『Moon Heart』








  6/日常T





深夜、恭也とアルクェイドは人のいない街を歩いていく。

「なあ、アルク。何か探す手がかりとかはあるのか?」

「手がかり?何、それ。そんな物ないわよ」

「じゃあ、どうやって手下の吸血鬼を見つけるつもりなんだ?」

「それは適当に歩いて見つけるしかないのよ。
 まあ、それでも大体の活動範囲ってのはあるからね。この街から出る事はないわ」

「じゃあこれから毎日こうして街中をぶらつく事になるのか?」

「そうよ」

「そんな簡単に言うがな、こっちにも色々と都合というものが……」

「そんなの私には関係ないもの。それに、私を殺した責任はちゃんと……」

「あー、わかった、わかった」

この話題が出たら最後、恭也には逆らう事はできない。
それを知ってか知らずかはともかく、アルクェイドはこの言葉を口にする。

「うーん、でも今日はもう無駄みたいだし、この辺でやめておこうかしら」

「そうか。で、明日も今日と同じ場所で良いんだな」

「ええ、そうよ。時間は10時にね」

「ああ、分かった。じゃあ行こうか」

「行くってどこへ?」

「だから、帰るんだろ?送っていくから」

「送って行く?それって、恭也が私の住んでいる所まで一緒に行くってこと?」

「そうだ。途中で何かあったら困るからな」

「ふ〜ん。じゃあ、お願いするわ♪」

「ああ」

どこかご機嫌なアルクェイドを不思議に思いながらも恭也はアルクェイドを送っていった。



  ◆◇ ◆◇ ◆◇



──翌日。
朝の鍛錬を終え、家へと向かう途中で恭也は思い出したかのように美由希に告げる。

「美由希、しばらくは夜の鍛錬はなしだ」

「えっ、どうしたの急に?」

「ちょっと色々とあってな。それに前にも言ったと思うが、ここ最近の事件の事もあるしな」

「そうだね、最近色々と物騒になって来てるし、夜中の外出は止めないと」

「そういうことだ」

皮肉にも恭也が首を突っ込む事になり、その為に夜の鍛錬が出来なくなった理由ともっともらしい理由が重なる。

(まあ、これで嘘にはならないか。全部、本当でもないがな)

そんな事を考えていると、美由希が聞きにくそうに聞いてくる。

「ねえ、恭ちゃん」

「どうした?」

「うん。あ、あのね、昨日かーさんから聞いたんだけどね……。
 そ、その……やっぱりいいや」

「何だそれは」

「いいから、気にしないで」

「まあ、そう言うなら良いけどな」

恭也は首をかしげながらも深く追求するのはやめた。



  ◆◇ ◆◇ ◆◇



学校の昼休み。授業終了のチャイムと共に起き出す二つの影が教室の後ろにあった。

「うーん。…………あ、高町くんおはよー」

「ああ、おはよう」

そんな二人の元へ赤星がやってくる。

「何か昨日も似たような事を言った気がするが、とても授業後の台詞とは思えんな」

「まあ、昨日は遅くまで色々あったからな」

「私も………」

「そうか。で、昼はどうするんだ?」

「「食べる」」

揃って答える二人に苦笑しながらも、三人は一緒に食堂へと向った。
食堂で何とか席を確保した恭也たちは食べながら話をする。

「はぁー、しかし、いい加減に解決してくれないかな、あの事件」

「どの事件だ?」

「どのって、決まってるだろ。猟奇連続殺人事件と吸血鬼事件に決まってるだろ」

赤星の言葉に恭也と忍が反応するが、赤星は気付かずに続ける。

「この街にこんな可笑しな事件が2件も同時に起こるなんてな。案外、犯人は同一犯かもな。
 どっちにしろ、そろそろ部活の方にも影響が出そうなんだよな」

恭也はさりげなくその話題から話を逸らすため、口を開く。

「部活がどうかしたのか?」

「ああ。このままだと、放課後に部活動できなくなりそうなんだよな。今も普段より早めに切上げてる状態だしな」

「って言うよりも赤星君まだ部活に顔出してるの?」

「ああ、今年一杯はね。でも、部長はもう引き継いだよ」

「この時期にまだ部活をやってるなんて、余裕ね」

「この時期、授業中に爆睡している奴ほど余裕じゃないけどね」

「そんな奴がいるのか」

「その人、よっぽど余裕なのね。もしくは、開き直っているのかしら?」

「…………………」

赤星は何も言わず、ただ少し呆れたような笑みを浮かべると食事を再開する。
忍と恭也は顔を見合わせ、首を傾げると何も言わず、食事を取ることにする。



その後、午後の授業でしっかりと休養した恭也は席を立つと帰る事にする。

「じゃあな、高町」

「ああ」

赤星に軽く挨拶するとそのまま教室から出て行く。
と、廊下を暫く進むと前方から見知った顔が現われる。
その人物は恭也に近づいてくると、恭也の目の前で止まりニッコリと笑う。

「高町くん、こんにちわ。今からお帰りですか?」

「あ、はい。シエルさんは?」

「私ですか?私はこれから部活なんですよ」

「部活ですか」

「ええ。と、言っても部員は私一人しかいないんですけどね」

そこまで言って、シエルはいい事を思いついたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべると手をポンと一つ打つ。

