『マリアさまはとらいあんぐる』



第24話 「忍び寄る影」






翌日、特に何事もなく揃って小笠原家を出る一同。
その中には、美由希の姿もあった。
美由希のたっての希望、リリアン女学園を見てみたいという事で、美由希も校門までは一緒に行くことになったのである。

「いやー、いつもと違う所から登校するってのは、ちょっと気分が違って良いね〜」

聖の言葉に蓉子も頷きながら、

「ええ、本当にね。それに、皆で登校するなんて初めてじゃないかしら」

「確かに、貴重な体験よね」

江利子が同じ様に頷きながら言う。
それを受け、祐巳が少し不安そうに祥子へと話し掛ける。

「あの、お姉さまはいつもと変わらないですよね?」

祐巳が何を心配しているのか分かり、祥子は微笑んでみせる。

「そんな事はないわよ。さっきお姉さまも言ったでしょう。
 こうして皆で登校するのは初めてなんだから、充分に楽しいわよ」

「そうですか。良かったです」

そう言って、祐巳も笑みを浮かべる。
そんな中、聖が訳知り顔で頷きながら、

「うんうん。こうして、大勢で登校するのは、初めてだもんね。
 最も、祥子はここ最近いつも二人でご登校してた訳だけど」

そう言って、祥子と恭也を交互に見る。

「白薔薇さま、何が仰りたいのかしら?」

「別に。ただ、朝の一時を邪魔したんじゃないかなーって」

聖の言葉に、祥子は目を細める。

「一度、白薔薇さまとはゆっくりとお話しをした方が宜しそうですわね」

「私は遠慮しておくわ。最も…」

そう言いながら、聖は隣を歩く祐巳の背後から、そっと手を伸ばしていく。
そして、一気に抱き寄せると祐巳に頬擦りしながら言う。

「祐巳ちゃんが一緒だったら、考えても良いけど」

その後の祥子の反応が分かっているくせに、聖は祐巳を抱く手に力を込め、笑みを深める。
それを見て、祥子も同じ様な反応をする。
口元を引き攣らせ、聖へと言葉を紡ぐ。

「白薔薇さま!いい加減に祐巳を離してください!」

「はいはい。おお、怖〜」

ふざけながらも祐巳を離すと、両手をそのまま上に上げる。
そんな聖を睨みながら、祥子は祐巳へとそっと手を伸ばし、今の騒ぎで歪んだタイを直す。

「あ、ありがとうございます」

嬉しさのあまり弛みそうになる頬を懸命に堪えながら、祐巳は頭を下げる。
そんな祐巳に微笑み返す祥子を見ながら、蓉子も嬉しそうに笑う。

「蓉子、何を笑ってるのよ」

そんな蓉子に気付いた江利子が、声を掛ける。

「別に大した事じゃないわ。ただ、祥子も随分変わったと思っただけよ。
 勿論、いい意味でね。今まで変に張りつめていたものがなくなったというか…」

「ああ、分かるわ。余計な力が抜けたって感じよね」

江利子の言葉に頷きつつ、蓉子は続ける。

「ええ。これも祐巳ちゃんのお陰よね」

そんな二人の前では、由乃と令が何やら楽しそうに話しをしている。
それを見て、江利子はその二人の元へと向う。
間に令を挟む形で、お互いに言い合っている江利子と由乃。
その間で、何とか両方を取り成そうと努力をする。
その間、蓉子に、祥子と祐巳、聖が話し掛ける。

「蓉子。祥子が虐めるのよ。姉として何とかしてよ」

「白薔薇さま、言いがかりはよして下さい。祐巳も何とか言っておあげなさい」

「え、あ、あの私は」

「祥子〜。祐巳ちゃんを虐めたら駄目よ」

「白薔薇さま、人聞きの悪い事を言わないで下さい」

「まあまあ、祥子も落ち着いて」

蓉子が取り成すように言う。
姉である蓉子に言われ、祥子は憮然としながらも大人しくする。
そんな祥子に何か言おうとした聖に、蓉子が釘を刺すように言う。

「聖、今度は庇わないわよ」

「うっ。わ、分かってるわよ」

聖は苦笑を浮かべつつ、答える。
そんな様子を眺めながら、祐巳は内心で、

(やっぱり紅薔薇さまは凄いな〜)

