優しく、穏やかな温室の中で、それはそれは大事に大事に育てられた美しき花たち。
その花の中でも、一際優雅に咲き誇る六輪の薔薇……。
清らかにして美しきその薔薇は、見る者全てに安らぎと憧れを抱かせる。
しかし、光があれば影もまた存在するように、美しき者を汚したいと思う黒き情念もまた存在する。
気高き薔薇を、無残にも摘み取り、惨めに散らす事に喜びを感じる負の感情。
その感情が頂点に達した時、咲き誇る薔薇へと忍び寄る魔の手。
それは、一通の手紙から始まった……。
「これはちょっと冗談じゃすまないね」
「当たり前よ。うちの生徒が、こんな悪戯をするとは思えないわ」
「それに、生徒の悪戯だとしても、鍵の掛かった部屋に侵入したというのは…」
「ええ。でも、外部の人の仕業だとすると、その人物は学園の敷地内にも潜入した事になるわね」
「それに、この手紙の内容も、どう贔屓目に見たとしてもあまりいい解釈は出来ません」
「少し怖いですね」
どうするか悩んだ結果、五人の脳裏に一人の男性の顔が浮ぶ。
お互いに顔を見合わせ、同じ事を考えていたと分かると、お互いに笑みを浮かべ、一つ頷く。
「ここは、あの方に来て頂きましょうか」
「そうね。あの人なら…」
「ええ、きっと私たちを助けてくれると思います」
「まあ、悪戯ならそれに越した事はないしね」
「じゃあ、膳は急げという事で」
一人訳が分からないといった顔をしている者を残し、残りの者は行動を開始するのだった。
五人の顔からは、先程までの恐怖や怒りといった感情は既に見られず、
何処か嬉しそうな、それでいて落ち着きのない様子へと変わっていた。
不謹慎にも、彼女たちは共通した考えを抱いてしまったのだった。
こんな事態だというのにも関わらず、その男性との再会を喜ぶ気持ちを抑える事は出来なかったのであった。
こうして、あの男が再びこの地を踏む事となる……。
その男の名は………。
「ここに来るのも久し振りだな。
尤も、こんな事態ではなければ、もっと素直に喜べたんだろうが」
己が全てを掛けてでも、愛しい者を守り通すその男の名は……。
マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜 (仮)
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