『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



第2話 「再会、そして」






『M駅〜、M駅〜』

車内にアナウンスが流れ、扉が開くと恭也と美由希は列車を降りる。
二人は体を解すように伸びをすると、改札へと歩き出す。

「祥子たちの方が先に来ているだろうな」

恭也は時計を見て、そう言う。

「多分、そうだろうね。それよりも、そう簡単に出歩いても大丈夫なのかな?」

「恐らく、ここ数日は大丈夫だろう」

恭也の答えに、美由希は首を傾げる。
そんな美由希に、恭也は説明をする。

「昨日の今日で来るとは思えない。相手にも準備は必要だろうから。
 それに、詳しい内容は聞いていないが、どうやら祥子たちが抵抗するのを楽しみにしているみたいだったしな。
 こっちの準備がある程度整うまでは、向こうも手出しはしてこないかもな」

恭也の言葉に頷きつつ、美由希は改札を抜ける。
駅の出口を出た二人に声が掛けられる。

「恭也さん、美由希さんこちらです」

その声の主であり、今回の依頼人兼護衛対象の小笠原祥子の姿を認め、二人はそちらへと行く。
そこには祥子以外にも、再会を待ちわびている者たちがいた。

「お久し振り、恭也さん」

「はい、お久し振りです令さん。腕を上げられたみたいですね」

「そうかな?」

「はい」

恭也に言われ、令は嬉しそうに返す。
その令の横から、由乃が声を掛ける。

「お久し振りです、恭也さん」

「はい、お久し振りです」

「実は、私も剣道始めたんですよ」

「……基礎は身に付いているみたいですね」

由乃の頭からつま先まで軽く見て、恭也は答える。
その言葉に、由乃はブイサインで答える。
由乃の後ろから、今度は祐巳が恭也へと話し掛ける。

「お久し振りです、恭也さん」

「祐巳さんも、お久し振りです」

「なのはちゃんは元気ですか」

「ええ、元気にしてます」

昨日のなのはを思い出し、恭也は少し苦笑しつつ答える。
それを聞き、嬉しそうな顔を見せる祐巳の傍らから、志摩子が話し掛ける。

「恭也さん、お久し振りです」

「志摩子も久し振り。元気だったか?」

「はい。恭也さんもおかわりがないようで、何よりです」

「ああ、おかげさまで。所で、そちらの方は?
 初対面ですよね」

一通り挨拶を終えた恭也は、一向から少し離れた所に立っていた乃梨子へと視線を向けて尋ねる。
恭也の言葉を聞き、乃梨子は一歩進み出ると頭を下げる。

「私は志摩子さまの妹になりました二条乃梨子と申します」

「ご丁寧にどうも。俺は高町恭也です。で、こっちが…」

「い、妹の高町美由希です」

乃梨子に倣い、二人も頭を下げて挨拶をする。
顔を上げたところで、祥子が纏めにかかる。

「さて、簡単な挨拶と再会も終った事ですし、そろそろ移動しましょう。
 ここでは目立って仕方ありません」

祥子の言葉を示すように、それなりに賑わう駅前の視線が恭也たちを見ている。
立ち止まってじっくりとみている者はいないが、それでもすれ違いざまに見て行く人が多い。
主に男性の視線は祥子たちに、女性の視線は恭也へと。
今更ながらに目立ていると気付いた一同は、少し早足でその場を去るのだった。

「それで、移動するにしても何処に?」

「勿論、私の家にですわ」

恭也の言葉に、祥子が答える。
既に昨日の時点で、山百合会の面々は文化祭が終るまでの間、準備とかの都合上、
小笠原家で過ごすという旨をそれぞれの保護者へと連絡し、了承を得ているらしい。
それどころか、恭也たちを迎えに来たのは、一度小笠原家に荷物を運んでかららしい。
そのあまりの手際の良さに恭也は思わず失笑すると、祥子たちの後に続きこの場を立ち去るのだった。





