『マリアさまはとらいあんぐる』



エピローグ 「夢の足跡」






恭也と美由希がホームで列車が来るのを待っていると、そこへ山百合会の面々がやって来る。
驚いている恭也の前まで来ると、祥子が最初に口を開く。

「恭也さん、実は先程リスティさんが来られまして…」

「リスティさんが、ですか?」

「そういう事。それで、恭也くんに伝言を頼まれたのよ」

聖の言葉には、どこか楽しそうな響きが含まれる。
その横では、江利子も楽しそうな笑みを浮かべていた。
今までの長い経験や、これまで山百合会の面々と一緒に行動してきた経験から、
この二人のこの雰囲気と真雪、リスティの悪戯を思いついた時の雰囲気が近いことを悟る。
それに思い至った恭也は、少し嫌な予感を感じつつ、その伝言について尋ねる。
その問い掛けに、蓉子が教えてくれた。

「どうやら、恭也のリリアンの視察期間が延長される事になったみたいよ」

「はい!?だって、アレは護衛の為の…」

「その事実を知る者は極少数ですから」

「初めにその視察の話を持って来た人から、延長するって話が来たから、恭也くんの視察期間が延長されたって訳。
 この前の土曜日に、急遽恭也くんが帰ったのは、このためだったって事になってるらしいよ」

驚く恭也に、志摩子が嬉しそうに言い、その後に聖が簡単に説明をする。
それを聞き、恭也は驚きのまま口をついて言葉が出る。

「そんな話、俺は聞いてませんけど」

その時、タイミングよく恭也の携帯電話が鳴る。
恭也は鳴ったそれを取り出すと、誰から掛かって来たのか確かめ、すぐさま電話に出る。

「もしもし、リスティさんですか。これは一体どういう…」

「落ち着けって、恭也。
 実はな、あの後、依頼主である小笠原の爺さんに報告に行ったんだ。
 そしたら、このプロジェクトがある程度落ち着くまで、万が一の為に護衛をしてくれって言われてな。
 凄いじゃないか、恭也。あの天下の小笠原の会長に気に入られるなんて」

「そんな事より、落ち着くまでって、一体いつまでなんですか」

「大体、一年」

「なっ!」

「ははは、そんなに喜ぶなよ。そうそう報酬も凄いぞ〜。
 下手な野球選手の年俸を軽く上回ったぞ。やるなー、恭也。今度、何か奢ってくれよ」

「お、俺も学校があるんですけど…」

「ははは、安心しろ。今頃、桃子さん辺りが休学届の準備をしているはずだ」

「なっ!」

驚く恭也に、リスティが更に追い討ちを掛けるべく話しを続ける。

「もう決定事項だから。
 ああ、今の荷物じゃ足りないだろうから、後で宅配便で送るように桃子さんには言っておいたから」

リスティの言葉に、恭也は受話器から耳を離し、ただ力なく笑うだけだった。
流石に気の毒に思ったのか、美由希が何か言おうとするが、丁度その時、列車が入ってくる。
美由希は悩んだ結果、自分一人で列車に乗り込むと、未だに呆けている恭也へと声を掛ける。

「えっと、わ、私は先に帰ってるからね。じゃ、じゃあね。
 あ、休みの日にはたまに遊びにくるから、元気出してね」

「ま、待て美由希!」

我に返り、美由希を引きとめようとするが、その目の前で無情にも列車の扉が閉まる。

「貴様、師匠を置いて何処に行く気だ」

「えっと、鍛練はちゃんとするから心配しないでね。じゃあ、恭ちゃんも身体に気を付けて。
 なのはたちにはちゃんと言っておくから…。あ、あはははは」

電車の扉越しに口の動きと目だけで会話をする二人。
そんな二人にお構いなく、列車はゆっくりと動き出す。
恭也を置いて。
列車が去った後、恭也はその場に立ち尽くすが、気を取り直すように大きく息を吐き出す。
そんな恭也に、祥子たちが笑って声を掛ける。

「とりあえず恭也さん。これから一年、またよろしくお願いしますね」

「あーあ、私たちはもう卒業なのよね。残念だわ」

「まあ、リリアンに行けば、恭也くんに会えるから良しとしますか」

江利子の言葉に、聖が答える。
それに頷きながら、蓉子が恭也へと話し掛ける。

「私たち全員を惹きつけるだけ惹きつけといて、はいさようならってのはないんじゃない?」

蓉子の言葉に全員が頷き、恭也は意味が分からずに首を傾げる。
そんな変わらない恭也の姿に、呆れつつも笑みを零す山百合会の面々。
そこで思い出したのか、祥子が恭也の手を取る。

「さて、されでは恭也さんには病院へと行ってもらいましょうか」

「あ、そう言えばそうでしたね。海鳴に戻ってから行くと行ってましたけど、もう戻らないんですし」

祥子の言葉に志摩子も頷き、さりげなく反対側の手を掴む。

「ほう、志摩子もちゃっかりしてるね」

そんな志摩子の行動をからかう聖に、志摩子が可愛らしく抗議の声を上げる。
そんな、いつの間にか恭也を入れて、いつもの光景となったやりとりをしながら、恭也を病院へと連れて行くのだった。
恭也もその騒ぎの中にいて、違和感を感じないほどに馴染んでいる自分に驚きつつも、それを受け入れている自分を感じ、
知らずのうちに笑みを浮かべるのだった。



マリアさまのお膝元に集う乙女たちによる、恋のとらいあんぐるはまだまだ続きそうです。





おわり




<あとがき>

えっと、ちょっと特殊なALLエンドです。
美姫 「ハーレムエンド?」
ちょっと違うと思うけど、まあ良い。さて、キーワードの方は…。
美姫 「『左下』よ」
では、この辺で。





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