「そうだ。高町くんも良かったら行きましょう」

「え、でも……」

「いいから、いいから。さっきも言ったとおり部員は私一人だけですし、顧問の先生も来ませんから遠慮なさらずに。
 あ、それとも何か用事でもありましたか?」

「いえ、そんな事はないですが……」

「じゃあ、決まりですね。行きましょう」

「ちょ、ちょっと……」

シエルは恭也の腕を取ると強引に引っ張って行く。
そうして連れてこられた部屋には『茶道部』と書かれていた。

「はぁー、この学校に茶道部なんてあったんだ」

「ええ。あまり知られてはいないみたいですけどね。どうぞ中へ入ってください」

言われるがままに恭也は中に入る。
そこにはさして広くはないが、ちゃんと畳の敷かれた和室があった。

(何か、ちょっとした違和感を感じるな)

扉を一枚挟んで、学校の廊下と和室という違和感を感じながらも恭也は靴を脱ぎ、和室へとあがる。

「今、お茶を淹れますからね」

「は、はい。でも、俺はそういった作法とかは全然知らないんですが……」

「気にしなくても良いですよ。要は楽しければ良いんです」

そう言うとシエルはお茶を淹れ、茶菓子と一緒に恭也の前に置く。

「はい、どうぞ」

「あ、頂きます」

恭也はそれを受け取ると一口啜る。

(あ、美味い)

恭也はもう一口飲むとゆっくりと湯飲みを置き、一息いれる。

「はぁー、美味しいですね」

「そうですか。それはありがとうございます。でも……」

「はい?」

「あ、いえ。ただ、何か様になっているというか、妙に違和感を感じないと言いますか」

シエルの言葉に恭也はそっと苦笑する。

「ひょっとして、少し習った事があるとか」

「いえ、本当にありませんよ。でも、何となく言いたい事は分かります。
 家でもよく言われますから。つまり、枯れているって事なんでしょう」

「そ、そういう意味じゃないですよ」

シエルは慌てて弁解する。

「た、確かにお茶を啜る仕草とかが妙に似合っていましたけど、そんな事は考えてませんよ。
 え、えーと、……そ、そう落ち着いているというか、そ、そうです。年齢の割には落ち着いているな〜って思って」

「冗談ですよ。何も本当にシエルさんがそんな事を考えているなんて思っていませんよ」

「じょ、冗談ですか。はぁ〜、ビックリさせないで下さいよ。本気で焦ってしまったじゃないですか」

「どうもすいません」

「そんなに畏まらなくても良いですよ。そうですね、何か話でもしましょうか」

「話ですか?」

「ええ。そう言えば、最近物騒な事件が起こっているじゃないですか。高町くんは大丈夫ですか?」

「大丈夫というのは?」

「うーん、例えば夜中に外に出たりとかしてませんか?」

「………」

「ひょっとして、夜中に出歩いているんですか?」

「い、いえ。そのー、まあ日課みたいなものでして……」

「日課?」

「ええ、ちょっと兄妹そろって剣術をしてるんで、その鍛練を」

「剣術ですか?格好いいですね〜。という事は、高町くんは強いんですか?」

「いえ、俺なんかまだまだですよ。最近は妹も腕を上げてきてますし」

「そうなんですか。
 でも、最近は物騒ですから、どんな理由があるにしろ、夜中に出歩くのは感心しませんね」

「そうですね。一応、今日からは夜中の鍛練は中止にしましたし」

「そうなんですか。その方が良いですよね」

「ええ」

その後も二人は他愛もない話をしていく。
やがて、茶室に夕日が差し込み部屋を赤く染め上げる頃、お開きとなった。

「じゃあ、今日はありがとうございました」

「いいえ、こちらこそ。もし宜しかったら、またご一緒してくださいね」

「はい」

恭也は一礼すると、まだする事があると言うシエルと分かれ学校を出る。

「うーん、ちょっと腹が減ったな。少しだけ寄り道していくか」

恭也はそう呟くと、海鳴公園へと向う。
海鳴公園に着き、階段を降り終えた所で、後ろの今しがた降りてきた階段から声が聞こえた。

「きゃぁ」

振り向いた恭也の目に夕陽に映える艶やかな黒髪が飛び込んでくる。
それが階段を落ちてくるのだと分かると恭也は階段を駆け上っていた。





<to be continued.>




<あとがき>

今回はシエル先輩がやっとまともに登場ですよ。
美姫 「……………」
あれ?美姫ちゃ〜ん、どうしたの?
美姫 「……………」
おーい。
美姫 「隙あり!」
ぐがぁっ。み、鳩尾はやめて………。
美姫 「ふぅ〜、すっきりした」
な、何を………。
美姫 「だって、たまには変わった事しないと」
そ、それとこれとどういう関係が……。
美姫 「変わった事じゃない♪」
お、俺を殴る方法が変わってるだけやないか!
美姫 「えい!心窩(しんか)」
ぐげぇっ
美姫 「ちなみに心窩っていうのは、胸骨の下方中央の、少しくぼんだ所の事よ♪」
は、早い話がやっぱり鳩尾………。
美姫 「そうとも言うわね。で、えい!しんわ」
ごぼぉうぅぅぅ
美姫 「しんわというのは漢字で書くと心窩なのよ♪つまり心窩は二つの読み方があるの。で、こっちのしんわの意味は……」
こっちもやっぱり鳩尾のこと………。
美姫 「はい、よく出来ました♪と、言う訳でボディー」
げぼぅぅぅ。お、お前よいう奴は……。ばたり。
美姫 「じゃあ、またね♪」







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