『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



第25話 「前哨戦」






美由希は手にした小太刀を握りなおし、そのままコラードへと駆ける。
コラードはそんな美由希に向って銃を向けるが、美由希は大きく孤を描くようにコラードを中心してに動く。
徐々にその輪を狭めながら。
美由希の動きに翻弄されつつも、その手に持った武器を見て、攻撃する時は近づくしかないと考え、美由希が接近してくるのを待つ。
コラードとの距離が4、5メートル程になった時、美由希はそれまでの孤を描く動きから、
一気にコラードへと距離を詰めるべく、直進する。
それを待っていたコラードは、美由希へと照準を合わせて、そのまま発砲する。
乾いた音が三発、空に響く中、美由希は地に付かんばかりに体を伏せる。
伏せつつも足は止めず、コラードを己が間合いの内に捉える。
体を起こしつつ、左下から右上へと逆袈裟に斬り上げる。
コラードは自身の右下から迫ってくる剣先を見るよりも早く、勘だけで後ろへと跳躍する。
コラードの眼前を銀閃が通り過ぎ、前髪を数本、宙に舞わす。
攻撃を躱された美由希の体は、少し前に浮いた状態となっており、そこへコラードは銃を向ける。
しかし、発砲すべく指に力を込めようとしたコラードの視界には、状態が浮いた美由希ではなく、その背中が見えていた。
美由希は最初の一撃を囮とし、この一撃を本命へと持って来ていたのか、斬り上げた勢いをそのままに、
自身の体を右へと回転させ、その勢いを利用して、右から左へと横薙ぎの一撃を繰り出す。
コラードは、美由希の背中を見た途端、考えるよりも先に体を後ろへと更に動かしていた。

「くっ!」

短く息を吐き出しつつ、その一撃を服に掠らせる程度に押さえ、更にもう一歩跳躍して距離を開けつつ、
今度こそしっかりと美由希の頭部に照準を合わせて、引き金を引く。
至近距離からの打ち出された弾丸が、狙いたがわずに突き進む。
勝ったと確信したのも束の間、甲高い音が響いたかと思ったら、美由希は無傷でその場に立っていた。
美由希の眼前には、いつの間にか抜かれていたもう一刀の小太刀が左手に逆手で握られており、それで銃弾を弾いたのだろう。
それにコラードが気付くよりも早く、美由希が動く。
いや、美由希は一度たりともその動きを止めていなかったから、動いていたという方が正しいのかもしれない。
何故なら、美由希はニ撃目を躱されても慌てる事無く、
そのまま右手を振りぬくと、左足を前に出し、右手を腰の右側へと持っていっていたのだった。
その途中、左手を腰の左側へと回し、もう一刀の小太刀を抜き放つと、コラードの放った銃弾を弾く。
左手のその動作の勢いも利用し、腰から上のみを回転させ、上体を倒していく。
丁度、コラードに左半身を見せた状態で、上半身だけは後ろへと隠すように倒して。
そして、充分な溜めを取ると、右足で地を力一杯に蹴りつけ、同時に上半身を戻す。
しっかりと下半身を固定し、殆どないコラードとの距離を、更に一歩だけ詰める。
美由希が右足で蹴った地面が砂埃を立てる中、美由希の上半身は全ての力を一点に解放するべく、物凄い速さで前へと出る。
腰から上の回転などのそれらの力は、全て右腕へと収束され、美由希の背筋はただその一撃の為に動く。
右腕から放たれた刺突は、弓から引き放たれた矢の如く、銃を構えようとしたコラードの右肩へと突き進む。

──御神流奥義之参、射抜・近

助走距離なしの、ただ、体の回転と背筋の力のみの近距離からの射抜。
抜刀や単純な力では恭也に敵わない美由希が、その打開策として美沙斗、恭也から言われた刺突技。
その奥義とも言うべき射抜を教わってから、美由希のメニューに恭也が加えた背筋力を向上させるための鍛練。
そして、何度も型を徹底して繰り返す中での恭也の一言。

『射抜を習得するのは良いとして、ただそれだけに留まるな。
 その技をどのタイミングで、どう出せば良いのか、他の技との組み合わせや連携などが出来るか。
 そういった事も考えた方が良い。後は、様々な状況でも出せるように考えるのも良いかもな』

