『マリアさまはとらいあんぐる』



第23話 「恭也と山百合会と美由希」






その日の放課後、薔薇の館にて。
祥子はいつもの面々を前に、話を切り出す。

「お姉さま方、数日家に泊まりに来ませんか?」

突然の祥子の言葉に蓉子たちは少し面食らい、祐巳に至っては口を閉じる事も忘れ、ぽかんと祥子を見ている。
そんな面々に、祥子が事情を説明する。

「実は、母が今日から急に旅行に行ってしまったの。何でも、父が久し振りに休日を取れたとかで。
 それで、今家には私と恭也さんしかいないので」

祥子の言葉に、聖は頷きながら笑みを浮かべる。

「なるほど。恭也くんに襲われるかもしれない、と」

「「恭也さんはそんな事しません!」」

この聖の言葉に、祥子と志摩子が揃って反論する。
それに肩を竦めて見せる聖と、バツが悪そうな顔をする祥子と志摩子だった。
そんな三人の間に、恭也が話し掛ける。

「そういう訳でして。祥子は信用してくれてるみたいだったんですが、流石に急な事で心細いかもと思いまして。
 皆さんの都合はどうですか?もし、駄目なら仕方がないですが」

恭也の問い掛けに、全員が反対もなく、すんなりと決まる。
それを見ながら、恭也は思い出したかのように付け加える。

「あ、後、妹の美由希も来るんですが…」

「美由希ちゃん?この間来てた子よね。どうして?」

聖が疑問をぶつける。それに対し、恭也は、

「今日から一週間だけですが、部活の方で少し。それで、祥子の家に泊めてもらうことになりまして」

「部活って?」

「文芸部です」

「ああ、何かそんな感じだったわね」

聖は頷き、納得する。
その間に志摩子が恭也へと質問をする。

「部活でこちらにとは?」

「こっちにいる知り合いの元に、取材とか言ってましたけど」

「へー」

聖が感心したような声を洩らす。
そんな中、蓉子が祥子へと話し掛ける。

「所で、祥子。私達はいつまで滞在すれば良いのかしら?」

蓉子の言葉に、祥子が答える。

「母が帰ってくるのが来週なんです。ですから、日曜日までですね」

「約一週間分の着替えとかを用意して、祥子の家って訳ね」

「はい」

それを聞き、聖が面倒臭そうに言う。

「え〜。何か大荷物になりそうね」

「だったら、聖は不参加と」

「江利子〜、それはないよ」

そんな聖を見ながら、祥子たちは笑みを浮かべる。

「でも、白薔薇さまの言う通り、確かに大荷物よね」

令の言葉に祥子が答える。

「大丈夫よ。うちの運転手を迎えにやるから」

令に答えた後、祐巳に向かい、

「祐巳、いつまでそんな顔をしてるの」

「ふぇ、は、はい」

「で、祐巳はどうなの」

「な、何がでしょうか」

祐巳の答えを聞き、祥子が眉を微かに顰める。

「貴方、人の話を聞いていたの?祐巳は、泊まりに来れるのか、来れないのか聞いたのよ」

「い、行きます!勿論、行きます!」

「そう。だったら、祐巳の家に私もお邪魔するわ」

「あ、はい。どうぞ………、って、ええぇーー!」

大声を上げる祐巳に対し、祥子は両耳を押さえる。

「祐巳、貴方なんて声を出してるのよ」

「で、ですけど、お、お、お姉さまが家に来るなんて仰るから」

「あら、当然でしょ。妹を一週間もお預かりするんだから、家の人に挨拶をするのは」

「で、でも」

「それとも、私がお邪魔するのは迷惑かしら」

「と、とんでもないです!」

「そう。なら、問題ないわね」

そう言うと、慌てている祐巳に対し、祥子は話は終わりとばかりに打ち切ると、鞄を掴む。

「では、時間が勿体無いですから、早速」

「そうね」

祥子の言葉に頷くと、全員が立ち上がり、薔薇の館を後にするのだった。





  ◇ ◇ ◇





恭也はいつも以上に周囲を警戒しながら祥子、祐巳と祐巳の家へと向う。
祐巳の家に着くと、祐巳は祥子と恭也にスリッパを差し出し、急いでリビングへと向う。
そこで、のんびりとテレビを見ながらお茶を飲んでいる母親が祐巳に気付く。

