『Moon Heart』








  7/日常U





「きゃぁ」

恭也が後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこには今にも階段から転げ落ちそうになっている人がいた。
恭也はすぐさま駆け寄ると落ちてくる女性を抱き止める。
が、勢いを止めきれずに恭也も一緒に階段から落ちていく。
恭也は咄嗟に両腕の中にその女性を抱き寄せると、その女性を庇うように階段を落ちる。
一番下まで落ちた恭也は上半身だけを起こし、抱いていた女性の身体に異常がないか尋ねる。

「大丈夫ですか?どこか怪我していませんか?」

「…………」

女性は恭也の問いに答えず、ただぼんやりと恭也を見る。
そして、恭也に抱かれている事に気付くと顔を赤くして眦を上げる。

パァン

その場に乾いた音が響く。
恭也はただ茫然と目の前にいる女性を見つめる。
女性は立ち上がると、恭也を見下ろしながら口を開ける。

「あ、あなたはいきなり何をなさるんですか!」

女性の言っている意味が分からず首を傾げる恭也だったが、その女性がちゃんと立っているのを見ると小さく笑みを浮かべる。

「な、何がおかしいんですか」

「いえ、すいません。ただ、怪我がないようで良かったです」

「え?」

恭也の言葉にその女性は少し前の出来事を思い出す。
と、見る間に顔を更に赤くさせる。

「あ、えっと、その。御免なさい」

そう言うと女性は頭を下げる。

「私ったら助けて頂いたのに勘違いをしてしまって」

やっとその女性の今までの行動の意味が分かった恭也は一人納得する。

「いえ、気にしてませんよ。それに、咄嗟の事とはいえ、あんな助け方になってしまい、こちらこそすいません」

「そ、そんな。こちらこそ助けていただいたのに、謝らないで下さい。
 それよりも、ほっぺ大丈夫ですか?すいません、結構強く叩いてしまったみたいで」

「いえ、本当に気にしてませんから」

「でも……」

なおも何かを言おうとする女性に恭也は立ち上がりながらそれをまた制する。
女性もそれで納得したのか、それ以上は口を噤む。

「では何かお礼をさせて下さい」

「いえ、そんな」

「あら、それぐらいは良いんじゃありませんか。でないと私の気もすみませんし」

「分かりました」

「ありがとうございます。申し遅れましたが、私は遠野秋葉と申します」

「あ、俺は高町恭也です」

「では、行きましょうか」

そう言うと秋葉は歩き出す。
その後を追いながら恭也は胸中で呟く。

(あの物腰とかを見ると、どこぞのお嬢様みたいだな。流石に俺の知っているお嬢様とは全然違うな)

恭也の脳裏に機械をいじる一人の女性の姿が浮かぶ。
それを振り払いながら恭也は前を歩く秋葉に話し掛ける。

「遠野さん、どこに行かれるんですか?」

「秋葉で結構です、恭也さん」

「あ、はい。で、どちらに?」

「実は……、私つい先日ここに来たばかりでこの辺りには詳しくないんです。
 で、お世話になっている家の人に翠屋という喫茶店が良いと聞いたので、
 そちらへ行こうかと思ってるんですが、場所が分からなくて。恭也さんはご存知ですか?」

「ええ、知ってますよ。じゃあ、案内します」(つい最近も同じ様な会話をしたような……)