その言葉と新たな鍛練の成果により、射抜をとことんまで鍛える上で美由希が新たに編み出した助走なしの近距離からの射抜。
それがコラードの肩に突き刺さる。
突き刺さった瞬間、美由希は更に前へと踏み出す。
射抜の特徴である、刺突からの派生の斬撃が、肩から血を飛び散らせつつ、後ろへと飛ばされるコラードへと追い縋る。
何とか両足を踏ん張り、数メートル先で倒れずに立ち止まったコラード。
痛みを訴える右肩を無視し、動かなくなった右腕から左手で銃をもぎ取ると、美由希へと発砲する。
しかし、続けて撃たれる銃弾は、全て美由希に掠る事もせずに後方へと飛んでいく。
いや、先程までいたはずの美由希がその場から消えていたのだ。
驚愕の表情を浮かべるコラードの視界の端で、黒いおさげが揺れる。
いつの間にか、本当はコラードが飛ばされている間に追い縋っていたのだが、
コラードにしてみれば、それこそ瞬間移動でもしたかのように、美由希がコラードの左側へと接近していた。
驚きに目を見開くコラードの鼻の下、人中に美由希の右手に持つ小太刀の峰が叩きつけられ、
次いでこめかみに左手の小太刀が叩きつけられる。
吹き飛ばされる空中の最中、コラードの意識は途切れた。
地面へと倒れ伏し、微かな痙攣の後、コラードはその動きを止める。
美由希は慎重に近づきつつ、コラードの胸が微かに上下しているのを見て、微かに安堵の息を漏らす。
それしか方法がないと言うのなら別だが、殺す事無く倒せるのなら、それに越した事はない。
どうやら、完全に意識を失っているコラードの手から銃を取り上げ、その両手両足を鋼糸で括り付ける。
これで、万が一途中で目覚めても大丈夫だろう。
ほっと一息吐くと、美由希は恭也が向った先へと視線を向けるのだった。





  ◇ ◇ ◇





フェドートが放つ銃弾を避けつつ、恭也はあっという間にその距離を詰める。
フェドートもこれ以上は無駄と悟ったのか、銃を捨ててナイフを手にすると、向かって来る恭也へとナイフを突き出す。
恭也はそれを体を半分ずらして躱しつつ、フェドートをすれ違うように移動する。
と、ナイフを握ったのとは逆の手に、拳銃を握っており、ナイフを握る手の陰に隠すように恭也へと照準を合わせていた。
銃口が恭也へと合わさる中、至って冷静に恭也は飛針をその手に投げつける。
予想外の攻撃による痛みに、フェドートは思わず銃を取り落としてしまう。
それを後悔するよりも早く、恭也がフェドートの横を走り抜ける。
すれ違いざま、小太刀を峰を脇腹へと叩き付け、背後へと回り込むと、その首筋にも一撃を叩き込む。
声を上げる暇もなく崩れ落ちるフェドートを冷ややかに見詰めた後、美由希同様にこちらも鋼糸を取り出して手足を拘束する。

「思った以上にあっけなかったが……」

簡単に終わる事に越した事はないが、恭也は何故か言いようのない嫌な予感に襲われる。
それを振り払うように頭を数度振る。

「詳しい事は、こいつから聞き出せば良いか」

恭也は携帯電話を取り出し、美由希へと連絡を入れてみる。
すぐに美由希が出た事にほっとしつつ、念のためにそちらの現状も聞き出す。

「そうか。なら、そいつを人目の付き難い所へ運んどいてくれ。
 俺は、リスティさんに連絡を……」

そこまで言い掛けて、恭也はまだ恐怖で震えているであろう可南子の存在を思い出す。

「すまないが、美由希の方で連絡を入れておいてくれ。
 ちょっと、こっちでやらなければいけない事が出来た。
 ああ、心配はいらない。敵は既に倒れているからな。じゃあ、頼んだぞ」

