴホ。
いつもすまないね〜。
美姫 「それは言わない約束だよ、って、何をさせるのよ」
じょ、冗談だ。さて、では次回で!
美姫 「全く、すぐに誤魔化すんだから。とりあえず、ごきげんよう」