『Moon Heart』








  16/幕間





ネロを消滅させた後、恭也はその場に倒れる。

(まずいな。血を少しばかり流しすぎたかもしれん。特に右腕の感覚が既にない。
 獣にかじられたというのに、少しばかり使いすぎた所為で、千切れたか?)

物騒な事を考えつつ、徐々に意識が薄れていく。

「ちょっと、恭也!恭也ってば」

(ああ、ちょっと静かにしてくれ)

アルクェイドの言葉に、答えようとするが、口を動かす事も億劫でそのままでいる。

「ああ、これはまずいわね。体、特に右腕の損傷が酷いわ。どうしよう。ん?アレはネロの一部。
 まだ、残ってたのね。でも、あれなら放っておいてもすぐに消滅するわね。それよりも、今は恭也を……。
 待てよ。アレを使えば」

考え事を始めたアルクェイドだったが、すぐにその場から跳び退く。
と、今まで歩くがいた場所に、剣が突き刺さっていた。
アルクェイドは、その剣が飛来した方へと視線を向ける。
そこには、黒衣を纏った女が街頭の灯りを背に立っていた。

「何するのよ!」

「それはこっちの台詞です。貴女の方こそ、彼に何をしようとしてたんですか」

「別に何もしようとはしてないわよ。それに、アンタには関係ないでしょ」

「全く関係ない事はありません」

「どういう事よ」

「そこまで貴女に話す必要はありませんね」

「ったく。だったら、邪魔しないでよ。さっさと治療しないとやばいんだから」

「それは同感ですね。急いで病院へ連れて行くとしましょう」

「そんな事する必要ないわよ。丁度いい具合に材料もあるし、それに嫌だけどその為の力もあるしね」

そう言ってアルクェイドはネロの一部と女を見る。

「まさか、貴女」

「多分、そのまさかよ。あの一部を使って、恭也の血と肉に変える。その為に、アンタの力を貸しなさい」

「既に命令ですか。しかし、どうして私が貴方なんかに協力しないといけないんですか!」

「だったら、別に良いわよ〜。──は見捨てるんだ〜。あ、それとも、そんなに力がないとか?
 だったらごめんね。それぐらいの事も出来ないなんて思わなかったから。良いわ、私一人でするから」

「出来るに決まってるでしょ!貴方なんかに任せておけません。やっぱり私がやります!」

「何言ってんのよ。私がやるわよ」

(一体、誰だ?どこかで聞いた事のあるような声なんだが……)

恭也は薄れ行く意識の中、アルクェイド以外のどこかで聞いたような声を聞きながら暗闇へと落ちる。

「あれ?幾ら何でも、馴染むのが早すぎるわ」

「確かに。しかも、一部とは言えネロを体に入れたのに、何の拒絶反応もないですね」

「ええ。それに、ネロの気配が完全に消えたわ。幾ら何でも体の一部になるのが早すぎるわ。
 ……って、恭也の体から感じるこの力は、まさか夜の一族!?」

「そんな!……でも、確かに夜の一族の血の力を感じますね。でも、高町くんは夜の一族じゃないですよ」

「ええ。それに、本当に夜の一族だとしたら、幾ら何でも力が弱すぎるわ。
 多分、夜の一族の血を少し分けてもらったとかそんなんじゃない?」

「……ああ、彼女ですね」

「心当たりあるの?」

「ええ。でも、今回の件には関係ないから放置してますけどね。それよりも、どうやら夜の一族の血だけではないようですよ」

「それってどういう…」

アルクェイドが尋ねるよりも先に、恭也の体を指差す。
それにつられてそちらを見ると、

「成る程ね。治癒の力か。でも、恭也にそんな能力はなかったとは思うけど?」

「ええ。これは……神咲の技?」

「どうして、そんなのが」

「後輩に神咲の者がいますから、その方の術?」

「でも、どうして今発動してるのよ。おかしいじゃない」

「それは……」

「あっ!」

「どうしました」

「そうか。そういう事ね。そう考えれば……」

「何一人で納得してるんですか。私にも説明しなさい」

「教えてあげなーい」

「なっ!このっ!」

女が剣を振り下ろすよりも早くアルクェイドは女の手を掴み、力の限り放り投げる。
空中で何とか態勢を整え、足から着地するも衝撃を殺しきれずに後ろへと滑っていく。
ようやく止まった女に向け、

「とりあえず、これで恭也は大丈夫みたいだし、もうアンタにも用はないわ」

そう言うとアルクェイドは恭也を抱え、夜の闇に姿を消した。

「くっ!覚えてなさい、アルクェイド!」

誰もいなくなった公園に女の声が木霊した。



アルクェイドは恭也を抱えながら、夜の町を軽々と走っていく。

(昔、恭也は癒しの術を右膝にかけてもらったって言ってたわ。恐らく、その時の術が呪に囚われていたんだわ。
 で、さっき呪を解いたけど術は解かなかったから、それが今になって現われたのね。
 予想しなかった出来事だけど、ラッキーだったわ)

アルクェイドは一人笑みを浮かべながら、自分のマンションに向けて駆けて行った。
自室に戻ると、アルクェイドは恭也を床に下ろす。

「えーと、恭也の服はボロボロの上に汚れてるから、脱がしてっと。代わりになるようなものは……。
 何もないわね。仕方がないわね、このままベッドに寝かせて、布団を被せれば大丈夫よね」

アルクェイドは恭也を下着だけにすると、ベッドに寝かす。

「しかし、身体中傷だらけね〜。一体、何をすればこんなになるのかしら。
 まあ、良いか。これでうっとしい奴もいなくなったし、私も安心して寝れるわ」

そう言うと、アルクェイドは着ている物を脱ぎ、下着だけになると恭也の横に潜り込む。

「ふぁ〜。おやすみ……」

そして、すぐに眠りにつくのだった。
翌日、目を覚ました恭也が驚く事になるのだが、アルクェイドにそこまで考える暇はなかった。





<to be continued.>




<あとがき>

幕間〜。
そろそろ、物語が次の展開に……行けたら良いな〜。
美姫 「また、それ!」
ははは。ここから、すこ〜し、オリジナル展開するからね。
美姫 「そろそろシエル先輩にも出番を……」
確かに、一番出番が少ないかも。
美姫 「そうそう」
まあ、影で頑張っているという事で。
美姫 「何よそれ!」
まあまあ。とりあえずは、次回を待て〜ぇい!
美姫 「そういう事で、次回まで震えて待て!」
ブルブルブル〜〜〜。








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