  ◇ ◇ ◇





小笠原家に着いた恭也は、さっそくいつの間にか置かれていたという手紙を祥子から受け取ると目を通す。
それを横から美由希も覗き込む。
二人の顔はとても鋭くなり、先程までとは全く違う顔を覗かせる。
祥子たちはただ黙って二人が読み終えるのをまつが、乃梨子は全くと言っていい程、雰囲気の変わった二人に少し戸惑う。
そんな乃梨子の手を優しく包み込むように志摩子が包み、乃梨子へと笑みを見せる。
乃梨子は一つだけ頷くと、恭也たちが読み終えるのを大人しく待つ。
と、読み終えた手紙をテーブルの上に置く。

「大体の事は分かりました。つまり、今回の護衛対象はここにいる皆さんという事ですね」

「ええ、そうです。改めてお願いします。引き受けてくれませんか。
 勿論、お礼の方も何とかしますから」

「勿論、引き受けるに決まっているだろう。それに、別に礼なんかいらないさ」

「でも…」

「別に仕事だから来たんじゃない。俺の知り合いが困っていると言うから、助けに来たんだ。
 だから…」

「分かりました。では、お願い致します」

恭也の言葉に祥子は頷くと、改めてお願いする。
それに合わせる形で、他の者たちもお願いする。

「所で、俺と美由希の転入の件は」

「あ、それでしたら、お爺様に頼んで昨日のうちに。恭也さんが三年生で、美由希さんが二年生です」

「……多分、学園内は安全だとは思うんですが、今回の犯行予告を見る限り、絶対とは言えないな。
 出来れば、一年にも誰か潜り込ませたい所だが」

「でも、私と恭ちゃんの二人だけだし、それは無理だよ」

「だな。まあ、警戒を怠らないようにしておけば、学園内ならたいして問題ないか」

「うん」

恭也の言葉に頷く美由希。
恭也は全員を見渡し、全員へと話し掛ける。

「学園内は多分大丈夫だと思いますが、念のために俺か美由希からあまり離れないようにお願いします」

その言葉に全員が頷くのを見て、恭也も少し力を抜く。
そして、今思いついたようにある事を口にする。

「一層の事、美沙斗さんにも応援を頼むか」

「か、母さんを!そんなの無理だって!幾ら何でも高校生、それも一年生は」

「その場合はお前が一年で、美沙斗さんは二年だな」

「それでも無理だよ」

「そうか?大して違和感ない気もしないではないが」

「…………は、ははは」

何を想像したのか、美由希は苦笑いを浮かべる。
そんな美由希を一瞥し、恭也は言う。

「まあ、流石に冗談だ。それに、任務中の美沙斗さんを呼び戻す訳には行かないしな。
 エリスに頼んでも良いんだが、今はフィアッセのヨーロッパツアーの護衛だろうしな。
 俺たち二人でやるぞ」

「うん」

恭也の言葉に、美由希は力強く頷く。
一方、まだあまり詳しい事情を知らない乃梨子は、突如出たフィアッセの名前に反応し、志摩子から説明されていた。
その説明を聞き、乃梨子が声を上げる。

「えぇー!フィアッセって、あのCSSの光の歌姫!
 それに、恭也さんがCSSと縁があるなんて…」

驚く乃梨子に対し、志摩子はゆっくりと話す。

「ええ、そうよ。そのお陰でSEENAさんから直にサインが貰えたのよ」

嬉しそうに話す志摩子に、乃梨子は少し羨ましそうな顔をする。

「良いなー」

その言葉を聞き、祐巳が少し驚いたように呟く。

「乃梨子ちゃんも音楽聞くんだ」

その呟きを耳にし、乃梨子は少し拗ねたような口調で祐巳へと言う。

「それは聞きますよ。特にフィアッセ・クリステラは。
 ……祐巳さま、もしかして私がお経とかを聞いているとか思ってません?」

「えっ!あ、あはははは」

どうやら図星だったらしく、祐巳はただ笑って誤魔化す。
そんな祐巳の態度に頭を抱えつつも、祥子は気を取り直すと恭也に話し掛ける。

「それと、申し訳ないんだけど、私たちの他にも後二人程気を付けておいて欲しい子たちがいるの。
 その子たちは山百合会のメンバーと言う訳ではないのだけれど、文化祭が終るまでの間、手伝ってくれているのよ。
 だから、万が一のために」

