『Moon Heart』








  5/Other places





恭也がアルクェイドと会い、高町家で桃子の話を美由希たちが聞いていた頃。
離れた所にある大きな屋敷では二人の女性が話をしていた。
実際には、そのリビングにいるのは五人だったが話をしていない三人の女性は席には着かず、
話をする女性二人の傍に立って控えていた。
話をする二人はどちらも美女と言っても言い過ぎではない位に整った顔立ちをしている。
しかし、どちらの表情もあまり芳しくはない。
その女性の傍に控える三人も、この二人に負けず劣らずの美人であった。
この三人のうち、二人には幾つかの共通点があった。
まず、同じ主人を挟んで左右に立つ二人は服装こそ違え、よく似た顔立ちをしている。
その二人のうち、左側に立っている女性と、その対面で一人控えている女性はその服装が似ていた。
いや、細かいデザイン等は違うのだが、大概にして世間ではその服装をこう呼んでいた。
”メイド服”と。
そのメイド服を着た女性二人は感情をあまり表に出さないのか、無表情のままずっと変化がない。
変化がないと言えば、先程の右側に立っている割烹着を着た女性も同様だった。
ただし、こちらは笑顔のままで。
やがて、二人を従えた女性がその口を開き言葉を紡ぐ。

「本日は突然の来訪、全くもって申し訳ございません忍さん」

「別に構いませんよ。気にしないで下さい。それよりも、そちらの二人は初めてですけど紹介して頂けますか?」

「そうでしたわね。こっちが琥珀で、こっちが翡翠よ。二人とも家の使用人です」

秋葉と呼ばれた女性は、自分の右側に立つ割烹着を着てずっと笑顔を浮かべている女性と、
左側に立つメイド服を着た無表情な女性を順に紹介する。

「そう、よろしくね琥珀さんに翡翠さん」

「「こちらこそ」」

「私の横にいるのはノエルよ」

「よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

お互いに挨拶を終えると忍は表情を幾分引き締め、秋葉に尋ねる。

「で、秋葉さん今日はどういったご用件で?」

「別に大した理由ではありません」

「そんな事はないでしょ。混血の宗主、遠野家の当主自らがこんな地にまで来て」

「……そうですわね。忍さんには隠す必要ありませんものね。遠野家の当主の義務は知っていますよね」

「反転して人に戻れない者の処分って奴よね。………まさか」

「ええ、そのまさかです。ここ最近、ここ海鳴では猟奇連続殺人が起こっているそうですね」

「その犯人が……」

「ええ、恐らく反転した我が一族の者です。その者を狩るためにこの地に来たんです。
 と、言うことですので少しの間こちらにお世話にならせて頂きます。勿論、無理にとは言いませんけど」

「うーん、別にそれは構わないんだけどさ・・・。結局、それってここに住んでいる人たちが危ないって事?」

「ええ、そうです。本来なら他の地にまで逃がしたりはしないんですが・・・。今回は色々と事情があって逃がしてしまいした。
 ですが、逃走劇もここまでです。必ずこの地でケリをつけます。それが私の当主としての役目ですから」

「うーんしかし、最近騒がれている事件がねー」

「安心してください。忍さんたちが危険な目にあうような事はしませんから」

「いや、私はいざとなったらノエルがいるから大丈夫よ」

「はい。忍お嬢様は私がお守り致します」

「ありがとうノエル」

「いえ」

「で、秋葉さん。具体的にはどうするつもりなの?」

「そうですね。とりあえず明日はこの辺りの地理を確認したいので少しうろつきますけど」

「だったら運転手がいるんじゃないの?」

「そうですよね。今日、こちらに伺う時も駅からノエルさんの運転する車で移動しましたし。
 それに、私たちだけでは慣れない土地故に迷子になってしまう可能性もありますし」

「じゃあ、送り迎えはノエルにしてもらおうか」

「いえ、そこまでお世話になる訳には」

「でも、それだとどうやって市街地の方まで出るつもり?」

「…………」

「なら、代わりに琥珀さんと翡翠さんに家事をやってもらうってのでどう?」

「……そうですわね。では、送迎だけお願いしても宜しいかしら」

「決まりね。と言う訳だからノエルもお願いね」

「畏まりました」

「琥珀、翡翠、あなた達も良いですね」

「はい」

「任せてください」

「他にも何かあったら遠慮せずに言ってね、秋葉さん」

「はい、その時はお願いします」

「ノエル、秋葉さんたちを空いてる客室にお連れして」

「はい。では、こちらになります」

忍の言葉にノエルは秋葉たちを部屋へと案内する。
一人リビングに残った忍は何かを考えるように視線を天井へと向け、やがてゆっくりと目を閉じていった。



  ◆◇ ◆◇ ◆◇



──同時刻、国守山山中奥深く。

唯一の光が月明かりのみという木々の生い茂るその場所で二人の女性が対峙していた。

「で、教会のそれも埋葬機関の人間が何の用ですか?」

「それはですね・・・。私、回りくどいのは苦手なんでずばりと言っちゃいますけど、
 今回の件はこちらで処理しますので神咲の方々は遠慮して頂けませんか?」

「それはうちらに手を出すなという事ですか?」

「ええ、そう受け取ってくださって構いませんよ」

「うちがそれで納得するとでも」

「思っていません。ですが忠告だけはしましたからね」

「・・・忠告はありがたくお聞きします。
 ですけど、うちは・・・うちらは、ああいったモンから普通の人たちを守るための流派です。
 大人しく指を咥えて見ているなんて出来ません。うちらはうちらにできる事をするまでです」

「ええ、別に構いませんよ。あなた方はこの地に住む人々を守ってあげてください。
 あれは・・・・・・あれを倒すのは私がやりますから」

「それで構いません。うちらは別に争いたいわけじゃなか。守るために闘う、それだけです」

「話は終わりですね。わざわざ、鹿児島からお呼び立てして申し訳ございませんでした。
 では、これで」

月を雲が覆い隠し、少しの間辺りを闇が包み込む。
次に光が差し込んだときには、そこには誰もいなかった。
まるで今の出来事が幻だったかのように。





<to be continued.>




<あとがき>

今回は主人公出てきませんね。
美姫 「本当よね。次回は出てくるのかしら」
そりゃそうだろ。
美姫 「いや、でも浩だし」
お前は普段、俺をどういう風に見てるんだ。
美姫 「………いい加減でちゃらんぽらんな奴かな」
聞いた俺が悪かったよ。
美姫 「いや〜ん♪これぐらいで、拗ねないでよ」
別に拗ねてないもん。
美姫 「はーい、いい子いい子」
うわ〜ん、馬鹿にしやがって〜。ダダダダダッ。
美姫 「…………行っちゃった。………コホン。じゃあ、また次回ね」







ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