「あら、祐巳ちゃんお帰りなさい」

そんな母親に対し、祐巳が捲くし立てるように言う。

「お母さん、それ所じゃないのよ」

「何を慌ててるのよ。あなたも紅薔薇のつぼみの妹になったんだから、
 祥子さまとまで言わないけれど、せめてもう少し落ち着きを持ってね」

落ち着いて言う母親に対し、祐巳が話を続ける。

「そうじゃなくて。私、日曜日までお姉さまの家に泊まる事になったの」

「お姉さまって、祥子さまよね。あの、小笠原の」

母親の言葉にコクコクと頷く。
それを見て、祐巳の母親は慌てたように立ち上がる。

「まあまあ、それは大変。えっと、何か手土産を持っていった方が良いわよね。
 あ、それとも幾らか包むべきかしら」

「お母さん、落ち着いて」

先程、母親に言われた言葉を今度は祐巳がそのまま言い返す。

「それは分かっているんだけど。あ、そうだ。祐巳ちゃんは自分の用意をしないといけないでしょ」

「あ、そうだった」

「何か手土産になるようなものあったかしら。あ、今から買いに行けば良いのよね」

母親は急いで財布を取り出すと、そのまま玄関へと向う。
そんな母親の背中に向って、祐巳は今思い出したように言う。

「そうだ!お母さん、今お姉さまが家に来て……」

言葉の途中で、母親は玄関へと向っていた。
そして、驚いたような声の後、ニ、三言何やら話が聞こえる。
それからすぐに、母親が戻ってくる。

「祐巳ちゃん。祥子さまが来てるなら来てるって言ってくれなきゃ」

「言ったよ。その途中でお母さんが出て行ったんじゃない」

少し拗ねたように言う祐巳に対し、母親は他にも聞きたいことがあるのか目を向ける。

「な、何?」

「あの祥子さまと一緒にいた男の子は誰?かなり格好良いじゃない。ね、ね」

母親は凄く嬉しそうに祐巳に尋ねる。

「恭也さんの事?ほら、前に話したじゃない。転入生の事」

「ああ。彼がそうなんだ。へー」

母親は妙に感心したような声を上げる。
それを見ながら、祐巳は自分の部屋へと向う。

「お母さん、私用意してくるから、お姉さまたちにあがってもらうからね」

「ああ、そうだったわね。いつまでも玄関のままじゃ失礼だわ」

祐巳に言われ、母親は急いで玄関にとって返す。
祥子と恭也に緊張気味にお茶を出しながら、母親は祐巳が一刻でも早く用意を済ませることを祈る。
やがて、祐巳が大荷物を抱えてリビングへと現われる。

