『マリアさまはとらいあんぐる』
第17話 「やって来た来た幼馴染み?!」
山百合会主催のお茶会も無事に済み、祥子たちは帰路に着く。
と、聖が突然こんな事を言い出す。
「簡単な打ち上げでもやりましょうか」
「それでしたら、うちへどうぞ」
聖の言葉に、祥子が場所を提供する。
「じゃあ、そうしましょうか」
話も纏まり、恭也たちは校門へと出る。
そこで、恭也に声が掛けられた。
「恭也〜♪」
声を掛けてきた人物を見て、恭也は驚きの声を上げる。
「なっ!フィアッセなんでここに?それに、美由希やなのはまで」
恭也の言葉通り、フィアッセの横には美由希となのはがいた。
「だって、恭也が東京にいるって美由希に聞いたから。私も仕事で東京にいたしね」
「私は、忍さんたちからこれを頼まれて」
そう言って美由希は紙袋を見せる。
「それは?」
「チョコレートだよ。本当は皆来たがってたみたいなんだけど、迷惑を掛けることになるからって。
代表として、私となのはが来る事になったの」
「そうか。皆も義理固いな。たかが、義理チョコを渡す為だけに、ここまで来ようとするとは。
まあ、折角の好意だ。ありがたく頂いておく」
そう言って、手を差し出す恭也に紙袋を渡しながら、美由希は溜め息を吐く。
「義理でここまでしないって」
その呟きを聞いた者はいなかったが、恭也を除いたここにいた者全員が、その言葉を察していた。
それを感じ取ったのか、美由希は祥子たちを見ると、苦笑を浮かべるのだった。
「悪いんだけど、恭也くん。紹介してもらえるかな?」
「そうでした。とりあえず、こちらにいるのが…」
恭也は順に祥子たち山百合会のメンバーを紹介していく。
そして、次に美由希たちを指して、
「こっちが、妹の美由希となのはです。それで、こっちが前に話した姉的存在のフィアッセです」
「こ、こんにちは」
「兄がお世話になってます」
「こんにちは、よろしくね」
「こんにちわ。恭也さん、こちらの方は、あのフィアッセさんですか」
祥子の言葉に恭也は頷く。
「ああ、あのフィアッセ・クリステラ」
「へー。恭也くんってば、凄い知り合いがいるわね」
「ええ、まあ。俺の父とフィアッセの父が親友だったもんで。そのお陰ですね」
「確か、フィアッセさんのお父様って…」
江利子の言葉に蓉子は頷きながら、
「ええ。イギリス上院議員よ」
「恭也くんのお父さんって、一体」
聖の呟きを誤魔化すように、フィアッセが話し掛ける。
「恭也、私のチョコもちゃんとあるんだから、しっかり食べてね」
「ああ。………因みに一つ聞くが、美由希お前は……」
「え、私のもあるけど、どうして?そんなに私のが気になる?」
美由希が期待の篭った目で見詰める。
それに真顔で頷き返す恭也を見て、美由希は嬉しそうな顔を浮かべ、祥子たちは少し複雑な顔をする。
しかし、恭也の言いたい事が分かったのか、フィアッセとなのはは顔を見合わせると、苦笑する。
「手作りじゃないよな」
「恭ちゃん、それどういう意味よ!」
「そのままの意味だが。どうなんだ。これは大事な事なんだぞ」
「うぅ〜、手作りじゃないです……」
「そうか」
明らかにほっと胸を撫で下ろす恭也を見て、祐巳が質問する。
「恭也さん、ひょっとして美由希さんって……」
「殺人料理シェフ美由希と言えば、海鳴で知らない者がいないほどです。
美由希に対抗できるのは、唯一、同じ肩書きを持つとある寮のオーナーさんだけですね」
「そ、そんなに酷くないもん!ねえ、なのは」
「あ、あはははは」
なのはは美由希から視線を逸らすと乾いた笑みを浮かべる。
美由希はそんななのはの反応にむきになり、少し涙目になりながらフィアッセを見る。
「ね、フィアッセ〜」
「み、美由希もそのうち、ちゃんと出来るようになるよ」
「それって、今は駄目って事じゃない!」
「そ、そんな事ないよ。
美由希の料理は………えーと、そ、そう、独創的で、素材の味をそのまま所か、素材が分からなくなるぐらいで、
普通の材料と調味料であんな食べ物?を作るのは凄いって晶やレンも言ってたし。
そ、そう、ちょっと個性的な味付けが特徴過ぎて、一般の人にはちょっと難しいってだけだよ」
「フィアッセ、それは止めを刺してるぞ」
「そ、そうかな?」
「ああ。ほら」
恭也の指差す先では、美由希がいじけて地面にのの字を書いていた。
