『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



第54話 「一時の日常」






週明けの三時間目が終った休み時間、恭也は少しだけ疲れたような顔をしていた。
そこへ祥子がやって来て、笑いながら話し掛けてくる。

「恭也さん、お疲れのようですね」

「まあな。授業を真面目に受けると流石に疲れてくる」

目頭を揉みながらそう答える恭也に、祥子は苦笑を洩らしつつ、

「普通は、それが当たり前なんですけれどね」

「だな。だが、俺は授業を受ける時間の三倍の時間でも構わないから、身体を動かす方が精神的に楽だよ」

「流石に、それは…。それだったら、私は授業を受けている方が良いですね」

「だろうな」

本当の所、疲れは昨日の戦闘によるものなのだが、二人は普通に会話する。
会話が途切れた所で、恭也が何か口にしようとした瞬間、一瞬だが背筋に悪寒が走ったような気がして、
恭也は思わず、教室を見渡す。
しかし、これといった異常も見当たらず、単なる勘違いかと首を振る。

「恭也さん、どうかしたんですか?」

「いや、何か嫌な予感がしたような気がしたんだが、どうやら、勘違いらしい。
 どうやら、ずっと同じ姿勢で授業を受けていた所為で、背中の筋肉が硬直したみたいだな」

そう言いつつ、それをほぐすように肩を回す恭也の背後へと回り込むと、祥子はその個所を触り始める。

「確かに、少し張ってますね」

そう言うと祥子は、指に力を入れてその場所を押す。

「あまり強い力では押せませんけれど、少しは楽になりますか」

「いや、結構、気持ちが良いな。このまま、肩でも揉んで欲しいぐらいだ」

「だったら、そうしましょうか」

言うが早いか、祥子は恭也の肩を揉み出す。
これには、言った恭也本人も少し驚く。

「…天下の小笠原グループ会長の孫娘に、こんな事をさせているとばれたら、どんな目に合うんだろうな…」

「そんな大層な事でもないでしょう」

「いや、一概にそうとも言えないと思うんだがな」

恭也と祥子共に苦笑を洩らしつつ、それでも止めずに続ける。

「お嬢さまに、肩を揉ませていると思うと、逆に緊張してしまう」

「嘘ばっかり言って。全然、緊張しているようには見えないわよ」

「それは、ほら、気持ちが良いからな」

「それは、どうもありがとうございます」

そんな話をしている二人の元へ、四人の生徒がやって来る。

「恭也さん、疲れてらっしゃるんでしたら、是非、私たちのマッサージをお受けになりませんか」

「……えっと」

突然の申し入れに困惑した顔を見せる恭也へと、その生徒は笑みを浮かべて返す。

「私たちは、それぞれ運動部のマネージャーをやっていた者です。
 いつも、練習が終った後に選手たちのマッサージをやっていたので」

「いや、別に…」

断わろうとした恭也に対し、祥子が先に口を開く。

「折角、こうして申し出てくれているのですから、良いんじゃありません」

「いや、しかし…」

まだ何か言おうとする恭也を無視して、祥子はその生徒たちに笑みを湛えてお願いしますねと告げる。
それを受け、その生徒たちは、恭也の両手両足へと手を伸ばす。
祥子は恭也の肩を揉んだまま、顔だけを恭也の耳元へと近づける。

「本格的にやってもらった方が、昨日の疲労も取れると思いましたから。
 それとも、フィリス先生をお呼びした方がよろしかったですか」

この言葉に、恭也は大人しくなるのだった。
一方、恭也の手足を揉んでいた生徒からは短い嘆息が洩れる。

「凄い。恭也さん、何かスポーツでもされているんですか」

「本当に凄いですね。程よく引き締まった筋肉…。
 それでいて、全く柔軟性を損なっていないですね」

「でも、結構、酷使したんじゃありませんか」

「所々で、疲労が溜まってますよ」

口々に言われ、恭也は更に大人しくなる。
そこへ、教室の入り口から見知った顔が現われる。

「祥子、ちょっとごめん……って、恭也さん、何をしてるんですか?」

祥子に用事でもあったのか、教室のドアから顔を見せた令だったが、恭也の様子を見て、
教室の中へと入って来ながら、当然のように尋ねてくる。
それに苦笑で返す恭也に代わり、祥子が答える。

