『マリアさまはとらいあんぐる』



エピローグ  〜 Truth END 〜






駅のホームで佇む三つの影。
そのうちの一つ、美由希は気を利かせたのか、かなり離れた所に立ち、こちらに背を向けている。
それを見ながら、恭也は目の前に立つ者に声を掛ける。

「こんな所まで来てしまって大丈夫なのか、祥子」

「大丈夫よ。それに、お姉さまたちには私の行動なんか分かっているんでしょうし」

祥子は一人、学校へと向わずに恭也の元を訪れていた。
最後の別れをするためである。
どこか寂しさを堪える祥子の肩にそっと手を置く。

「そんな顔をしないでくれ。もう会えない訳じゃないんだし」

「それは分かっているわ。でも、すぐに会える程近い訳でもないのよ」

ヒステリックに叫びそうになるのを懸命に堪え、祥子はゆっくりと言う。

「ごめんなさい」

「いや。祥子の言いたい事も分かるから。
 それでも、俺は祥子の笑顔が見たいと思ってしまうんだけどな」

恭也の言葉に、祥子はぎこちないながらも笑みを浮かべてみせる。

「絶対に会いに行きますから」

「ああ。その時は翠屋のシュークリームを用意しておこう」

その言葉に祥子は頷くものの、少し拗ねたような目付きで恭也を見上げる。

「……ひょっとして、私がそれだけが目当てだと思ってませんよね」

「違ったのか?もう一度味わいたいと言ってたから………、って冗談だ。
 だから、そんなに睨まないでくれ」

「意地悪が過ぎますよ」

恭也の言葉に、祥子は完全に拗ねる。
それを必死で恭也は宥める。
そんな様子を見て気分が晴れたのか、祥子は笑みを浮かべる。

「やっぱり祥子は笑っている方が良い。照れている顔や拗ねている顔も勿論良いけど」

そう言われ、祥子はどんな顔をしていいいのか困ったように俯く。
そのまま祥子は小さな声で恭也へと話し掛ける。

「も、もし、また同じような事が起こったら、また助けてくれますか?」

「勿論、何度でも。でも、そうだな…。俺の名前を呼び捨てに出来れば」

「そ、それは…」

「自分は俺にそうさせといて、自分だけそれっていうのもな」

「…い、言わないと来てくれないんですか」

そんな事はないと分かっていつつも、つい聞いてしまう。
そんな祥子に恭也は意地の悪い笑みを浮かべ、頷く。

「その代わり、言ってくれれば、何処にいても真っ先に駆けつける」

祥子は暫らく逡巡した後、ゆっくりと口を開く。

「……きょ、恭也」

恥ずかしそうに頬を染める祥子の長い髪を、恭也は手で掬うとその一房をそっと持ち上げる。
髪から伝わる感触に鼓動を早めつつ、祥子はそっと恭也を見上げる。
恭也は祥子に笑みを見せると、手にした髪をそっと自らの口へと持っていく。
祥子は小さな声を上げるが、その行為を止めるでもなくただ見詰める。
やがて、ゆっくりと唇を離した恭也は言葉を紡ぐ。

「これは誓いだ。俺と祥子の」

「誓い……」

「ああ。祥子の身に何か起こったら、いや、起こりそうなら、何処にいようとすぐに祥子の元に行くという」

「恭也…」

祥子は涙を堪えきれずに恭也の胸に飛び込むと、その胸に顔を埋める。
そして、声を押し殺し、流れてくるものを堪える。
そんな祥子の背中を優しく擦りつつ、恭也は祥子を落ち着かせる。

「本当は離れたくないです。ここまで人を好きになる事があるなんて思ってなかった」

恭也は祥子の顔を上げさせると、目尻に浮ぶ涙をそっと指先で拭う。
そして、祥子の唇にそっと口付ける。
ゆっくりと唇を離すと、恭也は祥子を抱きしめたまま告げる。

「また会えるさ、きっと」

「……そうですね」

二人がそっと離れると、それを見計らったかのように列車が着くというアナウンスが流れる。
こちらを伺う美由希に合図をして呼ぶと、美由希がやって来る。

「もうすぐお別れですね」

そういう祥子は、しかし先程とは違い、しっかりとした口調で穏やかに微笑む。
それに恭也と美由希も頷き答えた所で、列車がホームへと入ってくる。
列車の扉が開き、美由希が先に乗り込む。
それに続いて恭也も列車の中へと入ると、振り返り祥子を見詰める。
微笑を浮かべる祥子に、恭也は胸のポケットから一枚の赤いカードを取り出して尋ねる。

「祥子、これはまだ有効かな?」

その問い掛けに祥子は笑みを浮かべたまま頷くと、自分もポケットから黒いカードを取り出して見せる。

「これも有効かしら」

そう尋ねる祥子に、恭也も微笑んで答えるのだった。

「ああ、当然だ」

そこで列車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
それを祥子は笑顔で見送る。
やがて列車が見えなくなると、祥子は踵を返しその場を後にする。
その顔には先程までの寂しさや不安といったものはなく、期待や幸せを胸に秘めた笑みを浮かべたいた。



守るべき者を守りきった者と、守られながらも強さを見せた者。
お互いに惹かれあい、絡み合った運命の糸は、一時の別れをもたらした。
しかし、お互いに触れ合い分かり合えたから、その別れが次の出会いのものだと信じれたから。
だから、一時の別れを告げる事となった二人は、決して振り返る事無くこの先も歩み続ける。
再び道が交差するその時まで。
お互いの道は離れていても、心は一つだと感じ合いながら。





おわり




<あとがき>

正真正銘の最終話。
長いような短いような。
とりあえず、これにてマリアさまはとらいあんぐるは終わりです。
美姫 「何、しみじみしてるのよ!」
ぐえっ!み、美姫〜。人がしみじみとしているというのに。
美姫 「そんな事言われてもね。まあ、とりあえず完結おめでとう!」
ありがとう!色々あったが、何とか無事に終ったよ。
祥子エンド。これが当初から考えていたエピローグでした。
美姫 「ここまで読んでくださった方、ありがとうございます」
ひとまず、マリとらはここで終りますが、彼、彼女たちのお話はここで終わる訳ではありません。
美姫 「そういう訳です」
さて、とりあえずマリとらは終わった事だし、のんびりと……。
美姫 「次の作品へゴー!」
………感傷もひったくれもないな。
美姫 「何よ。すぐに怠けようとしてたくせに」
そ、それを言われると……。
美姫 「はいはい。そえでは、皆さんごきげんよう」
ごきげんよう。





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