と妙に感心していた。
そんなやり取りをしている中、一行の前を歩く恭也は志摩子と何やら楽しそうに話をしていた。

「そうなんですか」

「ああ、本当に困ったもんだ」

「うぅ、恭ちゃん酷いよ」

どうやら、話の内容は美由希のドジな話について行われていたらしく、笑う志摩子の横で美由希が落ち込んだ様子を見せる。

「しかし、事実だろうが。この馬鹿妹め」

恭也はそう言いながら、目だけで何かを合図する。

「うぅ〜、恭ちゃんの苛めっ子」

それを受け、美由希は小さく頷くと少し後ろへと下がり由乃たちの近くへと行く。
そんな美由希を見送り、志摩子が話し掛ける。

「恭也さん、美由希さんがいじけてますけど」

「ああ、いつもの事だから気にしなくてもいい。それに、そんなにいじけてもいないだろうし」

そう言った恭也の視線の先では、美由希が由乃と何やら楽しげに話していた。
どうやら剣客ものの本の話で、盛り上がっているみたいだった。

「美由希さんは本をたくさん読まれるみたいですね」

「ああ。本当によく読む時間があると思うぐらいに」

そんな風に話していると、志摩子の後ろから聖が抱き付く。

「志摩子〜。楽しそうね」

「お、お姉さま」

何か言おうとする志摩子よりも先に、祥子が口を開く。

「白薔薇さまも、そのようにご自分の妹にだけ抱き付かれれば良いのに」

「それはそれよ〜」

軽く祥子をあしらいつつ、聖は美由希に話し掛ける。

「そういえば、美由希ちゃんもティオレ・クリステラとかと知り合いなんだよね」

「ええ、そうですけど」

「だったら、美由希ちゃんも歌が上手いとか」

「ええ!わ、私ですか。私はそんなに。……って、も、って何ですか?
 まさか恭ちゃんが歌ったの?」

美由希が驚いた顔で恭也を見る。
恭也はそっぽを向くが、代わりに志摩子が答える。

「ええ。何曲か歌って頂きましたけど、とてもお上手でしたよ」

「良いな〜。私やフィアッセが頼んでも決して歌ってくれないのに」

どこか恨めがましい目で見る美由希の額に、デコピンを一発喰らわせる。

「痛っ!」

おでこを押さえながら、美由希が言う。

「うぅ〜。かーさんに恭ちゃんが歌ったって言ってやる〜」

「子供かお前は…」

呆れつつそう言いながらも、それを知った桃子の行動を思い、恭也はうんざりとした気持ちになる。

「もし、かーさんに言ったら…」

恭也は指を鳴らすだけで、そこから先を口にはしなかった。
だが、それで全てを理解した美由希は何度も何度も頷く。
そんなやり取りを見て、祥子たちも笑みを浮かべるのだった。





  ◇ ◇ ◇





恭也たちが授業を受けている間、美由希はざっと学校の周辺を巡回する。
特に異常は見当たらず、美由希は学園から少し離れた、それでも校門を見渡せる位置に止めてある車へと向う。
そして、後部座席に乗り込む。

「やあ、美由希ご苦労様」

「リスティさんもご苦労様です」

車に乗っていたリスティが片手を上げて、美由希に話し掛ける。
それに答えながらも、美由希は鋭い眼差しになると、

「そちらの方はどうでしたか?」

「ダーメ。今の所、これと言った進展はない。それでそっちは?」

「はい。恭ちゃんの考えでは、速ければ今日あたりにでも来るそうです」

そう言って、美由希は昨夜の出来事を聞かせる。

「確かにね。ふー」

美由希の話を聞き終えたリスティは、頷き一息吐くと、

「本音を言えば、襲撃者が来る前に黒幕を突き止めたかったんだけどね。
 こうも手掛かりがないと、美由希たちには申し訳ないが、その襲撃者達に期待するしかないって訳さ」