「すいませんがお願いします」

恭也は秋葉を連れて翠屋へと向った。



  ◆◇ ◆◇ ◆◇



翠屋へと入った恭也と秋葉へとバイトの子たちの視線が集中する。
それらを気にせず恭也たちは席に着く。
そこへウェイトレスが水を持って注文を取りに来る。

「ご注文はお決まりですか、恭ちゃん」

「美由希か」

「うん。で、そちらの綺麗な方は?」

「ああ、遠野秋葉さんだ。秋葉さん、こっちは妹の美由希です」

「こんにちは、高町美由希です」

「遠野秋葉です。よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。で。ご注文は決まりましたか?」

恭也と秋葉はメニューを見るとそれぞれ注文を告げる。

「かしこまりました」

美由希は注文を確認すると、奥へと向う。
それを見ながら秋葉は恭也に話し掛ける。

「妹さんはこちらでアルバイトをなさっているんですか?」

「いえ、そういう訳でもないんですが……」

恭也は簡単に自分の事を説明する。

「そうでしたか。では、他の所にした方が良かったですかね?」

「いえ、そんな事はありませんよ」

「そうですか。それなら良いのですが」

恭也と秋葉はお互いの事を簡単に話し合う。
そのうち、注文した品が届く。

「あら、美味しいです」

「そうですか。そう言ってもらえると母も喜びますよ」

そう言って微笑みながらも恭也は、自分に突き刺さる美由希の視線を感じていた。

(一体、何をしているんだあいつは。手伝っているのなら、そんな事をしてないでさっさと仕事に戻らないと)

そう思い、美由希の方を見ると慌てたように身を隠す。
どうやら本人はばれていないつもりのようである。

(……もう少し気配の消し方を教えた方が良いな)

「どうかしましたか?」

「いえ、何でもありません」

そう言うとコーヒーを一口飲む。
特に会話をする訳ではないが、気まずい雰囲気とも違い、逆に落ち着くのをお互いに感じながらゆっくりと時間を過ごしていく。
それを陰から見ていた美由希は、

「うぅ〜、二人とも何か良い雰囲気出してるし〜〜」

仕事そっちのけで恭也たちを見ていた。


それから時間が流れ、二人は翠屋を出る。

「今日は助けて頂いて本当にありがとう御座いました」

「いえ、こちらこそ。ご馳走になりました」

「では、これで」

「あ、まだこの辺は不慣れでしょうから良ければ送りますけど」

「え、でも」

「気にしないで下さい。で、どちらに行かれますか?」

「では、駅までお願いできますでしょうか。そこに迎えが来る事になっているので」

「分かりました」

恭也は秋葉を連れて駅へと向った。
駅に着くと、まだ迎えは来ていないみたいだった。

「ここで充分です。ありがとうございます」

「いえ。では、これで」

「あっ」

「どうかしましたか?」

「あ、いえ。……その、また会えたら良いですね」

「…そうですね」

恭也はそう言って微笑むと踵を返し歩き去る。
そのため、秋葉の顔が夕陽のせいだけで赤くなっている訳ではない事には気付かなかった。
もっとも気付いたとしても、恭也の事だからその理由までは気付かないだろうが。
秋葉は恭也の背中が見えなくなるまで見送ると、迎えの車を待つために少しだけ場所を移動した。



家へと向う途中、恭也は一人の女性が数人の男性に囲まれているのを見つける。
始めは友達同士のじゃれ合いかと思ったが、どうもそうではない様子だった。
女性が嫌がっているのにも拘わらず、男たちはその女性に声をかけ続ける。
女性の方も恐怖のためかそんな男たちに強く言えないでいた。
恭也は溜め息を着くとそちらへと足を向けた。





<to be continued.>




<あとがき>

秋葉編だな。
美姫 「これでヒロインは残す所あと二人ね」
ふふふ。それはどうかな?
美姫 「な、ま、まさかまだヒロインが」
ふふふ。それはどうかな?
美姫 「え、やっぱりいないの」
ふふふ。それはどうかな?
美姫 「おちょくってるわね」
ふふふ。それはどうかな?
美姫 「………死にたいみたいね」
ふふふ。それはどうかな?
美姫 「え〜い、死ねーーー!」
ふふふ。それはど…………。
ガラガラガラガッシャーン。
美姫 「こ、これは人形!」
ふふふ、ひっかかったな。確かに回避率は0だ!
しかし、こういう手を使えば、攻撃を喰らわずに済むと言う事に気付いたんだよ!
美姫 「その後、あんたが姿を見せたらどうなるのか、分かってるわよね」
………し、しまった!とんだ、誤算だ………。
美姫 「吹っ飛べーーーー!」
うばらばーー。本当に飛んだーーーー!
キラン
美姫 「ふぅー、浩は文字通り星になりましたとさ。それも流れ星にね。
    炎を身に纏いながら飛んでいくわ♪あ、願い事を言わなきゃ。
    出番が増えますように。出番が増えますように。出番が増えますように。
    じゃあね♪」







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