『Moon Heart』








  14/概念顕現能力U





「さて、それじゃあ物分りの悪い恭也のために、出来る限り簡単に説明してあげるね」

笑いながら話し出すアルクェイドに、憮然とした顔で恭也は口を挟む。

「その言い方はやめてくれ。まるで、俺が物分りが非常に悪いみたいだ」

「だって……」

「確かに良いとは言わない。だが、今回の事はあまりにも非常識すぎるんだから」

「はいはい。分かったわよ。じゃあ、始めるわよ」

「ああ、頼む」

「まず、概念顕現能力なんだけど、概念っていうのは分かるわよね。
 事物が思考によって捉えられたり、表現される時の思考内容や表象の事よね。
 形式論理学では、個々の事物の抽象によって把握される一般的性質を指して、内包と外延から……」

「悪い。もう分からん」

「………えーと、簡単に言うと恭也が考えた事で良いわ」

「それで良いのか?」

「じゃあ、もっと詳しく話す?私はどっちでも良いのよ。要は、その能力を恭也が使えるようになるなら」

「……簡単な方でお願いします」

アルクェイドの言葉に素直に頭を下げる恭也。
それを見て満足そうな顔し、少し偉そうな態度で話し始める。
それに対し、恭也は何もいう事ができず、ただ大人しく聞くことにする。

「じゃあ、次は顕現て言うのは、はっきりとした形をとるってこと。
 これは大丈夫よね」

アルクェイドの言葉に頷く恭也。
アルクェイドはそれを確認すると、続きを語り出す。

「つまり、恭也の能力は恭也が考えた事を実際に引き起こすって事。
 その副作用的なもので、普通の人の何倍もの身体能力が発揮されたって事」

「どういう事だ?」

「つまり、恭也の昔の記憶の時の話をするわよ。
 あの時、恭也が死にたくないって思ったでしょ」

「ああ」

「つまり、その死なないという概念を顕現しようと能力が発動した訳。
 で、死なない為には、その攻撃を避ける必要がある。で、恭也はこの時、まだ自分の能力に気付いていなかったから、
 能力の方が恭也の制御下から離れて、勝手にその概念を顕現しようとしたの。
 そして、攻撃を避けるには、その攻撃してくる速度よりも速く逃げれば良いって形に顕現した」

「それが、あの身体能力の向上?」

「そういう事。私をバラバラにしたのは、その小太刀の力もあるけど、それだけじゃないわ。
 私の力が復活するのが遅いのも、その能力の所為ね。
 つまり、恭也の概念にはあそこまでバラバラにされて死なない人間はいないというのがあったのよ。
 だから、それが顕現して私の身体を縛ったの。お陰で復活するのに時間は掛かるわ、必要以上に力をつかうわで、もう大変よ」

「それで?」

「つまり、概念顕現能力ってのは、抽象的な概念を形付ける能力よ。
 無から有を生むんではなく、無を固定する、もしくは有に変化させるって事。
 そして、恭也の持つその無という小太刀はそれらを斬ることができるの」

「ほう、この小太刀はそんなに凄いものだったのか」

恭也は改めて自分の持っている小太刀に目を落とす。

「そうよ。そして、恭也の能力もね。この能力は時間という概念すら固定し、恭也ならそれを斬ることができるわ。
 その結果、時間を殺すことが出来るのよ。恭也が思い出した中に出てきた女も言ってたでしょ。
 神がいたとして、その能力なら神すら殺すことを可能にするって。
 まあ、実際に神や時といった概念を固定するなんて無理だろうけどね」

「無理?」

「ええ。その能力にも限界はあるって事よ。この場合は恭也の処理能力の限界って事なんだけど。
 多少無理すれば色々とできるでしょうけど、神や時が相手となるとどうなるか。
 まあ、そんな事は置いておいて。
 つまり、その能力を自在に使いこなせれば身体能力の向上だけじゃなくて、どんなモノ、それこそ空間さえ切り裂けるわ」

「だから、目に見えない俺の右膝に掛かっている呪も、その概念とかを固定すれば斬れると」

「そういう事。よくできたわね」

「で、どうやってその能力を引き出すんだ?」

「さあ?そこまでは知らないわよ」

「おいおい、そこが肝心な所じゃないのか」

「そんな事言ったって、そこまで知ってるわけないじゃない。
 第一、さっきも言ったけど、その概念顕現能力が実在するなんて思ってなかったし、そんなものの使い方を聞かれてもね」

「それはそうだが。でも、確かあの時、存在しないとは思っていなかったとか言ってなかったか?」

「まあね。空想具現化能力っていうのがあるんだから、概念顕現能力があったとしも驚かないわ。
 でも、ただそれだけの事よ。半分以上信じてなかったもの。ましてや、人間がその能力を持つなんて」