「少し疲れているって話をしたら、この方たちがマッサージを買って出てくださったのよ」

「ああ、そういう事ね。でも、言ってくれたら、私がしてあげたのに」

「…それじゃあ、昼休みにでも美由希に頼みます」

「オーケー、分かったわ。美由希さんにやってあげましょう」

「で、令、どうしたの? 何か用があったんでしょう」

「あ、そうだった。実はさ、ちょっと教科書を忘れて。
 ほら、昨日、予習してたじゃない。そのまま、由乃の所に置いて来たみたいで。
 で、祥子も今日、同じ授業があったって思い出してね」

「本当、意外とそそっかしいわね」

「ごめん、ごめん」

謝る令へと、祥子は自分の机から教科書を取り出して渡す。

「はい」

「ありがとう。それじゃあ、私は戻るから」

「ええ、また後でね」

「恭也さんも、またね」

「はい、また後で」

二人へと挨拶をすると、令は自分の教室へと戻るのだった。





  ◇ ◇ ◇





昼休みになり、恭也たちは薔薇の館へと集まっていた。
二年藤組は、授業が少し長引いているのか、志摩子と美由希の姿はまだなかった。
そんな中、一同は令が話すさっきの休み時間の恭也の様子を聞いていた。

「本当に、一瞬、何処の王様かと思ったわよ。
 教室を覗いたら、祥子も含めて五人の女の子たちを侍らかせているんだもの」

「ですから、あれは…」

必死になって弁解する恭也に対し、由乃はからかうように言う。

「選り取りみどりって訳ね」

「だ、だから…」

「恭也さんったら、私たちに肩とかを揉ませて、自分は椅子で踏ん反り返っているのよ」

「踏ん反り返ってはいなかっただろう」

「そんな。恭也さんがそんな人だったなんて…」

「ああー、大変ですお姉さま。乃梨子ちゃんが人間不信にぃ!」

「ちょっと待て、そこの二人。幾ら何でも、それは行き過ぎだろう」

「ああー、可哀相な乃梨子ちゃん…」

「いや、祥子もそこで乗るな」

「恭也さん、見損ないましたわ」

「いや、可南子さんまで…」

しどろもどろになる恭也が面白かったのか、その後も祥子たちは恭也をからかって遊ぶ。
そこへ、ようやく志摩子たちが姿を見せる。

「ごきげんよう。皆さん、楽しそうですね」

「何か面白い事でもあったの?」

美由希の言葉に、令が口を開くよりも早く、恭也がきっぱりと告げる。

「何もない。それよりも、二人共遅かったな」

恭也の行動に、祥子たちは顔を合わせて微笑すると、これ以上はからかうのをやめて、志摩子たちへと視線を移す。
それらを受けながら、志摩子がええと頷く。

「丁度、三、四時間目が調理実習だったのね、少し後片付けに時間が掛かってしまって…」

「調理実習?」

「はい」

訝しげに眉を顰めながら聞き返した恭也へと、志摩子は笑みさえ浮かべて頷く。
そんな志摩子へと、由乃が声を掛ける。

「じゃあ、もうお昼は済ませたの?」

「いえ、今日は簡単なおやつを作っただけですから、お昼はまだです。
 私も、カップケーキを作ったので、後で皆さんで食べてくださいね」

皆を見渡しながら、主に恭也へと志摩子は言う。
それを受け、恭也は一つ頷く。

「ああ。それじゃあ、後で一つ貰うとしよう」

「あ、恭ちゃん、私もクッキーを作ったから、後で食べてね」

「いらん」

にべも無く断わる恭也に、美由希は頬を膨らませる。

「ぶ〜。今回は、上手に出来たのに!」

「信用と言うのが、如何に大事か分かっただろう、美由希」

「……それはつまり、私の料理を信用していないと」

「当たり前だ」

「本当の本当に、今回は上手に出来たのにー!」

「…ああ、分かった、分かった。後で毒見をしてやるから、落ち着け」

「毒見って何よ!? 毒見って!」

「五月蝿い奴だ。細かい事は気にするな」

「するよ! でも、食べてくれるんだよね」

「…ああ。俺が食べないと、祥子たちに食べさせそうだからな。
 そんな危険な事は出来んだろう。護衛の対象を、護衛する者が病院送りにしたなんて、笑い話にもならん」

「うぅぅ、棘がありすぎだよ恭ちゃん」

「今までの行いの所為だと思え」

「い、今までは、ちゃんと出来て無かったけれど、今回は大丈夫だもん。
 ちゃんと、先生の言う通りに作ったもん」

いじけつつ言う美由希の頭に乱暴に手を置く。

「だから、分かったと言っただろうが。後で、ちゃんと食べてやるから、とりあえず、昼にするぞ」

「あ、うん!」

恭也の言葉に、美由希は心底嬉しそうな顔になって素直に席に着く。
