『Moon Heart』








  4/explanation





時計の針が夜の9時半を差す少し前、ここ海鳴臨海公園に一人の女性が佇んでいた。
連日の吸血鬼事件や猟奇殺人事件のせいでその女性以外に人気が見当たらない。
そこへ一人の男性が近づいていく。

「すまない。待たせたみたいだな」

「ううん、まだ約束の時間にはなっていないわよ恭也」

「そうか。って、お前はいつから待ってたんだ?」

「え〜と、結構前からかな」

「……そんなに早く来なくてもいいだろ」

「え、だって何か待ち遠しくて……」

「まあ、別に構わないが。で、詳しく説明してくれんだよな」

「そうね。じゃあ、まずは何から話そうかしら」

「……真祖っていうのは何だ?」

「そうね、まずはそこから話さないとね。真祖というのは、吸血種の中でも特異な存在なのよね。
 まあ、自然が作り出した個体って所かな」

「………自然が作り出した?」

「そうね、分かりやすく言うと精霊って所ね」

「じゃあ、アルクは精霊なのか」

「いいえ、違うわ」

アルクェイドの答えに恭也は肩透かしを食らったような顔になる。

「今、そう言わなかったか?」

「だから、分かりやすく言えばって言ったでしょ。精霊に近いけど、異なる存在なのよ。
 詳しく言うと好き勝手にやる人間に対して、この星の自然っていうのはされるがままな訳。
 つまり、恭也たちの言葉で言うと……そう、自衛手段ってのを持ってないの。
 だけど、それだと本当にされるがままじゃない。
 で、その自衛手段として人間を律する自然の延長的存在を造り上げたの。それが真祖と呼ばれる者たち」

「…………」

恭也は難しい顔をしながら、無言で頷く。

「じゃあ、続けるけどいい?」

「と、その前に一つ。吸血種と言ったが、夜の一族とは違うと前に言ったよな」

「ええ。そうね、恭也は夜の一族についてどのぐらいまで知っているの?」

「いや、そんなに詳しくは知らない」

「そう。うーんと、簡単に言うと夜の一族って言うのは遺伝子障害の定着種かな」

「………全然分からん」

「えーと、つまりこの世には人以外の生き物もいるわよね。で、当然の事ながら人が言う化け物も存在するの。
 そういった連中は別に自然が作りあげたんではなくて、進化の過程でそうなった。
 つまり最初からこうあるべきと形造られた存在じゃなく、人間とは違った進化を少しずつ歩んだのよ。
 要は遺伝子レベルで人間とは異なる変化を遂げた生物って事よね。
 でも、そう考えると今の世の中ってのは、たまたま人間の数が圧倒的に多かっただけなのよね。
 まあ、最も非力だったから、それを数で補った結果とも言えるけど。
 と、話を戻すわよ。つまり、夜の一族というのはその中で、エネルギーの供給を血で補う者たちよ」

「な、何となく分かったような。つまり、こうか?
 ちょっと乱暴な例えになるが蚊が人間と似たような進化をしたのが夜の一族と」

「……当たらずも遠からず、かな。まあ、遺伝子のレベルで進化して、それで安定したって事なんだけど……。
 まあ、大体そんな感じでいいわ。真祖とは違うと分かればそれで良いし」

「分かった。じゃあ、次は今回の事件というのは?」

「ああ、あれは死徒の一人の仕業よ」

「死徒?」

「そう。死徒というのはね、うーん。その前にさっき言った吸血種ってあるよね?
 恭也はそれが夜の一族の事だと思ってるみたいだけどそうじゃないのよ。
 吸血種というのは総称ね。要は血を吸うモノたちをまとめてこう呼ぶってこと。
 だから、真祖も死徒も夜の一族も吸血種と言えるわ。
 で、その吸血種の中に吸血鬼と呼ばれるモノがいるのよ。この吸血鬼は大きく分類すると2種になるのよ。
 一つはあなたたち人間がよく知る吸血鬼。で、もう一つが死徒と呼ばれるモノ
 で、後者の吸血鬼は死徒によって吸血種になったモノも含むわ」

「死徒によって吸血種になるというのはあれか、噛まれた人間が吸血鬼になるという」

「そうね、同じよ。もっとも、すぐに吸血鬼になるわけじゃないんだけどね。
 この吸血鬼は自らの肉体を保持するのに人の血を必要とするの。
 で、その血を摂取している途中に自らの血を人間の体内に送り込むと、その人間は死にきれずに生き残ってしまうのよ。
 でも、大抵はほっといても死んじゃうんだけどね。
 たまに肉体的にも魂的にも適合というか耐えれる者がいて、生き残っちゃうのよ」