リスティは、恭也たちの事を信頼してるからこその言葉を吐く。
美由希は、それに答えるように頷くと、

「分かってます。その襲撃者達を捕まえて、そして祥子さんたちには近づけません。絶対に」

「悪いね」

リスティは短く答え、煙草を取り出すと、美由希に見せる。

「良いかな?」

美由希の許可を貰い、煙草に火を点ける。

「一応、この学校の周りには同じ様に数台の車が配置されていて、
 どこから進入しようとしても、すぐに見つけれる手筈になってる。
 まあ、だからと言って油断はしないけどね。とりあえず、美由希も少しは安心しな。
 そんなに張りつめてばかりだと、肝心な所で力を出せないよ」

「私、そんなに力んで見えますか?」

リスティの言葉に美由希は尋ねる。
その言葉を受け、リスティは頷く。

「ああ、見えるね。まあ、普通は気付かない程度だろうけどね。
 恐らく、恭也も気付いているよ。まあ、美由希は実力は兎も角、こういった経験が殆どないからね。
 実戦の経験もだけど、護衛する者としての経験もね」

「はい」

リスティの言葉に素直に頷く。
それを見ながら、リスティは続ける。

「まあ、恭也みたいに自然体で護衛に付くというのは、一朝一夕で身に付く物でもないから、仕方がないのかもしれないけどね。
 まあ、適度にリラックス、リラックス」

そう言って、リスティは笑いながら美由希の肩を軽く叩くのだった。





  ◇ ◇ ◇





放課後、駅前で美由希と合流し、何事もなく帰宅する。
そして、深夜。時計の針も進み、二時間ほど前に日付が代わり、誰もが眠りについた頃。
恭也は目を開け、そっと部屋を出る。
同じ様に、隣の部屋の扉が開き、美由希が出てくる。
二人は顔を見合わせ、頷き合うと足音を忍ばせて外へと出る。
物音を立てないように玄関の扉を閉めると、恭也は小声で話し掛ける。

「どうやら、動き出したようだな」

その言葉に頷く美由希に、

「緊張するなとは言わん。だが、必要以上に緊張する必要もない。
 大丈夫だ。お前の腕は俺がよく知っている。それに、全く初めての実戦というわけでもないだろう」

恭也の言葉に、不思議と落ち着いていく自分を感じ、美由希は力強く頷く。

「よし。相手は、全部で八人だな。しかも、分かれて侵入する気はないらしいな」

恭也の言う様に、美由希も気配を探った所、同じ意見だった。

「敷地内に入る前に、一気にけりをつけるぞ」

恭也は灯りのない庭を、足音も立てずに駆け出す。
その動きは、灯りがない事を感じさせないほど軽やかで、まるで日の下で動いているかのようだった。
その後ろを、同じ様な軽やかさで美由希も危なげなく付いて行く。
二人は塀の傍に背を預ける形で動きを止め、外の様子を伺う。
外にいる連中は、素人ではないが戦闘の訓練を受けたプロという訳でもないようで、恭也たちの接近には気付いていない。
恭也と美由希は声を出さずに、目や手の指の動きだけで会話する。

(お前が先に行け)

(うん、分かったよ)