一方の恭也は、苦りきった顔で肩を落とす。
そんな恭也へと祥子が心配そうに声を掛ける。

「大丈夫? 恭也さん」

「あ、ああ、大丈夫だ。…そうか、あの時に感じた嫌な予感はこの事だったんだな……」

恭也の呟きの意味が分からない一同が首を傾げる中、ただ一人、その意味を知る祥子は、苦笑を浮かべるのだった。



「なっ! ふ、普通に食べれる……」

恭也はクッキー片手に、驚愕の表情で大声を上げる。
それに対し、すかさず美由希から非難めいた声が飛ぶ。

「ちょっと、それってどういう意味!」

「どうもこうも、そのままの意味だが」

平然と切り返す恭也に、美由希は言葉を詰まらせる。
そもそも、事の起こりは少し前、昼食を食べ終えて一息ついていた恭也へと、美由希が袋を差し出した所から始まる。

「恭ちゃん、じゃあ、約束通りに食べてね」

「今からなのか」

「だって、早く食べて欲しいんだもの」

「いや、今はまずい。せめて、放課後、いや、祥子の家に戻ってからの方が…」

「どうして?」

「ここで俺が倒れたら、お前一人で祥子たちを守らないといけないんだぞ」

「……だ〜か〜ら〜、今回は本当に自信があるの」

「…………し、仕方がない」

約束した手前、無下に断わることもできず、恭也は諦めてそれを受け取る。
そして、恐る恐るといった感じで口へと放り込む。
その様子を美由希自身も恐る恐るといった感じで眺めていた。
そして、あの台詞が出てきたという訳である。

「少し焼き過ぎな気もしないでもないが、普通に、いや、寧ろ美味いと言えるかもな」

「ほ、本当」

「ああ。甘さも押さえられているしな」

「うん。だって、恭ちゃんに食べてもらおうと思ったから…」

「で、誰が作ったんだ、これは」

「だから、本当に私だってば!」

「……むむむ。今日は晴れと言っていたから、傘を持って来ていないのに」

「どういう意味よ」

「まさか、槍でも降るんじゃ…。いやいや、天変地異の前触れかもしれん」

「う、うぅぅぅ。ちゃんと出来たのに、虐められるなんて…」

「まあ、冗談だ。そんなに落ち込むな」

「って、誰の所為だと思ってるのよ」

言って、突っかかろうとした美由希だったが、恭也がクッキーをまた口に運ぶのを見て、大人しく座り直す。

「しかし、本当にちゃんと出来てる。何故だ……?」

「だから、今回はちゃんと先生に言われた通りにやったんだもん」

恭也の言葉に答える美由希に、恭也は白い目を向ける。

「なら、今まで美沙斗さんや晶たちに教わった時は、何をしていたんだ、お前」

「そ、それは……。あ、あははははは〜」

「はぁ〜。工夫をするなとは言わんが、それは基本が出来てからにしろ。
 そうすれば、多少はまともなのが出来るみたいなんだから」

「う、うん。じゃ、じゃあ、また何か作ったら、食べてくれる」

「………………………………ああ」

「今の間は何!?」

「ちゃんと、教わった通りに作るならという条件付きでならな」

美由希の言葉を聞き流し、恭也は条件のみを述べる。
しかし、美由希にとってはかなり嬉しい言葉だったのか、さっきの恭也の態度も忘れるぐらいに浮かれて嬉しそうな声を出す。

「うん!」

そんな二人のやり取りを、祥子たちはただ黙って見ているのだった。





  ◇ ◇ ◇





既に通い慣れた帰り道を歩いていた恭也は、人ごみの中に見知った顔を見つける。
そんな恭也の視線の先を見た美由希も、恭也と同じような表情を浮かべ、お互いに顔を見合わせる。

「まさか、な」

「さ、流石に、今度は違うと思うよ」

「「……」」

二人して無言となった所へ、他の者たちもそれに気付いて、顔を見合わせる。
結局、恭也は祥子たちに先に行ってもらい、さっき見かけた子の元へと駆け足で近づく。

「悠花さん」

「あ、また会っちゃいましたね」

「そうですね。所で……」

「う、うぅぅ。はい、お察しの通り、またまたまた迷子です」

「駅はあっちですけど…」

「いえ、今度はこのバス停なんですけど…」

恭也は悠花が差し出した紙を見て、そのバス停を指差す。

「これは、そこの道を曲がって、駅前に一度出るんですよ。
 その後、道が三つに分かれていますから、真っ直ぐに進んで、次の角を左に。
 角と言っても、カーブを描いているので、そのまま道なりって感じなんですが。
 で、そのまま歩くと、バス停が見えてきます。で、幾つかあるんですけど、手前側から三番目の……。
 案内しますよ」