恭也はそう言うと通話を切り、可南子の元へと向うのだった。





  ◇ ◇ ◇





恭也からの電話が切れた後、美由希はそのままリスティへと連絡を入れる。
暫らくして、リスティが出る。

「Hi、どうしたんだい、美由希から電話が来るなんて珍しいね」

「実は……」

美由希は今あった事を手短に話す。
話を聞いたリスティは、すぐに状況を察し、美由希に告げる。

「前に南川って奴がいたのを覚えてるかい?」

「あ、はい」

「OK。じゃあ、今からあいつに連絡を入れるから、それまでソイツの監視を宜しく」

「はい、ありがとうございます」

「礼なら良いよ。それにしても、いよいよ動き出したみたいだね」

「……はい」

「頑張りなよ、美由希。恭也にも、そう伝えといて」

「はい、確かに伝えておきます。それでは」

そう返事を返し、美由希は電話を切るのだった。





  ◇ ◇ ◇





恭也は可南子の元へとやって来ると、震えている可南子にそっと声を掛ける。

「もう大丈夫ですよ」

「あっ」

目の前に現われた恭也に、可南子は安堵の声を漏らす。
途端、安心したのか、その目から涙が溢れ出る。
それを恭也に見られないように、俯いて隠す可南子に、恭也は気付かない振りをして背を向ける。
背中越しに木を挟んで座りながら、恭也はそっとハンカチを差し出す。
可南子はそれを一瞬だけ躊躇した後に受け取り、涙を拭う。

「さ、さっきの男は……」

「向こうで寝てます。昨夜、徹夜でもしたんじゃないですか」

恭也の軽口に可南子は何も答えず、暫らく無言が続く。
やがて、ぽつりぽつりと可南子が話し出す。

「私の父は、SPをやってたんです。
 殆ど家にはいない父でしたが、それでも休みの日はよく遊んでもらいました。
 でも、五年程前に仕事中に負った怪我が元で…。
 その時の母の落ち込み様といったら。それでも、私の前では元気に振舞おうとしてるんですよ。
 明らかに無理しているって子供の私でも分かるのに、笑顔を浮かべて」

可南子は少し自虐的な笑みを浮かべると、恭也が何も言わずにいる事に押されるような形で訥々と語っていく。

「時たま夜中に泣いているお母さんの背中が、とても小さいんです。
 お父さんの所為で、お母さんがあんな目にあってるんだって。
 無茶な事を言ってるっていうのは分かってるんです。
 でも、そうでも思わないと……。
 赤の他人を守って死んだって、葬式に来た人は口々にお父さんを褒めたけれど、そんなの私にとっては嬉しくも何ともない!」

最後の言葉を、はき捨てるように言った後、可南子は大きく息を吸い込む。
それを何度か繰り返し、幾分落ち着いてから、再度を口を開く。

「お父さんは、自分が思った事をして亡くなったのだから、それで良いのかもしれないけど、
 残さる私たちの事を考えなかったんだなって。
 身勝手な事をして、後は頼むなんて、勝手が過ぎるわ」

先程までと違い、静かに語った可南子に対し、同じように静かな口調で恭也が口を開く。

「多分、可南子さんのお父さんは、可南子さんやお母さんの事をどうでも良いと思っていたわけではないと思いますよ。
 そして、可南子さんもそれは分かってるんですよね。
 ただ、言いようのない感情をどうして良いのか分からないから、お父さんの所為にして」

「!! そ、そんな事……」

恭也の言葉に、咄嗟に否定しようとするが、それが出来ずにただ俯く。

「お父さんも、自分の命と引き換えにその人を助けようとは思っていなかったはずですよ。
 その人を助けた上で、自分も助かろうとしたんだと思います。
 ただ、結果的にご自身の命を無くす事になってしまったけれど」

「それが身勝手って言うんです!」

「確かに、そうかもしれませんね。結局の所は、ただの自己満足ですから。
 可南子さんのお父さんにしても、可南子さんたちがどう思うかなんて考えてなかったでしょうし。
 ただ、目の前の人を助けるといった事しか考えていなかったでしょうね。
 残される人の気持ちを考えないなんて、本当に身勝手な人ですね。
 そんな身勝手な人の事なんて、すぐに忘れた方が身の為……」

恭也はそれ以上、言う事が出来なかった。
後ろにいた可南子が恭也の前へといつの間にか来ており、恭也の頬を引っ叩いたからだ。
恭也は叩かれた横へと向いた顔をゆっくりと正面へと戻し、目の前に立つ可南子を見上げる。

「お父さんの事を悪く言わないで下さい!
 確かに、身勝手な事かもしれないですけど、それで助かった人がいるんです!
 それを、見ず知らずの貴方なんかに悪く言われる覚えはないわ。
 第一、残された者の気持ちなんて貴方には分からないでしょう。
 なのに、したり顔で知ったような事を言わないで!
 私もお母さんも、お父さんの事も、その仕事も誇りに思っているんだから」

可南子は叫びつつ、自分の言葉に驚く。
そして、その気持ちが嘘ではなく、昔からずっと思っていた事だと思い出す。
父の死という悲しい現実の前に、忘れていた、いや、気付かない振りをしていた気持ちを改めて認識すると、
その目から涙が溢れ出て止まらず、そのまま力を無くしたようにへたり込む。
それでも、目の前に座る恭也に涙を見られたくないのか、必死に手を使ってそれを隠そうと擦り上げるが、
涙は止まる事を知らないように、次から次へと溢れ出てくる。