美由希は頷くと、そっと塀から数メートル離れる。
それを見ながら、恭也は壁に背を付けたまま美由希の正面に立つ。
美由希は足音も立てずに走り出すと、恭也の手前二歩ほどの距離で軽く恭也に向って跳ぶ。
恭也は体の前で両掌を組み、跳んできた美由希の片足を受け止める。
美由希がその足場を蹴ると同時に、恭也は両腕を頭上へと振り抜く。
その反動によって、美由希の体は塀を越えて向こう側へと着地する。
それを感じながら、恭也は敵を美由希と挟み撃ちにする位置まで動き、鋼糸を使って塀を跳び越える。
が、すぐに向こう側へとは降りず、そっと塀の上から顔だけを出して外の様子を伺う。







恭也の手によって、塀の外へと辿り着いた美由希は、こちらに気付いた二人のうち、最も近くにいた男へと駆け出す。
その男とすれ違いざまに、小太刀の峰で男の右胸を横に凪ぐ。
手に伝わる感触から、あばらの数本が折れただろうが美由希は気にも止めず、もう一人の男へと駆け出す。
その頃には、他の男達も一人目の男が上げた声によって事態を把握しており、それぞれに身構える。
美由希が向う男は懐に手を入れると、中から銃を取り出そうとする。
しかし、それよりも早く美由希の投じた飛針が、懐へと伸びていた男の手の甲を捉える。
男が痛みに怯んだ隙に、美由希は男の懐深くへと入り込むと、下から上へと刀の柄で顎を打ち抜く。
男は空気を一瞬で吐き出すと、脳震盪でも起こしたのか、そのまま地面へと倒れこむ。
それを確認するよりも早く、美由希はその場を飛び退き小太刀を構えると残る男達に鋭い眼光を放つ。
その眼光に怯みながらも、街灯の元見えたその美由希の姿に男達が余裕の笑みを浮かべる。

「一体どんな奴が襲ってきたのかと思ったら、これまた可愛いお嬢さんじゃないか」

「全くだ。どうせ、あいつらは油断でもしたんだろうな」

男達は銃を美由希に突きつけながら、自分達こそ油断も顕わに美由希を見る。

「お嬢ちゃん、そんなに遊びたいのなら後でたっぷりと嫌と言うほど可愛がってあげるから、大人しくしてるんだな」

何も言わない美由希を、銃に怯えていると思ったのか男達は卑下た笑みを浮かべる。
そんな男達に対し、美由希は静かに口を開く。

「何で、こんな事をするんですか」

「こんな事?ああ、ここのお嬢さんを攫う事か。
 何でそれを知っているのかは、置いておくとして、まあ、簡単に言えば、ビジネスだからだよ」

男の楽しそうな口調に、美由希は眉を顰めながらも更に尋ねる。

「一体、誰がこんな事を頼んだんですか?」

「おっと、そいつは言えないな。企業秘密って奴だ。これでも、信用第一の仕事なんでね」

男達はゆっくりと美由希を包囲するように動き始める。
しかし、美由希は慌てずその場を動こうともしない。
美由希は、塀の向こう側で恭也が動いているのを感じていた。
後は、仕掛けるタイミングを恭也と合わせるだけ。
美由希は男達の動きに注意しながらも、恭也からの何らかの合図を待つ。
そして、その視界の隅に微かにこちらを窺う恭也を見つける。
お互いに無言で頷くと、美由希は向って左側──小笠原邸とは逆の道路側の男へと駆け出す。
突然の行動に男達は、サイレンサー付きの銃の照準を美由希に合わせる。
その頃には、恭也も塀を跳び越えこちら側へと来ており、美由希とは逆、塀の付近にいる男へと飛針を放つ。
男は短い悲鳴を上げ、銃を落とす。
その事で、恭也の存在を知った男達は、足音もなく、突然自分達の背後に現われた恭也に驚愕の視線を向ける。
しかし、それでも咄嗟に恭也へと向けて銃の引き金を引くのは、流石と言えるだろうか。
そして、残りの半数は、美由希へと向って銃を放つ。
静かな深夜に、サイレンサーから撃たれる銃の、空気の抜けたような音だけが、微かに数度する。
しかし、その先に本来あるはずの人影はなく、逆に男達の方が恭也、美由希の持つ、
昔ながらの時代遅れとも思わせるはずの鋼の武器の前に、一人づつ倒れ伏す。

