『マリアさまはとらいあんぐる 〜2nd〜』



外伝 「ナイツオブナイツT」






とある国の辺境にある一つの村。
本当に小さなこの村は、冬に入るこの時期になると、村人たちも暇を持て余すようになる。
農作によって、自給自足に近い生活をしているこの村にとって、雪が降り積もる冬の時間は、
ようやく与えられた長い休暇のようなものだった。
かといって、全く仕事がない訳ではないが、一年で一番、暇という事に変わりはない。
辺境の上に、これと言った名物や観光地も持たないこの土地では、訪れる旅人も殆どなく、
時折、思い出したかのように、行商人がふらりと立ち寄るといった程度だった。
それ故に、村には宿と呼べるようなものもなく、
村にある唯一の食堂兼酒屋の二階にある空いている部屋が宿代わりだった。
そんな辺境の村に好んで足を運ぶ者などおらず、
結果、偶に旅の行商人などがやって来ると、あっという間に村中がその話で持ち上がるほどだった。
故に、今回もこの村の宿に泊まる事となった旅人の話は、瞬く間に村中へと駆け巡っていった。
日も暮れ、夕飯時もかなり過ぎたこの時間、村で一番大きな、普段は集会などに使われている建物の中では、
その旅人を前に、村中の者たちが集まっていた。
行商人ならば、そこに並ぶ人はその商品によって、世代や性別などがある程度分かれるのだが、
今回は、子供からお年寄り、男女を問わずに本当に村中の人間が一同に会していた。
その村人たちが見詰める先に、件の旅人が椅子に腰掛けて静かに座っていた。
長く腰辺りまで伸びた髪に、澄んだ薄紫の瞳を僅かに伏せ、その手にはハープを持っていた。
どうやら、その女性は旅の吟遊詩人らしく、今からその演目が始まろうとしているのだろう。
固唾を飲んだかのように静まり返った室内に、暖を取るためにくべられた薪が爆ぜる音だけが響く。
やがて、ゆっくりと白く長い指が弦に触れ、そっと音を弾き出す。
余韻を残しつつ、静かにその音が消えると、またしても静寂が辺りを包み込む。
その静寂に誰かが痺れを切らすかといった手前で、詩人の口から言葉が紡がれる。
静かに、美しく響く声は、しかし、しっかりと力強く、聞く者を物語へと引き込んでいく。
小さな村の一角で、語られるは一つの物語。

「これから始まる物語。それは、悲しい悲しい物語。
 されど、気高き騎士の物語。優しき姫の物語。
 物語の舞台は、賢王令が収める豊かな国……」





  ◇ ◇ ◇





ここ、ルジェナ王国では、人々に賢王と呼ばれ、親しまれている王令がいた。
彼が納めるこの国は、豊かで争い事もなく、人々は皆、日々を幸せに生きていた。
勿論、諸外国との交戦などは偶にあったけれども、それらはみな、
国が誇る騎士たちの活躍により常に勝利を治めていた。
このままこの国は安泰かと思われていたが、王である令は一人悩んでいることがあった。
それは、この国の次の王を誰にするのかという事であった。
王には息子がおらず、三人いる子供は全て娘だったからだ。
ここ数年で王位を退くという事はないが、それでも次期国王はそろそろと決めておきたい。
引き継ぐに当たって、共に行動しながら教えていこうと思っているからである。
令は一人部屋の椅子に腰掛け、背もたれに背中を預けると天井を見詰める。
その脳裏に浮かぶのはいずれも劣らぬ三人の姫たちの姿である。
長女である一の姫、由乃。
活発を絵に描いたような姫で、性格もサバサバとしていて明るい。
何よりも武術に長けており、騎士団を率いて自ら戦場の先陣に立つ。
その心意気を令も買っており、下級騎士や兵士たちの信頼も厚い。
だが、と頭を抱える。
いかせん、気が強いのが問題である。
過激にして傲慢という性格が、貴族の連中には気に入らないらしい。
また、戦場で常に前線に立つようでは危なくて仕方ない。
それとなく、何度か注意するも聞き入れる様子もないし。
そこまで考えて小さく溜め息を吐き出した令は、次に次女である二の姫、祐巳の事を考える。
彼女は由乃とは違い、武ではなく文に秀でている。
まだ若いながらも幾度となく重要な外交を任せた事もある。
その知識の多さには、自分ですら時折驚かされる程である。
学者の一人が祐巳のその賢明さと思考の柔軟性を褒め称えていた事を思い出す。
彼女が王となれば、間違いなく統治は自分の時以上となるやもしれない。
家臣たちの信頼も厚い事だし。
ただ、その聡明さ故か、他の者をバカにするような節があるのが問題であった。
それさえなければ、立派な王となるだろにと思わず嘆く。
令は残る最後の娘、三の姫、志摩子の事を思う。
稀に見る美貌に恵まれた彼女には、各国や貴族からの求婚が相次ぐほどである。
確かに、あの美しさは誰もが認める所であろう。
そこまで考えて令は首を振る。今はそういった事を考えていたのではないと。
志摩子も祐巳ほどではないが聡明であるのは間違いない。
また誰にでも優しい性格は、広く慕われている。
だが、すぐに駄目だと否定する。
彼女は優しすぎるのだ。
その上、良く言えば慎み深く、悪く言えば引っ込み思案で、
姉を押し退けてまで何かをしようという事はない。
何よりも争いごとを好まず、人が傷付くのも嫌がるのだ。
しかし、最近は隣国も攻めて来る事がなくなったとはいえ、気を許せる状況でもないのは確か。
ならば、そのような性格では王は務まらない。

(どの姫も長所と短所はある、か。
 人である以上、当然のこと。そう、当然の事であるのだが…)

令は深く悩み、誰か良い婿でも娶ればと考える始末。
ここ数日、何度も同じ事を考えては似たような結論に達するのである。
と、その時令はふと思いつく。

「同じような結論に達するという事は、それ即ち答えが出ているという事では…」

思いたつが早いか、令はすぐさま簡単に幾つかの事を纏めて紙へと書き出す。
それを何度も見直し、ようやく満足げに頷くのだった。

これが、今後の運命を大きく変えることになろうとは、賢王と歌われた令王でも思いはしなかった。





つづく




<あとがき>

という訳で、やっと書き始めた外伝。
美姫 「あれ、一本のはずじゃ」
あ、あははは。長すぎた。
美姫 「いや、書く前に気付きなさいよ」
いや、要点だけ纏めたら一本に収まるかなと思ったんだが。
美姫 「それだと、マリとら本編で出てきたのと変わらないのね」
ああ。という訳で、幾つかに分けてお送りする予定。
美姫 「一応、役名とマリとらの登場人物名との二パターンにするのね」
ああ。ちょっとしんどいがな。
美姫 「それはしらな〜い」
くっ。まあ、いいけどさ。
美姫 「という訳で、完結からかなり時間が経ってからの外伝」
ゆっくりの更新だけれど、いよいよ始まります。
美姫 「それじゃあ、また次回で」
ではでは。







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