「では、祐巳をお預かりしますね」

「こちらこそ、不束な娘ですが宜しくお願いします」

「お母さん、それ違う」

緊張のあまり、少しずれた事を言う母親に顔を赤くしながら祥子を見る。
しかし、祥子は特に気にも止めず頷くと、

「では、私たちはこれで失礼します。お邪魔しました」

「いえいえ、何のお構いも出来ませんで」

祥子は玄関へと歩き出し、祐巳もその後を追う。
恭也は祐巳の手からさり気なく荷物を取る。

「あ、私の荷物ですから、私が」

「気にしないで下さい。それに、一週間分もあれば重いでしょうから」

恭也の言葉に、祐巳は素直に甘える事にする。
恭也と祥子は玄関で靴を履くと、再度母親に向って頭を下げる。

「では、失礼します」

「宜しければ、またお越しください」

祥子に対し、母親も頭を下げる。
母親が頭を上げた所へ、恭也が笑みを浮かべながら、

「お邪魔しました」

「は、はい」

母親は若干赤くなりながら、返事を返す。
そんな母親を見て、

「ひょっとして風邪ですか?少し顔が赤いようですが」

「い、いえ、そういう訳じゃありませんから」

「そうですか。なら、良いですが」

少し困ったような母親に、祐巳が声を掛ける。

「お母さん、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。くれぐれも迷惑を掛けないようにね」

「分かってるわよ」

母親の言葉に、少し拗ねたように答え祐巳は外へと出る。
その後を、祥子たちも続き、三人は祥子の家へと向うのだった。





  ◇ ◇ ◇





特に問題なく、無事に小笠原家へと戻る。
恭也は一旦部屋に戻るなり、携帯電話を取り出し美由希へと連絡を入れる。

「美由希か。どうだ?」

「うん。私の方は、もうすぐそっちに着く所だよ。今は南川さんの車。
 で、そっちはどう?」

「ああ、何とか上手くいった。一箇所に祥子の関係者を集める事が出来た。
 ただし、一週間だけだがな」

今回の祥子の母親である清子の旅行は、リスティと依頼主である祥子の祖父の手によるものだった。
しかし、それにも当然限度があり、それが一週間だった。

「一週間だね。その間に襲撃者を捕まえて…」

「そういう事だ。まず、間違いなく奴らは動くだろう」

「その時が、私たちの出番なんだね」

「ああ。前回の事もあるから、誰が狙われるのかは分からない。
 ただ、現状犯人が一番狙う可能性のあるのは…」

恭也が止めた言葉の先を美由希が取る。

「祥子さんと祐巳さんなんだね」

「そういう事だ。だから、俺たちでこの二人のガードに着く」

「うん、分かった。じゃあ、後で」

美由希は力強く頷くと、電話を切る。
切った電話をポケットに入れ、恭也は着替えを済ませるとリビングへと向った。





  ◇ ◇ ◇





全員が揃い、リビングにて話をしているとベルが鳴る。
暫らくすると、お手伝いさんが来客を告げ、その人物を連れてくる。
部屋に入った美由希は、恭也を見つけるとほっとしたような顔を見せる。
とりあえず先に部屋に案内され、荷物を置いて来た美由希は空いている席へと座る。
そんな美由希の前に、淹れたての紅茶が出される。
礼を言って一口飲む。
それを見届けてから、恭也が口を開く。

「で、なのはたちは元気か?」

「恭ちゃん、なのはとはつい最近会ったばかりじゃない。
 せめて、かーさんたちとか」

苦笑しつつ言う美由希に対し、恭也は冷静に切り返す。

「あの無駄に元気が有り余っていて、人をからかうのを楽しみにしているようなかーさんは元気か?」

「は、ははははは。とりあえず、元気だよ」

恭也の言い方に、乾いた笑みで答えながら美由希。
それを聞いて、恭也は一つ頷く。
そんな感じで話をしているうちに、美由希もすっかり打ち解ける。
最も、前回の訪問時のおり、紅薔薇姉妹とは既に馴染んでいたのだが。
祐巳は、なのはがいない事を残念がっていたが。
そして、夜。
皆が寝静まった頃、恭也と美由希は深夜の鍛練をしていた。
打ち合いを終え、クールダウンしている時、恭也の目つきが鋭くなる。
それに気付いた美由希が何か口を開くよりも先に、恭也が美由希に話し掛ける。

「美由希。この家の周囲に人の気配だ」

恭也に言われ、美由希は気配を探る。
そんな美由希を試すように、恭也が尋ねる。

「何人だ」

「四……、ううん五人」

美由希の答えに満足気に頷く。

「どうする、恭ちゃん」

「少し様子をみよう。ただの通行人という可能性も全くない訳ではないしな。
 その場合、ここで俺たちが動くのを犯人達に見られるとまずいからな」

恭也の言葉に美由希は頷きながらも、すぐに動ける準備をする。
それを横目で眺めながら、恭也も同じ様に構える。
慎重に気配を探っていると、その気配の主達は屋敷を一周した後、離れて行く。

「やっぱり、ただの通行人だったみたいだね」

「いや、違うな。恐らく視察でもしに来たんだろ。セキュリティーシステムとかのな」

「って事は」

「ああ、速ければ明日にでも来るぞ。最も、夜とは限らないからな。油断だけはするなよ」

恭也の言葉に美由希はしっかりと頷く。

「さて、今日はもう大丈夫だろうから、ゆっくりと休めよ。
 肝心な時に寝不足で、力を出せないなんてなったら、目も当てられないからな」

「大丈夫だよ」

恭也の冗談に、笑みを返しながら美由希は言う。
そんな美由希を連れて、恭也は家の中へと入って行く。
祥子たちを起こさないように、そっと家の中に入る美由希の後に続き、恭也も中へと入る。
完全に扉を閉める前に、恭也は一度外へと視線を巡らせ異常がない事を確認すると、扉をしっかりと閉め鍵をする。

「お休み恭ちゃん」

「ああ、お休み」

美由希に挨拶をすると、恭也は部屋へと戻りベッドに横になる。

(いよいよだな)

恭也は知らず力の入る手から、力を抜き目を閉じる。

「とりあえず、今は休む事だ」

言い聞かせるように呟くと、恭也は眠りについた。





つづく




<あとがき>

いよいよ佳境!………かな?
美姫 「何故、疑問形なのよ。ほら、しゃきっとしなさい!しゃきっと」
よし!
次回予告!
…………………予告ネタが浮ばない〜。
美姫 「だぁぁぁ。情けないわね」
だって、もう次の話書いてる途中なんだもん。
美姫 「だったら、それを次回予告っぽくすれば?」
おお、そうか。では、改めて…。
次回予告!
遂に襲撃者の魔の手が迫る。
それを防ぐ為、奴らの前に立ちはだかる恭也と美由希。
果たして二人は無事に祥子を守り通す事ができるのか?
次回までのんびりと待て!
美姫 「最後のは何よ、最後のは」
のんびり〜と待っててねという…。
美姫 「こんの馬鹿ぁぁぁぁ!!」
ぐるぼげっしゃらららぁぁぁーーーーーーーーー!
美姫 「全く。じゃあ、次回でね」





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