「残りは四人。素直に黒幕の名前を吐くのなら、ここまでにしてやるが」

恭也は静かな、だが怒りを孕んだ声で男達に告げる。
だが、それに対する男達の答えは、手に持った黒光りする武器だった。
男達は、恭也たちの武器を見て勝てるとでも思ったのだろう。
既に、半数の者が倒されたという現実を忘れて。
弾が飛び出すよりも先に、美由希は飛針三本続けて投げる。
男はこれを躱していくが、最後の三本目を躱した先はもう一人の男の射線上だった。
その為、美由希に照準を合わせていた男は銃を撃つ事が出来なかった。
その間に、美由希は男達との距離を一気に駆ける。
前にいた男が美由希に銃口を向けるが、それと同時に美由希はその直線上から体を退け、その男のすぐ横をすり抜ける。
驚く男に構わず、その男が邪魔で美由希の姿が見えなかった後ろの男へと肉薄する。
前の男の横から突如現われた美由希に驚きながらも、男は何とか美由希へと照準を合わせ引き金を引く。
が、その銃口が突然強い力に引かれずれる。
腕に違和感を感じた男が、自らの腕を確認しようと目を向けた瞬間、美由希が強く地面を蹴る。
その強烈な踏み込みの後、美由希の速度が更に上がり、
男は自分の腕を確認するよりも先に、その視界に地面が飛び込んできたと思ったら、そのまま意識を失った。
自分の足元に倒れていく男を見ながら、美由希は小太刀を握る方とは逆の手を軽く振る。
すると、倒れた男の腕から、美由希の腕へと細い糸のようなものが巻き取られていき、やがて手の中に消える。
美由希は男の銃口を逸らした鋼糸を巻き取ると、先程通り抜けた男へと振り向く。







男二人が発砲すると同時に恭也は前へと塀へと向って跳躍する。
そして、塀を地面のように数歩走り、それから地面へと降り立つ。
そのまま立ち止まらず、男へと向って走る。
そんな恭也目掛けて、男たちが銃を向けるが、恭也はジグザグに走りながら、照準を合わせ難くする。
そして、男の一人に近づくとこの距離にも関わらず、銃を突きつけてくる。
その手首を蹴り上げ、その時男が悲鳴を上げたような気もするが、それを綺麗に無視して恭也は男の肩へと小太刀を振り下ろす。
朝通った時に、血があったらまずいので一応、峰打ちにしておく。
それでも、男の肩甲骨が砕ける音がし、男の腕から力が抜ける。
前のめりに倒れる男に対し、恭也は容赦なく意識を刈り取る為に、男のこめかみへと小太刀の柄で殴りつける。
完全に意識を失い、倒れ伏す男を見て、残る男が唾を飲み込み、震える声で言う。

「お前、なんて事をしやがる。下手をしたら、死んじまうだろうが…」

「何を言ってるんだ?お前らもその覚悟があったんだろう」

恭也は吐き捨てるようにそれだけを言うと、残る男へと走る。
男は忌々しげに舌を打ちながらも、恭也へと銃を向け、照準も何もなくただ闇雲に撃つ。
まるで数撃てば当たるとでも言うように。
その弾をことごとく避けながら、恭也は近づく。
そんな恭也に恐怖したかのように、男は銃を撃つが既に弾切れみたいで、銃からは弾は飛ばず、カチカチという音だけがする。
それを理解すると、男はすぐさま背を向け逃げようとする。
恭也は一度だけ美由希の方へと視線を向け、美由希が二人の男のうち、一人を倒したのを見ると、
背を向けて逃げ出す男に追いすがる。