「ほら、馬鹿やってないで立て」
「うぅ〜。これで、うちで料理できないのが私だけ……」
美由希の言葉を肯定するかのように、なのはが笑顔で恭也の手を取る。
「お兄ちゃん、今回はなのはも手作りなのです」
「ほう、ちゃんとできたか?」
「うん!お母さんに聞いて、くーちゃんと一緒に作ったの!」
「そうか。では、後でゆっくりと味あわさせてもらおう」
そう言って、恭也はなのはの頭を撫でる。
それを見ていた蓉子が、
「恭也さんって、なのはちゃんに甘いでしょ」
「むっ。そんな事はない」
「そんな事あるよ〜。水野さんの言う通りだよ。同じ妹なのに、この扱いの違い。
これは断固、J○Lに訴えて……」
「J○Lは航空会社だ馬鹿者。と、祥子どうかしたのか?」
「別に何でもないわ」
「そうか?」
祥子の様子に首を傾げる恭也を見て、聖が面白そうに説明をする。
「ははは。祥子はただ緊張してるだけよ」
「緊張?」
「そういう事。かく言う私も流石に少し緊張するわ。世界的有名人の前だしね」
聖の言葉を示すかのように、改めて見れば何処となく緊張している雰囲気が窺える。
「はあ、そういうものですか……」
恭也の呟きを聞いた美由希が、苦笑しつつ、
「それはそうだよ。
皆が皆、恭ちゃんみたいに図太い神経の持ち主ばかりじゃないんだよ」
恭也は美由希の頭に拳骨を置くと、グリグリと力一杯回す。
「い、痛いよ恭ちゃん……」
「どうしてお前は、そう一言多いんだろうな」
「ご、ごめんってば。だから、やめて」
涙目になって謝ってくる美由希に恭也も拳骨を退ける。
「ったく」
そんな恭也と美由希のやり取りで、少し気分がほぐれたのか、祥子がフィアッセたちに話し掛ける。
「それで皆さんはこれからどうなさるんですか?」
それでも少し緊張している祥子を見て、祐巳は驚いた顔になる。
それに気付いた聖が祐巳の後ろから抱きつきながら、
「ゆ〜み〜ちゃん♪」
「ぎょわあっ!」
「う〜ん、いい反応」
「ロ、白薔薇さま、何をするんですか!」
「いや、だって祐巳ちゃんが何か驚いてたから。どうしたのかなーって」
「そんな事で抱きつかないでくださいよ」
祐巳の呟きを聞き流し、理由を促がす。
「いえ、大した事じゃないんですけど。お姉さまでも緊張されるんだなーって」
その言葉を聞き、祥子は祐巳を睨む。
「祐巳、貴女は一体、私を何だと思ってるのかしら?私だって緊張ぐらいするわよ」
「べ、別に変な意味でなくてですね、そんなに緊張したお姉さまを見るのが初めてと言うか……。
えっとえっと……」
「まあまあ、それぐらいで」
二人の間にフィアッセが割って入ると、二人は何とも気まずそうな顔をする。
それを察したのか、恭也が口を開く。
「で、フィアッセたちは、これからどうするんだ?」
「私はスタジオに行かないと」
「私となのははもう戻るよ」
「そうか」
それぞれの返答を聞き、恭也は頷く。
そこへ、令が口を挟む。
「えっと、美由希ちゃんで良いのかな」
「え、あ、はい」
「帰るって今から?」
「はい。今ならまだ、電車があるんで」
それを聞いた祥子が、
「宜しかったら、うちに泊まってはいかが?明日は日曜日ですし」
「え、でも迷惑じゃ」
「全然、気にしなくても良いですわよ」
美由希は困ったように恭也を見る。
それを受け、恭也は少し考える。
(ちょうど良いかもしれん。明日、俺が祥子の傍を離れている間は、美由希に任せるか)
明日、祥子の傍を離れた時の護衛をリスティに頼もうとしていた恭也は、美由希に任せる事にする。
「良いんじゃないか。それに、今から帰るとなると、お前は兎も角、なのはには辛いだろうしな」
「やっぱり、なのはには甘いよ」
「何か言ったか」
「別に何にも。えっと、それじゃ、お世話になります」
美由希は恭也に向って首を振ると、祥子に向き直り頭を下げる。
それに倣って、なのはも頭を下げる。
「そんなに畏まらなくても良いわよ」
「じゃあ、祥子の家に行きましょうか」
「あ、私はそこにタクシーを待たせてあるから、ここでね」
蓉子の言葉に、フィアッセはそう告げる。
「そうですか。では、ここで。歌の方、頑張って下さいね。応援してますから」
蓉子の言葉にフィアッセは嬉しそうに頷く。
「うん、ありがとうね。じゃあ」
「はい、ごきげんよう」
