『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



第68話 「海透、その秘密」






海透に違和感を感じながらも、刃を交え続けていた恭也は、切り結びながらこっそりと鋼糸を部屋に張り巡らせていく。
しかし、海透はそれに気付き、恭也へと攻撃を繰り出しながら、同時に鋼糸を切り落としていく。
恭也はそれ以上の鋼糸の使用を止めると、大きく距離を開ける。
同じように付いて来ると思われた海透に動きが無い事を警戒しつつ、恭也は海透と距離を開けた状態で立つ。
恭也は小太刀を鞘へと納めると、両手を力なく降ろし、海透をじっと見詰める。
二人の視線がぶつかり合い火花を散らす中、恭也の腕が素早く動き出す。
下から上へと左右の腕を交差するように振り上げた恭也の手から、飛針がそれぞれ三本ずつ、
計六本が海透へと向かって飛ぶ。
恭也は振り上げた手を、すぐさまさっきとは逆の軌跡を描くように振り下ろし、同じように六本の飛針を投げる。
それでも恭也の腕の動きは止まらず、僅かに体の位置を移動させながら、横に時間差を置いて左右の腕を振り、
手首から飛針を飛ばし、懐から取り出して飛ばし、足首から取り出しては飛ばす。
何十本という飛針が、様々な方向から海透目掛けて飛んでいく。
最初こそ戸惑った様子を見せた海透だったが、すぐにそれらを躱し、刀で弾いていく。
そんな海透の一挙手一動足を見逃さずに見詰めながら、恭也は飛針の後を追うように海透へと近づく。
海透と恭也の刃がぶつかり合うが、恭也は僅か眉を寄せる。
が、すぐに海透が切り返すように刀を振るって来たので、その場から横へと飛び退く。
その動きを読んでいたかのように、海透はまったく離れずに恭也の後を付いて来て刃を薙ぐ。
それを小太刀で弾くと、逆側の小太刀を鞘から抜き放つ。
恭也が繰り出した御神流、虎切を海透ももう一刀を抜き放って受け止める。
両者のニ刀が上下左右と異なる軌跡を描きながら、互いに弾き合う。

「そういう事か。先程から感じていた違和感がやっと分かった」

左右の小太刀を振るいながら呟く恭也に対し、海透は無言のままでそれを弾くが、
その目は恭也の言葉の真偽を見極めようとしていた。
恭也は海透から離れつつ飛針を投げ、同時に鋼糸を走らせる。
海透はほぼ同時に飛針の射線上から身を捻り、迫り来る鋼糸を切り落とす。

「やはりな。お前は俺の動きを先読みしているんだな。
 それも、単なる先読みではなく、僅かな動きさえも読み取って、次の行動を予測している。
 だから、今まで見せたことのない動きには、反応が僅かだが遅れるんだ」

「……瞬眼を見抜いたか」

「瞬眼?」

「簡単に言うならば、動体視力を向上させる天羽双剣流の奥義だ。
 尤も、瞬眼の使い手は長い歴史の中でも数えるほどしかいなかったらしいが」

「つまり、その瞬眼で相手の癖などを見抜き、高い確立で次の攻撃を予測する、か」

「それが分かった所で、どうする?」

海透はそう言葉を発すると、恭也へと向かう。
海透が繰り出してくる左右の連撃を受け流しながら、恭也は瞬眼に付いての考えを巡らせる。

(瞬眼は動体視力の向上だけではなく、他にも何かあるかもしれんな。
 だとしても、長時間連続しての使用は負担が大きすぎるから、まずは無理と見て良いだろう。
 つまり、俺が大きな攻撃に移るときにのみ、瞬眼を使用しているという事か。
 なら、それ以外の時は、普通に俺の動きを見切っているという事か?
 しかし、それにしては、最初から動きを読まれていたし…)

恭也は胸中で考えを巡らせつつ、海透の太刀を捌いていくのだった。



互いに走りながら時折、交差しては刃を交える美由希と悠花の戦いは敷地内をぐるりと周り、
最初の場所まで戻って来ていた。
二人は視界の隅に美沙斗とリノアの攻防を一瞬だけ写すものの、すぐに目の前の相手を見据える。
同時に神速の領域へと入り、互いに視界がモノクロになる中、全く速度を衰えさせずに刃を交える。
神速から抜け出した両者は、すれ違って互いに背を向けた状態から一気に体を回転させ、横薙ぎの一撃を繰り出す。
互いに右の刃をぶつけ合わせると、同時に左の刀を相手を突き出す。
再び刃がぶつかり合い弾け合う中、美由希は左右のニ刀による連撃、花菱を繰り出す。
悠花も同じように左右の小太刀による連撃を繰り出し、二対四本の刃による演奏が闇夜に奏でられる。
何十合と刃を交えた美由希は、悠花の動きの特徴みたいなものを掴んでいた。