「そうか。でも、空想具現化っていうのは?」

「うん?聞きたいの?これはね、自己の意思を世界と直結させて……」

「い、いい。ただでさえ混乱気味なんだ。これ以上、ややこしい事は勘弁してくれ」

「はいはい。そう言うと思ったわ。でも、そうね考え方としては……」

「どうしたんだ、アルク?」

「う〜ん……」

何やら考え始めるアルクェイドの邪魔にならないよう恭也は声を掛けるのを止め、お茶を啜る。

「ああすれば、ひょっとして……。でも……。うーん……」

「はあ〜。少し冷めてしまったが、やはりお茶を飲むと落ち着くな」

美由希が聞いたら、また年寄りくさいと言われるような事を言いつつ、再びお茶を啜る。
やがて、アルクェイドは考えが纏まったのか、恭也と声を掛ける。

「恭也、って何、呑気にお茶なんか飲んでるのよ」

「いや、そんな事を言われても…」

「ああ〜、私が一生懸命に考えているっていうのに、肝心の恭也はこんな調子なんて。
 何か腹が立つわ」

「そんな事を言われてもな。突然、考え始めたのはアルクの方だし。
 俺は邪魔したら悪いと思って、静かにお茶を飲んでいただけなんだが…」

「う〜、それはそうなんだけど……。ぶ〜」

「はいはい。そんなに剥れるな。で、何を思いついたんだ」

「ああ、そうだったわ。それよそれ。恭也の能力についてよ。
 まず、いきなり概念を顕現させようとせず、概念を見なさい」

「概念を見る?」

「そう、実際に見るとかじゃなくて感じるの。知覚するの」

「………」

「大丈夫よ。恭也が見ようとすれば、見えてくるから」

「そう言うもんなのか?」

「ええ、そういうもんよ。ほら、案ずるより生むが易しって言うでしょ」

「まあ、やってみるか」

恭也はアルクェイドの言葉に頷くと、右膝を注視する。

「いい、恭也はこれから右膝に掛かっている呪を見るのよ。
 そこに呪があって、それが見えるように考えて」

アルクェイドの言葉に無言で返し、ただ右膝だけを凝視する。
やがて、右膝全体を包み込むように薄い靄のようなモノを捉える。

「見えた!」

「嘘!本当に!」

「…………おい」

「あ、あはははは。い、いや、可能かな〜とは思ってたのよ。でも、本当に上手くいくなんてね。
 やっぱり無知っていうのはある意味最強よね。疑わずに素直に信じるから、上手くいくんだわ」

「………で、ここから先は」

「あ、そうね。つまり、恭也の目に映っているのが、呪という概念を顕現した形なのよ。
 後は、普通にその小太刀で斬れば良いわ」

「そんな事が出来るのか」

「今更、何を言ってるのよ。その為の能力でしょ」

「そうだな」

恭也は小太刀を抜くと、その靄を一閃する。
途端、その靄が霧散する。

「消えた」

「だとすれば、呪が解けたという事よ。ちょっと膝見せて」

アルクェイドは恭也の右膝に手を翳し、目を閉じると何かに集中しだす。
やがて、目をゆっくりと開けると

「うん、大丈夫みたいね。呪が解けてるわ。恭也も右膝から違和感が消えてると思うわよ」

アルクェイドの言葉に恭也は膝を何度か曲げ伸ばしする。

「痛くない?どういう事だ?」

「呪を消したから、右膝が完治したのよ」

「ちょっと待て。俺の右膝は呪とは関係なく壊れていたんだぞ」

「違うわ。元々壊れてなんかなかったのよ。
 ただ、呪の影響で怪我が治らなかったのと、壊れたように見えていただけで、つまり…。
 まあ、早い話が呪による怪我って事。だから、その呪が無くなったから完治したのよ」

話の途中で恭也が顔を顰めたのを見て、簡単な説明に切り替える。
恭也はその説明に納得がいったとばかりに頷く。

「なるほどな。という事は、俺の右膝は…」

少し嬉しそうに右膝を撫でる。
そんな恭也の表情を見て、アルクェイドも何故か嬉しくなるのを感じた。

「これで、邪魔なネロを倒せるわ!やるわよ、恭也!」

「ああ」

アルクェイドの言葉に恭也は力強く頷く。
そして、二人は準備を済ませると、部屋を後にした。





<to be continued.>




<あとがき>

やっと恭也の能力が明らかに!
美姫 「へぇ〜、へぇ〜、へぇ〜」
…………明らかに!
美姫 「へぇ〜、へぇ〜」
おーい。
美姫 「冗談よ冗談。しかし、間が空いたわね」
へぇ〜、へぇ〜。
美姫 「何に対して、へぇ〜なのよ!」
はははは。
美姫 「笑って誤魔化すな!」
まあまあ。しかし、次はいよいよネロとの対決だな。
美姫 「ったく、話を変えたわね。でも、確かにね」
恭也&アルクェイドが勝つのか!それとも、意外な展開でネロが勝つのか!
美姫 「それはお楽しみ♪」
では、次回!








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