全員と挨拶をすると、フィアッセは少し小走りに先の路地へと消えていった。
それを見送ると、祥子たちも移動を始める。
「それにしても、フィアッセ・クリステラに会えるなんて」
祥子は嬉しそうに微笑む。
「祥子はクリステラ親子の歌が好きだからね」
蓉子の言葉に祥子は頷く。
「令ちゃんはSEENAが好きだったよね」
「そう言う由乃はアイリーンだったよね」
令と由乃はそんな話をする。それを聞いていた江利子が、冗談っぽく言う。
「恭也さん、ひょっとしてその二人ともお知り合いとか?」
それに対し、恭也は曖昧な返事で返すが、それで察したのか志摩子が驚いた声を上げる。
「本当に知り合いなんですか」
「ええ、まあ」
そんな恭也の態度を笑いながら見ていた美由希が、
「恭ちゃんは、世界で唯一、殆ど許可なしでCSSに入れる男性ですから。
それにティオレさんのお気に入りだしね」
「はー、それは凄いね」
美由希の言葉に流石の聖も驚いた顔を見せる。
「たまたまフィアッセと幼馴染で、家族ぐるみで付き合いがあったからですよ」
「それでも、凄い事ですよ」
祐巳の声に、恭也はそうですかと気のない返事をする。
それを見ながら、美由希は今思い出したのか、
「そうそう、恭ちゃん。その中にアイリーンさんと椎名さんからのチョコもあるから」
「お二人の?」
「うん。お世話になってるお礼だって」
「そうか」
恭也の呟きを聞きながら、祥子たちは改めて驚きの表情で恭也を見る。
見られた恭也はただ首を傾げる。
それを見ながら、美由希は言葉を続ける。
「後、かーさんが翠屋のケーキとシュークリームを幾つか入れてたから、お世話になってるお礼にどうぞって」
「そうか。では、皆さんでどうぞ」
「それでは、ありがたく頂きますね」
祥子が礼を述べると、聖は笑みを浮かべ、
「それは楽しみねー。特に祐巳ちゃんは甘いものが好きだから、楽しみでしょ?」
「はい♪」
祐巳は力一杯笑顔で頷く。
そんな祐巳を見て、なのはも嬉しそうな顔になると、
「おかーさんのシュークリームはとても美味しいですから、絶対に気に入ると思います」
「本当?だったら、余計に楽しみだな」
そう言いながら祐巳はなのはに笑いかける。
二人して微笑み合いながら歩いていると、躓き転びそうになる。
「わっわわ」
「きゃぅ」
恭也は紙袋を持つ手でなのはを抱きかかえ、もう片方の手で祐巳の体を支える。
「大丈夫ですか祐巳さん」
「あ、ありがとうございます」
「いえ。なのはも大丈夫か」
「う、うん」
恭也は二人を立たせると、怪我がない事を確認し、なのはに注意をする。
「なのは、ちゃんと歩かないと駄目だぞ」
「う、うん」
「は、はい」
その注意に祐巳も返事を返し、恭也は少し困ったような顔をする。
「えっと、祐巳さんも気をつけて下さい」
「はい」
祐巳は曖昧な笑みを浮かべ、恭也に返事をする。
その時、なのはと目が合い、お互いに笑い合う。
そして、再び歩き始めると、祐巳はなのはに手を差し伸べながら、
「なのはちゃん、手を繋ごう」
「はい」
なのはも笑みを浮かべ、祐巳の手を取る。
そんななのはを見ながら、祐巳は嬉しそうに顔を綻ばせる。
(う〜、可愛いー。私もこんな妹が欲しい)
そんな事を思いながらなのはを見ていると、またなのはと目が合い、
「あははは」
「えへへへ」
お互いに笑い声を上げる。
「何か、仲良くなってるわねあの二人」
聖の言葉に頷く祥子たちだった。
そんなこんなで美由希となのはを加えた一同は、祥子家でお茶会を開くのだった。
そして、その席で出された翠屋のお菓子は大変好評だった。
つづく
<あとがき>
やっと、とらハキャラが登場。
美姫 「美由希となのはちゃんの二人の登場ね」
うん。
で、次回はいよいよ…。
聖と志摩子、恭也のデートね。
その数日後のお話……。
美姫 「何で!?」
じょ、冗談だ。だから、首を絞めるな。
ではー、ではー。し、死ぬかと思ったぞ。
美姫 「アンタが馬鹿なことを言うからでしょ」
でも、番外という形にしようか考えている所なんだよな〜。
美姫 「また、そんな事ばかり考えて。良いからさっさと書きなさいよね」
そんな事って、酷い。
美姫 「はいはい。ほら、しっし」
う……、うわ〜ん、俺は犬じゃないやーい。ダダダダダッ。
美姫 「おお、速い速い。それじゃあ、またね♪」