(単純な速さなら私と同じか、もしくは私の方が速い。
 でも、彼女の攻撃、ううん、動きそのものが全体的に軽いんだ。
 それこそ、本当に天を舞う羽のように)

美由希の攻撃は先程から悠花に受け流されるように弾かれ、殆ど正面から受け止められるという事はなかった。
それに加え、懐へと飛び込んで来た動きなどから美由希はそう判断する。
美由希が数歩掛かって詰める距離を、悠花はたったの一歩で跳ぶようにして詰めて来る悠花を見て、
美由希は自分の考えがあながち的外れではないと確信すると、迫り来る悠花の刃を受け止める。
同時、悠花が刃を引くのに合わせ、受け止めた方の小太刀を悠花へと伸ばす。
悠花は半身になると、引いた刃で美由希の小太刀を後ろへと受け流そうとする。
そこへ美由希のもう一刀が伸び、悠花ではなく、今まさに悠花の刀と触れ合った自身の刃へと合わせるようにして打つ。
雷徹によりやや強引に悠花の受け流す力に逆らう。
そのまま捌き切れずに体勢を崩す悠花の懐へと更に一歩入り込み、小太刀の間合いへと持ち込む。
しかし、悠花は崩れた体勢のまま、片足だけで地を蹴り美由希との距離を取る。
そこへ、美由希の射抜が迫り来る。
着地したばかりの悠花はそれを弾き、再び距離を取ろうとするが、そこへ弾かれた刃が弧を描いて迫る。
逆側からは、もう一刀による斬撃が迫り、退路が後ろのみとなった状況下で、悠花は逆に前へと踏み込む。
美由希の懐へと潜り込んだ悠花は、刀を振るうには近すぎる距離で、その勢いのまま肩からぶつかる。
これは予想外だったのか、後ろへと跳んだ悠花を追おうとしていた美由希は体ごとぶつかられ、
そのまま後ろへと倒れる。
美由希と一緒に地面へと倒れる中、悠花は左手に握った短いほうの肩を引き寄せ、美由希の胸へと突き刺す。

「くっ」

美由希は上に悠花が乗っている状態にも関わらず強引に身を捻り、その刃先を躱し、そのまま地面に倒れ込む。
その結果、美由希の上に悠花が跨る形で刃を美由希の右脇傍の地面へと突き刺す形で両者の動きが止まる。
視線を一瞬の交差させると、二人は同時に自身の獲物を相手へと振るう。
お互いに刃が交わるが、地面へと横たわる美由希の方が不利なのは明らかで、
悠花は美由希の斬撃を始めて受け止めると、地面に突き刺さったもう一刀を抜き放つ。
突き刺さった刀が抜かれる瞬間、美由希は右手を動かす。
手首に仕込まれた飛針が悠花目掛けて飛んでいき、悠花はそのまま立ち上がるようにしてそれを躱すと、
更に投げられた飛針を避けるように、地を蹴って距離を開ける。その間に美由希も立ち上がり、ニ刀を構える。
そこへ接近した悠花が刀を振るい、美由希がそれを受け止めると、またしても打ち合いへと変わる。



海透と斬り結んでいた恭也は僅かな距離を開けるとニ刀を鞘へと収める。
その恭也の動きを見て海透も動きを止め、恭也が次に放つであろう技を待つ。
恭也は海透の様子を意に介すことなくニ刀を抜刀する。
抜刀からの四連撃が海透を…。
恭也が抜き放った斬撃は、四連撃に移る前に海透により受け止められる。
鈍く輝く四本の白刃を間に挟み、恭也と海透は睨み合う。

「その技は既に見させてもらった。抜刀からの四連撃だったな。
 だから、連撃に移る前に封じさせてもらった」

「…簡単に言ってくれる」

海透の言葉に恭也は苦りきった口調で答えつつ、小太刀を握る腕に力を込める。
と、海透は同時に力を抜き、結果、踏鞴を踏むように前へとつんのめる恭也の首筋に海透の刃が落ちる。
それを背中越しに小太刀で受け止めると、恭也はそのまま前へと進み、海透へと向き合う。
同時に左の小太刀を突き出し、右を鞘へと戻すと、左の小太刀を牽制するかのように振るい、
海透がそれを捌く隙を突いて右を抜刀する。
しかし、海透は踏み込んで完全に抜刀する前に、柄頭を自身の刀の柄頭で押さえ込む。