恭也の言葉を聞きながら、既に混乱気味の表情を浮かべていた悠花に、恭也はそう申し出る。
それを受け、悠花は申し訳なさそうに頭を下げる。

「本当にすいません、いつもは、誰かと一緒なんですけど、今日は一人だったもので」

「いえ、気にしないでください。それじゃあ、行きましょうか」

「あ、はい」

悠花は多少、遠慮がちに恭也の横へと並ぶと、一緒に歩き出す。
何となしに恭也の横顔をぼーっと見詰めていると、その視線を感じた恭也と目が合い、慌てて顔を逸らす。
そんな悠花へと、恭也は話し掛ける。

「それにしても、よく会いますね」

「そ、そうですね。何か、情けない所ばかり見られているような気がしますけど…」

「そんな事はないですよ」

「あ、ありがとうございます。そう言って頂けると、ほっとします。
 兄からは、鈍くさいとか、とろいとかよく言われるんですよ」

「そうなんですか」

「ええ。あ、そう言えば、私たち、こうして会うのって四度目ですよね」

悠花の言葉に恭也は頷く。それを見ながら、悠花は楽しそうに続ける。

「一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命。そして、四度目なら、それは必然。
 会うべくして会ったという事ですよ。私たちは出会う運命にあったんです。
 ……なんていうのは、ちょっと憧れますね」

「必然ですか」

「はい。私と恭也さんは、見えない鎖で繋がっているのかもしれませんね」

「糸じゃなくて、鎖ですか」

「そうです。こう太くて、中々切れない鎖なんです」

そう言って、お互いに笑みを零す。
一頻り笑ってから、悠花は再び話し始める。

「実は、さっきの言葉はお友達が言っていた言葉なんですけどね。結構、気に入ってます」

悠花の言葉に恭也は軽く頷く。
そんな恭也に対し、悠花は少し緊張した面持ちでじっと何かを言いたそうにしている。
それを察した恭也は、特に急かす事も無く、ただ静かに悠花が話し出すのを待つ。
悠花も恭也のその心遣いを感じ取り、必死に言葉を口にする。

「あ、あの、初めてお会いした時にお礼として渡したリボンなんですけど…」

「あ、ああ、あれか」

「す、すいませんでした。私ったら、男性の方にリボンだなんて…」

「いや、そんな事はない。かなり大事なものだったんだろう。
 それを貰ったんだ。確かに、リボンは使わないけれど、こうして大事にしているよ」

そう言って、恭也は服の袖を少しだけ捲って見せる。
そこには、悠花から貰った黒いリボンが巻き付けられていた。
それを見て、悠花は嬉しそうにはにかみながらも笑みを見せる。

「大事にしてくださって、ありがとうございますね。
 そのリボン、母が最後に私に買ってくれたものなんです」

「そんな大事なものなら…」

「いえ、良いんですよ。私が貴方にあげたいと思ったんですから」

「そうか」

悠花の言葉に、恭也はただそれだけを口にする。
そんな恭也に対し、悠花は笑みを見せると、明るい声で言う。

「い、嫌ですよ。そんなに暗い顔をしないでください。
 それに、今の私にはお父様も兄さんがいますから、寂しくはないですよ」

「そうか」

「ええ。例え、血が繋がっていなくても、二人共、私をここまで大きく育ててくれました」

悠花の言葉に、恭也は少し驚いたような顔を見せる。
その理由を悟り、悠花は小さく舌を見せる。

「あはは。ちょっと喋り過ぎちゃいましたね。
 普段は、あんまり喋らないから、ついつい、多く話してしまって。
 恭也さんが相手だと、自然と言葉が出ちゃうんですよ」

「そうですか。自分はあまり話すのは得意ではないので、退屈させやしないかと不安ですよ」

「そうなんですか。私はそんな事ないと思いますけど」

「そう言って頂けると…」

そう言って笑みを浮かべる恭也に、思わず見惚れそうになり、悠花は軽く視線を逸らしつつ、言葉を紡ぐ。

「もう言っちゃいましたから、最後まで話しちゃいますね。
 母が亡くなって一人になった私を、お父様が拾ってくれたんですよ。
 孤児院にいた私を引き取って育ててくれて…。だから、お父様の役に立ちたいって思っているんですよ」