アルクェイドはそこで言葉を区切り、恭也を見る。
恭也が軽く頷いたのを見ると、再び話し始める。

「で、その遺体が数年経つと活動を始めるのよ」

「それが吸血鬼なのか?」

「いいえ、これらは食屍鬼(グール)と呼ばれる存在で、まだ吸血鬼ではないの」

「まだ?」

「ええ。彼らは起き出すと自分達の欠けた肉体を補充するために、遺体を食べて少しずつ肉体を復元させていくの。
 で、そこから更に数年経つと知性を持ち始めるのよ。これが吸血鬼と呼ばれる者。
 この吸血は自分を吸血鬼にした、言わば親には逆らえないのよ。
 で、親の吸血に従いながらも自分たちも下僕を作るために人間を襲うって訳」

「悪循環って訳か」

「そうね。人間にとってみたら、まさにそうよね。で、死徒というのは、真祖に血を吸われて支配下にされた元人間のことよ。
 この元人間っていうのは、真祖に仕えるために長く生きる必要があるの。
 だから、吸血をするのも生き残るための割合が高いんだけどね。
 ただ、長い間行われた吸血行為によって、自らの能力や意思が強化されて真祖の支配から逃れ始める者たちが出始めたの。
 彼らは真祖の元から人間の世界へと逃げ出して、自らを保持するために吸血をし始めた。これが死徒よ。
 そして、一番古い時期に死徒となった者たちを二十七祖と呼んでるの。彼らは他の死徒と比べて圧倒的な力を有しているの」

「それが今回の犯人?」

「ちょっと違うわね。あいつは二十七祖には数えられていないから。でも、力は二十七祖に匹敵するわ」

珍しくアルクェイドの顔に激情が浮かぶがすぐに元に戻る。
恭也はあえてその事には触れずに話し掛ける。

「つまり、かなりの強敵ってことか」

「そうね。まあ、本来の私ならどうって事ないんだけどね」

「……それは言わないでくれ」

「はいはい。大体の説明はこんな所よ。何か質問は?」

「正直、今の所は話についていくだけで精一杯で何も思いつかない。
 まあ、今後ゆっくりと考えて、分からない事が出てきたら、その時にでも聞くよ」

「そう。じゃあ、とりあえずは理解したと思っていいのね」

アルクェイドの問いかけに恭也はしばし空を見上げ、アルクェイドの顔を真っ直ぐに見ると口を開ける。

「…………要するにアルクは人とは違うという事で良いな」

「な、何でそうなるのよ!今までの説明をちゃんと聞いてたの?」

「ああ、聞いてたぞ。だから、結論から言えば、アルクもこれから闘う敵も人よりも手強いって事だろ」

「うぅ〜〜、そうなんだけど何か釈然としない気がするのは何故?」

「気のせいだろ」

「まあ、いいわ。とりあえず、今日から夜には死徒を探して街を歩くことになるからね。
 あいつの手下を倒していけば、いずれ自分が動かないといけなくなるでしょうからね」

「ああ、分かった」

恭也が頷くのを見届け、アルクェイドは歩き始める。

「じゃあ、早速行きましょう」

アルクェイドと並んで歩きながら恭也は街へと消えて行った。





一方、恭也が出かけた後の高町家ではちょっとした事態が起こっていた。
それは、帰宅してからずっと桃子があまりにも上機嫌だったため、その理由を美由希たちが尋ねたのである。

「かーさん、どうしたの」

「え?なにが〜」

「帰ってきてからずっとニコニコしてるから」

「あっ、分かる〜♪」

桃子の言葉に全員が頷く。
そして、説明を待つ美由希たちへと勿体つけるようにゆっくりと話し出す。

「実は、今日ね〜………」

上機嫌で桃子は今日の放課後、店に来た恭也とアルクェイドについて話していく。
最初は楽しそうに聞いていた美由希たちだったが、徐々に顔を強張らせていく。
普段ならそんな美由希たちの様子に気付く桃子だが、あまりにも浮かれているためなのか気付かずに話していく。
今やその顔は真剣に変わっており、なのは一人だけが嬉しそうに笑って聞いていた。





<to be continued.>




<あとがき>

なんか今回は説明文が多いな。
美姫 「本当よね。まあ、前回言ってたとおり、事情説明の回だから仕方がないけどね」
うんうん。まあ、それはともかく、いよいよ……。次回、ついにあの方が登場されるぞ。
美姫 「ああ、あの人ね」
そうあの方だ。
美姫 「他に言う事は?」
特にない!
美姫 「じゃあ、今回はこの辺かな?」
うむ。ではでは。
美姫 「さよなら〜」







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