「み、見ないで下さい!」

そう言って喰って掛かる声にも力はなく、ただ嗚咽混じりの声だけが洩れる。
恭也は一旦、空を仰ぐと、手をそっと伸ばして可南子の頭を抱き寄せる。
そのまま胸の中に可南子を抱くと、その耳元に囁く。

「これで見えませんから。ついでに、暫らくは何も聞こえません。
 ですから、今まで溜まっていたものを、ここで全部出した方が良いですよ。
 あまり溜め込むと、いつか押さえ切れなくなりますから」

この恭也の言葉を引き金に、可南子は声を上げて泣き出す。
可南子が泣き止むまでの間ずっと、その背中を優しく擦ってやりる。
どれぐらいの時が経ったか、未だに少しぐずってはいるが、泣き終えた可南子は少し照れたように恭也から離れる。
そして、その胸の部分がぐっしょりと濡れているのを見て、小さな声で謝る。
そんな可南子の頭を、なのはにしてやるのと同じような感覚で撫でる。
それに小さな声を出すものの、以前のように払い除けたりはしなかった。
恭也が手を除けるのを見計らい、可南子はおずおずと尋ねる。

「所で、貴方は何者なんですか。あんな銃を持った相手に平然と」

「……俺の父もボディーガードだったんで、まあ、小さい頃からああいった修行をさせられていたと言いますか」

その言葉が過去形だった事に気付いた可南子は、何とも言えないような顔になる。
さっき言った言葉に少し後悔を覚える可南子に、恭也は変わらない声で続ける。

「そんな顔しないで下さい」

「でも……」

「父が助けたのは、俺や妹の幼馴染なんですよ」

可南子の言葉を遮るように、恭也は話し始める。

「だから、可南子さんの時とは状況が多少違いますし」

恭也の言葉に、可南子は納得はしないものの大人しく頷く。
そして、話を変えるように、恭也へとまたも質問を繰り出す。

「所で、祥子さまたちを狙うというのは? それに脅迫って」

「そんな事、言ってましたか」

「ふざけないで下さい! 幾ら怯えていたとしても、聞き間違えるはずないじゃないですか!」

怒鳴る可南子を見て、恭也は笑みを見せる。
それに怪訝そうな顔をする可南子に、恭也は何でもないんだが、と前置いて話す。

「ただ、いつもの調子に戻ったみたいだったから、良かったなと」

「い、いつもって。私って、そんなに怒鳴ってばかりいるように思われていたんですか」

「いや、別にそういう訳ではないんですが……」

逆にしどろもどろになる恭也に、可南子は可笑しそうに笑い声を上げるが、すぐに真顔に戻る。

「それで、どういう事なんですか?! 祥子さまたちという事は、祐巳さまも含まれているんですか!?
 どうなんです! しかも、まだ仲間がいるみたいな口振りでしたけど。警察には連絡しているんですか」

矢継ぎ早に繰り出される質問に、恭也はどう答えるべきか悩み、結局、話すしかないと諦める。

「仕方がない。少しで良ければ、説明しますよ。ただし、俺一人の判断では出来かねるので、その話はまた後でお願いします」

「……分かりました」

恭也の言葉に、可南子は渋々と頷くと、口を噤む。
しかし、視線は時々、恭也へと向かい、それに気付いた恭也がそちらを見ると、慌てて目を逸らす。
そんな事を何度か繰り返した後、恭也は大人しく当分の間、睨まれる事に決めて、そちらを見ないようにする。
横から感じる視線を気にしつつも、恭也はただ美由希が来るのを待つ。
だから、この時、恭也は気付かなかった。
睨んでいるはずの可南子の顔が少し赤らんでいることに。