「いい事ですね、それは」

「本当にそう思いますか」

「ええ」

「本当に? それが……」

「それが?」

「いえ、何でもないです。あ、あははは」

一瞬だが悠花の顔に翳りが差したような気がした恭也だったが、それ以上の追求は止めておく。
何より、悠花自身が聞いて欲しくなさそうな顔をしていたから。
だから、恭也は話題を変えるべく言葉を発する。

「ほら、もうすぐそこですよ」

そう言って恭也が指差した数メートル先には、悠花が探していたバス停があった。

「ああ、本当ですね。ありがとうございます。
 何とお礼を言って良いのか」

「いえ、お礼は既に貰ってますよ。
 それに、困った時はお互い様です」

「ありがとうございます」

そう言って頭を下げる悠花だったが、顔を上げると何かに気付いたのか、恭也へと尋ねる。

「それにしても、本当に、よく会いますね。この辺にお住まいなんですか?」

「いや、そういう訳ではないんだが。まあ、この辺をよく通るのは確かだな」

「そうなんですか。私も、この辺はよく通るんですよ」

「だったら、また会うかもしれないな」

「はい、そうですね。
 と、それじゃあ、この辺で失礼しますね」

「今度は迷子にならないようにな」

「もう、大丈夫ですよ〜だ!
 貴方って、意外と意地悪ですね」

恭也の言葉に、悠花は可愛らしくアッカンベーと舌を出しつつ、笑顔で怒る。
それに対し、恭也も笑顔を浮かべて、軽く手を上げる。

「ああ、すまん、すまん」

「いえ、別に本気で怒っている訳ではないですから。
 こんなやり取りも、本当に楽しいですよ。と、本当に、これで失礼しますね」

「ああ」

そう言って背を向けた悠花だったが、数歩も行かないうちに足を止め、振り返る。

「あ、そうだ。これで四度目で必然だった訳ですけど、次に会ったら、どうなるんでしょうね」

「…さあ、どうなるんだろうな」

「私としては、仲の良い人という関係が希望ですけど」

精一杯の勇気でそう言ったであろう悠花に対し、恭也は軽く笑みさえ浮かべて答える。

「友達という事か」

「は、はい! ……やっぱり、駄目でしょうか」

「いや、全然問題ない。と言うか、既に友達みたいなものだろう」

「あ、あはは。それもそうですね。でも、友達は次まで取っておきますね。
 今はまだ、顔見知りという事で。次に会う事が出来れば、その時はお友達になりましょう」

「ああ、分かった」

「当分は忙しくなるので、この辺にはもう来れないですけど…」

「大丈夫だよ。何せ、必然的に出会ったんだろう。だったら、次もきっと会えるさ」

「…そ、そうですよね! はい、きっと会えますよね。それじゃあ、次に会えるのを楽しみにしてますね」

「ああ。次は、迷子じゃない事を祈ってるよ」

「……もう、本当に意地悪なんですね、って、バスが来てる!
 それじゃあ、今度こそ本当にさようならです」

「ああ、またな」

「……はい! また、です!」

慌てて走り去ろうとする背中に掛けた恭也の言葉に、悠花は嬉しそうに満面の笑みを浮かべると、
大きく手を振って恭也へと応えると、急いでバスへと走り出す。
そんな悠花の背中を、恭也は優しげな顔で見送っていた。





つづく




<あとがき>

さて、今回は少し日常へと戻ってほのぼのと。
美姫 「幕間みたいな感じよね」
ああ。そして、あの子がまたしても登場〜。
美姫 「さて、次回はどうなるのかしら?」
ふっふっふ。次回は、またしてものったり〜、ほのぼの〜、って感じ。
美姫 「えっ! そうなの」
だと思うか?
美姫 「それじゃあ、一気にシリアス?」
だと思うか?
美姫 「……まだ決まってないとか」
ふわぁっはっはっはっは。
美姫 「威張るな!」
ぐげっ! ちょ、ちょっとした冗談だってばよ。
美姫 「じゃあ、次回はどうなるの?」
それは、秘密〜♪
美姫 「何よ、それ!」
ぬ、ぬぐぐぐぅぅぅ。く、苦じいぃぃぃ〜。
美姫 「この、この、この!」
ま、マジでや、止めれ〜〜!!
美姫 「ったく。それじゃあ、さっさと次回を書き上げなさいよね」
ピクピク。
美姫 「気絶する暇があったら、手を動かしなさい!」
がぁっ! ……んな、滅茶苦茶な。
だ、誰の所為で……。
美姫 「何か言った〜!?」
い、いえ、何にも言ってません。
美姫 「分かれば良いのよ。それじゃあ、また次回まで、ごきげんよう」
ではでは。





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