「暫らく寝てろ」

男に追いついた恭也は、男の後頭部を右手で掴み、そう言うと右足を男の足の前へと出す。
恭也の足に躓き、体が前へと傾いた瞬間、恭也は右手を地面へと叩きつける。

「今更、しかも仲間を置いて逃げようとするとはな。全く呆れた奴だ」

男を見下ろしながら静かに呟く。
そして、視線を美由希へと向ける。
美由希と対峙した男は、美由希の背後、後二人残っていた仲間の方へ視線を向け、二人とも倒れているのを目にする。
そして、恭也に倒された者と美由希に倒された者を交互に見て、本能的に恭也の方が危険だと悟る。
かといって、向こうは二人に対し、こっちは一人。
さらに、さっきまで2対1だったにも関わらずこの様だった。
男は大人しく銃を落とすと、両腕を上に上げる。

「お、俺達が悪かった。吐く、何でも吐くから許してくれ」

許しを請う男に注意を払いながらも、恭也は倒れた男達を鋼糸で拘束していく。
最後に、その男の両腕を後ろで括ると、携帯電話を取り出す。

『あー、もしもし』

電話の向こうから、眠たそうな声が聞こえてくる。

「……リスティさんですか」

『ああ、そうだけど。恭也、夜這いなら、電話でなく直に来てくれ。モーニングコールなら、時間を間違ってるよ』

「違いますよ。実は、襲撃者達を捕まえました」

『そうか…………』

あまりにも日常的な話をするようにあっさりと言う恭也に、起きたてのリスティは何を言われたのか分からず、思考が止まる。
やがて、大声を上げる。
その大きさに、恭也は携帯電話を耳から離し、頃合を見て話し掛ける。

「もしもし」

『あ、ああ。大丈夫だ。よくやった恭也。すぐにそっちに行く。30分いや、20分ほど待っててくれ』

そう言って電話を切る。
恐らく、これから他の者を起こしてこっちに来るのだろう。
その事を美由希に言うと、二人はたった一人意識を保っている男へと視線を向ける。

「これから、とある女性が来るから、その人に全てを話せ。もし、嘘を吐いたら…」

恭也の言葉に、男は何度も首を縦に振る。
それから約20分後、リスティと数人の者が到着する。

「あまり騒ぎにしたくないからね。車は向こうに止めてある」

リスティの心遣いに感謝しながら、恭也は襲撃時の事を簡単に説明する。

「なるほどね。分かったよ。後はこっちでゆっくりと取り調べるさ。勿論、嘘なんて吐かせないよ。
 この羽にかけてね」

そう言ってリスティはフィンを展開して見せる。

「ええ、お願いします。何か分かったら…」

「ああ、ちゃんと教えるよ」

リスティはそう言うと、車の止めてある方へと向って歩いて行った。
その姿が見えなくなってから、恭也と美由希はそっと屋敷へと戻る。

「良かったね、恭ちゃん」

「ああ。だが、黒幕はまだだからな。油断だけはするな。黒幕を捕まえない限り、ああいった連中は何度でも来るんだからな」

美由希は恭也の言葉に頷く。

「でも、とりあえずは何事もなくて良かったよ」

「ああ、そうだな」

美由希の言葉に、恭也も今度は少しばかり微笑むのだった。





つづく




<あとがき>

ふふふ。遂に終盤へと向って動き出しましたな〜。
美姫 「ほら、さっさと書きなさいよ!」
ま、待て待て。
美姫 「待たない♪」
まあ、ちょっと書くペースを上げたいのは確かだが。
美姫 「ほれほれ」
だから、やめれって。
美姫 「ほらほら、浩ちんファイト!だよ」
いや、どちらかと言うと、浩ちんピンチ、な気が……。
美姫 「ごちゃごちゃ言うな!」
がっ!い、良い右だ。お前なら、世界を………ガク。
美姫 「コーチ!私、コーチの為にもやるわ。………って、何をさせるか!」
グボゲニョ〜〜〜。地球は丸かった〜〜〜!
美姫 「ふ〜。馬鹿は放っておいて、じゃあまたね」





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