それから暫らくして、ようやく美由希が現われる。
それを見るや、恭也は立ち上がり、遅かったな、と声を掛けようとして、その後ろにいる人物に気付く。

「お久し振りですね、南川さん」

「本当に久し振りだね、恭也くん。
 今回も大変そうだね」

「ええ。所で、どうしてこちらに」

「ああ、リスティさんから連絡があってね。急いでここに来るようにって。
 事情の方は、こちらの美由希ちゃんから聞いたから。後の事は私たちに任せて」

「ありがとうございます。正直、助かりますよ」

恭也の言葉に、南川は軽く手を上げる。

「ははは、良いって。前の件ではかなり世話になったしね。
 それに、これが僕らの仕事だから。じゃあ、何か分かり次第……」

「ええ、連絡お願いします」

その言葉に頷くと、南川は一緒に来ていたもう一人の男に合図して、フェドートを運んで行く。
それを眺めた後、恭也は美由希に小声で問い掛ける。

「そっちはどうだった」

「うん、特に問題はなかったよ」

「そうか」

「そっちは、何かややこしい事があったみたいだね」

「ああ」

恭也の背後を伺いながら、苦笑しながら言った美由希の言葉に、こちらも苦笑を零しつつ、短く返すのだった。





  ◇ ◇ ◇





「……話にもならんかったな。捨て駒なら捨て駒らしく、敵の手の内をもう少し明かせば良いものを」

そう呟く宗司に、海透は苦笑しつつ告げる。

「仕方がないよ、父さん。所詮、あの程度だもの。逆に、あんな奴を相手にして、本気になられてもね」

「確かにな。しかし、フェドートの奴は兎も角、コラードもこうもあっさりやられるとはな……。
 念には念を入れて、いきなり仕掛けなくて正解だったかな」

「それは確かにね。でも、コラードはもう少し役に立つはずだったんだけど」

不思議そうに呟いた海透の言葉は、単にコラードの実力をかっていたとかではなく、
単に自分の見たてが違う事への純粋な疑問だった。
それに宗司は一つ頷く。

「まあ、仕方あるまい。彼は、高町恭也という人間に以前、こっぴどくやられておるからな。
 こと、彼が関わってくれば、普段の冷静さも失うじゃろうて」

「だからこそ、彼がそこに転入生として来ている事を隠していたんだけどね。
 どうやら、それも無駄だったみたいだし」

「まあ、歓迎の挨拶と思えば安いもんじゃろう。今日の所はこの辺にして、そろそろわしらも行くか」

「だね。仮のアジトを捨てて、本拠地へ」

立ち上がりつつ、海透は手の中に握った何かのスイッチらしき物を押した。





  ◇ ◇ ◇





その夜、恭也の携帯電話に一本の連絡が入ってくる。
その内容は、コラードとフェドートが毒殺されたというものだった。

「毒ですか」

「そうなんだよ。輸送中に突然、苦しみ出してね。
 すぐさま病院へと向ったんだけど……。
 解剖の結果では、どうやら、体内に毒を入れたカプセルのような物を飲んでいたらしい。
 しかも、このカプセルは一定の周波数を受信すると、割れる仕組みになっていてね。
 どうやら、遠距離から操作できるようになってたみたいだ。
 この事は、死んだ二人も知らなかったんじゃないかな」

「つまり、今日襲ってきた二人は……」

「言わば囮だね」

「もしくは、挨拶といった所ですか。それにしても、こうも簡単に仲間を殺すなんて」

「ああ。今回の相手は、前回以上にやっかいかもね。
 もし、手が必要な事があれば、何でも言ってくれ。出来る限りの事はするから」

「ありがとうございます。それじゃあ、今日はこの辺で」

「ああ。次に連絡を取り合うのは、事件が解決した後というのが、一番望ましいけれどね」

「そうですね」

恭也がそう答えると、南川は電話を切る。
暫らくの間、恭也は無機質な電子音をを立てる電話を耳へと当てたまま、そうして立ち尽くしていた。
その胸中に飛来するものは一体、何なのか。
それは恭也にしか分からない。いや、もしかすると、恭也自身にも分かっていないのかもしれなかった。
恭也の背中を眺めつつ、美由希は何となくそんな気がしていた。





つづく




<あとがき>

さて、前哨戦お終い。
美姫 「弱っ! 早っ! 短っ!」
うーん、見事に三拍子揃ってるね。あはは。
美姫 「笑い事じゃないわよ!」
まあまあ。言わば、捨て駒だ。
美姫 「うわ〜、酷い奴ね」
さーて、次回、次回っと。
美姫 「次回はどんな内容に?」
それは秘密〜♪ 例によって、秘密〜♪
美姫 「そうよね〜♪ という訳で、こちらも例によって、お仕置き〜♪」
おおー、何でだ〜♪
美姫 「問答〜、無用よ〜♪」
って、疲れるな。
美姫 「確かに。とりあえず、また次回でね」
ほっ。お仕置きなしか。
美姫 「ううん、それは後でね」
…………。
美姫 「それじゃあ、次回までごきげんよう」





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