「ああ、分かった。気を付けておこう。まあ、多分大丈夫だとは思うがな。
 わざわざ六輪の薔薇と言ってるぐらいだし」

「ええ。それでも一応…」

前回、祥子を狙っていた連中が、祥子の周りの者にまで危害を加えようとした事を思い出し、祥子は不安そうに呟く。
そんな祥子の胸中を察してか、恭也は頷くとそっと祥子の肩に手を置き、励ますように口を開く。

「ああ、分かっている。護衛は俺たちに任せて、祥子たちは普段通りにしていてくれ」

「ええ、ありがとう」

触れられた肩から伝わる恭也の温もりに、先程までの不安が嘘のように消えていくのを感じながら、
祥子はそっと恭也の手に触れる。
お互いに顔を見合わせ、軽く笑みを交わすとそっと離れる。
そんな様子を数人が少し羨望の眼差しで見ていた。







「今回の敵の目的が、全く分かりません。
 前回の時の目的は、小笠原グループによるプロジェクトの撤退でした。
 そのための材料として、祥子の身柄拘束があって、あくまでも標的は祥子一人でした。
 でも、今回は最初から祥子たち六人を標的としています。
 脅迫にしても、要求が何もありませんし。
 つまり、犯人の目的は純粋に祥子たちそのものという事になります」

あの後、大まかな話を終えた後、恭也はリスティへと連絡を入れた。
そして、自分の意見も交えながら、状況を細かく説明していく。
それに対し、電話の向こうでリスティが唸る。

「う〜〜ん。
 目的がお嬢さんたちに危害を加える事となると、その犯人もしくは、犯人達を完全に捕まえない事には終らないな」

「はい。おまけに、今回は実行犯と黒幕が別の人物なのかも分かりませんし」

「正式な依頼として、こっちにきていないから、こっちから人を出す訳にはいかないしな」

「ええ。まあ、それは良いんですけど」

「まあ、何かあったら連絡くれれば、出来る限りの協力はするよ」

「ありがとうございます。それで、早速なんですが頼みたい事が…」

「何だい?」

恭也は一端言葉を区切り、一応誰もいない事を確かめてから口を開く。

「ここ最近、日本に入って来た怪しい奴、もしくは、動きのある組織がないか調べてください」

「それは構わないが、個人は兎も角、動きのある組織の方は難しいね」

「ええ、分かってます。別にこれで犯人が見つかるとは思っていません。
 ただ、やらないよりはましですから」

「…それもそうだね。OK、それは任せてくれ。恭也たちは護衛に専念しな」

「ありがとうございます」

「良いって、僕と恭也の仲だろう。マフィンとコーヒーで手を打つよ」

リスティの言葉に苦笑しつつ、恭也は約束をする。
そして電話を切ろうとした恭也に、リスティが話し掛ける。

「充分に気を付けるんだよ。一度とはいえ、誰にも気付かれずに学園内入り込んでるんだ。
 つまり、学園のセキュリティはあまり頼りにならないって事だからね。
 それに、守る対象が多いと言う事も。まあ、その辺は言わなくても分かっているだろけど」

「はい、充分に気をつけますよ。
 正直、前回よりも、かなり難しいですけどね」

「それでも守り抜かないとね。そして、それが出来るのが御神の剣士……だろ?」

「はい」

リスティの言葉に頷き、今度こそ本当に電話を切ると、ポケットへと仕舞う。
目を瞑り、ゆっくりと息を吐き出すと、再び目を開ける。
その瞳に揺るぎのない力を宿して。





つづく




<あとがき>

再会編。
美姫 「結構、あっさりと済ましてしまったわね」
まあ、まだまだ序章部分みたいなもんだし。
あぁ〜、もう少し乃梨子に出番を増やしたかったー!
美姫 「まあ、それも含めて次回以降ね」
おう。いよいよ次回から、本編とも言うべき学園へ!
美姫 「恭也と美由希のクラスは何処になるのかな?」
どこでしょね〜。
さて、では次回で!
美姫 「バイバーイ」





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