「長射程の抜刀術。それも、既に見ている」

「くっ」

恭也は後方へと飛び退る。
その後を追わず、海透はただその場に留まり、次に恭也が仕掛けてくるのを待つ。
やり難いものを感じつつも恭也はただ小太刀を強く握り締める。
そんな恭也へ、海透から声を掛ける。

「どうした、来ないのならこちらから行くぞ」

言うと同時に地面を蹴り恭也へと迫ると、左右の刀を交差するように振り下ろす。
それを受け止めるべく、恭也も左右の小太刀を振り上げるのだった。



美沙斗とリノアは既に何度も刃を交え、お互いにあちらこちらに小さな傷を増やすものの、
大きな、致命的となる一撃はどちらもまだ与えることが出来ずにいた。
それでもお互いに止まることなく、己が獲物を振るう。
リノアのもう何度目になるのか、上からの振り下ろしを半身で躱し、美沙斗の小太刀が横へと振るわれる。
それを鞘で受け止め、長刀を斜めに斬り上げてくるリノアに対し、美沙斗はその攻撃を屈んで躱すと、
リノアの足へと斬撃を見舞う。それを跳んで躱しながら、リノアは美沙斗へと斬りかかる。
お互いに決め手となる一撃を放つ為の隙を窺い、それを作り出すために刃を振るう。
それさえもお互いに分かっているのか、その辺りに気を付けながら、慎重に躱していく。
それでも、油断するとその攻撃自体が致命傷となる事も分かっており、一撃一撃に今まで以上に集中して捌いていく。
金属音が上がる度に、二人の周囲の空気が張り詰めていく。
徐々に大振りな攻撃がなりを潜め、ピンと張った空気の中、二人の剣閃が闇の中に煌き、交差する。
それから少しして、お互いにすれ違うように刃を交え、互いに背を向ける形となった瞬間、
それまでとは比べ物にならない速度で互いに身体を反転させ、
今まで溜めていた力を一気に噴き出すかのように、全力の一撃を繰り出す。
雲が月を覆い隠し、闇が辺りを支配する中、交わる二つの閃光。
お互いに刀を振り下ろしたまま動きを止め、ぴくりとも動かないまま時が流れる。
やがて、ゆっくりと上空を行く風によって雲が流され、弱々しい月光が地へと落ちていく中、
二つの影が同時に前のめりに倒れる。
片方はその途中で膝を着く形で、己が獲物を支えにして倒れ込む事は何とか踏みとどまるが、
もう一方の影はそのまま地面へとその身を倒れる込ませる。
それを遠くから見ていた祥子は、まだ雲がかかった状態で薄暗い事もあり、どちらが倒れたのか分からず、
ただ息を潜めてそれをじっと見つめていた。
そんな祥子が見守る中、雲が流され、徐々に明るくなっていく。
とは言っても、元から今日の月では大した明かるさがある訳でもなく、祥子は目を凝らす。
ようやく、祥子の目が立っている人物を判別し、その瞳が捉えた姿は…。





つづく




<あとがき>

さて、遂に一組の戦いは決着の様子を…。
美姫 「果たして、立っているのはどっちなのか!?」
それは次回で!
美姫 「って、ここで引いておいて、次回のいきなり最初の一行でポンと名前が出たら面白いわね」
……あ、アハハハハ。ソンナコトシナイヨ。
美姫 「…って、まさか!」
じょ、冗談だって。そ、それよりも、早く次回を書かないと〜。
美姫 「まあ、確かにね。色々あって、更新がかなり、かなり、かなり! 遅れたもんね」
そ、そこまで強調せんでも…。
美姫 「甘い! 甘い! あまぁぁ〜い! 練乳入りワッフルの10倍以上も甘いわよ!」
どんな甘さだ、それは?
美姫 「兎も角! さっさと書く! つべこべ言わずに書く!」
わ、分かったから、か、肩に置いた手の力を、弛めろ〜〜〜〜(涙)
美姫 「はぁ〜、はぁ〜。……コホン。それじゃあ、また次回までごきげんよう」
うぅぅ〜、肩がじんじんするよ〜。痣になってるよ〜。







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